鈴木顕示 院長の独自取材記事
おどりば動物病院
(横浜市戸塚区/踊場駅)
最終更新日: 2023/01/22
めざすのはホームドクター。動物たちの一生に携わっていたいという鈴木顕示院長の「おどりば動物病院」は、地下鉄踊場駅から徒歩3分と便利な場所にあり、20年以上も診療を続けている。病院は一戸建てを改装したアットホームな雰囲気で、入口脇には通院が楽しみになる花壇もある。「長生きになった動物たちは心臓病や腎臓病に悩まされています。そうした症状を落ち着かせるには、生活習慣の改善など飼い主さんの協力が絶対に必要なんです」と鈴木院長。そのために症状や治療方法のわかりやすい説明、生活についてのアドバイスを心がけているという。「その子の元気なときの様子を見ていると、病気の診断や治療がしやすくなりますから」と、優しい笑顔のスタッフが温かく対応してくれる同院に、定期的に来るメリットも教えてくれた。もともと山登りやバイクのツーリングが趣味という自然大好き派だが、「最近は時間が足りなくてジャズ演奏などインドアが中心」と、ますます診療に打ち込む鈴木院長に話を聞いた。 (取材日2013年9月3日)
何かあったら最初に受診するような、診療窓口をめざす
こちらの動物病院の特色を教えてください。
私がめざしているのは飼い主さんがいろんなことを気軽に相談できる、ホームドクターの役割なんですよ。獣医師の私、受付担当の妻をはじめ数名のスタッフで、は虫類と鳥を除いて、犬や猫、うさぎ、ハムスターなど大抵の動物は診ています。最新の知識や治療技術は勉強会などで身につけていますが、それでも当院での対応が難しい場合、高度医療を行う大学病院などを紹介する「地域の診療窓口」になりたいんです。ただ飼い主さんが「遠くまで行くより、いつもの先生に診てほしい」とお考えなら、ご相談の上で診療をお引き受けします。その場合は「ここまでは検査も治療もできます。この場合は推測になりますが、こういう病気の可能性が高いです」と、できる範囲を明確にして診療することが飼い主さんへの責任だと思うんですよ。勘ではなく医学的根拠を重視した診療を基本にしながらも、データだけで判断しないよう心がけています。細かな検査の前に、動物たちの体を触ってわかることもたくさんありますからね。人間と同じように「病気を診るのでなく、その動物を診る」ことが大事だと考えています。
どのような症状での受診が多いのでしょうか?
飼い主さんは予防接種からけがや病気、しつけの相談など、いろいろなことでお見えになります。特に長生きになったことで腎臓病や心臓病などは増えていますね。そうした慢性疾患も適切な薬や食事のアドバイスなどによって、当院で解決できるよう努力しています。生活習慣病も治せることはありますし、治らなくてもきちんと症状がコントロールでき、QOL(生活の質)がいい状態で長生きできる可能性も十分にあるのです。しかし同じ病気でもその子の年齢や体力などで、治療に対する考え方や選び方は変わるかもしれません。例えば平均寿命が15歳だとして、10歳の子と14歳の子では「体に負担をかけても延命をめざして手術をする」のか、「痛みを和らげて余生を楽に過ごせるようにする」のか、やり方は違って当然でしょう。私は飼い主さんと一緒になって、その子の命の質と長さも考えて治療をしたいと思っています。
これから飼う人に何かアドバイスはありますか?
狂犬病の予防注射や混合ワクチンの接種はもちろん、フィラリアやノミ・ダニの予防は必ず行ってください。また飼っている子が何かおかしいと感じたら、病院を早めに受診してほしいですね。異常に気づくきっかけはさまざまですが、例えば食欲が落ちて体重が減るのはわかりやすい兆候の一つだと思います。毎日体を触っていて、ダイエットをしていないのに「最近あばら骨が急に目立つようになったな」といったときは要注意です。また病気だと感じていても「治ると思って様子を見ていた」という方も多いですが、病気が重くなるほど治るまでに時間がかかり、苦しみも長く続きます。もちろんご家庭で治るケースもあるでしょうが、できれば一度獣医師に診せて診断を受けてほしいと思います。何もなければ安心してお帰りいただけるのですから。
理想は飼い主と獣医師が協力して診療すること
こちらでは通院での治療が基本と聞きましたが?
ええ、入院設備もありますが、当院では可能な限り入院せず自宅で療養していただくようにしています。もちろん、必要だと感じた場合は入院していただきますが、病院はご家庭とはまったく違う環境で、健康な子でも食欲をなくすことはよくあるんです。まして病気の子はなおさら不安なはず。必要な治療を終えたら、自宅で飼い主さんに面倒をみていただくのが何よりの励ましだと思うんですよ。そういう意味でも、私は治療には飼い主さんの協力が不可欠だと考えています。もちろん何も説明しないで治療するだけでは、飼い主さんの協力は得られません。まず飼い主さんの話を伺い、よく話し合ってお互いの理解を深めたいと思っています。会話のキャッチボールも、私が「これは○○です」と決めつけて剛速球を投げ込むような感じではなく、わかりやすく説明したり、何度も繰り返したり、相手が受け止めやすい球を投げる工夫も必要なんですね。ただ電話はどうも苦手なタイプで……。相手の顔が見えないせいか、話し方がぶっきらぼうに聞こえるようです。そこをカバーしてくれるのが受付担当の妻ですが、すでに「あなたが電話で話すとこの病院の印象が悪くなるから、出なくていい」とダメ出しされています(笑)。
スタッフへの信頼も厚いのですね。
明るく頼もしいスタッフのおかげで、当院の雰囲気はとても和やかなんです。全員既婚者で落ち着いていますから、飼い主さんも話しやすいんだと思いますよ。私には聞きにくいからと、スタッフに相談する人もいるくらいですから(笑)。必要ならスタッフが私に伝えてくれるので診療の参考にしますが、それだけ皆さんに親しまれているのは有り難いですね。また治療して治ったのと同じくらいうれしいのは、以前通ってくれていた飼い主さんがまた新しい家族を連れて来てくれた時です。当院に通っていただき、納得のいく治療ができたからこそ、またここに連れて来ようと思っていただけたのだと感じるからです。当院には私以外にも、相談しやすいスタッフばかりなので、治療はもちろんのこと、スタッフとおしゃべりするような感覚で気軽に訪れてほしいですね。
とてもアットホームな雰囲気が伝わってきますね。
ありがとうございます。当院は飼い主さんだけでなく、スタッフ同士のコミュニケーションもとても大切にしています。例えば、もうずっと続けていることなんですが、スタッフ全員で交換日記のような伝言ノートを作り、仕事の前後にそれを見るようにしています。内容は、症例のことやみんなが日々思っていることなど、さまざま。誰かが書いた文章にコメントを書き合ったりもします。スタッフ全員で情報をきちんと共有し、みんなで同じ方向を向いているからこそ、患者さんに対しても誠実な対応ができると思っています。もちろんいつも仕事のことだけでなく、みんなで今晩のおかずの相談をしたりもしますけどね(笑)。
クリニックには、やはり定期的に来院することも大切でしょうか?
私はそう考えます。特に診療がなくても遊びに来られる方もいますから、いつでも来てください。通院が大変な子は、慣れていただくために、クリニックまでの道をお散歩コースにしてみるのも、楽しみながら通えて良いかもしれませんね。最近はご来院せずにご本人の判断で処方食をインターネット等で購入される方がいらっしゃいますが、これには、少し気がかりな部分があります。処方食は本来、病気の改善を手助けする目的で処方しています。同じ病気でも、時期や重症度により、食事を変えた方が良い場合もあります。間違った処方食で身体に問題を起こしてしまうなど、最も避けたい事項ですからね。だからこそ、ペットの様子の変化を獣医師に診せていただくことは、とても重要だと考えています。また、例えば、飼い主さんが「うちの子、最近元気がなくて」と言って来院された時でも、私たちから見ると十分元気な様子にみえることがあります。だけど本来は、もっと元気な子かも知れないですよね。もちろんその逆もあります。だからこそ、病気のときだけでなく、普段の元気な様子をみていた方が、私たちもいざ病気になってしまった時の診断がしやすくなります。ぜひ普段から、通院というより、気軽にお散歩感覚で立ち寄っていただけたら嬉しいですね。
大草原の牧場から、地域密着のホームドクターへ進路変更
先生が獣医師をめざしたきっかけは何でしたか?
子どもの頃から生き物が好きで、動物たちと一緒にいられる獣医師に興味を持ちました。しかも詳しく調べると牧場で働く獣医師もいると知って、「豊かな自然、大草原、牧場」とイメージはふくらみました。『北の国から』という北海道が舞台のドラマ、アメリカ開拓時代を描いた『大草原の小さな家』などを見て育った世代なので、そういう開拓イメージにも憧れて北海道の酪農学園大学を選んだんです。入学してハマったのは山登りで、卒業後にはネパール側からヒマラヤ山頂に登るチームに参加したほど。しかし1年近く海外にいて帰国すると、もう牧場で働くような就職口は残っていません。それでも企業の研究職や公務員などで臨床から離れるのは嫌でしたから、やはり動物病院に就職しようと決めたんです。働いたのは大学の先生に相談して紹介された神奈川県の動物病院。じっくり就職先を選んでも、そこが本当に自分に合うのかは実際に経験しないとわかりません。紹介してもらえたのはチャンスと捉え、まず1歩先に進むことが大事だと思いました。獣医師は現場で学ぶこともたくさんあるので、「何でもやります、教えてください」と休みなく働き、週4回くらい夜間の当直をこなした時期もありました。当直の場合は自分だけで診療する機会も多く、責任感と決断力を磨く経験になりましたね。
こちらで開業された理由を教えてください。
私は横浜市港南区の出身なので、開業するならそことよく似た庶民的な雰囲気の町がいいと思っていました。自分のざっくばらんな性格にも合うし、私がやりたいのは動物たちのホームドクターで、飼い主さんと気さくに交流できるのも大事でしたから。しかし場所探しは苦労しました。当時は動物病院として借りたいというと、汚れるとかうるさいといったイメージが強いのか、貸してくれるところが少なかったですからね。ようやく探し当てたのが踊場にあるビルの1階でした。しばらくして隣が空くと聞いて、移転したのが今の場所です。その方が気兼ねなく診療できると思ったんですよ。以前より少し狭くなりましたが、もともと手を広げるより、地域の皆さんの希望をできるだけくみ取った診療が目標。以前、日曜日は休診でしたが、最近は日祝午前中も開けています。また急患なら休診日でも電話をいただければ、対応も可能です。
開業されてお休みの過ごし方は変わりましたか?
子どもも大きくなって、休日につき合ってくれないので、今は1人の趣味としてオートバイやジャズ演奏を楽しんでいます。サックスを始めたのは40歳過ぎ。初挑戦なので教室に週1回ペースで通い、たまにカラオケボックスに自分のiPodを持ち込んで、曲を流して練習をするんですよ。バイクに乗り始めたのは大学時代の北海道で、その頃はアウトドア派でした。最近は高速道路も2人乗りができるのでオンロードタイプのバイクで、妻を乗せてツーリングに行くこともありますね。山登りは今でも好きなのですが、本格的にやると長期の休みが必要で、急患への対応などで難しいですからね。