伊東 彰仁 院長の独自取材記事
イトウペットクリニック
(鎌ケ谷市/くぬぎ山駅)
最終更新日: 2023/01/22
30年以上にわたって鎌ケ谷市くぬぎ山で動物たちの命を見守り続けてきている「イトウペットクリニック」は、伊東彰仁院長がくぬぎ山の実家の庭の敷地を使ってクリニックを開業し、その後、現在の地に移転したのだという。以来、地域だけでなく遠方から来院する患者たちに、的確な検査と診断に基づく獣医療を提供している。ライフワークとして感染症の研究にいそしみ、他の動物病院の獣医たちと臨床感染研究会を立ち上げたほか、感染症に関する執筆や海外視察など活躍の場は幅広い。「興味が湧いたことは何でもやってみたくなる」と話す院長の情報アンテナは感度が高く、新しい治療方法の研究にも余念がない。そんな伊東院長ならではの動物医療への取り組みを聞いた。 (取材日2016年2月19日)
狂犬病をはじめとする感染症について長年研究
そもそも獣医師になろうと思われたのはなぜですか?
私自身が動物を好きだったことに加えて、父の影響が大きかったようです。父も動物、中でも軍馬がとても好きで、父自身が獣医師になりたかったそうです。父は私が高校生の時に他界していますが、その後、親戚からそんなことを聞きました。私自身はあまりはっきりと覚えていませんが、折りに触れて父が私に話をしていたのでしょうね、きっと。なんとなく子どもの頃から将来は獣医師になると決めていました。当初はくぬぎ山にある実家の庭の一角にクリニックを建てて開業しました。それから8年後に今のこの場所に移転して現在に至っています。
先生が力を入れている分野を教えてください。
個人的に力を入れて研究しているのが感染症です。30代半ばの頃に東京都立駒込病院の高山直秀先生に師事して、狂犬病の研究から始め、今はさまざまな感染症について研究しています。以前は人獣共通感染症とも言われましたが、今は単に「感染症」とだけ呼ぶようにしています。というのも、ヒト型の細菌と同じような種類の細菌が犬の耳から見つかることもあります。また、動物は感染していても無症状なのに人間に感染すると症状が出るものなどさまざまですので、広く感染症として捉えています。当クリニックでは感染症を治療をする際は、必ず病原体を培養検査して殺菌効果の高い抗生剤を投与しています。この感染症の研究のほか、力を入れているのは腫瘍の治療法や日本チタン協会の共同研究員としてチタンを使った手術法の研究などに携わっています。
飼い主が感染症にかからないためは、どうすれば良いでしょうか?
まずは予防することです。例えばインフルエンザの予防のためには手洗いとうがいが大切ですよね。同様にペットに触ったら必ず手洗いとうがいをする。ペットに顔や口をなめさせたり、過度な接触は控えたほうが良いでしょう。猫の腸の中に病原菌が寄生していた場合、猫は何も害がありませんが、肛門近くをなめた猫がその舌で人間の口をなめたことで感染してしまうこともあります。この予防とともに大切なことは、感染症について正しい知識を持つことです。最近ではインターネットで調べればすぐに情報を得られますし、私の著書『危ない! ペットとあなたが感染症を襲う』にはわかりやすく書かれていますので、そちらをお読みいただいてもよいでしょう。
皮膚疾患の診療では4つの検査で一つ一つ原因を排除
皮膚疾患にも力を入れているそうですね。
皮膚疾患の患者さんが多く訪れるため、結果的に力を入れるようになりました。当クリニックでは、見た目だけで判断せず、表面セロテープ検査、抜毛検査、皮膚掻爬検査、真菌培養検査という4つの検査を必ず行います。皮膚疾患は、場合によっては、何か一つのことが原因でない場合も多く、いろいろな原因が足し算された症状をみせることがあります。ですから、まずこの4つの検査によって外部からの原因を一つずつ外していき、外因がコントロールされたことが確認された段階で、内因、例えばアレルギーやアトピー、ホルモン異常、内臓疾患などがないか、次の検査をするという手順で診断していきます。時間と費用がかかりますが、的確な診断を下すことができますし、高い治療結果を得られます。
普段心がけていることはどんなことでしょう?
飼い主さんに原因や症状、治療法などを丁寧に説明することと、病名についてはアバウトな言い方はしないようにしています。例えば皮膚疾患について「これは皮膚病です」とざっくりと言のではなく、「細菌感染性皮膚炎です」というように正式な病名を告げています。病名には原因が含まれることも多いので、そのほうが正しく理解していただけるのではないでしょうか。また、アレルギー疾患でも食物アレルギーとアトピー性皮膚炎はその原因が異なるにも関わらず、混同している方も多いので、そのあたりも詳しく説明しています。飼い主さんの中にはステロイドの使用を嫌がったり、勝手に使用をやめたためになかなか治らないといった場合も多く、ステロイドについては使うべきである場合、使用しなくても治る場合、また使用してはならない場合といろいろなケースがあります。ステロイドは使いどころが肝心なのですね。そういったこともよく説明するようにしています。
何か心に残っているエピソードはありますか?
いろいろな治療方法を研究している中、毎日が目新しいことばかりで、どれも心に残っています。あえて申し上げれば、初めての術法を行うときは、やはり緊張しますね。獣医療は私の大学時代と比べると格段に進歩していて、術法も大きく変化しています。昔は、腸管を縫い合わせる際には丁寧に縫いこんでいましたが、今は数箇所縫えばつながりますし、膀胱の縫い合わせについても、二重に縫合せよと教わりましたが、今は寄せてくっつければ自然とつながります。新しい学術書に紹介されているものは、大切なペットへの負担を減らす上でも実践するべきだと思います。
狂犬病の発生地域へ旅行する際は予防接種を
海外へ視察やボランティアも行っているそうですね。
2001年にロシア、2002年にはタイに狂犬病はじめとする感染症の視察に行ってきました。またフィリピンのカオハガン島には3回ほどボランティアに行っています。カオハガン島では犬はかつて食用だったのですが、今はペットとして飼われるようになっています。しかし放し飼いが多く、経済的な理由から狂犬病の予防注射を打てないことも多いため、ボランティアでは狂犬病の予防注射と避妊手術を行ってきました。狂犬病は、アジアのほとんどの国が発生地域です。アジア周辺地域で狂犬病が発生していないのは、日本、グアム、ハワイ、フィジー、そしてニュージーランド、オーストラリアだけです。世界的に見ると狂犬病で死亡する人の数は4万5000人から6万人いると考えられています。ですから狂犬病の発生地域に海外旅行する方は、ぜひ予防注射をしていただきたいですね。
ところでお休みの日はどんな風に過ごしていますか?
休診日は講演や研究会に出かけることが多いです。趣味は釣りや自転車で、以前はよく妻と一緒に自転車のツーリングに出かけましたが、最近は忙しくて時間がとれていません。もう一つの趣味が料理で、これは今も楽しんでいます。海老マヨとか麻婆豆腐など主婦が作る料理はほとんど作れますよ。冷蔵庫の中にある食材からメニューを考えるのも得意です。今度お酒を造っている知人がおいしいお酒を持ってきてくれるというので、その時には肉じゃが、タイのアクアパッツァ、イカの塩辛などいろいろと振舞おうと思っています。実は釣りも、市場では入手できない食材を自分で手に入れたいと思ったから始めたんですよ。
最後に今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。
これまで臨床感染研究会などで研究してきたことを若い獣医師に伝えていきたいと思います。学術情報は日々新しくなっていきますし、世界では新たな感染症も出てきています。そうした新しい感染症に関する研究もさらに続けていきたいですね。また、地域防災にも力を入れたいですね。実は防災と感染症は深い関連があります。多くの人が集まる避難所では必ず感染症が流行ります。避難する際にペットと一緒に行動をともにする同行避難の啓蒙活動もしていきたいと思います。また、飼い主さんへのお願いになるのですが、皮膚疾患で受診する際は、ペットを洗ったりせずにそのままの状態で連れてきてください。薬を使っている場合は、どんな薬かわかるようにしていただくと診断の参考になります。またセカンドオピニオンとしてもお気軽にご活用ください。