秋元裕之 院長の独自取材記事
秋元どうぶつ病院
(横浜市神奈川区/大口駅)
最終更新日: 2023/01/22
東京からも横浜からもアクセスがよい大口駅。駅前に広がる商店街の一角にある「秋元どうぶつ病院」はこの地で診療を始めて20年になる。「とにかく地域の雰囲気とここに住む人が気に入って。そしてその選択に間違いはなかった」と話すのは秋元裕之院長。動物を飼っている人が多いだけではなく、迷い猫や怪我をした動物の世話も誰かと共有し合う人情味溢れたこの町で、動物を介して人を幸せにする診療を続けてきた。また、横浜市内の複数の獣医師によって運営されるDVMs動物医療センター横浜の副代表も勤めており、日々地域の動物のため、そして飼い主のために尽力している。きりっとしたメガネがお似合いの秋元院長。一見、シャープな印象だが眼鏡の奥の瞳は優しく、その表情を見ていると本当に獣医師という仕事が好きだということが伝わってくる。そんな秋元院長に、一次診療の獣医師の役割についてやDVMsの概要のほか、獣医師をめざしたきっかけなどたっぷりと語っていただいた。 (取材日2013年9月18日)
獣医師同志が協力しあい、動物にも人にも快適な環境を提供中
この地に開業した理由を教えてください。
東京都内で育ち、現在実家は鎌倉にあるので、開業準備をするまではこの地に馴染みはありませんでした。でも、戦後闇市として栄えた駅前の商店街をはじめ下町っぽい雰囲気が気に入って1994年にこの地で開業しました。地域の人たちは皆、下町らしい明るさがあり話好きなので、僕には向いているかなと思って。この場所は元々旅館があったのですが、物件を探している時に出会った不動産屋さんが猫を飼っていたこともあり意気投合して。すぐに地主さんに話を通してくれて、当院が一階に入ることを前提にビルとして建て替えてくれました。縁ですよね。経営的に見ても、当時からお年寄りが多く、今後ペットを飼って生活を共にしようと考える人が増えることが予想できたことも開業した理由の一つです。それから約20年、地域の先生方の協力もあって夜間病院の設立など理想の地域医療システムができあがりつつあります。
ここは動物病院過密地域だそうですね。
ここは飼い主さんにとっても動物にとっても住みやすく、ペットはもちろんのこと、野良猫なども地域の皆さんが自然に世話をしてくれています。確かに動物病院は過密状態なのですが、獣医師同志も仲がよく、休診日にはお互いの患者さんを受け入れ、迷惑をかけないような体制をとっています。これはできる限り患者さんが不安に思う時間がないようにしたいという地域の獣医師共通の思いからです。現在、当院は年中無休なので、ほかの動物病院の休診日に患者さんを受け入れる形で連携しています。特に僕は爬虫類、中でもカメの診療を得意としていて、横浜でも僕を入れて数人しかカメを診られる先生はいないので、カメの診療はこちらで、ハムスターなどこちらでは診られないものは得意な先生にお任せしています。僕は昔から爬虫類好きで、マニアで獣医師だから診療し始めたといった感じです。
先生が副代表を務めるDVMs動物医療センター横浜はどういったことをするのですか?
夜は夜間救急病院、昼は高度動物医療センターを併設し、一般的な動物病院では対応できない手術や専門医による治療を行っています。僕は副代表として運営や人事を任されていますが、偉い人というのではなく、みんなにこき使われる役目です(笑)。これまでは、各動物病院の先生が専門外のことにまで尽力しなくてはいけなかったけれど、今は動物の医療も専門医を育てる時代です。僕ら一次診療の動物病院は人間の医療でいう総合医的な役割。簡単に言うとコーディネーターですよね。町の動物病院では病気を初期の段階で見つけ、必要に応じて専門医に送ることが使命です。そのためにどれだけ密な連携を取り、適切な治療を行える場所に振り分けることができるか、それぞれが何が得意で動物や飼い主さんに何をしてあげられるか、そのために、受け入れ先であるDVMsにはどんな人を集めてくればよいかを考えるのが僕の仕事です。だんだん診療科目が増え、外科のほか、整形外科、眼科、皮膚科、循環器科など、難治性の病気でも専門医が対応することで回復を見込めるようになりました。この地域では大学病院の数も多く、地域の人々に開かれているのですが、予約が取りづらかったりとどうしても敷居の高い印象がありますよね。ですから、三次診療としての大学病院で治療に送るまでの二次診療としての役割を果たしていきたいと考えています。
なにげない会話から病気の予防に努める。動物を介して人を幸せに
クリニックでの診療スタイルについて教えてください。
当院は、普段から気軽に立ち寄れる動物病院として、日頃のちょっとした疑問などを一つ一つ解決していくというスタンスで動物の健康を維持し、できるだけ病気にしないように診療しています。常に動物たちの顔を見ていると早期の病気を見つけられる事もあります。軽い初期の段階で早期治療につなげていく事が可能になります。そうすれば動物を苦しませなくて済みますし、飼い主さんも楽だと思います。最近はペットの高齢化に伴い、がんなどの重病も避けられなくなっています。だからこそ早期発見は重要であり、ホームドクターとして初期診断をいかに的確にできるかがポイントになります。獣医師には飼い主さんから話を聞いて、さまざまなコーディネートができる者もいれば、ある分野においては誰にも負けないという者もいますが、それぞれの特性を生かしながら人間の役に立つことをサポートする。その中でも総合医の感覚を持っている獣医師が一次診療を行うべきだと僕は考えています。僕は人と話をするのが好きなので、できるだけたくさんの人と関わりながら動物を診ていきたいと思い開業しました。普段のなにげない会話から健康維持をお手伝いして病気になったらサポートするというスタイルが僕には合っているんですよね。当院は獣医師三名で診療にあたっていますが、院長が三人いるようなもの。三人とも診療レベルもバランスよく長い付き合いの中で地域との関わりあいを大切にしていて、僕にとっての理想的な形での運営ができていると感じています。
飼い主とのコミュニケーションも重要なお仕事の一つですね。
そうですね。獣医師の仕事のメインは、いかに飼い主さんとコミュニケーションをとるかということです。小児科と同じで病気の本人はしゃべることができませんから、飼い主さんからの情報をいかに引き出すかで診察が変わってくるのです。情報がなければ一つ一つ検査をして確認することになり、動物にも飼い主さんにも負担をかけることになってしまいます。ですから僕をはじめ当院のスタッフはみんなよく話をしますね。もちろんただズルズルと長いだけではなく、的確に重要ポイントを聞き出すように心がけています。これができないと一次診療はできないんじゃないかな。重い病気の時でもできるだけ気持ちが楽になるように難しい言葉を使わないようにしています。厳しい内容をお伝えしながらも優しい言葉で、笑顔を交えてゆっくりと、慌てさせることなくお話するようにしていますね。見るからに危険そうな状態で運ばれてくる時は、パニックになっている飼い主さんに優しく声をかけ落ち着かせ、そんな状態であっても飼主さんの張りつめた気持ちが和むような接し方をしています。この地域の方とは本当に波長が合うので、だからこそコミュニケーションが上手くいっているのではないかと日々感じています。
ところで、先生が獣医師をめざしたきっかけは何だったのでしょう?
最初は医師か動物園の飼育員になりたいと思っていました。小学校二年生くらいで医師に憧れだしたのですが、実際に読んでいる本は動物のものばかり。中学生になって将来どうすればいいかと考えた時に母に「動物のお医者さんになればいいんじゃない」と言われて。動物が好きだということと、人の役に立つ仕事に就きたいという気持ちがミックスして獣医師になったというわけです。高校生になって、獣医師になったとしてその後の生活が成り立つのかと、開業するのはいいけれどちゃんと食べていけるのか、本当に獣医師になっていいのかなど色々と考えたのですが、最終的には、初期の頃の人の役に立てる仕事=医師になりたいという気持ちも手伝って開業医の道を選びました。動物を治療しながら飼い主さんも幸せにする獣医師の仕事は、人の病気を治して幸せにする医師の仕事と似ているかなと思って。この仕事を知れば知るほど楽しいし向いていると感じたのですが、ただ一つ受け入れられなかったのが、少し世間ずれしているところでした。獣医師とそれを取り巻く隔絶された世界の常識の中で生きている人が多く、それがどうしても嫌で、僕は社会的な一般常識を身につけるために一年大手製薬会社に就職しました。そこで本当にずれている自分に気づいて。社会の常識は学生生活のそれとも家族からのしつけとも違うと痛感しましたね。そのままこの会社に残っても楽しく仕事をしていたと思うのですが、やっぱり苦しくても開業医かなと思って、今日に至ります。
現状維持をするためには少しずつ前進し、さらなる地域医療のレベルアップを
ところで、何か長く続けている趣味やリフレッシュ方法はありますか?
趣味と実益を兼ねて、学生時代から空手や少林寺拳法など格闘技を続けています。DVMsのボランティア活動も結構楽しく、昔は24時間動き回っていましたね。今も休日らしい休日はなく「365日獣医師」です。ここでは獣医師として診察をする場所、DVMsは獣医師としての夢を叶える場所、色々な顔を持った自分がいるので、忙しくても苦ではありませんね。人事の担当としてすべてのスタッフと関わりを持ち、若い先生の相談にのっているとそれはそれでおもしろいですよ。あとは慈善活動が好きなので、ユニセフをはじめとした、これからの発展地域の子どもの生活支援を行っています。国際NGOプランジャパンや赤十字、ジャパンハートなどの人道的支援活動などには、病院全体で取り組んでいます。支援をすることで僕自身の頑張る励みになるんですよね。自分がつらくなった時にその金額を減らさないように。自分がここで減額してしまったら何千人の子どもの命が救えなくなるという思で、頑張っています。僕たちって恵まれすぎているので、ちょっと贅沢するのをやめて人間の基本の部分のサポートをするのもいいかなって。小さい頃から母には、誰かと分かち合うことで、自分が必ず伸びるからと言われてきました。その教えもあってか、自分が順調な時は積極的に支援することが自分自身の支えになる。よい循環ですね。
今後の展望をお聞かせください。
常に5年後を想定しているのですが、まずDVMsとしてはもっと充実した二次診療の体制を整えるのが僕たちの夢です。夜間救急システムのさらなる充実を図り、そこから地域医療をもっと拡充していきたいです。病院ではこのままの状態をキープしながら、常に新しい情報を集めながらベターなシステムを投入していきたいです。例えば僕がこれから専門医のような立場で診療をしようとすると、練習台にしなければいけない動物が出てきます。今、骨折した犬がいて、僕か整形外科専門の先生が診るかどちらがその子のためになるかというと、もちろん専門の先生ですよね。僕が無理してその子を診るのは未来のけがをした子にとっては利益があったとしても、今けがをしている子にとっては不幸なことです。そう考えると、僕のするべきことは今自分の持っている技術、つまりコーディネート力をあげていくことかな。日々の小さなことでもコミュニケーションをとることでその能力をさらに上げ、ベースの医療をどう使って動物たちをケアするかを考えていきたいです。この状態をいかにキープするか。キープするためには少しずつ前進しなくていけないので、前に進みながらこの地域医療の質を落とさないように協力してやっていきたいです。
最後に、ペットと楽しく生活をするために読者へのメッセージをお願いします。
ベストなのは、すぐにいける病院で気の合う先生を見つけることだと思います。この近所にお住まいの方は、散歩の帰りにでもちょっと顔を出していただいて、もし、僕と合いそうならお話して帰ってくださいね。気軽に立ち寄っていただければ嬉しいです。自分の大切な動物のために、日頃から獣医師と連携をとっていただくことが重要なので、無理して遠くにいかないほうがいいかな。また、早期発見、早期治療のためにも年に一、二度の健康診断をお勧めしたいですね。