柳秀樹 院長の独自取材記事
やなぎペットクリニック
(川崎市多摩区/中野島駅)
最終更新日: 2023/01/22
中野島駅から歩いて3分ほど。2006年4月に下布田小学校前に開業したばかりのやなぎペットクリニック。動物たちが白衣に驚かないようにと、ラフな服装で普段の診療にあたるという院長の柳先生は、10年間のサラリーマン生活を経て、獣医師になったという異色のキャリアの持ち主。温かく包み込むような笑顔が印象的な柳先生、ときには冗談も交えて、取材に応じてくださった。(取材日2007年2月23日)
獣医師になる前は、印刷会社のサラリーマンでした
どのような少年時代を過ごされたのでしょうか?
僕は生まれも育ちも多摩区布田です。小さい頃は田んぼやナシ畑が広がって、静かでのどかな町でした。このあたりは水が多い場所ですから、多摩川や用水路で釣りをしたり、水遊びをしていましたね。3歳位のころから、秋田犬の血が入った雑種を飼っていました。オスなのにリリーという女の子みたいな名前で、兄弟のように一緒に大きくなりました。僕が10歳の頃に、リリーが亡くなったときは、ただただショックだったのを覚えています。今思えば、リリーはフィラリアで亡くなったんですね。
獣医師になられる前にサラリーマンを経験されていますね。
大学受験のときに、絶対に国立大と決めていたんです。両親からは私立大でもよいと言われていたのですが、経済的な負担をかけたくないという気持ちが強かったんです。国立大学の獣医学部は、非常に狭き門で、当時の僕の学力ではあきらめざるを得ませんでした。僕は工学にも興味を持っていたので、千葉大学工学部で印刷や写真について学び、卒業後は印刷会社で営業や企画、販売などを行いました。
サラリーマン生活から一転し、獣医師になろうと決意された経緯をお聞かせください。
サラリーマン時代は、自分の仕事に誇りとやりがいを感じていましたが、同時にはっきりとはしない漠然とした迷いのようなものを感じていました。30歳を目の前にし、漠然とした迷いと決別すべく、自分の人生について見直してみました。1年近く考えたでしょうか、その結果、僕は会社という組織の一員ではなく、独立して何かをやりたい自営志向を持っていることに気がつきました。単なるサラリーマンの僕に何ができるだろかと考えてみたときに、大学進学のときにあきらめてしまった獣医師への夢が、ふと蘇ってきました。それからは夢にむかって突き進みました。
学生生活で一番苦労したこと。それは脳の老化現象?
30歳で学生に戻られて、苦労されることはありましたか?
自分の夢のために、生活が不安定になってしまうことを一番に心配しました。妻には経済的に苦労をかけてしまうことになりますから、入学するまでに両親や妻と十分に相談し生活設計をしました。経済的な苦労は入学を決めた時点でわかっていたことですが、それよりも、物覚えが格段に悪くなっていることに驚きましたね。悲しいことに脳の老化を実感できましたね。これは学生生活で一番に苦労した点と言っても過言ではないくらいです。若い頃はスラスラと暗記できたことが、ちっとも覚えられないから、何倍も勉強しましたよ。このときばかりは、頭が軟らかいうちに学生をやっておくべきだと少しだけ後悔をしましたね。それに獣医師は体力勝負な面がありますから、体力の面でも年齢を感じてしまいましたね。
若い学生との間にギャップのようなものは感じられましたか?
10歳近くも歳が離れていますから、考え方などにギャップを感じることもありましたね。社会を経験している僕と、まだ社会に出たことのない学生とは、物事の捉え方に違いがあるようでしたね。けれども、獣医師になるという同じ目標をもっていますから、年齢の差はそれほど気になりませんでした。おそらく社会人を経験しなければ気がつかなかっただろうということもありますから、社会人経験を通じて、仕事に対する向き合い方を知ってから、勉強をするというのも悪くないものだと思いますね。僕としては、一番体力のある20代に厳しい社会人経験をできたことは、獣医師になるために必要なプロセスだったと思っています。
「町の獣医さん」として、生まれ育った町に貢献していきたい
診療のときに心がけていることをお聞かせください。
十分なインフォームドコンセント心がけ、飼い主さんがどんなことを求められているのかを常に意識していますね。これは営業マン時代の経験からでしょうね。それと、日頃から患者さんとは、密なコミュニケーションを心がけています。動物を診療しながらも、その向こうにいる飼い主さんの気持ちも忘れずにありたいと思っています。
力を注がれている治療分野はありますか?
獣医師は全ての診療科目を広く診察しなければいけませんから、どの分野も広く深く診られるように心がけています。強いて言うのであれば皮膚科でしょうね。開業前に修行させていただいていた動物病院の院長先生が、皮膚科の治療に定評があった先生でしたから、必然的に皮膚疾患を抱えた動物が治療を求めて集まってきます。ですから、院長先生のそばで皮膚疾患の症例を数多く経験することができましたね。
今後の展望をお聞かせください。
年齢的に体力との勝負ですね。体力的な問題をどう乗り越えていくかが課題ですね。というのは冗談でして…。僕が本当に考えているのは、僕を育ててくれたこの町で、獣医師として地元のみなさんに貢献していきたいという事です。地元のみなさんに信頼してもらえるような獣医師になるために、日々努力していきたいと考えています。「町の獣医さん」として、例え病気でなくても、みなさんに気軽に来ていただける、そんなクリニックなれればいいですね。