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福原美千加 院長の独自取材記事
みかん動物病院
(秦野市/秦野駅)
最終更新日: 2023/01/22
秦野市にある「みかん動物病院」は、その名の通りオレンジ色の建物が印象的な動物病院である。外にベンチが置かれてあり、中の待合室ではじっとしていられない動物たちやその飼い主への配慮が感じられる。院長の福原美千加先生は、麻布大学を卒業後27年間医療に携わってきたベテランのドクター。子どもの頃から動物が傍らにいる生活を続けており、今では猫が5匹と大型のピレネー犬のふーりん(オス、1歳)とともに住んでいるという。きれい好きな性格で、外耳炎治療の際の耳掃除が大好きだという福原院長。自身は整形外科を得意とし、スタッフたちの特性を伸ばせるように配慮。分業というスタイルで、それぞれの得意分野で力を発揮してもらっているという。めざしている病院づくりや地域活動の話についてなど、詳しく語っていただいた。 (取材日2015年6月15日)
目次
スタッフの特性を生かして分業スタイルを重視した、頼れるホームドクター
こちらに開院されるまでの経緯について、教えてください。
麻布大学を卒業後、横浜市の青葉台にある動物病院でお世話になりました。そちらの動物病院では、五感をフル活用した診療を学んだと思います。バリウム検査や血液検査など、動物自身はもちろん飼い主さんにとっても負担がかかりますので、なるべく機械には頼らず触診や聴診などを中心に診療していました。また、当時は犬猫だけでなく、動物であればできる限り診るというスタンスでしたので、その頃の経験が今でも生かされていると思います。5年間勤務医としての経験を積んだ後、ビルのテナントの1階にて開院し、手狭になってきたので5年後に近所である当地に移転した次第です。
この土地を選んだのは、どのような理由でしょうか。
出身地である広島県に戻ることも考えましたが、関東には大学病院や二次診療施設が多くあるのと、先輩や友人も多くいたため助け合える利点などもあり、関東で開院したいと思いました。また、私は東名高速道路で移動することがよくありましたので、インターチェンジに近い場所で街が開けたところを探していたんです。そこで秦野市が良いと思いました。当地は今と違って住宅がほとんどない状態でしたが、第六感的に「ここがいい!」と思い、今後の開発状況などもリサーチした上で開院を決めました。現在では、周りに住宅が増えてにぎわっていますね。
クリニックの特色について、教えてください。
近隣の皆様にとっての“ホームドクター”としてお考えいただければと思っています。その中において、一人の医師がすべての症状に対応するのではなく、なるべく多くの診療分野を分業するようにしています。そのために、スタッフたちにも専門医に近い形で得意分野をつくっていただくようにしています。例えばホルモン疾患、心臓、眼科、外科など、それぞれ特化した病気について知識や技術を磨くことによって、より診療の質が上がりますし、スタッフ自身のモチベーションアップにもつながっていると思います。また、心臓の専門医や眼科の専門医に月に1度お越しいただいて、スタッフに向けて講習会も行っていただいたりしています。もちろん、私自身も、若い方に引き継いでもらえるよう自分が培ってきたものはどんどん伝授していきたいと思っています(笑)。しかしながら、診療分野をより深めようとすると特殊な技術や機械が必要になってきますから、当院で対応できないことがありましたら、専門医のいらっしゃる病院をご紹介します。もうひとつは、やはり“人”だと思うんですね。良い人材に長く働いていただけるよう、獣医師や看護師、受付などすべてのスタッフが働きやすい環境を考えています。例えば、当院は女性が多いため、ご家庭の都合なども加味して交代で勤務してもらえるよう、ある程度の人数を確保しています。
医療面だけでなく、患者の心に寄り添うことも心がけている
どのような病院づくりをめざしていらっしゃいますか?
当院を頼ってお越しくださった飼い主さんに対し、誠意をお返しできるような病院でありたいと思っています。例えば、手術後や治療後の動物たちの様子を、こちらから電話で伺うこともありますね。飼い主さんの方から電話を一本かけるのはなかなか億劫だと思いますし、なにより、私自身が「治療が終われば仕事はおしまい」という気持ちにはなれなくて。飼い主さんたちからも好評をいただいていますので、スタッフにも周知し、開院当時からずっと続けています。このように、医療面だけでなく、配慮と言いますか、サービスに値する面も大切だと考えています。
動物病院としては珍しいグリーフケア(ペットを亡くした人の心に寄り添うケア)をされているそうですね。
はい。医療だけを提供するのではなく、飼い主さんの精神状態に寄り添って治療をして、動物が亡くなった後も心のアフターケアをしていきたいというのが開院当初からのコンセプトなんです。初めは私たちなりに対応させていただいていたのですが、大学時代の同期がグリーフケアアドバイザーをするようになったと知り、専門家としての意見を聞き、指導も受けられたら……と思っていたんですね。彼女も私の考えに共感してくれまして、月に3日ほど、グリーフケアアドバイザーとして来ていただいています。
治療に東洋医学も採り入れていらっしゃると伺いました。
はい。以前は、動物は痛みに対して鈍感だと思われていましたが、実際は痛みを感じているけれど、表現ができないだけだということがわかってきています。飼い主さんもそういうところはしっかり勉強されてきていますし、なるべく痛みを伴わない医療をご希望になる方も増えてきています。日本ではまだ東洋医学を取り入れた治療はポピュラーではありませんが、アメリカでは西洋医学的な治療と併せて最初からチョイスできるくらい浸透していると聞いています。私自身、開院当時から興味を持っていた分野で、自主的に勉強をしながら治療に採り入れていたこともありました。そして、運よく、アメリカで勉強された専門医が当院で勤めてくださり、より専門的な東洋医学をご提供できるようになりました。例えば腎不全の猫ちゃんの食欲不振に対して鍼治療を加えることにより、食欲不振を始め生活のクオリティの改善を図っています。他に、老化現象で筋肉が衰えて立てなくなっているとか、関節疾患の痛みがあるなどの場合にも、早い段階から治療方法の選択肢の一つとしてご提案させていただいております。
地域のための活動にも貢献しながら、スタッフとともにより良い病院づくりをめざす
獣医師を志したきっかけについて、教えてください。
父親が早くに亡くなりましたが、母が仕事をしていたお陰で、勉強も生活も何不自由なくさせてもらいました。ですから、女性が働くということが私にとって自然なことでしたね。その中で、自分が興味あることを仕事としていきたいと考えていました。また、我が家には私が小さい頃から猫がいまして、猫がいない生活というのが考えられないほど、身近な存在でした。ただ、その頃獣医師を意識したことはなく、それどころか住んでいた場所がわりと田舎のほうで、動物病院は近所になかったんです。それが、高校に行くために母の実家に下宿をしていた際、飼っていた犬が “パルボウィルス感染症”という重篤な伝染病にかかり、生まれて初めて獣医師に会ったんです。「こんな職業があるなんて! 絶対にこの仕事に就きたい」と強く思い、受験しました。実際に獣医師という仕事をしてきて、とてもやりがいを感じています。
院長先生は、地域のための活動にも貢献されていると伺いました。
子どもに手が掛からなくなってきて、時間的に自由がきくようになり、またスタッフも充実してきた今、ようやくお手伝いができる余裕ができてきました。市の高齢介護課と協同して、JAHA(日本動物病院協会)さんのCAPP活動(動物訪問介在活動)をこの地域で普及させたいと思い、地域獣医師会の皆様と共に取り組んでいます。講習会を開いたりしながら、これから実質的に活動していく予定です。私としては、高齢者と障害者施設に向けた “動物ふれあい訪問活動”としてやっていきたいと思っています。この活動はどういう形でやっていけば安全か、今まで活動されてこられたやり方などもっと詳しくご紹介できれば、広がりが出てくるのでは……と思っています。また、県の獣医師会で広報的な活動に携わっていまして、一つの媒体のお役に立ちながら、そういった面からの社会貢献活動もやっていきたいと思っています。
今後のクリニックの展望について、教えてください。
今後も、患者さんのニーズになるべくお応えしていきたいと思っています。しかし、やはり専門的な知識や特殊な機器が必要なことも出てきてしまうこともありますから、トータルに考えた時に、分業はきちんとやっていきたいですね。同時に、スタッフたちの特性を伸ばしていけると良いなと思っています。私はあくまでスタッフたちをまとめて、一つの方向性に導くガイドをしているだけなんです。何か問題が生じたら、皆で意見を出し合って決めていこう、皆と一緒に手作りでこの地域に必要とされるような病院を作っていこうというのが願いです。いい先生方に集まっていただいて、いい診療をして、いいスタッフが育っていけばうれしいですね。