常住 直人 院長の独自取材記事
small animal clinic
(千葉市中央区/千葉駅)
最終更新日: 2024/10/11
JR総武本線千葉駅西口から徒歩10分、京成千葉線新千葉駅からも徒歩5分の「small animal clinic」。エキゾチックアニマルに特化して、2016年に常住直人(つねすみ・なおと)院長が開業した動物病院だ。近隣はもとより南房総など遠方から訪れる飼い主も少なくない。白いシンプルな空間にカラフルな椅子が配置された待合室はとてもスタイリッシュ。しかし、それはおしゃれな雰囲気を演出したいからではなく、さまざまな動物たちがストレスなく過ごせるようにするためだとか。飼い主と動物たちの幸せな生活をサイエンスで支えたいという使命感を持ちながら、小さな頃から親しんできた小動物の話になると少年のように目を輝かせる。そんな常住院長に診療にかける思いなどを詳しく聞いた。(取材日2024年10月1日)
高度な医療技術と創意工夫でさまざまな動物を診療
まず、獣医師を志したきっかけやご経歴を教えていただけますか。
小さな頃から生き物好きで、さまざまな動物を飼っていました。といってもペットショップで買ってもらうのではなく、自分で捕まえに行くんです。実家は千葉県の自然豊かなエリアにあり、母屋とは別にあった納屋の2階を勝手に飼育部屋にしていました。ザリガニ、カメ、トカゲ、ドジョウなどを飼育するために、図鑑や飼育書はかなり読み込みましたね。成長するに従い、学問としてもっと生物を学びたいと思うようになりましたが、細胞レベルを扱うことが多い生物学はちょっと違うな、と。興味があったのはあくまでも個体なので獣医学が近いと考えたんです。飼育部屋の原体験ゆえか、日本大学生物資源科学部獣医学科入学当初から将来はエキゾチックアニマルを専門にしようと決めていました。卒業後は田園調布動物病院に勤務。多種多様な動物の診療経験を積んだ後、開業したのは2016年です。
どのような動物を診てもらえるのでしょうか。
有毒種・サル類・法律により飼育が禁止されている動物以外は基本的に受けつけています。訴えはヒトや犬猫と変わらず、元気がない、食欲がない、おなかを壊したなどいろいろです。一般的な動物病院と同様に、身体検査、血液検査、エックス線検査、超音波検査、生検検査など一通りの検査体制も整っています。
エキゾチックアニマル特有の難しさはありますか。
わかっていることのほうが少ないのがエキゾチックアニマル診療の世界です。検査結果の解釈は分類が近い動物の報告を参考にするなど、難問を解くようにアプローチしなければいけないこともあります。また、うさぎ、モルモット、チンチラなどは診察台の上でびっくりして暴れ、落下するリスクがあるのでタオルでくるんで検査します。服薬や注射による内科治療の他、外科的手術も行っていますが、使用する道具が市販品ではフィットしないこともしばしば。必要に応じて自作するなど創意工夫が必要です。
一番珍しかったのはどんな動物ですか。
「具合が悪そう」と連れてこられた深海生物のオオグソクムシでしょうか。これまで培ってきたネットワークを生かし水族館の先生にも相談してみたところ問題ないとわかりました。飼い主さんの心配をよそに問題ないことも多いのですが、その逆も然り。特にエキゾチックアニマルは何が正常なのかわかりにくいですからね。精巣や乳首を「腫瘍でしょうか」と相談されることもありますが、笑い話になるほうが見逃すよりもずっといい。少しでも気になることがあれば遠慮なくいらしてください。
飼い主と動物との幸せな暮らしをサイエンスで支える
よく診るのはどんな動物ですか。
ロゴマークにもなっているうさぎ、カメ、インコなどの小鳥を診察することが多いですね。うさぎは骨折しやすく治りにくい壊れ物のような生き物です。消化管の構造も犬猫と違い、基本的に終日何か食べています。そのため、半日も餌を食べなければ心配した飼い主さんから問い合わせがあったりします。一方、カメは食欲がなくても動かなくても「カメだしなあ」で放置されがちです。しかし、カメも動物なので、いつもと様子が違うようなら早めの受診をお勧めします。小鳥は籠から出して部屋の中で放鳥する方も多いのですが、放鳥には注意が必要です。飼い主さんの目を盗んで異物を食べたり、足で踏まれる、扉に挟まれる、お尻でつぶされる、料理中の油に飛び込む……などの事故が多発します。動物ごとに注意するべきポイントがありますので事前に情報収集をして勉強されることをお勧めします。
エキゾチックアニマルならではの飼育の難しさもあるのですね。
人間が動物に感じる魅力は、かわいい、きれい、かっこいいなどいろいろとあります。中でもかわいい寄りのペットは触れ合いを求められますが、体が小さい種類も多いエキゾチックアニマルは触れ合いの最中に不慮の事故が起きがちです。「食べる様子がかわいらしいから」と、動物が喜んで食べるおやつばかりを食べさせてしまう飼い主さんもいます。その結果、動物が体調を崩す場合もあります。かわいがっているからこそ、飼育上のミスで動物の健康を損なってしまったら、飼い主さんは悔やんでも悔やみきれませんよね。「自分が飼っていなければ、この子はこうはならなかった」と後悔することがないよう、正しい飼い方をお伝えするのも僕たちの使命だと思っています。
診療において大切にしていることは何ですか。
かわいがるだけでは駄目というのも真実ですが、飼い主さんには心置きなく「かわいい」を満喫してほしいという思いもあります。「本来ならばもう少し元気で一緒に暮らせたのに」と飼い主さんが悲しまなくて済むように、防げる病気、事故は徹底的に予防し、治療できる疾患はしっかりと治していきたいと考えています。「うちの子は最期まで幸せだったね」という飼育体験をサイエンスで支えるのが僕らの仕事です。そもそも、僕は生き物たちをかわいがるというよりも正しく理解したいと思いこの道に進みました。その興味の延長上で飼い主さんと動物の良い関係を提供するお手伝いができていれば望外の喜びです。
初心者からマニアまで誰もが足を運べる場所でありたい
今後の展望についてお聞かせください。
これからも、これまでどおりの診療を続けていければと思っています。待合室に自由に動かせる椅子しか置いていないスタイルも開業当初から変わっていません。飼い主さんたちが連れてくる動物によってキャリーケージの大きさが異なるので、臨機応変に必要なスペースを確保できるようにしたかったんです。加えて、動物たちがケージから逃げた時に隠れてしまわないよう調度品で物陰をつくらないようにしました。動物たちはもちろん、どんな飼い主さんにとっても立ち寄りやすい場所であり続けたいと思っています。エキゾチックアニマルは確かに犬猫に比べればマイナーな存在ですが、体調を崩したり健康管理に疑問が出た時に頼れる場所があると安心して飼育できると思います。
お忙しい毎日かと思いますが、リフレッシュ法はありますか。
自宅にも飼育部屋があり、40匹ほど飼っているカメやイグアナの世話をするのが気分転換になっていますね。一番の古株は手のひらサイズのハコガメで学生時代からの付き合いです。危険を感じると甲羅で蓋をして箱みたいになるのですが、気を許して全然“箱”になってくれません。働き出してからはできていませんが、大学時代はバイトをしてお金を貯めては、コスタリカ、マダガスカル、マレーシア、フロリダ半島などへ、そこにしか生息していない固有種を見に行くのが好きでした。ガラパゴス諸島では、ロンサム・ジョージという愛称で知られていた最後のピンタゾウガメにも会えたんですよ! まだまだ見たい動物もたくさんいるので、いつか子どもたちと一緒に行けたらいいですね。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
新型コロナウイルス感染症の流行以降、エキゾチックアニマルを飼うご家庭が増えていると実感しています。以前のようにマニアックな興味からではなく、今は犬や猫と同じような感覚でスタートする方が多いですね。それで違和感なく飼育できる動物もいれば、まったく違う動物もいます。動物を適正に飼うためには、正しい知識を持ち、人間とのちょうど良い距離感を保たなければいけません。そのためにも、正しい情報をお伝えできればと思っています。常に調べ、試し、工夫し問う姿勢が問われるのは大変ですが、それこそがエキゾチックアニマルならではの飼育の醍醐味(だいごみ)です。知的好奇心を刺激してやまない毎日を全力でサポートしたいと思っています。