松原且季 院長の独自取材記事
ヴァンケット動物病院
(世田谷区/池尻大橋駅)
最終更新日: 2023/01/22
東急田園都市線の池尻大橋駅から徒歩7分。2012年3月にオープンしたばかりの「ヴァンケット動物病院」は、哺乳類から鳥類、爬虫類、両生類、魚類、節足動物にいたるまで、あらゆる動物の診療に対応している数少ないクリニックだ。入り口横の診察室は全面ガラス張りで、道行く人が足を止めて診察の様子を眺めていくこともあるそう。子どもの時からたくさんの動物を飼い、図鑑でその生態や飼育方法を調べるのがなにより好きだったという院長の松原且季先生は、まさに獣医師になるために生まれてきたような方。将来は獣医師や動物看護士の育成にも携わっていきたいと抱負を語る松原先生に、診療にかける想い、子ども時代のこと、獣医師を志したきっかけなどを伺った。 (取材日2012年4月2日)
オープンな獣医療を実現するために診察室は全面ガラス張りに
外から見える診察室など院内の随所に先生のこだわりが感じられますね。
すべての人に対してオープンな獣医療を提供していきたいという想いから、外からも診療の様子が見えるガラス張りの診察室にしました。もちろん深刻な状態にある子は、奥に用意してある個室で診察しますが、軽症の子やワクチンの接種などは、こちらのオープンな診察室を使うようにしています。時々、自宅で飼っている2匹の犬をここで遊ばせることもあるのですが、そうすると外を通る方が皆、見ていきますよ。子どもさんなんかは、好奇心旺盛ですから、それこそガラスにベタッと貼りついて見ていることもあります。また入り口の扉は動物の脱走防止用に2重にして、扉自体もあえて重くしています。犬の場合は脱走してもなんとか捕まえられますが、猫は素早いですし、鳥は逃げ出したら最後、捕まえるのが本当に大変ですから。
動物の種類を問わずに診察してくださるのが、こちらの特徴だそうですね。
はい。動物の種類に制限を設けることなく、犬、猫はもちろんエキゾチックアニマルの診療にも対応しています。エキゾチックアニマルとは犬、猫以外の動物全般のことで、具体的にはウサギ、フェレット、ハムスター、両生類、爬虫類、魚類、鳥類、節足動物などが該当します。変わったところではタランチュラを診たことがありますし、大型の熱帯魚に麻酔をかけて手術をした経験もあります。ウサギやフェレットは別として、それ以外のエキゾチックアニマルを診療している動物病院は全国的にも少ないのが現状です。実は、爬虫類、や両生類などを飼っている人は結構いて、その診察ができる動物病院の需要はあるのですが、供給が追いつかない。開業前に勤務していた病院でもエキゾチックアニマルの診察をしていましたが、遠いところでは、静岡や群馬などからはるばる来られる飼い主さんもいました。当院は、開業してまだひと月程度ですが、今のところトカゲのカルテが一番多いですね。40枚くらいのカルテのうち、15くらいをトカゲが占めていると思います。
開業を思い立ったきっかけは?
勤務医時代から、ゆくゆくは自分の病院を持ちたいと考えていました。やはり病院によってそれぞれ治療方針というものがありますから、勤務医の立場ではやりたいと思っても、できないことがある。自分が本当にやりたい診療スタイルを実践するには、開業するしかないなと思っていました。それで勤務医として約5年の臨床経験を積んだ後、小さい時から慣れ親しんだ土地でもある、この池尻大橋に開業することにしました。
無類の動物好きは子ども時代から。大学は迷わず獣医学部へ
こちらの動物病院の診療方針を教えてください。
表面に出ている症状を抑える対症療法ではなく、客観的なデータに基づいた確定診断をきちんと行ったうえで、治療計画を立てるようにしています。スタッフもそうした方針で教育しています。今後、とくに力を入れていきたいと考えている分野は、腫瘍の治療です。外科を得意としていることも理由の一つですが、犬も猫も高齢になるにつれて腫瘍になる子が増えますし、エキゾチックアニマルにも多く見られる病気なので、飼い主さんたちのニーズが高い領域だと思うからです。現在は、腫瘍治療に関する知識をより深めるために、日本獣医がん学会に所属して勉強をしている最中です。
飼い主さんと接する際に心がけていることはありますか?
治療を進めていく過程では、時として「腎不全でもう手遅れです」とか、「腫瘍で余命はこれくらいです」など、飼い主さんにとって酷と思えるようなことを伝えなければならない場面に出くわすことがあります。正直、飼い主さんの気持ちを思って迷ってしまうこともありますが、やはりそこはきちんと伝えるべきだと思うので、判断の根拠となったデータをお見せしながら、できるだけ客観的かつ丁寧にご説明するように心がけています。とはいえ、データはあくまで平均値を示しているにすぎませんから、目の前の子にそのまま当てはまるかといえば、必ずしもそうではありません。データ上の余命は100日前後であっても、1年以上生きる子もいますし、残念ながらそれより短い期間で亡くなってしまう子もいる。そういった点についても、その際にあわせてお話するよう心がけています。
先生が獣医を志したきっかけは?
小さい時から動物が好きだったからというのが大きいですね。子どもの時は部屋一面がケージという状態で、ハムスターやジュウシマツ、トカゲ、ヘビ、カメ、タランチュラなど、それこそ哺乳類から両生類、爬虫類、昆虫にいたるまであらゆる種類の動物を飼っていて、動物の生態や飼い方を本や図鑑で調べることが大好きでした。そのため大学受験の際には、「動物に関係した仕事に就きたい」と迷わず獣医大学を選びましたが、いざ入ってみると大学で扱う動物は牛、豚、鶏と犬猫くらいで、ほかの動物を診る機会はまずない。そもそもエキゾチックアニマルを診ることができる獣医師の数自体が少ないことを知り、「誰もやらないなら自分がどんな動物でも診られる獣医師になろう」と、卒業後はエキゾチックアニマルの診療も行っている病院に勤務して臨床経験を積むことにしました。
症状を隠すのが動物の特性、早期発見のためにも定期健診を
動物全般がお好きとのことですが、爬虫類や両生類の魅力ってなんですか?
質感や模様がかっこいいところが魅力ですね。怪獣的なかっこよさといったらわかりやすいでしょうか。私にとって、ゴジラかっこいいと、ワニかっこいいは同じ感覚ですね。ただ、どこに魅力を感じるかは人によって違いますから、トカゲやヘビを家族の一員のようにかわいがっている飼い主さんもいらっしゃいます。
休日は何をして過ごされていますか?
開業してからはあまり時間が取れないのですが、趣味はホラー映画観賞です。とくにB級ホラーが好きで、メジャーなところでは「死霊のはらわた」とか、「悪魔のいけにえ」などがお気に入り。見ていてくだらないなとは思いますが、そのくだらなさや、つまらなさを、あえて楽しんでいる感じですね。
今後の抱負をお聞かせください。
まだオープンしたての動物病院ですが、将来的には、しっかりした診断能力のある獣医師を育てる教育の場にしていきたいと考えています。エキゾチックアニマルの診療できる動物病院の数を増やしていく意味でも、獣医師や動物看護士の実習などは積極的に受け入れていきたいと思っています。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
人間と同じで動物の病気も早期発見・早期治療が大切ですが、動物には具合が悪くても症状を隠すという特性があります。ですから、とくに持病がない場合でも、定期的に獣医師のチェックは受けるようにしてほしいと思います。腫瘍はもちろんですが、猫によく見られる腎不全も、早期に発見できれば治療がしやすいですし、救える可能性も高くなるのですが、実際は手遅れになってから連れこられるケースが多い。こうなる前に連れてきてくれていれば助けることができたのに、と悔しい思いをした経験も一度や二度ではありません。とくに高齢になるとどんな動物も、病気になる確率は高くなりますので、ある程度の年齢になったら、定期的に血液検査と尿検査を受けることをお勧めします。また肥満にはくれぐれもご注意いただきたいと思います。過度の肥満は関節性疾患の原因にもなります。肥満の一番の原因はズバリ「食べすぎ」。肥満を指摘すると、たいていの飼い主さんは「そんなに食べさせてません」と否定するのですが、実際に計量してもらうと、意外とたくさん食べさせているケースが多い。動物は自分で食べる量をコントロールできませんので、肥満を防ぐためにも、食事は毎回きちんと計量して与えるようにしましょう。