勝谷 秀樹 院長の独自取材記事
桜ヶ丘どうぶつ病院
(大和市/桜ヶ丘駅)
最終更新日: 2023/01/22
桜ヶ丘駅から徒歩15分。2012年に新築移転した「桜ヶ丘どうぶつ病院」は、ここ大和市内で通算30年もの間、地域ペットの健康を守ってきた。大きなデザイナーズハウスといった印象の建物は、すべて勝谷秀樹院長の原案を元に作られている。特にこだわったのは、地上フロアのバリアフリー化だ。移転前の建物は入口に7段の階段があり、足腰の悪い大型犬を抱えて上るのは大変だったというのがバリアフリー化にこだわった理由。勝谷院長の優しい人柄がうかがえる。めざすところは「病気を治す医療施設というより、飼い主とペットとの関係がうまくいくように手助けする場所」と話す勝谷院長に、開院の経緯から30年経った今感じる獣医師としての思いまで、たっぷりと聞いた。 (取材日2016年1月8日)
ゆりかごからお別れの時までをサポート
移転から4年目に入るということですが、素敵な建物ですね。
旧医院があった場所から2キロと離れていませんが、以前は入口に階段があり、駐車場が3階という特殊な造りだったので、病気の子を連れた飼い主さんは玄関に入るまで大変苦労されていました。そのため、路面駐車場から段差なしで院内に入れる病院をつくりたいと考え、思い切って新しい病院を建てて引っ越したんです。するとある時に、車いす来院された飼い主さんから「先生のお顔、はじめて拝見しました」と言われて驚きました。以前の病院は車いすでは入れなかったため、いつも付き添いの方がワンちゃんを連れていらしていたので本当の飼い主さんとは初対面だったのです。建物は2階までありますが、病気の子が階段を上がらずに済むよう、医療設備は1階に集中させました。2階は主にトリミング室とコミュニティーエリアです。コミュニティーエリアはトリミング室をガラス越しに眺められ、本やDVD、テレビを設置したりキッズスペースとしても使っています。
そもそも大和市で開院されたのはどういうご縁ですか?
私は兵庫県出身ですが、大学入学と同時に東京に出てきました。卒業後の研修は神奈川で開業している先生にお世話になり、この辺りには親しみがあったんです。それに、研修先や大学病院が近く、私と同じ大学を卒業した先輩・後輩の獣医師もたくさんいましたから、医療連携を考慮したということもあります。6年の研修を受けたとはいえ、当時の大学の授業は大動物がメインで小動物に対してのカリキュラムは充実していませんでしたから、正直な話、自信などほとんどないままの開院でした。研修させていただいた病院があって、周囲に仲間がいて、大学病院があってという背景があったからこそ、何とかやっていけるかもしれないと思えたんですね。もっとも、一番の理由は、神奈川県出身の妻と結婚したことかもしれません(笑)。
モットーは、「ゆりかごからお別れの時まで」だそうですね。
生まれて間もない時から最後の瞬間までサポートさせていただければと思っています。動物たちとの最初の出会いは多くの場合、子犬や子猫の時期です。例えば、その動物の寿命が15年だとすると、最初の1年で残り14年の飼い主さんとの関係性が決まってしまうかもしれないほど、1年目は大事なものです。だいたい最初は、ワクチン接種や健康診断で来院されますが、その時にペットを飼うということに対してその方がどう考え、ペットについてどれくらい知識があるのか、といった事まで伺った上で、獣医師としてお伝えできることは全てお伝えするようにしています。それが「ゆりかご」の部分です。
最後の瞬間までサポートするというのは、どういった意味でしょうか。
やがてシニア世代になり、加齢に伴う病気が出始めた頃には、いつかお別れの時が来るということを徐々に覚悟していただかなくてはなりません。飼い主さんは、いつまでもその子が元気でそばにいてくれると思いたいものですが、別れは必ずやってきます。悲しいことではありますが、できるだけいい別れ方をしていただきたいので、その心構えをつくっていくお手伝いをする。それが私たちの使命だと考えます。
飼い主とペットとの良好な関係づくりをお手伝い
こちらの診療の特徴を教えてください。
専門の治療分野は特にありません。強いて言えば、行動学に基づいたカウンセリングでしょうか。例えば、排尿や排便がうまくいかない、無駄吠えするなどでペットとの関わりの中、飼い主さんに負担がかかることがあります。そのような時、よくお話を伺ってより良い方向にもっていけるよう、助言させていただくということですね。しつけと似ているかもしれませんが、私はこれをしつけとは言いたくありません。要するに、飼い主さんが要求したことを、ペットが楽しんでやってくれるという関係をつくるお手伝いをしたいんです。人間と動物がそういう関係になれれば、お互いがハッピーですから。
具体的に、しつけとはどう違うのでしょう?
しつけというと、力で抑え込むとかペットの行動に対して罰するという方法がすぐに思い浮かびますよね。それらの方法のすべてが間違っているとは思いませんが、種類や個々の性格によっては抑え込むしつけが通じない場合もあります。また、それまでずっと力で抑え込んでいた子が、ある日突然、飼い主さんに歯を向けたとします。そこで飼い主さんが手を引っ込めると、その瞬間から立場は逆転するんです。つまり、「自分のしたくないことをやらされそうになったら、噛めばいいんだ」と考えるようになるわけです。ずっと抑え込んできたものを、途中で立場が逆転してしまうと、今度は手に負えなくなってしまうんです。そんな関係になるくらいなら、最初から抑え込むのはやめたほうがいいと、私は思います。本に書いてあったからこうしなければと頑なになるのではなく、もう少し自由にペットとの生活を楽しむことを考えたほうが良いのではないでしょうか。
手術しないという選択肢もあることを受け止めてほしい
診療の際に心がけていることを教えてください。
飼い主さんに対しては、いかにコミュニケーションを取りやすい状況にするか常に考えています。実際に診るのはその方のペットですが、ペットの情報は、いつも近くで見ている飼い主さんから聞き出さなければなりません。気軽に会話できるよう、ハードルを下げるという意識を持つことも大切ですね。診療する動物については、怖がらせないということを念頭に置いています。その子にしてみれば病院は非日常の世界ですから、不安なのが当たり前です。声をかけたり、いい意味で触らせてくれるならどんどんスキンシップを取るようにしたりしています。スキンシップが可能かどうかは犬種にもよりますし、その子の性格にもよりますが、ぱっと見でだいたいわかるようになりました。この道で30年もやってきたおかげですね。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
最近は動物の医療も高度になり、かつて治らなかった病気でも治せる時代になりました。昨今はインターネットの普及で高度医療についてご存じの飼い主さんも多く、「こんな手術があるそうですが」とご提案されることも珍しくありません。それはそれで素晴らしいことだと思います。しかしどんな病気・状況でも高度な医療で治療するのがいいことなのかというと、それは疑問です。例えばもう14歳になったワンちゃんが白内障にかかった時、手術で治してあげるべきでしょうか? 家庭の中で生活していて、目が白くなっても、ほとんど支障ないのではありませんか? それでも飼い主さんが全て納得した上で「治すことがその子の幸せ」と感じるなら、手術の意味はあるかもしれません。ただ、年老いた ワンちゃん・ネコちゃんに対して無理に治療しなくても痛み等を感じず普通に暮らせるなら、手術しないという選択肢もあるということを頭の片隅に入れておいてください。