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- 石野 孝 院長、相澤 まな 副院長
石野 孝 院長、相澤 まな 副院長の独自取材記事
かまくらげんき動物病院
(鎌倉市/湘南深沢駅)
最終更新日: 2023/01/22
1993年の開業以来、「動物に優しい治療」をモットーに西洋医学と東洋医学を融合した医療を実践する「かまくらげんき動物病院」には、遠方からも多くの患者が訪れる。待合室では、飼い主のご夫婦に抱かれた高齢のチワワが診察を待っていた。聞くともなしに聞こえてきたのは、「先生がきちんと説明してくださるから」「大丈夫だね」という会話。リラックスした表情で診察を待つ姿は、医師と病院への信頼に満ちていた。二人三脚で息の合った診療を行う石野孝院長と相澤まな副院長。多岐にわたる選択肢から動物に最適な治療を提案する診療方針や、互いを信頼し、尊敬し合うお二人がすべての患者を「共に診る」という診療体制についてじっくりと聞いた。 (取材日2016年2月23日)
常に情報を共有し、同じレベル・同じ目線の医療を提供
すてきな待合室ですね。こちらを利用してセミナーなども開催されているとか。
【石野院長】「中医学」を想起させる建物であること、自分たちの気分転換になる場所であること。当院を設計する際には、この2つを重視しました。待合室はコミュニティールームを兼ねており、さまざまなイベントを行っています。つい先日も、東洋医学のデトックスといわれる「かっさ」のセミナーを行いました。近年はペットの口腔内ケアが注目されるようになったので、歯磨きの講習も開催しています。虫歯や歯周病といったトラブルは、ペットも人間同様にリスクがあるんです。しかし、ペットの口腔内ケアの重要性はそれほど認知されておらず、多くの犬や猫が若くして何らかの口腔内トラブルを抱えているのが現実です。こうした現状を少しでも変えるための働きかけをはじめ、飼い主さんに知っておいていただきたい情報を発信する場として活用していますね。
開業は1993年と伺いました。
【石野院長】開業当時は、外で飼育されている犬がまだたくさんいる時代でした。「犬や猫に東洋医学」という私の志を聞いて、同級生ですら驚きあきれていたのを思い出します。しかし、2000年頃から空前のペットブームが起きて雑種の飼育頭数を純血が上回り、ペットを家族として大切にする風潮が少しずつ浸透していきました。「動物に優しい医療」として需要が増えてきたのは、そのあたりからですね。 【相澤副院長】私は他院での勤務を経て8年前から一緒に働くようになりましたが、近年は動物にも人間と同じように養生をさせるという考え方が少しずつ広がってきていると感じます。犬や猫の平均寿命は15歳。人間に比べて加齢が早いということは、さびていくのも早いということです。病にかかる前に養生するという考え方を、もっと広めていきたいですね。
診療の際は、どのように役割分担をなさっているのですか。
【相澤副院長】院長が診断の筋道を立てて、私はそのサポートをするというスタイルが基本です。院長が講演などで不在の際は私が診ていますが、すべての患者さんについて必ず二人で情報を共有し、同じ目線・同じレベルの診療を提供できるようにしています。 【石野院長】急患が相次いで多忙が続くと、どうしても頭に血がのぼってしまいます。彼女はそういうとき、検査を担当しながら的確な声がけをして、冷静な判断を促してくれるんですね。二人で一緒に診療をしている、それが私にとっての安心材料であり、医院としての強みでもあると思っています。
東洋医学も、多岐にわたる診療の選択肢の一つ
貴院の特長は西洋医学と東洋医学の融合ですね。
【石野院長】人間が複数の診療科から適したものを選ぶように、当院における東洋医学も診療の選択肢の一つです。漢方の治療を求めて来院した方にステロイドの治療が必要であるとご説明すると驚く方も多いのですが、症状によっては西洋医学による治療を施した上で東洋医学を併用する「中西結合獣医学」をご提案しています。例えば犬の椎間板ヘルニアは、圧迫された神経細胞が死んでしまうと、現在の医療技術では再生することができません。しかし、できるだけ早期に、効果的にステロイドを投与すれば、かなりの確率で神経細胞を生かすことができます。その後、回復を助け再発を防ぐ手段として鍼や漢方といった東洋医学を併用していくと良いでしょう。
西洋医学と東洋医学、それぞれの良さを生かした治療をなさっているのですね。
【相澤副院長】西洋医学は「検査して取り除く」急性期の治療、東洋医学は不定愁訴の症状緩和や病気の予防、副作用の軽減などに向いています。東洋医学だけを用いるか、2つを結合させるかは、状況に応じて判断しています。 【石野院長】東洋医学的な治療に特化しているわけではないということを知っていただきたいですね。ただ、漢方や鍼灸に加えてメディカルアロマテラピーなどを導入し、「動物に優しい治療」を実践しているのは事実です。特に、漢方は動物専用のものを使用しているほか、最近では「塗る漢方」の研究も始めました。漢方薬は飲み続けられなくてドロップアウトしてしまうケースが非常に多いので、塗る漢方によって治療の継続を図りたいですね。経口での服用と並行して、内外から体質改善を促すことも考えています。
こうした診療方針は、どのように培われたのでしょうか。
【石野院長】父が鍼灸師で、幼い頃からその仕事ぶりを見て育ちました。多くの患者さんが父を慕って来院する。それを誇りに思う反面、「信じることで良くなったと感じるプラシーボ効果では」という思いを払拭できずにいました。大学を卒業後、中国内モンゴル農業大学に渡って中国伝統獣医学を学んだのは、父の医療を科学的に証明したいという思いがあったからです。ですから、現在の診療方針の原点は、父への思いですね。モンゴルで多くの人々が中医学によって救われる場面を目撃し、伝統的な獣医学を論理的に学んだことで治療に根拠が生まれ、日本でこの学びを生かしたいと思うに至りました。 【相澤副院長】大学の先生方に動物への漢方薬、鍼治療を学んだことが興味をもったきっかけです。自分の飼い犬だったチワワが病弱で、何か良い治療法はないかと模索する中で院長の講義を聞く機会があり、さらに関心が深まりました。
「養生」の意識で、本来の寿命を少しでも長く
診療時の心がけを教えてください。
【石野院長】早く結果を出して、早く良い状態にしてあげるということです。東洋医学は結果が出るのに時間がかかる、と漠然とした覚悟をお持ちの飼い主さんでも、3回以上通院しても変化が見られないと焦燥感にかられ、治療に不信感を抱いてしまいかねません。もちろん完治には一定の期間が必要ですが、飼い主さんの心情をできるだけくんで、さまざまな治療を組み合わせて早期に治療効果を実感していただきたいと思っています。 【相澤副院長】私も同じく、早く動物を楽な状態にしてあげるということを意識しています。もちろん第一は動物のためですが、治療に効果があるという飼い主さんの実感は私たちに対する信頼にもつながります。
飼い主さんに伝えたいことはありますか。
【相澤副院長】現存する中国最古の医書に「黄帝内経(こうていだいけい)」というものがあります。これは私たち、東洋医学に関わる者にとってはバイブルともいうべき書物ですが、この中に「人間の寿命は120歳」という記述があるんですよ。心身の調和を保ち、理にかなった生活をしていれば、120歳まで健やかに生きられる。つまり、本来の寿命をいかに引き出すかが大切だということですね。同じことが動物にもいえるだろうと、私たちは考えています。人間よりはるかに短い動物の寿命も、元気なうちから東洋医学を用いて養生すればもっと伸ばせるかもしれません。ぜひ、「生まれた時から養生」を考えていただきたいと思います。
最後に、今後の展望をお聞かせください。
【石野院長】私が中国の内モンゴルに中医学を学びに行ったのは、今から30年も前のことです。皆が欧米に目を向ける時代に、なぜ中国かと嘲笑されたこともありました。しかし、今、日本におけるペットの東洋医学、鍼灸、漢方は独自の発展を遂げています。その発展と確立に多少なりとも寄与してきたという自負を持って、今度は日本ならではの東洋医学、獣医学を中国に伝えていけたらいいですね。 【相澤副院長】繰り返しになりますが、人間の4倍の速度で年を取るのが動物です。家族の一員として同じ時間を長く過ごしていくために、未病の段階から病院を活用していただけたらうれしいです。