藤井啓太 院長の独自取材記事

小学生の頃、伊豆大島に住んでいたのですが、20年ほど前は動物病院がありませんでした。当時犬を飼っていましたが、フィラリアで死なせてしまったんです。赤い尿が出て、呼吸がぜいぜい言って、お腹に水がたまって膨らんで……。フィラリア症の症状ですが、当時の私には病名も治療法もわからず、弱って苦しむ愛犬をただ見ているしかなかったんです。その後、中学生くらいになってフィラリア症は感染を防げる病気であることがわかりました。助けられる病気ならば助けたかった、という思いが獣医師を志すきっかけになりました。スポーツが好きで、特にプロ野球の選手が怪我をした時に登場するチームドクターに憧れた時期もありましたが、進路を決めるときは結局獣医大学を選びました。

獣医大学に入学する段階で開業医を目指していました。臨床に関係のある科目には興味があったのですが、大学で扱うのは大動物・産業動物ばかりということもあり、正直なところあまり真面目な方ではなかったような（笑）。開設されたばかりのハンドボール部に所属して、部活中心の生活を送っていました。とても楽しかったし、体力作りには役立ったと思います。獣医師は体力も必要ですからね。

はい。勤務医になって犬猫診察デビューしました（笑）。4年間勤務医をしましたが、師匠は一般診療から整形外科まで行っていましたので、様々な症状の患者さんを間近で見られたことは非常に勉強になりました。そのほか、獣医師として大事にしなければいけないことなど貴重な指導をしていただきました。

開業して日々研鑽することが一番だと思いました。診察・治療を見ているのと自分でやるのは全然違いますから、プレッシャーも大きかったです。でも、自分でやることほど勉強になることはありません。勤務医と院長は全然違いますね。獣医学は日々進歩していて、昨年の情報と今年の情報がまったく違うこともありますから、本当に毎日が勉強ですね。

当院は小さな町医者ですから、飼い主さんのお話をじっくり聞いて、時には雑談や個人的なお話を交えながら、信頼関係を築けたらいいですね。選びうる選択肢を可能な限り提示することも心がけています。他の治療方法もあるのに、選べない方向に持っていくのは裏切ることになっちゃいますよね。自分が飼い主だったら、ここまで説明してほしいだろう、というくらいまで徹底的に説明するようにしています。飼い主さんが納得して治療を開始することが大切で、その結果治療の成果が得られれば、もう言うことはありませんね。飼い主さんからも「きちんと説明してくれてうれしい」と言われると、こちらもうれしくなって、もっと勉強しようという気になります。それから、触診を重視しているということがあります。触診で得られる情報はとても多いです。異常に気付くには普段から健康な子を触診している必要があります。毎日がそういうチャンスです。視診もそうです。健康な動物の状態をしっかり見ていれば病気の動物に気付くこともある。動物が診察室に入ってきた瞬間から診断のチャンスだと思っています。

皮膚疾患、消化器疾患、感染症が日々の診察の中心です。当院は、犬の患者さんが圧倒的に多いのですが、犬種特異性のある疾患も多いです。例えば、ダックスフントの椎間板ヘルニアなど。今はさまざまな犬種がありますので、海外の文献が必要な場合も。外科症例では腫瘍外科が多いですね。避妊・去勢の手術も多いです。当院では、避妊・去勢手術の際の麻酔についての説明を待合室に張り出しています。今の飼い主さんは麻酔ひとつとっても情報を欲していると思います。避妊手術の際でも、良い麻酔状態を得るには痛みの抑制が重要です。痛いのは循環器に影響がでますから。痛みを抑えると麻酔が安定し、動物の負担を減らすことができます。それを飼い主さんにもわかる形で示したいと思い、待合室で紹介しているのです。

大きな病院でCT検査の結果、椎間板ヘルニアの診断を受けて、多額の費用をかけてと手術したのによくならず、元気がない、後ろ足の症状が悪くなったと来院したダックスちゃんがいます。よくよく診察したら、背骨の病気ではなく、多発性関節炎という免疫疾患だったのです。治療の結果みるみる回復しました。飼い主さんもうれしそうでしたし、「先生のところに来て良かった。」と言われると私も本当にうれしいです。

休日もほぼ病院ですね。お正月三が日も病院を開けています。特にお正月は急に体調を崩した動物がたくさん来院するんです。普段の休診日も、入院動物がいない日なんてほとんどありませんから、病院に来て治療とたまった仕事の整理をしているうちに終わってしまいます。急患対応もしており、休診日でも何頭か診察しています。自分が飼い主だったら、休診日でもいつも診てもらってる先生に診てもらいたいと思いますから。仕事で疲れがたまらないわけではないですが、基本的に診察させてもらえてありがたいですし、休んで診れないことで申し訳なく思うことの方がよっぽどストレスです。ただ、家に帰れば、4歳と1歳2ヵ月の子供がいますので、彼らと遊び、成長の様子を見るだけで十分癒しになっています。だからこそ、病院に来ると気分が切り替わってフルアクセルで働けるのかもしれません。

設備投資を積極的にしたいということです。最近は、整形外科の機械と内視鏡を購入しました。次に欲しいのは電気メスです。血管を糸を使わずに止血したり切開できる非常に優れた機械なんですよ。あと、超音波手術システム、人工透析機、腹腔鏡……欲しいものだらけですね。これらの機械を使う機会がたくさんあるかというと、実はそういうわけではないのですが、あるとないとでは、患者さんの選択肢が変わってくるでしょう？設備がないからできません、というケースをできるだけ減らしたいです。ただ、機械に頼って触診・視診をおろそかにはしたくありません。まずは、自分自身の診察技術をしっかり磨きつつ、足りない部分を機械で補いたい、と考えています。

自分のペットをよく触ることを心がけてください。皮膚の状態、体温、お腹にしこりがないか、など飼い主さんが毎日触っていれば気付くことはたくさんあるんです。遊びながら触れ合うことから始めて、触られることを嫌がらない子に育てるのも大切ですね。熱心な飼い主さんは、本当に小さな変化も見落とさず、すぐに来院されます。動物の一次診療は飼い主さんがしているといっても過言ではないと思いますよ。もちろん、なんでもなかった、ということも多いですが、獣医師にとってそれが迷惑ということはありません。私は、「何でもなかった。よかったね」と笑って飼い主さんを帰してあげられる動物病院にしたいと思っていますから。是非、愛犬・愛猫を毎日触ってあげてくださいね。