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池 小百合院長、小川靖子先生の独自取材記事
柳瀬川動物病院
(志木市/柳瀬川駅)
最終更新日: 2023/01/22
「柳瀬川動物病院」は、池小百合院長の「この町に動物病院を作る!」という強い意志から、駅前の商店街の中に2015年3月に開業。柳瀬川のシンボル・桜をモチーフにしたあたたかみのある院にはペットサロンも併設されており、病院・トリミングどちらのニーズにも対応している。往診や必要に応じてほかの院から専門医も呼びよせるなど高齢や車がないなどで出かけにくい飼い主にも優しい診療体制が整っている。自身も20年以上この町に暮らし、犬の飼い主でもある池院長と、勤務医の小川靖子先生に、病院設立に込められた思いから診療の特徴、趣味のヨットやスポーツのことまで、ざっくばらんに話していただいた。 (取材日2015年8月20日)
「この街に動物病院を!」の思いから生まれた地域の病院
柳瀬川エリアでの開業経緯を教えていただけますでしょうか?
【池院長】私自身この街に20年以上住んでいますが今までずっと動物病院はなくて、獣医師の私でさえ犬を飼う上で苦労していたという状況がありました。そんな中2014年の青空が気持ちいい夏の朝に、道端で泣きながら歩いてくる友達にバッタリ会って。「どうしたの?」と聞いてみたら、「飼っている猫が死にそうなのに家族の誰も休みが取れなくて、病院まで連れて行けない。今日死んじゃうかもしれないけれど置いていくしかない……」ということでした。すでに50歳を過ぎて楽しい人生だったなあと振り返っていた頃に、そんな涙に出会ってしまったらとても放ってはおけなくて、「私が動物病院を作る!」と決意したのが始まりです。もちろん開業までには場所・資金の準備や勉強とやるべきこと・解決すべきことはたくさんあったのですが、無理な話だったら誰かがストップをかけるだろう、超えられない壁にぶつかるだろうと思って準備を始めたところ、誰からも無理だとは言われず、むしろ背中を押してもらうような出来事ばかりだったのです。そして2015年3月に開業することができました。開院のきっかけになったネコちゃんは手の施しようがなく亡くなってしまったんですが、その友達が次に飼うネコちゃんのために、カルテ番号1番は飼い主さんの住所と名前だけ入れて動物の名前は空白のまま空けてあります。
まさに「この地域の動物病院」なのですね。半年ほど経ちましたがいかがでしょう?
【池院長】開いてみて驚いたのは、思いのほか猫が多かったこと。どうしようかなと思っていたら、大学時代の恩師がある時小川先生を連れてきて「あなたはこの病院を手伝いなさい」と置いていてくださって(笑)。小川先生は、大学の大先輩で勤務医経験も長く、犬も猫もオールマイティにこなすベテランの方です。診療体制もしっかりと充実させることができました。といっても犬と猫で診療の分担をわけているわけではなく、協力して診療にあたっています。また生活者としてそんなに酷いペットの病気の話は耳にしていなかったので、元気に過ごしている町なんだろうなと思っていたんですが、いざ開院してみるとかなり難しい病気の子がたくさんいました。治療しないという選択肢をお取りになった方もいらっしゃるだろうし、地域として見落としていた部分もあったのだと思います。小川先生と2人で専門書を広げて悩んだこともありましたね。
往診や夜間の診療にも対応されているのですね。
【池院長】1から10まで「この街のために」とつくった病院なので、飼い主さんのニーズにはできる限り応えたいなと。特にいつも来てくださっている飼い主さんが「夜中で先生の所に電話するのは申し訳ないから遠くの病院へ行ったら手遅れでした…」なんてことになったら私も夢見が悪いので、「まずは電話をください。もしうちで対応できなくてほかへ行くなら一緒に行きましょう」ぐらいのスタンスでしょうか。お迎えも基本的にしませんとは言っていますが、ご高齢の飼い主さんで連れて来づらいということであればお迎えに行ったりもします。四角四面にこれはやるやらないじゃなくて、お互いの事情が許す限り柔軟に対応するようにしています。 【小川先生】ご高齢だったり足が悪くてなかなか外へ出づらい飼い主さんもいらっしゃいます。逆に、動けなかったり1人暮らしのおじいちゃんやおばあちゃんでも、ペットを飼って楽しく生活できたら良いなと思っているので、できる限りその手助けができればいいなと。それは池先生も一緒だと思います。
最善の医療より、その動物にとって良い治療を選ぶのが大切
症状に応じて必要なら専門の先生に来てもらえるというのも、ほかの院にはない特徴ではないでしょうか。
【池院長】そうですね。対応出来ない手術などはできる限り専門の先生に来ていただいて診てもらうようにしています。飼い主さんに「あっちの病院に行ってください」というのは簡単なんですが、タクシーでしか動きようがない方、連れて行くのは大変という方もいらっしゃいます。そういう方にあっちへ行け、こっちへ行けというのは酷なこともあるので、どうしても大掛かりな検査が必要で行ってもらわないといけない場合はありますが、先生に来てもらって済むなら来てもらおうと。顧問の整形の先生をはじめ麻酔の先生などお手伝いをお願いしている先生が3人いて、症例が出た時にピンポイントで来ていただいています。将来的には月1回とか2回とかでもお約束して来ていただけたらなと思っていますが、それはこれからの課題ですね。
診療の際に大事にしていることを教えてください。
【池院長】飼い主さんの心積もり、許容範囲を超えた検査をこちらからお薦めすることはしない、ということです。例えば大きながんがあったとして、人間だったら手術や抗がん剤治療は当然入ってくると思うんですが、動物の場合はそれをするかしないかも含めて飼い主さんのお考えなのかなと。最善の医療を尽くすことが、その飼い主さんと動物にとって必ずしも幸せではないかもしれません。ペットを亡くした方で「最後の一週間だとわかっていたら入院させるんじゃなかった」とおっしゃる方は多いです。入院させないことは医療として最善とは言えないかもしれないけれど、慣れ親しんだお家、動物にとっては巣で最後の時間を迎えるのが、ある意味一番大事なのではないかと思います。病院への入院は集中治療室であって、入院室はそれぞれのご家庭ですよ。必要があれば私が見に行きますから、という形ですね。
小川先生はいかがでしょうか?
【小川先生】やっぱり飼い主さんとよくお話すること。じっくり動物を診て、じっくり話を聞いて、ということですね。先ほど池先生がおっしゃっていたことにもつながるかと思いますが、「必ずしも最高の治療じゃなくていいんだよ」ということはよくお話ししてきました。人間の医療でも、地域やお金などいろいろな要素があってすべての人が一番いい治療を受けられるわけではありませんし、動物ではそれはもっとはっきりと出てきます。飼い主さんの中には、「うちはそういういい治療を受けさせてあげられない」と悩み、落ち込んでしまう方が少なくないのですが、それは人間も同じ。あなたが側にいるだけで幸せだったじゃないですか、この子はここまで飼われて来て幸せだったんですよと伝える機会は非常に多いです。。
ペットサロンも併設されているんですね。
【池院長】はい。開業前にペットを飼っている友達に困っていることを尋ねたら、まず出てきたのは動物病院の遠さでした。でも病院は病気にならないと用がないところ。それより毎月のトリミングが遠いのに困っている、という声もたくさんあったんですね。特にトイ・プードルなんかは今流行ですが、毎月カットしないとモップのようになっちゃいますし。(笑)そういうニーズに応える形で動物病院に併設してペットサロンを造りました。犬はもちろんですが、最近は猫のトリミングも増えています。トリマーの松元は、経験もあって動物の心に寄り添う天性のものを持っているので、安心して任せています。普通、神経質な猫をトリミングする時は鎮静剤などを使うことが多いのですが、当院では今の所使用せずに済んでいます。今後も、なるべく鎮静剤を使わずに済むようなトリミングやシャンプーの方法を考えています。
たとえペットが亡くなっても感謝される獣医師でありたい
先生方が獣医師になられたきっかけは何だったのでしょう?
【池院長】父が動物好きで動物からも好かれる人だったので、小さい頃から自然にいつも動物が近くにいる環境でした。そのせいか、特に「獣医師になるぞ!」と決めたわけではなく自然にこの仕事を選んでいましたね。 【小川先生】私はもともと動物学科に進んで、アフリカの野生動物を見に行きたいなと思っていました。ただそこには入れなくて、動物関係なら獣医師学科があるというのでこちらに来たのですが、臨床を経験して「ああ、これがやりたかったんだろう」という感じがすごくして、こっちで正解だったと確信しました。研究じゃなくて実践向きだったようです(笑)。
大学時代に印象深かったエピソードなどはありますか?
【小川先生】牧場実習がすごく楽しかったです。期間は4週間、近隣の農家に治療活動に行ったり、畜産実習ではバターを作ったりソーセージを作ったり。あと印象深かったのは解剖実習でしょうか。命を無駄にしない、ということで本当に余さず使わせてもらうんですが、最初は気持ち悪くなっていたのに時間が経つうちに平気になって。慣れってすごいなと思いました(笑)。 【池院長】私たちの時は馬の解剖をしたのですが、命を無駄にしちゃいけないということで1週間クラス全員昼も夜も馬肉を食べ続けたことがありました。「無駄にしないってこういうことなのか……」と身をもって実感したわけですが……。正直、つらかったです(笑)。
これからやっていきたいこと、力を入れていきたいことを教えてください。
【池院長】開業から半年経ちましたが、今も「この辺に動物病院があったんだ!」という方や、外から見えるサロンの存在は知っていても「動物病院もあったんですね」という方もいらっしゃって認知度はまだまだ低い状態。ここに動物病院があるとわかってもらって、実際にペットの具合が悪くなった時に「あそこに動物病院があったよな」と真っ先に思い浮かべていただける病院にしたいなと思っています。
最後に、地域の飼い主さんたちへのメッセージをお願いします。
【小川先生】できたばかりの頃からぶれない、きちんと筋の通った診療をしたいねと2人でよく話してきました。私はこれまで野良猫の医療に関わる機会が多くあり、1つのエピソードになりますが、あるボランティアさんが餌を食べられず弱っている子を見つけた時に、「老衰や病気で助からないとしても、少しでも長く生きるために、病院というネコにとって怖いところに連れていくべきなのか、それとも静かに居させてあげるべきなのか」とすごく迷ったとおっしゃっていて。結局静かに居させてあげた方がいいとの結論に達したそうなんですが、それは確かだなと思いました。その猫にとっては何がいいのかというのは、医療的に何がいいのかとはまた違う問題だと思うことがあります。 【池院長】極端な話をしますが、獣医師は2つに1つであると思っていて、患者さんのペットは亡くなってしまったけれど、飼い主さんから「ありがとうございました」とお礼を言われる獣医師もいれば、命を救っても感謝されない獣医師もいると思います。命を救う、病気を治すことは私たちの仕事の大前提ではありますが、たとえペットを助けることが出来なかったとしても飼い主さんから感謝されるような獣医師になりたい。そのために誠意のある診療を心がけて、これからも頑張っていきます。