―長年の獣医師経験から感じる、動物医療の流れについてお教えください。
個々の犬種によって、かかりやすい病気というものがあります。例えば柴犬ならばアトピーや膝の脱臼、プードルやシーズー、ダックス、フレンチブルドッグはアトピーやアレルギー、チワワなら心臓病、ラブラドールレトリバーやゴールデンレトリバーは高齢化に伴う腫瘍など。そのため、その時々で変わっていく流行病や、新種の登場などによって、必要な知識は変化していきます。これまでに得た知識は、どんどん過去の遺産となっていってしまうのです。だからこそ、経験に甘んじることなく、新しい知識を貪欲に学んでいかなければいけないと思っています。決して、30年間の獣医師経験があるからといって、優秀だというわけではないのです。何十年の経験があろうと、目の前のペットはどんな病気を持っているのかということを、真っ白な心で診ていくことができなければ、誤診につながってしまうと考えています。そのため、常に新しいことを学んでいける獣医師でありたいと思っています。
―では、今先生が最も注目している病気はありますか?
血液疾患ですね。これは、お薬や手術などで治療できる病気とは異なり、治療法は輸血を含めた治療が必要です。しかし、日本には動物の血液バンクが存在しないのです。検査技術や治療法は日々進化しているにも関わらず、肝心の治療に必要な血液がないために、日々命を落としている動物たちがたくさんいるのです。現在は、献血をしてくれたペットたちの写真を院内に掲示し、協力してくれる元気なペットたちによる輸血で助けられている状態です。さらに、より多くの血液を集めるために、千葉県獣医師会で献血システムを検討する委員会を発足しました。そうして、少しずつでも献血ボランティアのネットワークを広げていくことで、少しでも多くのペットたちを血液疾患から救っていきたい。私の最後のライフワークとして、この活動に力を注いでいきたいと考えています。
―先生は、何より「ペットを救う」ことを第一に考えてらっしゃるのですね。
私が獣医師を志したのは、父の「困った動物を救ってあげなさい」という遺言がきっかけでした。その約束を守るためにも、「1匹でも多くの動物たちを、とにかく助けたい」。例えば、がんになってしまった子の飼い主様の多くは、「苦しませたくないから、抗がん剤治療をしないで楽に寿命を迎えさせてあげたい」とおっしゃいます。しかし、動物の抗がん剤は人間の抗がん剤よりも苦しいものではありません。また、小さな出来物ができたとき、「手術は可哀想だから放置する」という選択を取られる飼い主様がいらっしゃいます。しかし、放置してしまえば取り返しのつかないほどに悪化してしまう出来物もあるのです。私は、そんな飼い主様が持つ固定概念を払拭できるように努めていきたいと考えています。「病気と闘っていこう」と思っていただけるように、ペットたちを救うための選択肢を第一に提示していきたいのです。一匹一匹に丁寧に向き合い、飼い主様への説明も大切にして診療していますので、診療に時間がかかり、待ち時間が長くなってしまうことがあります。お待たせしてご不便をおかけしてしまうかもしれませんが、大切なペットたちの命のためですので、ご理解いただけたら幸いです。
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