新井 曉 院長の独自取材記事
新井動物病院
(横浜市青葉区/江田駅)
最終更新日: 2023/01/22

扉を開けると、カラフルな椅子や動物の雑貨、ポップアートのポスターが目に飛び込み、瞬時に楽しい気持ちにさせてくれる「新井動物病院」。ここなら大切なペットと楽しく通えそうだ。クールな外見ながら取材スタッフにまで気を配ってくれる院長の新井曉先生は、ペットはもちろんのこと、何より飼い主への心遣いが非常に深いドクターである。幼少期から老齢期に至るまでの生涯におけるケアの話から、飼い主への温かい思い、そして決して遠くはない病院の将来像まで、一言一言、丁寧に言葉を選びながら誠実に答えてくれた。 (取材日2013年9月4日)
幼少期から老齢期までライフステージに合わせたケアと診療
それでは、早速ですがこちらならではの診療について教えてください。

子犬のしつけにはじまり老齢期の介護までと、ライフステージに合わせたケアと診療をおこなっています。たとえば子犬と一緒に生活をスタートしてから、問題点が見え始めたタイミングで、当院ではドッグトレーナーと連携したカウンセリングをしています。今までは、しつけのご相談を受けた場合、私が獣医師として説明し、さらにトレーナーの紹介をしていたのですが、それでは別々に話をすることになってしまいます。子犬の時期は最初の接し方がとても大切です。そのため、カウンセリングとして院内で30分ほど獣医師とトレーナーが同席して対面する場をつくり、飼い主さんの接し方がその子の性格に合っているかどうかや、問題点の改善法などについて、それぞれの立場からアドバイスしています。私たち獣医師やスタッフの勉強にもなっているんですよ。
ライフステージによって、どのような違いがあるのでしょうか。

成犬になれば健康面をベストな状態に維持するために必要なこと、もしくはベストな状態でなければその改善策を、治療の側としつけの側の両面からアプローチします。例えば、歯の病気予防、健康維持のため「噛むことの大切さ」をトレーナーがアドバイスし、歯周病などの治療になれば私が受け持ちます。同様に問題行動についても、トレーナーにフォローしてもらう部分と私たち医療の分野を含めて、その子にとってどのようなアプローチが適切なのかを相談します。老齢期には、トレーニングやしつけというよりも、衰えてきた体力との向き合い方や抱えている病気の治療など、獣医療の分野からどれだけお手伝いできるかという視点へシフトしていきます。この時期になると、それまで以上に健康状態の変化が見逃せないですね。以前に比べて歩きたがらないとしたら、それは老齢による体力の衰えなのか、関節などの痛みによるものなのか、もしくは白内障や網膜など視力に障害が起きているのか。症状として捉えるのが難しい時があるので、飼い主さんの“気づき”をしっかり聞いて、よく観察する必要がありますね。
飼い主との繋がりを強くし、希望する着地点を探る
飼い主さんとの接し方で気をつけていることはありますか?

「予防注射で来院したのだけれど、診察で歯が悪いことがわかった」というような、それが目的ではない受診ではじめてペットの疾患に気づくケースが当院ではよく見られます。疾患を早期発見するためには、定期検診が不可欠なのはご承知のとおり。でも、飼い主さんの立場になったら、なかなか時間を割いて来院されるが難しい時もあると思います。ご家庭の事情や、ご自身が体調を崩されるときだってありますよね。ですので“定期的に”を理想としたうえで、日頃より飼い主さんの考えや疑問に思ったことなどを“気軽に聞ける関係性”を築くことを大事にし、早期発見のヒントを見逃さないようにしたいと思っています。「病院に行くほどでもないような症状だと思うけれど、でも何となく気になる」という時に気がねなく聞けるホットラインであるために、来院以外にも、往診でこちらから伺ったり、Eメールを利用するなどして会話を重ね、飼い主さんと私たちとの連帯感を強めるよう心がけています。
関係性を築き、連帯感を強めるとやはり診療にも良い影響があるのでしょうか。
そうですね、獣医師というのは動物を診ているけれど、話をするのは人間同士。当然人それぞれ個性がありますから、治療方針においても考え方は何通りもあるわけです。たぶん一生試行錯誤を重ねるとは思うのですが、飼い主さんとお話しするときには、「どこに着地点を設定したいのか」が肝心だと考えています。治療において、まず「治るのか治らないのか」に始まり、「治るならばどのような治療法があるのか」を提示するわけですが、どの治療法を選ぶのか、どこまで費用がかけられるのか、当院での治療を継続するのか二次病院で行うのか、手術を希望されるのか……といったように、さまざまな選択肢が現れます。それら選択肢のメリット、デメリットをお伝えし、選択するにあたりどのポイントを優先するのか、どこまでを目標にするのか、など相談しながら飼い主さんの要望をもとに、着地点が決まってきます。その着地点への道のりを、私がガイドとなって先導するのか、二人三脚で進むのか、それとも飼い主さんが歩いていくのを後ろからフォローするのか、方法は十人十色ですが、飼い主さんと一緒に行く感覚を持っていたいのです。そういう意味ではお互いの関係性や連帯感があるといろんな意見交換がスムーズに行えて、より良い治療の着地点に向けて進むことができると思っております。
ペットはもちろん、飼い主さんにも寄り添った診療なのですね。

私自身の考えとしてはこうだと提示した上で、あまり振れ幅が大きくならない範囲内で飼い主さんの要望に沿えるように気をつけています。この加減は本当に難しいのですけれど。目の前の子を治して元気になってほしいという目的は一緒ですからね。中には、説明しようとするあまりかえって混乱させてしまうこともあったり、ご家族の中で意見が分かれるケースもあるでしょう。また、難しい病状の時などご自身の考えがまとまらず、私に判断を委ねる話になることが。そんなときには「私がすべて決めるわけにはいかないのでもっと一緒に考えましょう」と提案することも。これは関係性がしっかりしていないと提案しづらいですよね。その例として椎間板ヘルニアの症状を治したいけれど麻酔には抵抗があって手術は受けさせたくない、とのお考えならば、薬やリハビリテーションなど他の選択肢を提示し、それによってどこまでの効果が見込まれるのか、それに対して私がどのようなお手伝いができるかなど必要な情報を可能な限り提供します。治療方針に対して、飼い主さんの気持ちが変化することもありますし、病状によってはめざす着地点が変わることもあります。医療は高度化して、専門性も高まっていますが、その分、治療法の選択肢も増えています。だからこそ飼い主さんの要望がどこにあるのかを知ることが肝心だと思うんです。そして、その要望に少しでも近づけるために、「時には導く立場」「時には安心を与える立場」「時には支える立場」として飼い主さんとパートナーシップを築くことを目標にしています。先にも述べましたとおり“一緒に”という連帯感が飼い主さんの望まれる治療を実現するために私は必要だと考えます。
「リレーショナルケア」で生涯を通じた連携を
開院12年目に入られましたが、今後、力を入れていきたいことは何ですか?

私がこの仕事を始めた頃に比べると、人間同様、動物もだいぶ長寿高齢化してきました。また、伴侶動物という言葉が一般化してきたように、ペットに対する向き合い方が変わってきています。それに伴い、獣医師という専門家としての向き合い方も変化してきていると感じます。これから避けて通れないのは、介護の分野。介護に対して高度な医療機器や治療というのは、功を奏すこともあるかもしれないけれど、やはり飼い主さんの手や労力といったシンプルな部分が一番大事なのです。ターミナルケア(終末期医療)として在宅でのケアが不可欠な場合など、どうしても飼い主さんの負担になるところが大きくなっていたと思いますが、これからは私たちとその子の距離をもっと縮めたいし、縮めなければいけないと思っています。
具体的にはどんなことでしょう?
動物も老齢期になれば寝たきりになることもありますので、床擦れ、創傷のケアは必須となります。それから問題行動や痴呆症への対処や、なかなか食べられなくなってきた子に対して何とか食べられるものを一緒に探すことも必要ですね。薬以外に良い方法はないかというご要望も増加していますので、理学療法やリハビリテーションもより重要になってくるでしょう。その一方で鎮痛薬によるペインコントロール(疼痛の緩和)も、その子にとって適切ならば、私たちが診断して積極的に使用するべきだと思います。このように考えていくと次々にビジョンが出てきて、人間の場合に、理学療法士や栄養士などがディスカッションしてチーム医療として関わっていくように、動物に対しても、それぞれ得意な分野を持ってそれを生かしていけたらいいんじゃないかと思うんです。
動物病院におけるチーム医療を実現させるということですね?
はい。例えば栄養管理について得意なスタッフがいれば、“動物病院の栄養管理士”として飼い主さんの相談に応じたり、はたまた、“動物病院の理学療法士”がリハビリの指導をしたりと、得意分野を持ったスタッフを育てることでチームができますよね。そういった形で人材育成をしていきたいのです。動物病院のスタッフ同士でチーム力を高め、さらに飼い主さんと連携してペットの生活をより良いものにする。当院ではこれを「リレーショナルケア」と名付けて、今後の診療の柱にしたいと思っています。トータルな関わり方を持って、どれだけお手伝いできるかが要だと考えています。
最後に、読者へメッセージをお願いします。

皆さん、最近はペットの疾患のことなど本当によく調べていらっしゃって、豊富な知識をお持ちの方が増えました。でも、その情報が正しいかどうか、私たち獣医師をどんどん利用して確かめていただきたいです。私は仕事を終えた後など、よく自宅周辺や日産スタジアムの周りをランニングするのですが、本やインターネットで調べた独学の走り方やストレッチ法で大丈夫だと思っていたんですよね。ところが昨年、東京マラソンに出場したとき、膝を痛めてしまいました。ケガをきっかけに通っているジムのトレーナーさんに相談したら、自分のトレーニング法が見事に間違っていまして……。膝の伸ばし方、筋肉のほぐし方一つでも、自分では出来ているつもりが実は間違っている、ということに気付けない自己流だといい結果につながらないのがわかりました。トレーナーさんの指導どおりにしたら、今年は完走できましたよ。これは診療にもいえることで、情報の整理と確認に、動物の専門家である私たちに何でも気軽に聞いていただけたらと思います。