菅井 龍 院長の独自取材記事
つつじケ丘動物病院
(調布市/つつじヶ丘駅)
最終更新日: 2023/01/22
つつじヶ丘駅より徒歩5分、甲州街道の裏手に「つつじヶ丘動物病院」がある。同エリアで1990年に開院し、1999年に現在の場所へ移転した。小さな動物にも使いやすい内視鏡を導入し、耳の中にある腫瘍を取り除く手術も可能になったそうだ。同じ病気でも患者のニーズはさまざまで、「獣医師として正しいことをしながら、希望に沿う医療の提供」を心がけ、がんの再発、取り残したがん細胞の死滅、疼痛緩和のために、色素に反応したがん細胞を熱で撃退する光温熱治療が受けられるほか、菅井先生は痛みを取り除いて欲しいという希望にも応え、疼痛管理もしている。海外ドラマの動物監視員の様子を観て、獣医師への憧れを持ったという菅井先生に話を聞いた。 (取材日2015年12月18日)
光温熱治療を導入した疼痛緩和やがんの再発防止
開院した経緯をお聞かせください。
昔は動物病院に勤務して一生を終えるという選択がほとんどで、開業するにしても、何年か勤務医として勉強して開業するのが自然な流れでした。大学卒業後、3年間千葉県庁の家畜保健所に勤務しましたが、子どもの頃から描いていた獣医師像と違うと感じて、小動物を扱う動物病院に方向転換しました。小動物を扱うようになって、いつか開業したいという考えを持つようになりましたね。甲州街道近くのテナントで開業して、1999年に自宅兼病院として移転しました。前の病院が手狭に感じていたこともきっかけです。
こちらならではの治療はありますか?
通常の手術や化学療法で回復できない場合や、抗がん剤を希望されない方への1つの選択肢として、光温熱器を使った光温熱治療(PTH)を導入しています。主にがん治療や疼痛緩和が目的です。手術ができない場合、細胞レベルでの取り残しがある不完全切除、放射線・抗がん剤を希望しない場合の第4の治療として活用しています。色素が入った薬剤を点滴すると、がん細胞に色素が集まります。光を当てることでがん細胞の温度が上がってがん細胞を死滅させたり、再発を遅らせたりする治療です。導入している動物病院はまだ多くないと思います。手術時の止血には血管シーリングシステムを取り入れています。通常は糸で血管を止めますが、これは鉗子(かんし)で血管を止めて数秒間通電し、血管同士を凝固させて止血するもの。複数の血管を止める時や二重結索が必要な動脈などは時間がかかります。この方法だと手術時間の大幅短縮で、リスクも減少します。
小さな動物にも使える内視鏡を導入されたそうですね。
内視鏡だと、異物誤飲や嘔吐などの症状で使うケースが目立ちます。近隣の動物病院からの紹介で、内視鏡手術に来られる方もいます。従来のものより細い内視鏡に変えたことで、耳の中にできた腫瘍を切除することも可能になりました。小さい動物や体重が1kg台の犬など、従来の内視鏡では十二指腸に入らない場合もありましたが、細い内視鏡だと対応できるメリットを持っています。消化器以外での用途も広がりましたね。
千差万別な患者のニーズに沿う医療を提供したい
診療時に心がけていることはありますか?
わかりやすい説明をすることと、患者さんのお話をよく聞くことです。レントゲンをはじめ、エコーや内視鏡の画像診断データをパソコンで一元管理し、患者さんにも見ていただいています。同じ病気でも、患者さんのニーズや希望は千差万別なので、その希望に合うものを提供していきたいと考えています。獣医師としてベストだと判断しても、希望とは違うこともあります。動物の最期を看取ることになった時、後悔のない時間を過ごしていただくことはとても大切。そのために、獣医師として正しいことをしながら、一番の希望に沿う治療をしていくことを心がけています。不安なことやわからないことがあったら、どんどん聞いてください。できる限りの医療を提供したいと願っています。
スタッフとのコミュニケーションについて教えてください。
現在、当院には獣医師は常勤4名・非常勤1名と看護師9名が在籍。スタッフは病院の方向性をよく理解してくれています。この病院に入った時にコミュニケーションを学ぶセミナーに参加してもらっていますが、先輩たちが後輩をしっかり教育してくれているんです。いつもスタッフに話しているのは、患者さんにお話しする時の心構えについて。患者さんの中には、自分たちの両親や祖父母に当たる年齢の方もいらっしゃる。こちらは獣医学の専門知識があったとしても、どの方も人間として自分たちの人生の大先輩ですから、お話する時は、いつも尊敬の気持ちを持って接してもらうように伝えています。
以前とニーズが変わってきたことはありますか?
昔は感染症・寄生虫・フィラリアなどで亡くなるケースがほとんどでした。今はフィラリア予防などもきちんとされ、お腹に寄生虫も見ることもなくなりました。ただ、高齢による心臓病や腫瘍、アレルギー疾患が増えています。最近では、「苦痛を取って欲しい」というニーズも高まっていて、開業した25年前に比べて非常に多くなりました。患者の痛みの有無を聞かれることが多いのですが、判断基準はあってもとても難しいものです。顔つき・病気の種類・その子によって感じ方が違う場合もあります。ご説明して、痛みがあれば疼痛管理をするようにしています。こうしたニーズが増えてきたのは、より動物と人間の距離が近くなったからかもしれませんね。
海外ドラマから幼な心に芽生えた獣医師への憧れ
獣医師をめざしたきっかけを教えてください。
子どもの頃、アフリカのナショナルパークで働く動物の監視員が主人公の海外ドラマを観ました。小学生の頃でしょうか。主人公が動物を密猟から守ったりしている姿が獣医師に結びついて見えました。今考えると、監視員は獣医師ではないのですが、幼な心に動物に接する仕事がしたいと自然に考えるようになったんですね。高校で進路を選択する時におぼろげにその記憶が残っていて、生物学に関連したものしか考えていませんでした。獣医学以外にも、医学・歯学も考えました。ほかにも東京海洋大学増殖学科の、最近よく耳にする近大マグロなど養殖に関わる仕事にも関心を持ちました。子どもの頃に、犬・ニワトリ・小さな魚を飼っていたのも影響しているかもしれませんね。
プライベートはどのように過ごされていましたか?
子どもの頃は学校から帰ってくると、暗くなるまで外で遊んでいて、勉強はしなかったですね(笑)。中学のクラブ活動はバレーボールです。高校でラグビー部に所属しましたが、バレーボールで腰を痛めて写真部に転部しました。大学卒業後にはサーフィンを始めました。千葉県庁勤務時代に、千葉県で中学の教師をしている子どもの頃からの親友の誘いがきっかけで火がついたんです。九十九里に勤務していて、海が近いから一人でも行くようになりましたね。以前は週1回サーフィンを楽しんでいました。春から医師が2人増えるので、時間ができたらまた行きたいです。ほかにも、深大寺に2ヵ月通って習った蕎麦打ちを、自宅で楽しむこともありますよ。
今後の展望をお聞かせください。
最近は、複数の医師が1つの動物病院に勤務する形態が増えています。同院でも、勤務医の先生たちがそれぞれの得意分野を生かして、この病気ならこの先生が秀でているといった、病院内での専門性を作っていきたいと思っています。認定医や専門医取得のために勉強するサポートも必要です。夜間はできる範囲で診ていますが人手不足なのが現状で、世田谷区の夜間診療専門機関に依頼していることもあります。月に1回23時まで、東京都獣医師会の夜間診療ネットワークの電話当番も引き受けています。生活の多様化に合わせて、24時間診療は難しくても今後は夜間対応ができるようにしていきたいと思っています。