板垣秀樹 院長の独自取材記事
ピジョンミニペットクリニック
(川口市/川口駅)
最終更新日: 2023/01/22
JR川口駅から徒歩7分の距離にある「ピジョンミニペットクリニック」。その名の通り、ウサギや小鳥などの小動物の診察を専門とする動物病院だ。同クリニックの板垣秀樹院長は、日本大学を卒業後、最初は同院と同じ建物の一つ上の階にある「ピジョン動物愛護病院」に勤務していた。その頃から犬猫の診察も行っていたが、当時も小動物の治療のほうがメインだったという。もともと、倉庫のように使っていた1階部分を改装して、同クリニックを開業したのは2012年の4月。1階と2階を別々の病院にしたのは、徐々に増えつつあった小動物治療の需要に応えるためだった。現在は、犬猫の治療は「ピジョン動物愛護病院」で、その他の小動物の治療は同クリニックで行うという体制が確立されている。 (取材日2015年7月21日)
犬・猫以外の珍しい小動物を専門に治療する
こちらで対応している診療動物の種類を教えてください。
いわゆるエキゾチックアニマルという、一般的に飼われている小動物の中でも、特に犬・猫以外のものを扱っています。よく診ている動物の例としては、ウサギや小鳥、ハムスター、フェレットなどです。ほかにもチンチラ、モルモット、デグー、ハリネズミ、モモンガなど。たまにカメやトカゲといった爬虫類を治療することもあります。治療法がよくわかっていない動物も多いので、知識だけでなく経験で対処しなければならないことも多いですね。
そうした小動物は、どのような症状や病気が多いのでしょうか?
よくあるのが歯の病気ですね。犬や猫は人間と同じように永久歯が映えると歯の成長が止まります。しかし、小動物の中にはウサギやモルモットのように「一生歯が生え続ける」という種類の動物もいるので、伸びすぎた歯が口の中を傷つけてしまうことがあるんです。口の中の痛みや傷のために食欲が落ちてしまって、飼い主さんが異常に気がつくということがよくあります。それ以外だと、季節の変わり目など、温度の変化が激しい時期に体調を崩してしまって「元気がなくなってしまった」という相談が多いですね。もともと、涼しい地域に住んでいる動物などは、日本の夏の暑さにまいってしまうことがあります。また、鳥などは体温が高いので、ちょっと体調を崩しただけで低体温に陥ってしまうこともあるんです。
小動物に対して、こちらではどういった治療を行っていますか?
飼い主さんには食事管理や温度管理の方法をお伝えして、動物が体調を崩してしまわないよう指導しています。体調を崩した動物には、薬を飲ませたり、注射や点滴をしたりといった治療を行っています。ハムスターや小鳥に点滴をすると伝えると、意外そうな表情を見せる飼い主さんも多いですよ。でも、点滴といっても、すべての動物に対して、人間と同じように1滴ずつ薬を落としていくようなやり方をするわけではありません。例えば、鳥の場合だと筋肉の間や皮膚の下に注射のようなやり方で薬を注入します。処置自体は数秒から数十秒で終わる簡単なものです。薬自体は一時的に入れた場所に蓄えられた後、数時間かけて毛細血管から徐々に吸収されていきます。また、歯が伸びすぎた動物に対しては、伸びた歯を短くする治療を行っています。例えば、前歯であればニッパーのような道具を使って短くカットします。一生伸び続けるわけですから、伸びるたびに定期的にカットしなくてはいません。歯の成長が早い種類の動物だと、2週間に1回カットしなくてはいけなくなることもありますので、飼い主さんは大変ですね。
「小動物専門」の看板が飼い主に安心感を与える
注射や点滴をしただけでも症状は大きく変わりますか?
はい。体調を崩した結果、脱水症状に陥ってしまっている動物も多いんです。脱水症状に陥ると、全身に倦怠感を覚えてしまって食欲が落ちてしてしまうんですよ。そうなると、今度は胃腸の動きが弱ってしまって、ご飯が食べられなくなってしまう。いわゆる「ドロドロ血」のような状態になってしまって、全身の代謝が低下してしまうんですね。ですから、極端なことを言えば、注射や点滴をするだけでも劇的に症状が改善することもあるんです。
「小動物専門」という看板を掲げられていることには、どんな意味があるとお考えですか?
動物病院は「犬猫をメインとして診察している」という形で看板を出しているところが多いと思います。もちろん、そうした病院にもしっかり小動物のことを勉強されている先生はいらっしゃるでしょう。しかし、あえて「小動物・犬猫以外」という看板を掲げておくことで、飼い主さんから見たときの「入りやすさ」が違うのではないでしょうか。「小動物専門の獣医師がいる」という安心を感じてもらえるのではないかと思っています。
小動物が相手だと、使う薬や器具なども犬や猫とは異なるんでしょうか?
例えば、薬を例にとると「犬・猫には使えるけど、ウサギには使えない」という薬もあるんです。そういう知識を知っていないと、適切な治療を行うことはできません。治療に使う機材も犬猫用のものを流用したり、自作したりして対応しています。現在、エキゾチックアニマルの治療は、需要はあるのですが供給が足りていません。当クリニックでは、動物病院のほかに小動物専門のペットホテルも営業していますが、そのような施設は他にあまりないと思います。365日年中無休の営業なので、年末年始やお盆の連休中に大切なペットを預けることが可能です。動物病院と併設ということで、飼い主さんも動物の急な体調不良に対応できる安心感はあるでしょう。ペット需要も多様化してきていますし、小動物に興味を持つ人も増えてきていると感じています。
飼い主に理解してもらえなければ治療はできない
先生が獣医師をめざされたきっかけを教えてください。
私は初めから獣医師を目指していたわけではありません。最初は、日本大学で応用生物科学、いわゆるバイオテクノロジーについて学んでいたんです。そのうちに、生き物を細胞レベルで見るよりも、1個体として触れ合いたいと思うようになり、獣医学科に入り直したんです。研究をしていると研究室にこもりがちになってしまいますが、獣医師をしていれば仕事の中でいろいろな人に触れ合うことができます。コミュニケーションを取りながら働く仕事がしたいと思っていんですね。今にして思えば、研究をしていた頃に培った細い作業に黙々と取り組む姿勢が現在の仕事にも生かされているのかもしれません。獣医療の中でも特に小動物に興味をもったのは、昔小鳥を飼っていたことがきっかけかもしれません。家の中の鳥かごから屋外の鳥小屋まで、多いときには30〜40羽も飼っていました。小さい頃から育てていると、小鳥もなついてくれるんですよ。肩に乗ってきて、顔を甘咬みされたりしたら、もうかわいくてたまりませんね。
小動物の獣医師としてやりがいを感じる瞬間を教えてください。
飼い主さんから「ありがとう」と言ってもらえた瞬間ですね。動物が元気になって「ありがとう」と言ってもらえた瞬間はもちろんうれしいです。しかし、生き物である以上、残念ながら治らないこともあります。そんなときでも「ありがとう」と言ってくれる飼い主さんがいるんですよ。そのようなときは非常に堪えますし、涙目になってしまいます。飼い主さんの理解が得られない限り、我々獣医師にはできることはありません。飼い主さんと会話するときは、治療の内容が伝わりやすいよう、できるだけ専門用語は使いません。例えば「食欲不振」は「食べものを食べなくなった」、胃腸の動きが弱ってしまう「食滞」は「お腹の調子を崩してご飯が食べられなくなった」と言い換えています。うちにくる小動物たちは、みんな可愛いです。でも、そんな可愛い子たちがかわいそうな状態になってやってくるので、感情移入してしまうとやりきれません。なので治療中は目の前の作業に集中するようにしているんですが、助けることができなかった動物たちのことを思い出すと、今でも目頭が熱くなってしまいますね。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
飼い主さんには「異常が見られたら、長い時間様子を見ないですぐに連れてきて」とお願いしたいですね。獣医師として治療をしていても、すべての動物の命を救えるわけではありません。特に、小動物は寿命が短いものが多いですし、ウサギや小鳥のように具合が悪いのを隠そうとする種類のものもいます。ですから、飼い主さんが異常に気がついたときには「すでに手遅れになっている」というケースも少なくありません。健康状態が安定しているときは、食事や排泄など、普段の行動はだいたい同じはずです。いつもと違う様子が見られたら、すぐに相談してください。はっきりした異常がわからなくても構いません。ちょっとした違和感に気がつくことが大事なんです。