古田健介 院長の独自取材記事
横浜青葉どうぶつ病院
(横浜市都筑区/センター北駅)
最終更新日: 2023/01/22
クリニックにかかるとき、院内の雰囲気がわからずにためらう人も多いだろう。不安を感じるのは人間だけでなく、犬や猫も同じだ。飼い主だけに限らず、犬にも猫にもやさしいクリニックが2015年4月、港北ニュータウンに開業した。横浜市営地下鉄センター北駅から徒歩2分の「横浜青葉どうぶつ病院」だ。院長は、北里大学獣医学部附属動物病院で外科手術などを含めた2次診療の経験をもつ古田健介先生。犬や猫の目線からも院内の様子がうかがえるガラス張りの窓には、来院時のストレスを軽減したいというクリニックの願いが表れている。患者の信頼を得るために意識していることを尋ねると、「ないですよ。丁寧にお話しするだけです」と笑顔で謙虚に話す古田院長だが、その裏には努力して積み上げてきた「経験値」があった。院長に話を伺った。 (取材日2015年4月24日)
愛犬が教えてくれた患者への寄り添いかた
この場所でクリニックを開業した理由をお聞かせください。
この近くに以前の勤務先や妻の実家があり、比較的馴染みがある場所だったということが1つあります。加えて、この辺は緑が多く、公園は遊歩道でつながっていて、犬の散歩にはとってもいいんです。環境が良ければ、飼い主さん同士のコミュニティーができたり、動物のストレスも軽減もできます。犬や猫の健康のためには、院内での治療だけでなく、日頃の生活環境が大事です。こういった環境で動物を飼っている方に医療を提供できることは、本当に魅力だと思いました。また、この辺りは昔から住んでいる方と新しく引っ越してきた方が入り混じっている町だと聞いています。そういう意味では、幅広い年齢の犬猫を診察できると思いました。
それでは先生が獣医師を目指されたきっかけを教えてください。
中学3年の時に、猫を保護したことがありました。一緒に生活をするうちに、「家で世話をするなら最後まできちんと面倒を見てあげたい」という気持ちが強くなりました。それが獣医師をめざそうと思ったきっかけです。北里大学に入学し、2年生からは青森のキャンパスへ。冬は一緒に鍋をつつくなど、学生たちは家族のように一緒にいましたね。その時の友人とは今でも仲がいい。動物や医療に関する知識を得るために入った大学ですが、実際にはそれ以上のものを得たと思っています。その大学時代に出会ったのが、今飼っている雑種の犬なんです。もう老犬ですが、私にとっては初めて飼う犬で、犬のことを教えてくれた先生みたいな存在。もし飼っていなかったら、獣医師として飼い主さんに寄り添うことができなかったかもしれません。そういった自分自身の経験から動物の介護をしている飼い主さんの気持ちを理解してあげられることなど、飼い主さん目線で寄り添った診療を心がけてできているのも、愛犬のおかげだと思っております。
開放的な院内が特徴的ですが、内装で工夫を施したところはありますか?
開業にあたっては、犬や猫に負担の少ない治療をし、気軽に通ってもらえるクリニックを作りたいという思いがありました。患者さんにとっては来院自体がストレスですからね。そのための工夫の1つが内装です。入口の窓をガラス張りにしたのは、入りやすさや親しみやすさを感じてもらえるようにするため。オープンな雰囲気に安心感を持ってもらいたかったんです。診察室にもガラス窓をつけ、完全個室にならないような工夫をしました。犬猫の目線からも中が見えるんですよ。入院室は犬用と猫用を分けています。猫は、犬が吠えることをストレスに感じたり、犬は、猫がいることでそわそわしたりしますからね。壁や受付もやわらかい雰囲気に。実は、これらの工夫の大部分は妻の案なんですよ。安心感や親しみといった感覚については女性のほうが得意ですからね。
経験に基づいた具体例が患者の不安を取り除く
力を入れている治療についてお聞かせください。
力を入れていきたいのは整形外科。当院の強みとしたいと思っています。最近では交通事故による骨折などは減っていますが、生まれつきの異常やジャンプや落下によるけがは増えています。ミニチュア・ダックスフンドなど、椎間板ヘルニアになりやすい犬種というのもいますからね。こうした症状にすぐに対応できるよう、レントゲン撮影や手術などの設備も整えています。また、部屋中に酸素を満たすことで酸素濃度や湿度、温度をコントロールし、いい環境でケアしてあげるためのICU(集中治療室)も完備しています。もちろん外科以外にも対応しており、古田あゆ美医師は、心臓などの循環器やホルモンの病気といった内分泌器を専門としています。2人で外科と内科の両方に対応できる体制をとっています。
犬猫の長寿化を視野に入れた専門治療も行っているようですね。
飼い主さんの健康に対する意識が高まるにつれ、早期発見・治療を行えるようになりました。その分、犬や猫の寿命も伸び、認知症や介護の問題が生じてきています。犬も、寝たきりになると床ずれを起こしたり、認知症が進むと夜泣きをしたりします。家族として一緒に暮らしていくからには、最後まで世話をすることが人の役割だと思うのですが、飼い主さんの精神的な負担になることも事実。そうした中で、少しでも楽に介護できるような方法をお伝えするなど、病院としてもサポートしていきたいと思っています。
先生は開業前、クリニックや大学病院での勤務経験があると伺いました。
大学を卒業後、神奈川県川崎市内のペットクリニックで5年間勤務しました。24時間診療を通して、ワクチンやフィラリアの予防接種から外科の手術まで、幅広く経験しました。その後、より難しいことにも対応できる技術を身に着けたいと思い、整形外科を専門としている恩師のいる北里大学獣医学部附属動物病院に戻りました。高度な設備も備えている大学病院ですから、難しい症状に悩む患者さんが多く、レアケースの治療も経験しました。犬や猫だけでなく、骨折した牛の手術などもしましたね。
幅広い治療を経験したことで、自信を持てるようになりましたか?
自信を持てるようになったか、と聞かれると、そうではないですね。というのは、まったく同じ患者さんはいないからです。同じ病名で診断されても個々で違う。ですから、自信というより「経験値」が増えたという感じですね。あのときはこうだったから今回はこうなるかも、というように、経験を活かして診断していけるようになっていると思います。飼い主さんにも、経験に基づいた具体例で話すことができるようになりました。動物の場合は、飼い主さんがいて初めて治療が成り立ちます。もちろん犬猫の負担を軽減してあげることも大事ですが、同時に飼い主さんの不安も考慮してあげないといけません。初めての経験に不安がっていた飼い主さんに、「以前こういう患者さんがいて……」と他の飼い主さんの事例を話すと、様子が変わりますね。安心感がまったく違うと感じます。
外科を強みとしながら、スタッフのチームワークで患者をサポートすることをめざす
獣医師としてのやりがいを感じるのは、どんな時ですか?
飼い主さんから頼られるときにやりがいを感じますね。最終的に亡くなってしまったとしても、飼い主さんから「ありがとう」と言っていただけることがあるんです。助けられなかったのは非常につらいことですが、獣医師として最善を尽くしたことをわかっていただけていたのかなあと思います。また、私を一人の人間として見てくれて、キャラクターを気に入ってもらえたときはうれしく思いますね。気に入ってもらえるように意識していることは何もないんですけどね(笑)。ひたすら、丁寧にお話しするだけです。さきほど申し上げたように、自分の経験を話して患者さんに安心してもらう。ただそれだけなんです。
キャラクターという言葉が出ましたが、先生の「素の部分」についてぜひお話しください。
小さい頃は、落ち着きがない子だと言われ続けました(笑)。通知表にも書かれていましたよ。今でもデスクワークは苦手で、そういう意味では、獣医師という仕事は向いていますね。特に外科では、患者さんである動物たちが歩く姿を確認するために、一緒に外に出たり動き回ったりしますからね。休日は、キャンプやスキーなどのアウトドア活動が好きですね。休みができれば外に出かけたいタイプです。うちの犬は高齢で散歩はできないのですが、今は子どもと一緒に公園で“おたまじゃくし”をとるなどして遊ぶのが楽しみです。
今後についてお聞かせください。
地域のホームドクターとして、困ったときに気軽に相談できる身近な存在になりたいと思っています。そのためにも、強みの整形外科で信頼されるよう努力していくことが大事ですが、動物病院は獣医師1人でできるものではありません。当院は私を含めて3人のスタッフで運営しており、全員がお互い信頼し合える関係ですし、チームワークを大事にしたいと思っています。看護師は、私が大学卒業してから8年間の付き合いなのですが、そのうち4年間は以前勤務していたクリニックで一緒に働いていたベテランスタッフです。飼い主さんも、獣医師の私たちには言いづらいけど看護師になら気軽に話せる、ということがあると思うんです。ちょっとした不安でも気軽に来院し、3人をうまく利用してもらいたいですね。私たちも、抜群のチームワークで地域のみなさんをサポートしていきます。それから、スタッフの「踏み台」になれるような病院にしたい。私自身が多くの方々に育てていただいたのですが、よいスタッフを生み出すことが、その方々への間接的な恩返しにもなると思っています。また、当院は犬や猫を連れていきやすいクリニックを目指しています。散歩途中、クリニックの近くを通った際には体重を測りにくるだけでも構いません。気軽にお立ち寄りください。そうすることで、犬や猫の病院に行くというストレスを軽減させ、質の高い診療にもつながっていくと思います。一人ひとりの飼い主さんたちと寄り添ったお付き合いができるクリニックを目指していきたいですね。