高橋 英雄 院長の独自取材記事
エイ・ランドおゆみ野動物病院
(千葉市緑区/鎌取駅)
最終更新日: 2023/01/22
千葉市緑区おゆみ野。ニュータウンとして発展している街の一角にピンクを基調としたポップな建物がある。それが「エイ・ランド おゆみ野動物病院」だ。待合室はピンクの壁に潜水艦のような丸窓が配され、思わず楽しい気分になる。高橋英雄院長は、地域の人々が誰でも楽しめる場所にしたいと、2階のサロンではセミナーやコンサートなども開催。幼い頃から動物が大好きだったという高橋院長、高校生の時には獣医師として海外に移住したいと思うほどだったとか。今、診療の中心に据えているのが予防獣医療。ペットが病気にならないためにはどうすればよいか。その答えはズバリ飼い主の愛情のかけ方。飼い主の自己満足的な愛情がやがてペットの病気を引き起こすという話など、さまざまなことを高橋院長に聞いた。 (取材日2016年3月25日)
乳牛の獣医の経験から提唱するペットの予防獣医療
ピンクが多く使われていて、とても楽しい造りですね。
エイ・ランドのエイは、アニマルの頭文字のA、アメニティのAを表しています。飼い主さんやペットだけなく、ペットを飼っていない方々にも自由に来ていただいて楽しめる場所でありたいと思い、明るくて楽しい雰囲気にしました。ピンクは優しいイメージですし、気分も和らぎますよね。この待合室では飼い主さん同士が情報交換したりしています。待っているペットたちもみんなおとなしくしていますよ。中には診察を受けるのを楽しみにしている犬もいて、「早く!早く!」という感じで中を覗き込んでいる子もいます。2階はセミナースペースになっていて、飼い主さんに限らず地域の方々を対象にセミナーやコンサートなどを開催しています。
獣医師になられたのは、やはり動物が大好きだったからですか。
そうですね。小学5年の時に東京から千葉に越してきたのですが、そこは野生のリスが庭にやってくるほど自然豊かな環境でした。近くの森にリスを探し行くこともしょっちゅう。犬は5~6匹、モルモットは100匹くらい飼っていました。中学になるとイギリスのペンパル、いわゆるペンフレンドと手紙のやりとりをしていた影響で、獣医師として海外で働きたいと思うようになりました。それで、高校生になると獣医師として海外に移住したいとまで思い込んだ。それで酪農学園大学に進みました。その後、千葉県農業共済連合会で乳牛の獣医師として働いている時、2年間青年海外協力隊としてシリアに赴任しました。帰国後、少し経ってから開業しましたが、いずれはまた海外で獣医師としてボランティア活動をしたいですね。
先生が提唱しておられる予防獣医学というのはどのようなことですか。
乳牛の獣医師としての経験から出てきた発想です。乳牛は乳を出すことが仕事ですから、農家の方は経営的にもできるだけ多く搾乳したいと考えます。乳牛の乳の出方や体調は、実はエサの与え方によって大きく左右されます。タンパク質の多い濃厚飼料を与えると、お乳はたくさん出ますが体調は悪くなる。一方、牧草などの粗飼料を与えると体調は回復しますがお乳の出が減ってしまいます。搾乳量の維持と体調管理。この二つのバランスをとりながら、乳牛を病気にさせないためにはどうすればよいか。それを考えるのが乳牛を診る獣医師の仕事です。ペットにおける獣医療も同じで、病気を予防するためには何を優先すべきか、何が大切か、それを飼い主さんたちに伝えることが大切だと思っています。
正しい愛情であれば1%でもペットは幸せを感じとる
具体的にはどのようにしてペットを病気から守ればよいのでしょうか。
重要なのはしつけです。具体的には食事と散歩。そして正しい愛情のかけ方を知ることです。飼い主さんはペットに元気でいてほしいと思って、たくさんの愛情を注ぎます。もちろん家族ですからたくさんの愛情を注いでほしいですが、120%の愛情は不要なのです。この20%の愛情は、飼い主さんの自己満足であることが多いのですね。例えば食事をしている時に寄ってきた犬に、欲しがっていると思って人間の食べ物を与えることも多いはずです。でも客観的に考えれば、これは飼い主の自己満足にすぎません。犬はただ頭を撫でてほしいと近寄ったのかもしれません。こうした自己満足的な愛情をかけ続けていると、やがて病気を引き起こすことになるのです。愛情のかけ方のベクトルが少しずれていることが多いのですね。
散歩の仕方も間違っている場合が多いのでしょうか。
犬にとって散歩は、実は、仕事の場なのです。もともと犬は人間と暮らす中で仕事をする動物として発達してきています。散歩は、犬が「主人に気を使う」という仕事をする時間なのです。そのことを知らずに犬の気の向くままに散歩させていては、犬は主人といる幸せを感じることができません。先ほど120%の愛情は良くないとお話ししましたが、きちんとした愛情の注ぎ方をすれば、1%の愛情でもペットたちは幸せを感じることができます。そのことを飼い主さんたちはぜひ気づいてほしいと思います。
普段、診療の際に心がけていることはどんなことですか。
診療する際は、もしも自分が飼っているペットがこの病状になったら自分だったらどうするか、と考えるようにしています。獣医療は日進月歩でいろいろな新しい治療法や薬が登場しています。高度な治療法もありますが、それを実践するには時間や金銭的な問題もあります。ここにはいざという時のために高度医療を提供できる設備は整っていますが、果たして自分が飼い主だったらどうだろう、その治療を受けさせるかどうかということを考え、飼い主さんにお話ししています。また、診察する際は私と飼い主さんだけで行い、看護師は参加しません。注射などの際は、「主人に守られている」とペットが感じられる抑え方や体勢をとってもらっています。そのほうがペットも安心しますし、信頼関係を強めることができます。
動物も免疫力が大切。いつも楽しいと感じられる生活を
これまでで思い出に残っているエピソードは何かございますか。
以前、11歳の柴犬が歯周病で来院しました。その子は少し触っただけでも、ウーッと怒ってしまう犬でした。それでは治療できませんから、とりあえず抗生剤を与えながら、飼い主さんにしつけの徹底をお願いしました。それまで飼い主さんは、ドライフードを食べなくなったから缶詰、缶詰を食べなくなったから人間の食べもの、というような食事を与えていたため、歯周病だけでなく心肥大にもなってしまったのです。それを、最初はドライフードを一つだけ与えることから始めて、少しずつ量を増やしていき、最終的に主人から食べものをもらう喜びを感じられるようにしたのです。その結果、2ヵ月後には、人に触れられる喜びを覚えて、麻酔なしでも歯周病の治療ができました。それから9年間、その子は20歳まで元気に生きてくれたのです。しつけの大切さを改めて実感した出来事でしたね。
ところでお休みの日はどんなことをされていますか。
休診日がないので交替で休みをとっていますが、その時は、獣医臨床感染症研究会の仕事をしていることが多いですね。また、千葉港ロータリークラブの役員をしておりますので、最近はその活動に力を入れています。ラオスの子どもたちの教育支援を行っていまして、昨年は机や椅子を寄贈し、今年は黒板を寄贈する予定です。これらはすべて現地の資材を使って現地で製作するようにしています。来年は図書館をつくろうと計画していまして、ラオスの人々の識字率のアップに寄与できればと思っています。
最後に今後の展望についてお話しください。
獣医師の間では、今のままですと、2025年頃には少子高齢化の影響でペットも激減するのではないかと危惧されています。というのも、ペットが病気で亡くなると「自分のせいで助けられなかった」と思い込んで、それが心の痛手となり、二度とペットを飼うことができなくなることがあります。ですが、ペットに正しい愛情をかけていれば、最期の時でも「楽しかったね」と、いいお別れができます。何のためにペットを飼うかといえば、人間も動物も楽しい思い出をたくさん作るためです。ペットとどこで出会うかはいろいろありますが、たまたまその家族の一員となって一緒に暮らす。これは素晴らしい縁です。動物も病気予防のために免疫力が大切で、免疫力を高めるためには、うれしい、楽しいと感じることが大切です。縁あって一緒に暮らす家族として多くの喜びをともに感じられる、そのための予防獣医療を今後も提供していきたいですね。