酒井 洋 院長の独自取材記事
さかい犬猫クリニック
(横浜市青葉区/青葉台駅)
最終更新日: 2023/01/22
鴨志田中央交差点からすぐの場所にある「さかい犬猫クリニック」は、広いオペ室、バリアフリー、臭い対策の要である裏口など、院内にたくさんのこだわりが詰まっている。院長の酒井洋先生は、クリニックの名前の由来について「○○動物病院だとハードルが高くなってしまう気がするんです。気軽に足を運んでいただきたい犬猫専門の診療所ということで今の名前にしました」と語る。専門領域をあえて持たず、一次診療を極めることをめざす酒井院長ならではの発想だ。勤務医時代には数多くのオペ経験を積み、丁寧な説明と飼い主目線を忘れない診療姿勢に、以前から付き合いのある飼い主たちの信頼は厚い。長年勤務した前職を辞し、満を持しての開院となった今の心境や展望などを聞いた。 (取材日2016年1月5日)
野良猫の保護活動にも熱心な飼い主目線のクリニック
こちらに開院されたのは、どのようなご縁からですか?
出身は静岡ですが、もう何十年も前にこの地域に引っ越してきて住んでいます。自宅の徒歩圏内でクリニックの候補を探していたら通りがかりでたまたま空き物件としてここを見つけ、飛び込みで聞いてみると条件がぴったりだったので決めました。自宅の徒歩圏内で探したのは、雪の日にクリニックまでの交通手段がなくなっても入院している動物たちを診に行けるようにと考えたからです。退職した前の職場に近い場所で開院したほうが、それまで診させていただいていた飼い主さんも足を運びやすいだろうなという考えは頭をよぎりました。でも以前の職場は、どうしても自宅から電車や車を使う必要があったので、「徒歩圏」を最優先に考えました。
開院にあたってこだわったことはありますか?
物件として一番こだわったのは、裏口が付いていることでした。動物病院は特に臭いに注意が必要ですが、裏口があれば院内全体が容易に換気できます。また、当院では野良猫を保護する活動も行っているため、保護した猫ちゃんを待合室や診療室に近い玄関口から出入りさせずに済むというメリットもありました。裏口のすぐ外に駐車場があるというのも利点です。リフォームにあたっては、実はすべて自分で間取りを考えて、設計士の方に図面を起こしてもらいました。オペ室を広く取ること、院内で動きやすいよう中央に通路を作ること、バリアフリーにすることなど、いろいろとわがままを言わせていただきました。いくつか細かな点は気になっていますが、開院してまだ2ヵ月ですし、慣れれば問題ないレベルと概ね満足しています。
こちらに来る動物や飼い主さんの傾向を教えてください。
開院して間もないということもあり、以前からの飼い主さんが遠くからわざわざ足を運んでくださっています。10年以上のお付き合いという方が多いので、ペットは高齢の子や2代目の若年の子が比較的多いです。地元の方々も少しずつ増えてきていますが、まだ様子見という感じで、今のところ重篤な疾患の子はほとんど来ていません。勤務医時代と比べると、血液検査など時間のかかる作業が減ったこともあり、あまりお待たせすることなくスムーズに診療できています。当院は犬と猫が診療対象で、犬猫の比率はだいたい半々くらいです。一般的に動物病院では、犬が7、8割を占めると思いますが、当院は先ほどもお話ししたように野良猫を保護しているので猫の割合が高くなっています。
スタッフの体制はどうなっていますか?
獣医師は私一人が担当しています。動物看護士よりも受付スタッフが多いのは、飼い主さんの立場に近いスタッフが多いほうが気軽に入りやすいだろうと考えたことが、一つ。もう一つは、専門的な知識を持たないほうが飼い主さん目線に立てるので、私が気付けなかったことに気付き、見抜けなかったことを見抜いてくれると思ったからです。実際、予想どおりに助言してもらえて、本当に助かっています。
わかりやすい説明とインフォームドチョイスを心がけた診療
専門の治療分野についてお聞かせください。
昨今は専門領域を持つクリニックが多いと思いますが、私はへそ曲がりなので特定の治療分野に特化しないことをめざしています(笑)。もちろん、専門と言われるような治療はどんなことをやっているのか、それは知っておかなくてはなりません。でも、高度な機械が欲しいとか、すごい治療ができるようになりたいといった気持ちがあまりないんです。高度医療よりも、一次診療を極めたい、飼い主さんが気軽に最初に相談に来られる場としての役割を果たしたいという気持ちが強いので、専門を持ちません。それに、専門的な治療は高度医療と言われる領域なので高額になりがちですが、「お金が払えなければ治せませんね」と言うのが嫌なんです。経済的に余裕のある飼い主さんなら、大学病院や専門的な治療のできるドクターをご紹介します。でもそうでない場合は、高度医療のセオリーに沿ったやり方ではなく、これまで培った知識と経験で工夫して、お金のかからない方法で自分のできる限りのことをしてあげたいんです。
以前のクリニックではたくさん経験を積まれたと聞きました。
経験だけは積んでいると思います。大学時代にアルバイトで通っていたのを含め20年近く勤めましたが、野良猫の避妊・去勢手術やその他の手術を10年以上はやってきましたので。ただ、同じ手術は二度とありませんから、どれだけやっても慣れるということはないんです。同じ病名の病気であっても、治療の対象はすべて違う子ですから。過去に治療したのと似たような症例であれば「自分にも何とかできるだろう」と思うだけで、手術が得意なわけではないんです。勤務医時代は何人もの若手のドクターを見てきましたが、かつての私より不器用な獣医師は見たことがありませんから。
診療の際、どんなことを心がけていますか?
わかりやすく説明することです。獣医師はサービス業であり、診療の時間はある意味、飼い主さんを安心させたり喜ばせたりするエンターテインメントの時間でもあると思っています。逆に言えば、飼い主さんに喜んでいただくためには、私の話に集中して耳を傾けていただかなくてはなりません。きちんと話を聞いていただくためにも、難しい言葉をいかに噛み砕いて説明できるかという部分を常に考えています。それに、当院はどんなことでも気軽に相談に来られるクリニックをめざしているのに、難しい専門用語を並べたら、ハードルが高くなってしまいますよね。もう一つ心がけているのは、インフォームドチョイスです。こちらが「こうしましょう」と言うのではなく、わかりやすく説明した上で選択肢を提示し、飼い主さんに選んでいただきます。大学病院や専門のドクターをご紹介するのも選択肢の一つですが、あとは私自身がどれだけベストな選択肢を提供できるかなので、日々の勉強は欠かせません。
身構えず気軽に来られる場でありたい
先生が獣医師をめざしたきっかけを教えてください。
自分ではよく覚えていないんですが、3歳の頃から獣医師になると親に言っていたそうなんです。理由はすごくシンプルで、小さい頃によく両親が動物園に連れて行ってくれて、それで動物園の獣医師になりたがったようですね。三つ子の魂百までと言いますが、3歳での決意が学生になってもずっと変わらなったという、ただそれだけです。「めざす」というよりは、他の将来像をまったく考えなかったというほうが正しいかもしれません。
獣医師としての今を左右したような出会いはありますか?
今こうして獣医師として働けているのは、すべて前の勤務先の院長のおかげと言っても過言ではありません。常に10人以上の獣医師を雇って事業としても成功している方ですが、とにかくさまざまな面で凄い人だと思います。例えば、「自分がカバーするから」と言って、若いドクターにどんどんやらせる教育の姿勢。やらなければ育たないからというのが口癖でしたが、あの徹底ぶりは自分には決して真似できません。あれほど不器用だった私が何万というオペをやり遂げてこられたのも、その教育方針のおかげです。技術面などはもう、圧倒的ですね。すべて学んでやろうと思っていたのですが、20年近くそばにいながら結局、全部の引き出しを覗くことはかないませんでした。底が知れません。私が今のあの方と同じ年齢になった時、同じレベルまで上がっているかと聞かれたら、無理だろうなと思います。
では、かなりその方から影響を受けたのですね。
もちろんです。技術的なことは当然ですが、それ以外にもたくさん影響はありますね。例えば、その院長が熱心にやっていた動物愛護の運動。開院した今、私もその一端を担っています。その運動というのは、かわいそうな猫ちゃんを増やさないために、野良猫を捕獲して避妊・去勢の手術を行い、また元の生活場所に放すというTMR(トラップ・ニューター・リリース)です。「われわれは動物に食べさせてもらってるんだから、少しくらい動物たちに返すのは獣医師として当然だろう」というあの言葉は忘れられません。
最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
繰り返しになりますが、気軽に来てくださいということですね。これも前の職場の院長が言っていた受け売りですが、町の動物病院は「飼い主さんが気軽に来られなければしょうがない」と思っているからです。まだ以前の病院に勤務していたある時、患者さんをなるべくお待たせしないよう予約制にしたらどうかとその院長に提案したところ、来たい時に来られなくなると反対され、なるほどと感心したものです。よし、診てもらいに行くぞ! と構えるクリニックではなく、お散歩中に何か食べてしまったみたいだけど大丈夫かな、などと言って立ち寄っていただけるような場でありたいと思っています。