松岡 滋 院長の独自取材記事
あず小鳥の診療所
(さいたま市南区/南浦和駅)
最終更新日: 2023/01/22
JR京浜東北線と武蔵野線が交わる、南浦和駅。東口から徒歩7~8分の便利な場所にあるのが「あず小鳥の診療所」。院内に一歩足を踏み入れると、たくさんの鳥たちのフィギュアに迎えられる。「子どもの頃から、鳥の先生になりたかった」という松岡滋院長のコレクションだ。小鳥たちのために最適の動物医療を与えてやれなかったことが、この道を選ぶ動機となったという松岡院長。診療方針や医療の話題では真面目に語る一方で、鳥の話題になると一転、顔がほころぶ。“小鳥が水を飲む時に上を向く姿がかわいい”という話題に対して「わかります、わかります!」と笑顔満面で大きくうなずく松岡院長。命を愛おしみ、喜びも悲しみもともに分かち合える動物病院だ。(取材日2016年3月16日)
鳥の先生になりたくて、獣医学部に進んだ
鳥専門の動物病院を開いたのはどんな理由からでしょう。
そもそも、鳥の勉強をしたくて大学を決めたので、獣医師としても鳥を専門に選ぶのは自然ななりゆきでした。子どもの頃から家で鳥を飼っていた期間が長く、鳥に親しんで育ちましたが、専門の病院がなかなかないことに悔しい思いをしたことがたびたびあったんです。大学を卒業した後、「横浜小鳥の病院」の海老沢和荘先生のもとで修行に励みました。その後は鳥専門ではない一般の動物病院で働いて獣医師として一通りの手技を磨き、2008年に開業しました。浦和地域は地元で、長く暮らした馴染みのある場所なんです。
遠くからの患者さんも多いそうですね。
千葉・栃木・群馬・茨城など関東から車でいらっしゃる方が半分以上ですね。なかには新幹線で新潟や福島から来られる方もいます。遠方の方は紹介やクチコミだけでなく、インターネットをご覧になって来る方も多いです。予約制なのですが、予約なしで駆け込まれる方もたまにいらっしゃいます。なんとか診てあげたいのですが、予約の場合と違って時間をあまり取れないので、説明を短くするなどいつも通りにできなくなってしまいます。そうなるとどうしても治療に満足していただけない場合も予想されますので、ぜひ予約をしていただきたいですね。また、鳥の場合、飼い主さんのタイプによって、なりやすい傾向の病気があります。ですから、飼い主さんご自身に連れて来ていただいた方がより良い治療ができます。
受診の際の注意点などはありますか。
他の獣医師からの紹介や飼い主さん同士のクチコミで来院された方は、ある程度は当院のスタンスや私との相性を考えた上で見えていると思います。しかし、インターネットの情報だけを頼りに来院されると、良くも悪くも意外に感じられる方が多いかもしれません。特に急病時に初診で来院されると、最善の治療につながらない原因となる場合もあります。ですから、遠方からお越しになる飼い主さんでも、できれば状態が悪くない時に、一度は健康診断のために気軽に来ていただきたいです。鳥の場合、数値化できるデータや使えるデータは限られています。ですから、その子の健康時を標準データとして残しておいて、いざという時に比較できることは大切です。そして、インターネット情報だけではなく、飼い主さんご自身に当院との相性を判断していただきたいですね。
動物医療は飼い主さんとつくり上げていくもの
鳥の治療や検診はどのようにするのでしょうか。
基本は体重測定、触診、聴診、視診、検便とそのう検査です。「そのう」というのは食道の一部の膨らんでいる場所で、中に液体があります。その一部を回収して検査すると、細菌やカビ、寄生虫がいることがあります。できるだけ画像などを一緒に見ながらお話をし、飼い主さんの理解を助けるよう心がけ、忘れないようメモとしてお渡しする場合もあります。動物医療は私が一方的に提供するのではなくて、飼い主さんと作り上げていくのが重要ですので、飼い主さんに不満や不安があるうちはなかなか治らないんですね。それを少しでも解消できるように、解消できなくても軽減していただけるよう努力しています。残念ながら世の中には、治らない病気、打つ手がない病気が存在します。しかし、その子に余生があるならば、それを前向きにとらえられるように助言したいと思っています。
鳥の病気というと、鳥インフルエンザが連想されますが、ペットの鳥も感染しますか?
日本に鳥インフルエンザが入ってきて養鶏場で感染し話題になった頃、ずいぶん問い合わせがありました。今でもニュースがあるたびにご質問が増えます。鳥インフルエンザの感染源は渡り鳥なので、家庭の室内で飼われている鳥がウイルスを持っていることは基本的にありません。ただし、外に鳥舎があって外部の鳥との接触が可能な環境だったり、飼い主さんやご家族が靴や衣類にウイルスをつけて持ち帰ったりした場合は事情が異なります。外でも鳥に接触したり、自然の多い環境に出かけたりした際は、手洗いとうがいをしてから愛鳥に触れてほしいですね。
日常の飼育管理の注意点はありますか。
昔は野ざらしで外にかごを置いて飼っていたご家庭も多かったのではと思いますが、最近は室内飼育が増えているせいか、寒さが苦手な子が多いですね。家庭で飼われている鳥で寒さに強いのは全体の半分以下で、10℃を切ると一定数は低体温で具合が悪くなります。犬猫だけでなく、鳥に対しても空調には十分に気遣ってあげてほしいですね。それと、鳥は幼鳥の頃からやたらにかわいがり過ぎると、病気になりやすい傾向があります。特にメスだと卵を産み過ぎて詰まってしまったり、異常な卵を産んだり、高齢になると生殖器に異常が発生しやすくなります。メス鳥が卵を産むことは愛情表現のようなもので、飼い主への愛着が強くなると産みすぎてしまうんです。鳥にとって避妊手術はリスクが大きすぎますので、難しいですが、かわいがり方にも注意していただけるといいですね。
日頃から健診を通して信頼関係を深めるのが大事
先生が感じる鳥の魅力とはどんな点でしょうか。
鳥は表情がないと思っている方も多いでしょうが、実は感情豊かな動物なんです。喜び、怒り、悲しみの表情…それがはまるきっかけになると思いますよ。ちなみに爬虫類を診る先生も同じようにおっしゃいます。この大きさだから、この種類だから感情がないということはないと思います。犬のように自分を見てというアピールは強くありませんが、鳥も小さいなりに自己主張をしているところはありますね。同じ鳥でも一羽一羽個性があって、最近人気のおかめインコなんかだと、ほっぺの羽の生え方も少しずつ違ってかわいいんですよ。
休日はどのように過ごされていますか。
入院中の子もいますし、休みの日も病院から離れられないので、しっかり休めることはあまりないですね。時間があれば買い物に出かけて、そこで見つけた鳥さんグッズをわーっとたくさん買うのが楽しみです。飼い主さんがプレゼントしてくれたり、飼い主さんご家族のお子さんがこれを見てテンションが上がっている姿を見るのもうれしいですね。あとは食べ歩きも好きですね。麺類が好きなのでラーメンを食べ比べることもあります。ブログを書いているのですが、一時期、内容が食べ歩きで埋められていて、その頃は同じ趣味をお持ちの面白い患者さんが増えました。しかし、あまり遊び過ぎると看護師さんに「まじめな記事を書いてください」と叱られてしまいます(笑)。
読者へのメッセージと今後の展望をお聞かせください。
ペットを飼っている方は、かかりつけの獣医師と仲良くなってほしいですね。獣医師も人なので、人間同士の関係が良好であって初めて生まれるものもたくさんあります。初対面の方に友人のような関係を求めるのは無理ですし、無理を聞くのも難しいですよね。同じように動物病院でも日頃から相談や健康診断を通じて信頼関係を深めているからこそ、いざ具合が悪くなった時に、お互いを理解した上で後悔のない最適な治療ができるのです。最近は爪切りや健康診断などで半年に1度くらいは顔を見せに来てくれる方が増えてうれしいです。些細な事でもかまいませんので、まずは気軽にご相談にいらしてください。それと、展望としては小動物、鳥を診る獣医師がもっと増えてくれたらと願っていますので、積極的に研修の受け入れや講義などで協力していきたいですね。