谷口雅治 院長の独自取材記事
谷口動物病院
(町田市/古淵駅)
最終更新日: 2023/01/22
ペットの循環器疾患・心臓病の診断治療に力をいれている「谷口動物病院」の谷口雅治院長。町田街道沿いのクリニックは、大きく窓がとられた開放的な空間。診察室の窓も大きく、透明性のある動物医療を行う院長の姿勢がよく表現されている。循環器疾患の1.5次的診療施設を目指し、定期健康診断を積極的に行ったり、ペットを飼う前に正しい情報を伝える無料相談セミナーも開催している。動物医療についてとても熱い信念と情熱を持っている獣医師だ。健康診断がなぜ重要なのか、デンタルケアの重要性などペットを愛する人が知っておきたい有益な情報をたっぷりと伺った。(取材日2011年7月26日)
循環器疾患の1.5次的診療、そしてペットを病気にさせないクリニック
とても明確な診療の「柱」を持つクリニックですね。
当院は2008年12月に地域のホームドクターを目指して開院しましたが、町田・相模原エリアのペットや飼い主さんだけでなく、わざわざ遠方から来られる人も多いです。当院には大きな診療の特徴がいくつかあり、その1つは僕が「循環器疾患・心臓病」の診断・治療に力を入れていることです。日本動物高度医療センターで循環器科の非常勤研修も受けました。それをインターネットや雑誌でご覧になった方が遠くからも来られます。動物医療では地域のかかりつけ医が行う1次診療、規模の大きな病院で高度医療を提供する2次診療がありますが、当院はその中間にある1.5次診療のようなポジションを目指しています。他にも「わんにゃんドック」と命名しているペットのための定期健康診断も積極的に行っていますし、無料相談セミナー「どうぶつを飼う前に」を開催したり、ペットのための「デンタルケア」にも力を入れています。
犬の心臓病はよくある病気なのですか?
はい。どんな犬にも起こりうる病気です。最近は犬たちも長生きになり、10歳を超えるとその発症率は2、3割にものぼります。中でも目立つのが僧帽弁閉鎖不全症で、この病気に罹ってしまうと呼吸困難などを起こしやすくなり、犬自身も飼い主さんも本当に大変な思いをなさります。心臓病の初期段階はときどき軽い咳が出る程度なので、飼い主さんは「もう年だからかな」で終わらせてしまいがちですが、この時点で治療を開始することができたら、ワンちゃんはとても楽にその後の時間を過ごしていくことができます。
「わんにゃんドック」ではどのようなことをするのですか?
ペットが病気にならないための定期健康診断です。人間ドックでも30代と50代の人とでは受けた方がよい検査の種類は違いますよね。ペットも同じでまだ若い子の場合には標準的な検査を行うコース、年を重ねた子の場合には血液検査でより様々な数値を調べたり、肝臓・胆のう・腎臓・脾臓などの超音波検査も含めたコースを選択することも可能です。よく「何才から受けたらいいですか?」と聞かれますが、目安としては5才です。ご存知の通り、犬や猫は人間の数倍ものスピードで年を取っていきます。また人間同様、若くして大きな病気に罹ってしまう子がいます。
ペットにも「なぜこの年でこんな病気に?」ということがあるのですか?
じつは当院のスタッフの可愛がっていた愛猫に、そのようなつらい出来事がありました。当院の開院前にスタッフのトレーニングをすることになり、その中でわんにゃんドックの研修も一通り実施しました。そのときにスタッフの当時2才になる愛猫を検査することになったのです。するとそこでがんが見つかりました。たった2年しか生きてないのに、残念なことに亡くなってしまいました。もし半年はやくそのがんが見つかったら、助かった可能性はあったかもしれません。でもまさか2才の子ががんになるとは、多くの人にとって想像できないことです。もしも経済的な余裕があるのなら2才、あるいは1才から定期健康診断を受けても決して心配しすぎではありません。また動物病院というのはペットが病気になってから通う場所ではなくて、愛するペットを病気にさせない場所としても認知していただきたいです。
気を付けたい「ペットの歯周病」。つねに愛犬・愛猫を観察してほしい
無料相談セミナー「どうぶつを飼う前に」とは?
よく「ペットを飼ってみたら想像以上に大変だった」と相談されることがあります。ペットを飼うときには一目惚れ状態というか、ペットショップなどで目が合って「可愛い!」と思ってそのまま我が家に、という方は多いと思います。その時点ではペットのしつけがどれだけ大変かは想像できないでしょう。犬の場合、しつけで一番大事なのは生後半年間だと言われています。この間のしつけや育て方を間違ってしまうと、成犬になってから問題行動を起こしやすくなります。また犬種によって罹りやすい病気があり、それを防ぐには日常からどのような点に注意すれば良いのかなど、現実的な話を聞く機会はあまりないと思います。そこであらかじめペットを飼う前から飼い主さんにこのような情報をお伝えしています。ペットを飼うことはハッピーな面もあれば、そうじゃない面もあるのだと。しっかりと予習した知識のある飼い主さんに飼ってもらえるペットは、とても幸せだと思いますね
「デンタルケア」にも力を入れていますね。
人間の歯の健康が体全体へ影響することは、よく知られる話となりました。ペットも同じです。ひどい歯周病で歯を失ってしまい、ろくに食べることができなくなる犬や猫がいます。3才以上の犬・猫の80%以上が歯周病を患っていると言われていますが、その多くの子たちは適切な治療を受けられていません。当院にワクチンを受けにきたワンちゃんがいました。そのときに口の中を見てみるとかなりひどい歯周病で、麻酔をかけて抜かなければならない状態になっていました。その飼い主さんは5、6年間別の動物病院にかかっておられたのですが、そこの先生からは歯周病の進行について一切知らされなかったそうです。飼い主さんとしては歯周病の治療をしない気持ちなどは一切なく、「どうして教えてくれなかったのだろう」とお話されていました。ここに来られて初めてペットの健康状態を知る飼い主さんが少なくありません。
「早期発見・早期治療」がいかに大切か、よくわかります。
ペットを飼っている方は、毎日その子の様子をしっかり観察してあげてください。ごはんをどう食べているか、お水をどれぐらい飲んでいるかも、ちゃんと見てあげてください。「元気がなくて食欲もなくて……」とここに連れてくる飼い主さんが多いですが、元気がなく食欲もないというのはかなり状態が悪くなっているケースが多いです。また飼い主さんの不注意がペットの思わぬケガの原因になることもあります。ほったらかしのおもちゃをワンちゃんが飲み込んでしまったり、犬用のケーキを体の大きさ以上に与えたことでお腹を壊してしまったり。そんな事態にならないために、情報交換の場としても当院を使っていただきたいです。
オープンで清潔な院内は、透明性のある診療スタイルを反映
ところで先生はなぜ獣医師に?
もともと動物は好きで、子どもの頃、田んぼで野良犬が産んだ子犬を友人が拾ってきて、その子をうちで飼っていました。当時僕は兵庫の田舎に住んでいて、避妊手術はしていたもののフィラリアの知識などは知る由もなく、今思えばいい加減な飼い方をしていましたね。でも動物好きは変わることなく獣医学科へと進みましたが、大学時代は何となく時間を過ごしてしまいました。本当にこの仕事を選んでよかったと実感できたのは、働き始めてからなんです。実際にペットたちを治療し、ペットの体に触れ、そして飼い主さんともお付き合いするようになって、どんどん面白く感じるようになりました。自分の技術でペットたちを救えるという喜びもありますが、それ以上に飼い主さんたちのお気持ちも助けられるのが、獣医師という仕事だとわかったからです。苦しんでいる動物を助けて、元気になった愛犬・愛猫を飼い主さんにお返ししたときの笑顔が、僕とスタッフのやる気に繋がっています。
この動物病院は本当に明るくてきれいですね。
僕は飼い主さんから見えない場所でペットを治療するのが嫌でした。僕自身もペットの飼い主ですが、やはり自分のペットが治療されるところは、この目で見たいと思います。そこでできるだけオープンな空間をつくり、診察室の窓も大きく取りました。設計士さんから「こんなに大きな窓にしたら、全部丸見えですよ」と言われたのですが、「それでいいんです」と(笑)。手術についても飼い主さんのご希望があれば、立合いも可能です。この開放的でオープンな造りは、僕の動物医療にかける思いがそのまま反映されていますし、きれいで清潔な空間でペットと飼い主さんをお迎えしています。
とても熱心にお仕事されていますが、息抜きはされてますか?
もちろん(笑)。僕は獣医師という仕事は感情を失ったらおしまいだと考えています。喜怒哀楽という感情があるから、飼い主さんのつらい気持ちも想像できるし、ペットを大切に診療できます。人間は忙しすぎたりリフレッシュできないままだと、感情を失ってしまいますからね。リフレッシュ方法としてはロードバイクを楽しんでいます。自転車に乗ってひたすらペダルを漕いでいると、余計な考えが抜けてとても気持ち良くなります。山を一つ越えるたびに素晴らしい達成感も味わえますからね。そうやって息抜きもしつつ、今後も質の高い動物医療を皆さんに提供していくことが僕の夢です。