渡利真也 院長の独自取材記事
川村動物病院
(北区/本蓮沼駅)
最終更新日: 2023/01/22

赤羽駅から車で5分。本蓮沼駅との間の住宅地に、ひときわ目立つオレンジ色の建物。この地で45年以上、ペットを持つ家庭を見守ってきた「川村動物病院」だ。前任の川村正道先生より引き継いだ現院長の渡利真也先生は、2005年に東京大学農学部を卒業後、日本初の民間二次診療病院や米国の大学病院で臨床にあたり、20代の頃から新しい医療環境や難しい治療に挑んできた。厳しい環境に身を置きながら、「温かさに憧れて獣医師になった」と話す通り、患者には笑顔で優しく接する。そんなあり方が、病院だけでなく病院に対する信頼も引き継げている秘密なのだろう。また、中学時代の教師や両親、異なる業界で活躍する仲間、漫画に登場する獣医師など「人」の影響も多いに受けているようだ。渡利院長に、たっぷりとお話しを伺った。 (取材日2015年2月5日)
45年以上の歴史から受けるプレッシャー、だからこそ頑張る
川村動物病院は45年以上の歴史があると伺いました。

当院は、以前から知り合いだった川村正道先生が45年前に開業した病院です。川村先生が体調を崩された際、何か力になれることはないかと思い、引き継がせていただきました。第一印象は、地域に根付いたアットホームな病院だということ。地域医療に貢献できると感じましたね。一方で、45年の歴史にプレッシャーもありました。川村先生は手術なども行う非常に腕の立つ方。その先生が長年開業してきた病院ですから、私が就任後も、患者さんから高いレベルの医療を求められました。でも、だからこそちゃんとやりたいと思いましたね。プレッシャーをいい意味でばねにして頑張ろうと。現在は、私の専門である外科の他に、腫瘍内科を専門とするドクターもいますので、より患者さんに高度な医療を提供できるのではないかと思っています。
渡利院長も手術が得意のようですね。
開業前に日本やアメリカの二次診療専門病院(他院から紹介されてくる症例だけを診る病院)で経験を積みました。整形外科、神経外科の患者さんが多い病院で勤務をしてきたので骨折や椎間板ヘルニアなどの手術を行うことが多かったです。川村動物病院では、二次診療施設で経験を積んだ当院のスタッフと協力しながら対応できる手術の幅を広げています。CTやMRI等の特殊な検査が必要な患者さんが来られた場合は、何でもかんでも当院で手術できるというわけではないので、症状によっては東京大学附属動物医療センター(東京都文京区)と連携して治療を進めるようにしております。
院内にかわいい動物の写真がいっぱいですね。トリミングも行っているのですか?
当院には優しくて腕の良いトリマーさんがいるので、トリミング後に可愛くなったと喜んでご帰宅いただいています。せっかくの可愛い姿を是非皆さんにみていただきたいと思って、ご許可をいただいた方の写真は院内だけでなくSNS上にアップさせていただいています。小型犬が増えているせいか、トリミングの需要も増えていると感じますね。トリマーさんだけでなく、当院のスタッフは全員、明るくて優しく患者さんに接することのできるメンバーばかりで、和気あいあいとしています。
飼い主さんがなかなか気づきにくいペットの症状には、どのようなものがありますか?

慢性的に進行する腎不全や甲状腺の病気は、飼い主さんが気づきにくい病気の代表です。慢性腎不全の場合はぐったりしたり食欲がなくなったりと、少し症状が進んだ段階で気づくことが多いんです。初期に発見して治療をおこなえば、こういった慢性疾患の進行を遅らせることができるため、当院では年に1度の健康診断を受けることをおすすめしています。また、ダイエットフードをあげているのに、なかなか痩せないという悩みを良く聞きます。よくよく聞いてみると、おやつをいっぱいあげていることも。メインの食事は気を付けているのに、おやつをねだられると断り切れない飼い主さんも多いと感じています。また、皮膚病があって様々なシャンプーを試したのに治らないとお悩みの飼い主さんもいらっしゃいますね。診察してみると、食事アレルギーが原因だったということもあります。その他には、人にとってはたいしたことない高さから飛び降りて骨折してしまう小型犬もよく見ます。高さのあるソファーや、滑りやすいフローリングは怪我しやすい環境の代表です。カーペットを敷くなど、なるべく動物たちにとって危なくない家づくりを行うことが、怪我を未然に防ぐことに繋がります。いずれにしても、飼い主さんの話をよく聞いた上で、怪我・病気の予防や病気の早期発見をすることが大事と感じています。
大学や留学、異なる環境で築いた人脈が財産
先生が獣医師をめざされたきっかけは何だったのでしょう。

製薬会社に勤めている父が、医療現場に携わる姿を小さい頃から見ていました。父母から紹介してもらう医師もすばらしい方が多かった。それで、医療関係の仕事には昔から興味があったのですが、『動物のお医者さん』という漫画に出会いましてね。ハムテルという主人公が動物と触れ合う温かい姿に憧れて獣医を目指すようになりました。
東京大学時代の勉強は大変でしたか?
大学時代はスポーツばかりをしていて、あまり勉強していませんでした(笑)。ただ、卒業研究は真面目に取り組みました。書くからには社会にインパクトのあるものを出したいという気持ちで、取り組んでいました。実験を夜中までやったり。それ以外で一生懸命やったことといえば、テニスサークルと獣医のサッカー部ですね。スポーツやっていた仲間とは今でも仲良くしてます。海外で研究者として働いている人、官僚になった人、医学部に入学し直して医師になった人など、みんな異なる分野で頑張っています。様々な分野からアドバイスをもらえるので、この人脈は財産ですね。
卒業後は関西の高度診療機関で経験を積まれていますね。
卒業後は、大阪市にあるネオベッツVRセンターに勤務していました。生まれ育った関西に貢献したいという思いもありましたが、ネオベッツVRセンターの理念に共感したことも就職した理由です。今でこそ、民間でも二次診療を行う動物病院は増えていますが、当時は大学病院でしかやっていなかった。そんな中で、民間で初めて、同センターが高度二次診療を始めるということで、立ち上げスタッフとしてぜひ関わってみたいと思いました。実際に、一緒に働いた周りのスタッフもみな優秀な先生ばかりで、とても良い刺激を受けました。二次診療だけを診ていると普通の病気がわからなくなるので、週一回は別の病院で一次診療や夜間診療の経験も積ませていただきました。さまざまな状況への対応や難しい治療を経験したことで、「何とかできるかな」という自信になりましたね。
その後、アメリカで外科の経験を積まれたようですが。

海外の獣医師育成に積極的なミシガン州立大学で国際外科研究員として、カリフォルニア大学デービス校で修士課程に所属しながら、それぞれ外科の臨床にあたりました。教科書に載っている著名な先生方と一緒に手術をさせていただく経験をいただいたのは、今でも本当に貴重な経験だったと思っております。海外で暮らした経験がなく、英語も得意だったわけではないので、言葉の苦労も最初はありましたね。専門用語はわかるのに、日常単語がわからないものだから、米国の獣医学生や飼い主さんと日常のたわいもないことを話すことが、うまくできなかったんですよ。でも3か月ぐらいしたころから、徐々に英語もわかるようになってきて、自分の色を出せるようになってきたと思います。米国では自己主張をしないと評価されないので、自分の意見を上手く人に伝える大切さを学ぶことができたと思っています。
医療の答えは1つではない、患者の身になって一緒に考える
小さい頃は、どんなお子さんでしたか?

目立ちたがり屋でしたよ(笑)。発表をしたがったり、授業中に積極的に手を上げたりする子でした。間違うことを恐れずというより、常に正しいと思ってやっていました(笑)。もちろん、結果的に間違っていることもありましたけどね。小学校の時に通っていた塾の先生が「発表することが何よりも大事」と教えてくれたんです。日本の教育っぽくないですけど、その先生の影響は大きいですね。また、スポーツ好きでした。神戸の灘中学校・高校時代はサッカーに熱中。大学時代は、スポーツに加えて旅行もよくしましたね。リュックを背負って、タイ、カンボジア、メキシコなどに一人旅も。見知らぬ土地で異なる文化の人と話すのはまったく苦ではなく、楽しめるタイプなのだと思います。
患者さんに接する際に心がけていることはありますか?
1つは「わかりやすく話すこと」。ともすれば、医療の話は難解になりがちです。聞いている患者さんも、よくわからないけど、うん、うん、とうなずいてしまいがち。医療ドラマを見ていても、「こんな説明では絶対にわからないだろう」と思う場面がある。そういうのを客観的に見ると、やっぱりそれではいけないなと。ですから、事例を交えて説明するなど、理解していただく努力をしています。もう1つの心がけは「患者さんの身になって話すこと」。医療の答えは1つではないと思っています。飼い主さんの気持ちや立場になって、飼い主さんと動物にとってよりよいことを考えたいと思っています。例えば、がんになったとします。そのとき、がんの治療をとことん積極的に行うのか、あるいはペットと一緒にいる時間を大事にできる治療をするのか。どちらが正しい選択ということではありません。飼い主さんが納得のいく決断をできるよう、サポートするのが獣医師の役目だと思っています。そのためにも、しっかりとオプションを提示し、わかりやすく説明するようにしています。
読者の方にメッセージをお願いします。

川村動物病院は、45年以上、地域の方に密着し、地域の方に育てていただいた動物病院です。皆様に育てていたという気持ちを忘れずに、「人と動物にやさしく」の理念を引き継いでいきます。今後は、地域の活動にも参加し、地域医療の発展に貢献していきたいと思っています。地域の方とコミュニケーションをとりながら、アットホームかつ高度な医療を提供していきますので、どうぞ宜しくお願いいたします。