斉藤明徳 院長の独自取材記事
さいとう動物病院
(横浜市都筑区/北山田駅)
最終更新日: 2023/01/22

横浜市都筑区にある「さいとう動物病院」。周辺には個人クリニックだけでなく高度医療にも対応する大学病院や二次診療専門病院もあり、動物を飼う人たちにとっては恵まれた環境だ。そんななかで日々の健康管理や体調に関する不安など、なんでも相談できる身近な「かかりつけ医」でありたいという斉藤院長。ペットの歯科治療にも力を入れており、歯磨きなどの指導も積極的に行っている。院長の愛犬でもあるコーギー(カーデガン)は、クリニックのマスコット的存在。医師として、一人の飼い主として感じているペットとの向き合い方についてお話を伺った。また、斉藤協子先生にはペットのしつけについてのアドバイスもいただいた。 (取材日2011年10月15日)
些細なことも相談できる「ホームドクター」でありたい
クリニック開業までの経緯をお伺いしたいのですが。

大学卒業後、クリニックでの勤務を経て宮前区で開業しました。その後、こちらの北山田に移りました。以前の場所も土地柄からか飼い主さんたちの意識が高く、病気の予防にも積極的な方が多いですね。この周辺はペットを飼う人にとっては医療設備の充実している地域だと思います。都筑区内には夜間でも緊急対応してくれる病院や、近隣には専門分野を設け高度医療が受けられる「二次診療」専門病院もあります。また全国に16校しかない大学病院も東京、神奈川には5校あります。こうした充実した医療体制のなかでも日常的に通える「ホームドクター」は必要です。当院はペットを飼う方々になんでも相談できる身近なクリニックでありたいと思っています。
こちらでは動物の歯科治療に力を入れていらっしゃいますね。
ペットの高齢化に伴い歯科の需要は高まってきています。人間と同じように長い間生きていれば当然悪いところが増えますよね。歯も例外ではありません。歯の病気というと、虫歯を考えるかもしれませんが、犬の場合、疾患のほとんどは歯周病です。人間と比べて唾液の質などによって虫歯の原因菌が繁殖しにくいと言われています。人間と同じように歯の病気は歯磨きなどによる予防や初期段階での治療が有効です。しかし、動物は痛みや違和感を自分で訴えることがなかなかできませんので、初期段階では見逃してしまいがち。かなり進行してから来院されるケースが多いですね。歯の治療は全身麻酔下で行いますので何回にも分けて治療するのは難しく、一度でできる限りの治療をします。進行してからですと抜歯するケースが多くなってしまいますが、早い段階なら抜かずに治療することもできる場合がありますので、日頃からこまめに口の中を見て予防を心掛けて欲しいですね。早期発見・早期治療に勝るものはありません。歯石はついていないか歯肉の色が赤くなっていないかなど、こまめに観察してあげてください。歯磨きも予防には効果がありますからできるだけ実践してほしいですね。ただ、少しずつ段階を踏む必要があります。まずは、口まわりを触る、その次は口の中に指を入れてみる、さらに慣れてきたら指にガーゼを巻いて歯や歯茎を拭いてあげる、というように少しずつステップアップしていきます。ここ数年で犬用の歯磨きや歯ブラシなどのケアグッズも充実してきているので、以前に比べるとかなりやりやすくなっていると思いますよ。
飼い主さんの日頃のケアが大切なんですね。

動物は自分で痛みや苦しみを言葉に表し伝えることができません。飼い主さんとペットのコミュニケーションの深さが治療にも影響してきます。というのも、どんなに医療機械や検査が進歩しても、診察で大切なのは、昔からの「問診」なんです。日頃の様子と違うところをお聞きした時、飼い主さんが普段の状態がわからないというのでは心もとないですからね。普段の様子がよくわかっていると診断に大いに役立ちます。また診療もスムーズに進みます。毎日、遊びながらでいいので、口周りや耳周りなどもしっかりと見て、何か変わったことはないか気に掛けてあげてください。
医療の進歩で治せる病気も増えてきた
犬の病気としてほかにはどんなものが多いのでしょうか。

甲状腺などホルモンバランスの乱れが原因でおきる「内分泌系」の病気が増えていますね。血液検査等で発見することができるので、特にシニアの年齢の子は定期健診などを受けていただくことをお勧めいたします。普段の生活でも病気のサインを見つけることはできますよ。例えば散歩の時にいつもは先に行くような犬が寄り添って歩くようになったり、なんとなく覇気がないなどの行動は単に「年を取ったから?」と判断せず病気の可能性も考えて下さい。また最近よく食べ、よく寝て、よくおしっこするなんていうのも要注意です。内分泌系の病気は突然悪くなることは少なく、少しずつ進行してくことが多いです。過去と比較しどのように違うのか観察してください。この病気は慢性疾患なので、残念ですが完治することはありません。一生涯薬によって病気をコントロールしていかなくてはならず、継続的な治療が不可欠となります。病気と上手に付き合っていくためには、年間を通した体調の変化なども見てくれる通いやすいクリニックを見つけることが重要になりますね。
開業された当時と現在ではペットを取り巻く環境も変わってきていますか?
犬に関して言えば小型犬を飼う人が増えましたね。私が開業した10年前は小・中型犬が主流だったのですが、現在は2〜3Kgの極小型犬が増えてきています。犬の種類によっても、引き起こしやすい病気の内容は変わってきます。例えば人気のミニチュアダックスは体型の特徴からも予想できるように、椎間板ヘルニアや関節疾患がおきやすい犬種です。あとは全般的に高齢になると心臓の疾患も増えてきますね。ただ、10年前にくらべて治療できる範囲は格段に広がり、以前は治せなかった病気にも対処できるようになりました。高度な医療機器をそろえた専門病院も増えましたので、難しい手術などもできるようになり、以前に比べ病気で命を落とすペットは減ってきていると思います。飼い主さんの意識も高くなり、ペットの健康管理に関してもとても気を遣われる方が増えているもの大きな変化ですね。
こちらでは犬のしつけやトレーニングにも力を入れていらっしゃるそうですね。

[斉藤協子先生]しつけの目的は「人間の世界で仲良く暮らしていくことを教える」ことです。ケージトレーニングで言えば「吠えたから見に行く」とか「出してあげる」というのは絶対にしてはいけないことです。「吠えれば来てくれる」ということを覚えさせてしまうと、ケージの中では必ず吠えるようになります。トレーニングでは静かな時見に行ってあげる。すると「おとなしくしていれば要求しなくても飼い主は来てくれる」と考えるようになるんです。食事に関してもあえて少しランダムにあげるぐらいの感覚で大丈夫ですよ。毎日同じ時間に食事を与えているとそれが習慣となり、時間を過ぎてももらえないと不安になり要求します。犬の要求に応えて食事を与えれば「ボクが要求したからくれた」という感覚を持ってしまい、人がコントロールされる側になります。犬はとても利口な生き物ですから、時にはどうすれば自分(犬)にとって都合のいい状況になるかも学習します。ペットとよい関係を築いていくためにしつけは必要です。コツは「人がしてほしいと思う行動を犬が考え選択するように仕向けること」「欲張って失敗させるより確実に成功させながらステップアップしていくこと」です。
ペットを飼う時には責任と覚悟を持ってほしい
プライベートな時間はどのようなことをしていらっしゃいますか?

休日はもっぱら釣りに出掛けています。渓流、海のルアーフィッシングが好きで、あちこちで釣っています。川の流れを見ながらどのあたりに獲物がいるかを予想し、ピンスポットにルアーをキャストし、思い描いていた通りに魚が釣れれば最高です。釣れなかった時には「何がいけなかったのか」と考えるのも、楽しみのひとつです(そうは言っても釣れるにこしたことはありませんが・・・)。釣りをしている時には釣りのことだけ考えリフレッシュできます。気分転換できる大切な時間ですね。
先生も犬を飼われていらっしゃいますよね。
今飼っているのは1歳ちょっとになるウエルシュコーギーのカーデガンです。実は2年前、長年飼っていたカーデガンを急性膵炎で亡くしてしまって。しばらく犬を飼うことを躊躇していたのですが、やはり犬のいない生活はつまらなくて。先代のカーデガンが病気になった時には、付きっきりで看病しました。私も妻も獣医師ですから、2人掛かりで、2週間ありとあらゆる治療をしました。できることのすべてを施しましたが助けることができませんでした。しかし、振り返ってみると、手をつくしたことで逆に長い時間苦しませてしまったのではないかという後悔が残りましたね。もっと早く諦めたほうが犬にとっては良かったのかもしれないと。本当にペットのためを思うなら時には諦めることも必要なのかもしれないと考えさせられました。ただ、どちらにしても後悔は残ります。飼い主さんにはこうした命の瀬戸際の選択をする場合には「どんな選択肢でも後悔する可能性は十分にあるが、少しでも後悔が少ない方を選んでください」と伝えています。ペットは愛情を持って育ててきた大切な家族。簡単に思いきることは到底できませんが、時には冷静に判断する気持ちを持つことも必要だと思います。
読者の方にメッセージをお願いします。

医療の進歩によってペットの寿命は格段に伸びました。つまり、今ペットを飼うということは、これから十数年、お世話をする覚悟が必要です。ですからペットが病気になった時に自分はどこまでできるのか、ということも事前に考えておいてほしいのです。高齢になれば持病を抱えることもあるでしょうし、治療は場合によっては高額な費用がかかることもあります。大切な家族の一員ですからなんでもしてあげたいというのが本音だと思いますが、経済的な理由や時間的な理由から難しい場合もあります。そうなった時に少しでも「後悔」が少なくなるように、きちんとした考えを持ってペットを向い入れてほしいのです。当然、大変なことも多いですが、彼らはそれに代えられないほど大きなものを私たちに与えてくれます。人生を豊かにしてくれる存在であることは私自身も十分に知っています。だからこそ、ペットとの暮らしがよりよいものになるように、病気、ケガの治療や予防だけでなく、しつけ等もお手伝いをしていけたらと思っています。