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宮川詳司 院長の独自取材記事
下丸子動物病院
(大田区/鵜の木駅)
最終更新日: 2023/01/22
「先生、うちの子なんだか元気がなくて…」。心配そうな飼い主の声に、じっと耳を傾けながら小さな動物たちの診療にあたるのは、「下丸子動物病院」の宮川詳司院長だ。穏やかな笑顔とメガネの奥の優しいまなざしは、動物好きの少年がそのまま大人になったよう。獣医師として培った知識や経験をもとにいくつもの作品を生み出すミステリー作家という、もう一つの顔も持っている。下丸子駅から徒歩3分。東急多摩川線沿いにあって、電車の中から見かけたと来院する人も多い。町の動物病院として、もう20年も地元の人たちに信頼され続けている同病院。いつも飼い主の気持ちに寄り添ったわかりやすい診療がその理由だと、院長の話の端々から感じられる取材となった。(取材日2010年12月16日)
目次
病気も治療法も年々変化。大事なペットたちのため、毎年の健康診断を忘れずに
こちらで開業されてどのくらいになられるのでしょうか。
もう20年になります。もともとこの近くの小学校や中学校出身なので、土地勘もありましたし慣れ親しんだ場所という感じですね。通っていらっしゃるのも近所の方が中心。ちょうど線路沿いに病院があるので、「電車の中から見て来た」という方も多いです。ここはいわゆる「いぬねこ病院」なので、やはりワンちゃんネコちゃんが中心。うさぎや小鳥なんかももちろんいますけど、チワワやミニチュアダックスなどの小型犬が圧倒的に多いですね。みなさん、わが子のように可愛がっていらっしゃいます。昔、テレビアニメでハムスターがはやったときはハムスターが本当に多かったですよ。それが、アニメが終わったとたんにパッタリ。最近ほとんど見かけないですね。
増えてきている病気や気になる症状などはありますか。
やはり動物たちも寿命が延びてきているので老齢化ですね。ワンちゃんだと圧倒的に心臓の病気、ネコちゃんだと腎臓などの泌尿器系の病気が多いんです。散歩に行きたがらないとか、ちょっと運動しただけでゼーゼー言うとか。どうも元気ないなと思ったら実は心臓病だったりします。ネコちゃんを飼っている方は、最近よく水を飲むとかおしっこが増えたなと思ったら、腎不全初期の症状かもしれないので気をつけたほうがいいです。人間だと定期健診がありますけど、動物たちはどこか具合悪くならないと連れていらっしゃらないでしょう。ワンちゃんネコちゃんを6年飼うと人間の40歳くらいになると言われていますから。今は犬猫専用の小さな体脂肪計があって、背中に垂直にあてるだけで体脂肪がすぐに測れて、内臓脂肪や隠れ肥満がわかるんですよ。できれば飼って10年を越えたら、年2回くらいは健診に連れてきてもらえるといいですね。予防注射も、毎年病院に行くいい機会ですから、健診も兼ねて必ず連れて行ってあげてほしい。忘れずに注射を打ってあげるのは、動物を飼う上での最低条件だと思いますね。
治療法も変わってきているのでしょうか。
ずいぶん変わりましたね。人間も同じですが、医学っていうのは、最終的に内科的治療で治るようになると、その病気の治療が完成という感じなんです。例えば盲腸。今は抗生物質の点滴による治療で、手術しなくても治ってしまう。同じように犬の病気で、耳に血が溜まってしまう耳血腫は、昔は手術しか治療方法がなかったのに、今は内科的治療だけで抑えることができるようになっています。小型犬に多い膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)という、簡単に言うと膝のお皿の骨がずれてしまう病気も、ひどくなければソフトレーザーを当てるだけで治ってしまいますしね。人間の盲腸に似た子宮蓄のう症は、早期発見できればホルモン療法や抗生物質で治すことができます。飼い主さんも「手術になるのかな」と心配して連れて来られるんですが、しないで済むことも多いので安心されると思いますね。人間の病気と一緒で、早期発見できればそれだけ早く治るし、簡単な治療で費用もかからないで済むんですよ。だから飼い主さんには、普段からペットたちの様子をよく見ていてあげてほしいですね。
もう一つの顔はミステリー作家。「動物が好き」の思いがすべてのスタートラインに
獣医師を目指されたきっかけは何でしょうか。
やっぱり昔から動物が好きだった、ということがまず一番でしょうね。どの動物ということではなくて、動物の存在そのものが好きだったし、動物の身体というか生物学的にも興味がありました。何か特別なきっかけがあったわけではないけれども、気が付いたらいつのまにか目指していた、という感じです。今はペットというと犬や猫ばかりのイメージだけど、昔はペットブームもなかったし、簡単に手に入るというわけでもなかった。僕も子どもの頃から、カエルとかザリガニとかいろいろと飼っていたんですが、自分で捕まえてきたものを飼っていましたね。獣医学科に通っていた学生時代、まわりからは大変だろうと言われましたが、全然そんなことはない。確かに大学に入るまでは大変なんだけど、大変なのはそこまで。入ってしまったら、つらいことなんて何にもなくて。喜んで学校に行っていたし、毎日毎日、とっても楽しかった。とにかく、「動物が好き」という気持ちがなければやっていかれない。その「好き」という気持ちがあることが獣医師になる最低条件なんだと思いますね。
先生はミステリー作家としての顔もお持ちですよね。
「揚羽猛(あげは たけし)」というペンネームで、何冊か書いています。昔から推理小説を書くのが好きだったんですよ。獣医師になってからも、書くのは家の中で一人でできることなので趣味として続けてきました。どれも獣医師として得た知識や経験を生かして、それをベースにして書いたものです。2003年に出版された「サラリーマン獣医1000匹の犬と猫を救う」という本は、獣医師免許を持ちながらもまったく実経験のないサラリーマンが、放置された1000匹の犬猫たちのために奮闘する姿を描いたもの。動物愛護団体の依頼もあって書いたものなんですけどね。今もときどき、たくさんの犬や猫が野放し状態で飼育されている現場が報道されることがあるでしょう。あれを題材に、捨て犬や捨て猫のこと、病気や不妊手術のことなど、いろいろな問題をからめて書きました。2004年にはサファリパークを舞台にした「悪魔の謝肉祭」という作品で第3回新風舎文庫大賞をいただいています。最近はあまり書いていないんだけど、これからも趣味として書き続けていきたいと思っています。
本当に動物好きの先生。今もペットを飼っていらっしゃるのですか。
うちでは今、イヌとネコを飼っています。ネコのほうは、実は処分してくれと持ってこられたものだったんですけどね。可哀相で、そのまま飼うことにしてしまったんです。でも考えてみたら、そう言ってこられたのもそれ1回きりですね。病院の前に捨て犬や捨て猫があったということも全然ないですし。皆さんモラルがあると思いますね。ただ、これだけペットブームになっているというのに、実は今、動物の輸血用の血液を確保するのが大変なんですよ。人間のように血液バンクがあるわけではないのでね。アメリカには牛の血液から作った輸血用の万能血というのがあるんですけど、狂牛病以来、輸入できなくなって。私に余裕があれば、できれば日本の牛を使って万能血を作りたいくらいなんですけどね。そういった医療面でも万全の体制が日本でもとれるようになると、いいなあとは思いますね。
飼い主さんとの信頼関係を大事に、最後まで「普通の生活」ができる治療をしてあげたい
思い出に残るエピソードがあればお聞かせください。
たくさんあるんですが……。以前、多臓器不全で半年くらいしか持たないと思っていたのに、内科的治療で頑張って3年も生きられたことがあって。そのときは治療を続けてきて良かったな、と思いましたね。内科的治療って薬を飲まなければいけないんですが、当たり前だけど、ちゃんと飲まないとダメなんですよ。ポコポコ抜けてしまってはダメ。もうこれは飼い主さんを信頼して「必ず飲ませてくださいね」っていうしかないんです。そのときの飼い主さんは、本当によくやっていらっしゃいました。実際に僕らが診るのはペットだけど、その飼い主さんとの信頼関係もやはりとても大事。病気なので、やはり必ず治るということはないし、ある程度リスクというものはある。だから、いかに飼い主さんに納得していただいて最後を迎えさせるか、ということも考えないと、この仕事はやっていかれないと思うんですよね。ペットのためにも、もちろんそうだけれども、飼い主さんのためにも。これは忘れてはいけない大切なことだ思っています。
往診や電話での対応もしていただけるそうですね。
そうですね。往診にも行きますし、なかなか時間がとれないという飼い主さんがたくさんいらっしゃるので、電話でも対応しています。いつでも受けられるように、夜も病院にいることが多いですね。もちろん、どうしても用があって無理なときもありますが、できるだけ対応できるようにしています。緊急病院もあるけれど、飼い主さんにしてみると、いつも通っている病院で同じ先生に診てほしいという気持ちがあるでしょうしこれまでの病状のこともわかっていますからね。他には、ペットホテルやトリミングも受け付けていますし、しつけの相談のある方には、自宅に出向いてしつけをみてくださる専門の方の紹介などもしていますよ。
今後どのような治療を目指されていらっしゃるのでしょうか。
やはり地元の「いぬねこ病院」として、安心して連れてきてもらえる病院にしたい。誰よりもペットのことを一番よくわかっているのは飼い主さん。だからどんな小さなことでも、普段と違っていることや気になったことがあれば問診のときに言っていただけると治療にもずいぶん役立ちます。ちょっとしたことが後で重要な意味を持ってきたりすることもあるんですよ。そんな変化に気づいてあげられるのも飼い主さんだけですしね。遠慮しないで伝えてほしいと思います。犬や猫の高齢化が進んだ今、いわゆる人間でいう老人病の治療がメインになっています。そういうワンちゃんやネコちゃんは、基本的には病気になってしまっているからもちろん治療が必要なんだけれども、僕は、なるべく普段は普通の生活が送れるような治療をしたいと思っています。例えば、いつも身体に器具をつけた状態でいないといけない、といったことはできるだけ避けて。飼い主さんと過ごしてきた毎日を最後まで同じように送れるような、そんな治療をしてあげたいですね。