田向健一 院長の独自取材記事

実は昔から東京にあこがれがあったんです。東京を目指していたと言うと少々大げさかもしれませんが、単純に、田舎ものなので、大学卒業後は学生の頃に住んでいた横浜市や相模原市から近い東京ということで、大田区での開業を決めました。飼い主さんの雰囲気は地域によって異なるようですが、私の病院に来てくださる方は、ペットの健康についてとても関心の高い方ばかりで遠方からも多く来院されています。食生活や飼育方法のことなど、事前にいろいろと勉強されているようで、ご説明をしてもすぐに理解していただける方が多くいらっしゃいます。

たしかに、そういう話しはよく耳にしますね。結局は、動物はしゃべることができないので、飼い主さんの一方的な思いになりやすいんですよ。人間の子どもであれば、赤ちゃんから大きくなり、言葉をしゃべるようになって反抗期に入ると、自分の意志で親との人格の違いを訴えるようになります。そこで親も、自分と子どもの人格の違いを認識し、認め合うことで親と子供の双方がだんだんと共存していけるようになるわけです。動物の場合はその過程がないので、飼い主さんがずっとペットを自分の子供だと思ってしまうことも多いのです。

複雑ではないとは言い切れませんが、動物は生きる目的自体が、意外とシンプルにできているんですよ。食べることや子どもを作ること、犬猫であれば飼い主さんと遊ぶこと……基本の行動原理の欲求はそのくらいです。こんなにシンプルに生きているはずなのに、人間の側から考えると、人間とまったく同じ複雑な心理があることになってしまう。飼い主さんのなかには、ペットが病気に直面した時、その心理をくみ取ろうとして、結果的にどうしていいかわからなくなって困惑してしまう人が少なくありません。例えば、動物はがんになって生きる希望を失ったり、途方にもくれたりしません。ただ粛々と耐えながら、とにかくその瞬間瞬間を一生懸命に生きているのです。

人間とペットの共存において、理想的な状態を考えるのは難しいことですよね。まだ、今のところは、「ペットの命は飼い主さんにかかっている」と言わざるを得ないのでしょう。飼い主さんはペットを飼うことで楽しさや幸せな気持ちを受けることができます。ではそのペットは、その飼い主さんに飼われることで幸せかどうか、をきちんと考えてあげることが重要だと思うのです。ペットは飼い主さんを選ぶことはできません。動物は、人間が老いるスピードより速く歳をとっていきます。若いころは元気いっぱいでも、だんだんと歳をとってくれば、いろいろな病気や障害が出てきます。もし、仮にあなたのペットが歳をとって苦しむような病気になってしまった時、「痛がるところを見ていられない」「死ぬところを見たくない」と言って目をそむけずに最後までしっかりと受けとめてほしいのです。飼い主さんは責任をもってその動物の痛みや生死までも引き受けなきゃいけないと思うのです。そうしなければ、きっと後悔が残ってしまい、ペットロスということにもなりかねませんから。後悔の無いように愛情をもってみてあげてほしいですね。

僕の仕事は、痛みがあれば取り除いてあげる、死に至る疾患があれば治してあげること。動物たちが苦痛なく、長生きすることをサポートしたいと思っています。でも、最終的にはペットに何をしてあげたいかは飼い主さんの想い次第です。しかし、私は人間よがりの一方的な治療はあまり好きではないので、治療の前には、その動物にとって一番いいと思える方法を私が考える限りお話しするようにしています。そして、なによりも、動物の病気を治すことが第一です。動物が幸せになることで、飼い主さんも幸せになれると信じています。病気のペットを治すことで、飼い主さんの幸せは必ず後から付いてくると考えています。私の獣医師としての治療の基本となるものは、科学的な根拠と今までの経験をバランスよく生かすこと。動物は言葉がしゃべれませんので、獣医師として、こちら側の都合を一方的に押し付けてしまいやすい対象です。自分の考え中心の治療を行うことは、避けたい。診療を通じて感じることは、獣医師と動物と飼い主さんという3つの関係性において、飼い主さんや獣医師が主人公になりがちです。でも、本来の主人公は、ここでは動物たちであるべきだと考えています。

もちろんです。獣医師以外では、漁師になってみたいな〜と思ったこともありましたけど、それも、昔から自然や動物を相手にした仕事に就きたいと思っていました。人工物より自然物に興味があったんです。ジャングルが大好きで以前に何度か海外まで行ったことがあるんですけど、野生の動物はいいですね。とても動物らしいし、見ていて癒されます。そういえば、地球上で肥満をする動物って、人間と、人間が飼っている動物だけです。野生の動物は、食べものを獲ることに一生懸命で、太る暇がないんですよね。人間と、人間が飼っている動物は、そんなに頑張らなくても食べることができる安住の地を見つけてしまったので、肥満になり、その結果として病気が増えています。ペットたちは肥満を含め、人間に飼われることで病気になってしまうこともある。しかし、一方で矛盾しているようですが、ちゃんと飼うことで長生きして、その結果、今まで短命で終わっていたときにはなかったような、心臓病やがんなどの病気がでてくる。難しい。でもこれはしょうがない。この社会にペット文化がある限り、どうしようもないことだってある。その現実のなかで、私は何がペットにとって飼い主さんにとって幸せか、何ができるのかをいつも模索しています。

ブログはとても評判がいいんですよ。患者さんも含め、みなさん喜んで見てくださっているようです。動物病院で、実際に診察室の裏側では何が行われているかなんて、ほとんどの方はご存じないですよね。写真や文章を使って、現実をわかりやすく示すことで、安心される飼い主さんは多いです。また、動物病院の仕事に対する透明性を高めて私たちの仕事をきちんと理解していただきたいと思って書いています。時には手術中のようなてリアルなものをお見せすることもありますが、それを現実として受け取ってもらえたらいいのかなと思っているんです。ただ、ブログを始めた時は、みんなもやっているから私も〜くらいの気持ちでしたけどね（笑）。論文を書いたり学会発表したりすることもそうですど、獣医療の現場から世間一般の方に情報発信することも、私の仕事の一つだと思っています。

そうですね……目標みたいになってしまいますが、病院での診療を通して、きちんとした医療を末永く提供し続けたいと思っています。できるだけ、動物に優しい正しい治療をしていきたい。それを遂行するには、飼い主さんと動物を相手にしなければならないので、心身ともに結構ハードだと思います（笑）。それでも折れずにがんばるには、動物を助けて飼い主さんから喜ばれるからなんですよ。私は動物が大好きで獣医師になったのだから、とことん動物を助けていきたいと思っています。

動物たちは、言葉を話すことができません。だから、病気になってもすぐにはその症状を表せず、治すことが難しい状況に至る場合もあります。しかしながら、日頃から予防接種や寄生虫の予防、不妊手術などで、事前に病気の予防を心掛けることにより、大切な家族の一員を恐ろしい病気から守ることはできます。病院では、飼い主さんへの充分な説明と同意のもと、最先端の技術と知識、医療設備の融合により、ペットたちの健康をサポートしています。そして、動物の病気を治すことだけではなく、ペット、 飼い主さん、みんなが気持ちよく、幸せになれる環境作りを目指しています。診療のみならず、飼育に関する素朴な疑問や日常のケア、食餌など、どんなことでもかまいませんので、ぜひ気軽にご相談ください。