齋藤 竜一 院長の独自取材記事
いぬねこ病院 アール・ポウ
(横浜市金沢区/追浜駅)
最終更新日: 2023/01/22
「ぼくは犬への思いが募って獣医師になったようなものなんです」と朗らかに笑う、「いぬねこ病院 アール・ポウ」の院長、齋藤竜一先生は、話せば話すほど誠実な人柄が伝わってくる心優しき獣医師だ。立場上、どうしても別れの時に立ち会うことは避けられないが、何度も言葉に詰まり、時には涙ぐみながらかかりつけ医としてのひたむきな思いを語る姿に、「先生のおかげで救われた」と信頼を寄せる飼い主が多いというのも合点がいく。犬猫の高齢化が進み、さまざまな高度医療が受けられる時代だからこそ、どこまで治療を受けるかで悩む飼い主も多い。そんな疑問をぶつけながら、竜一先生の人柄と同院の魅力に迫ってみた。 (取材日2016年10月14日)
アットホームな雰囲気で気軽に立ち寄れる動物病院
2010年に開業されたとのことですが、とても洒落た動物病院ですね。
とにかく病院っぽい作りにしたくなくて、天然木をふんだんに取り入れてログハウスっぽい内装にしたところ、開業当時は雑貨屋さんに間違えられました(笑)。動物病院ではありますが、できることなら調子が悪くなってから来るところではなく、普段、元気な時から散歩の途中に寄ったり、近くまで来たからと、のぞいてみたりしていただけるような、地元の方に気軽に立ち寄っていただける場所でありたいと思ってやっています。手作りのグッズや娘の絵が飾ってあるのも、病院の待合室というよりは我が家のリビングという雰囲気で、初めての方でも知り合いの家に遊びに来た感じでくつろいでいただけたらいいなぁという思いからです。おかげさまで、一度来てくださった方のほとんどがその後もずっと来てくださるので、本当にありがたいことだと思っています。
「アール・ポウ」という病院名の由来について教えてください。
「アール」は竜一という私の名前と、同じく獣医師の妻の綾子(りょうこ)という名前の頭文字のRで、「ポウ(paw)」は英語で犬や猫の前足や、お手、人間の手のひらという意味があります。私がずっと犬を飼っていたのに対し、妻は生まれた時からずっと猫を飼っていたので、2人で犬猫病院を始めるにあたって「いぬねこ動物病院 アール・ポウ」という名前にしました。病院のロゴもアールの文字の中に足型(肉球)が入っています。我々が自分たちの飼っている犬や猫に家族として愛情を注いで大切にしてきたように、当院に来てくれる犬や猫や飼い主さんのことも大切にしていきたいという思いを込めています。
先生が動物や飼い主と接する時に心がけていることは何ですか?
できるだけ飼い主さんや動物が緊張しないよう、常に自然体でいることでしょうか。たまに、怒られたらどうしようと気にされている飼い主さんがいらっしゃいますが、飼い主さんを怒ったり責めたりすることはまずないですね。それよりも、よく来てくれたという、飼い主さんが大切なペットのためにアクションを起こしてくれたことに対するプラスの気持ちの方が大きいです。また、獣医師だからといって自分が特別えらいわけでもなんでもないので、飼い主さんの声に素直に耳を傾け、等身大の自分を見ていただくよう心がけています。
飼い主としての気持がわかるからこそ、寄り添える
丁寧な診察に信頼を寄せる飼い主が多いと評判ですね。
うちは妻と2人でやっている動物病院なので、ストレスを感じやすい子は他の子と顔を合わせないで済むよう、休み時間に来ていただくなど柔軟に対応できる点が強みです。また、初診の場合はどんな子なのかということと同じくらい、飼い主さんもどのような方なのか、どのようなことを望まれているのかをしっかり把握するためにできるだけ時間をかけてお話を伺うようにしています。初診はワクチンで来られる方が多いので、ワクチンのことはもちろん、新しく迎えた子達とよりよい生活を送っていただけるよう、お話ししたいことはたくさんあるのですが、あまり1度にたくさんのことを話しすぎて飼い主さんが混乱してもいけないので、「続きはまた今度ね」と、何回かに分けてお伝えすることが多いですね。要点をわかりやすく説明して、飼い主さんにきちんと理解していただけるよう心がけています。
高度医療が進み、「どこまで治療するか」で悩む飼い主も多いと聞きました。
どの飼い主さんも大切な我が子に対してできるかぎりのことをしてあげたいという思いは同じだと思います。でも、実際に片道2時間かけて専門病院に通うのが困難な方もいれば、手術をするのに何十万円も払うのは厳しいという方もいます。そういうことも含めてなんでも話し合いながら、飼い主さんなりにその子のために最善を尽くせる方法を一緒に考えるのがかかりつけ医の役目だと思っています。よく「先生ならどうしますか?」と聞かれるのですが、私も獣医師である前に飼い主としての思いがあるので、正直、悩みますね。実際、自分が飼っていた犬が亡くなった時も、獣医師として「最後まで諦めずに治療を続けたい」という思いと、飼い主として「もう楽にしてあげたい」という思いの狭間でものすごい葛藤がありました。決断するのも本当につらいことですが、飼い主さんが1人ですべて抱え込むことのないよう寄り添いたいですね。
先生ご自身も愛犬とのつらい別れを経験されたのですね。
13年間連れ添ったヨーキー(ヨークシャー・テリア)が亡くなってから2年経つのですが、未だにつらくて、次の子を迎えられずにいます。どうしても、亡くなった子の面影を求めてしまうんですよね。テレビから流れる歌の「ずっと一緒にいられますように」という歌詞を聴いただけで涙が出てきてしまうんですよ。自分でも驚くくらいなのですが、愛する我が子を亡くした飼い主さんは、みんな同じ悲しみを背負っているんだと思います。本当につらい思いをされた飼い主さんの中には、病院自体がつらい思い出の場所になってしまっている方もいて、それはそれで仕方ないと思います。でも、しばらく姿を見ないでいた方が、ある日ひょっこり「先生、新しい子連れてきたよ」と来てくださった時は本当にうれしい気持ちになります。
ともに暮らす家族のため、元気なうちにかかりつけ医を
先生の一言で救われたという飼い主も多い伺いました。
別れの時を迎えるのは本当につらいことですが、同時にその時こそ、その子がどれだけ幸せな犬生なり猫生を歩んでこれたかがひしひしと伝わってくる瞬間でもあるんですよね。私自身、思い出すだけで平常心ではいられなくなってしまうというか……すみません、今でも考えるだけで目頭が熱くなってきてしまって、どうにもつらい瞬間でもあるのですが、飼い主さんには「本当にここまでよく頑張りましたね」、動物たちには「ここまでよくしてもらえてよかったね」と思いながら接しています。飼い主さんが自分を責めたり、後悔したりすることのないよう、最期まで親身になって寄り添いたいですね。
今後の展望をお聞かせください。
最近トリミングを始めたところなのでこれ以上はあまり規模を広げる予定はないのですが、いずれはしつけを専門にする部門があってもいいかなぁと漠然と考えています。今は専門の分野で頑張る先生がたくさんいらっしゃいますので、うちは医療面での拡大というよりは、行動学を土台にして、犬や猫とのよりよい暮らしのヒントを提供できる場所でありたいなという思いが強いですね。例えば、噛み癖や吠え癖のある子に対して医療面で介入できることもあると知ると、皆さんとても驚かれるんですよ。普段の生活の中でのちょっとした疑問など、どんなささいなことでも気軽に相談していただけたらうれしいです。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
たまにいろんな病院を渡り歩いていてなかなか症状が改善しないという方がいますが、獣医師の立場からすれば、悪くなってからいきなり来られても、それまでの経緯がわからないと的確な診断がつけにくいこともあります。また、薬の相性などもあるので、既往歴や処方された薬に関しては隠さずに正直に言っていただけたほうがありがたいですね。一番いいのは、できれば元気なうちに何でも話せるかかりつけ医をもたれることだと思います。お散歩の途中に立ち寄ってみたり、まずは飼い主さんだけでちょっと中をのぞいてみて、気になることがあればカウンター越しにでも声をかけていただければ、相談に乗ったり、アドバイスしたりと何らかのお役に立てるかもしれません。1人で悩んだり、さまざまな情報に振り回されそうな時は、セカンドオピニオンという観点も含めて、まずは声をかけてみてください。