佐野 亨 院長の独自取材記事
けい動物医療センター
(名古屋市千種区/覚王山駅)
最終更新日: 2024/10/22
覚王山駅3番出口を出てすぐ、大通りに面した場所にある「けい動物医療センター」。こぢんまりとして落ち着いた雰囲気の院内に入ると、ケージには治療中の保護猫がおり、看護スタッフが優しくケアをしていた。佐野亨院長はこの場所で20年近く、さまざまな動物の診療を行ってきた。特に近年はエキゾチックアニマルの診療が多く、正しい飼い方やしつけなどについて、アドバイスや啓発にも力を入れている。「健康で長生きするためには、人間と同じように健診などの予防医療が大事」と語る院長に、飼い主へのアドバイスやペットとの暮らしについて、また治療や緊急時の負担を少なくするために必要なしつけについても話を聞いた。 (取材日2024年9月5日)
動物への思いを重ねた20年
この場所で開業されて、約20年たつそうですね。
その前も近隣のエリアで診療していました。当院には近くにお住まいの方はもちろん、ホームページなどを見たりクチコミを聞いたりしていらっしゃる方も少なくありません。犬や猫、小鳥はもちろん、うさぎ、モルモット、チンチラ、ハムスター、カメや猿に至るまで、エキゾチックアニマルと呼ばれるさまざまな動物も診ています。そうした珍しい動物を飼っている方が駆け込んでいらっしゃることもあるんです。マーモセットや、猿回しの方がニホンザルと一緒に来たこともありましたね。長く開業していると、ペットのトレンドの移り変わりや、飼い方への意識など、変化を感じることも多いです。最近では犬の飼育は減って、猫は横ばい、それ以外の動物が少しずつ増えてきている感じです。
獣医師をめざしたきっかけについてお聞かせください。
子どもの頃、犬を拾ってきて飼ったことがありました。かわいがっていたのですが、ふと手を滑らせて抱いていた犬を落としてしまい、犬が骨折してしまったんですよ。実家のさまざまな事情もあり、その犬とはお別れをすることになってしまいました。きっとそのつらい経験が、どこかで胸に引っかかっていたんでしょうね。進路選択の時に、獣医師になろうと決意しました。当時獣医学部で教えられるのは、ほとんどが産業動物について。牛や豚、馬といったいわゆる家畜のことをメインで学びます。だからペットについては、自分から学んでいかなければならないことが多かったです。特にエキゾチックアニマルは、もちろん何も知らないところからのスタートでした。
さまざまな動物について、どのように学びを深めたのですか?
研修先の先生がさまざまな動物を扱っていたので、そこである程度経験を積めました。開業当初から、エキゾチックアニマルも断らずに診療してきたので、診る機会は多少多かったかもしれません。自分で学びながら、実際の動物を診ながら、一歩ずつ経験を積み重ねてきたと思います。もともと犬が好きでしたが、猫には猫のかわいさがあるなあとも感じます。カメやトカゲも見ていると独特のかわいらしさや魅力があって、飼う方が増えているのもうなずけます。これからもできる限り断らず、さまざまな動物と向き合いたいです。
珍しい動物の正しい飼い方を知ってほしい
エキゾチックアニマルを診療していて、気になることはありますか。
これだけエキゾチックアニマルが人気になったのは、あまり鳴かず、体も小さいからだと思います。都会のマンションなどの部屋で飼うには、ぴったりだと感じるんでしょうね。騒音を立てず、コンパクトなスペースで飼えるというメリットです。しかし、エキゾチックアニマルは寄生虫を持っている場合も多いので、その点を意識してほしいですね。排泄物の処理や触れ合いの際にも、少し気を配る必要があります。また正しい飼い方を知らずに飼っている方も多いんですよ。病気になって動物病院へ来る前に、まずは動物それぞれの飼い方を知って、病気にならないように飼ってほしいと思っています。
正しい飼い方を知るにはどうすれば良いでしょう。
病気にならないように飼ってほしいという思いを込めて、動画共有サイトで発信をしています。比較的人気のある動物について取り上げて、えさや住環境、注意すべき点などをまとめてお話ししています。来院された飼い主さんに一つ一つお話ししても、忘れてしまうこともあるでしょうし、気になることがあった時に参考にしてほしいなと思っています。お話を聞くと基本的な食べ物・えさが間違っていることも多いです。例えばうさぎは草食動物ですが、自然の生態では木の根や枯れ草なども食べます。草食だから野菜をあげれば良いと思っていても、それだけでは繊維質や栄養面で足りない部分があります。うさぎ用の干草も混ぜてあげることも必要です。日光浴が必要な動物も窓越しでは足りない場合がありますし、温度差で体調を崩す場合もあります。適切な住環境についても知ってほしいですね。さらに、病気にならないために予防医療も必要です。
動物にも予防医療が必要なんですね。
例えば予防接種や予防薬。必要な処置をするのはもちろんですが、少し広い目線で選択肢を増やすこともお勧めします。有名なところではフィラリアでしょうか。犬だけでなく、猫も感染するリスクがあることは知ってほしいです。感染率は犬と比べて低いのですが、猫の心臓は小さいので、もし感染した場合には症状は重くなるかもしれません。猫の飼い主さんにも、フィラリア予防の意識を持ってほしいです。また、身近なところでは歯のケアも重要です。歯を磨かず歯周病になってしまうと、全身疾患のリスクが高まり、進行も早まってしまいがちです。予防の一環として、小さい頃から歯磨きを習慣づけてほしいですね。
予防医療としつけで幸せなペットライフを
動物の健康診断は必要ですか。
予防医療の最たるものは、健診です。犬や猫であれば1年に1回程度は、動物病院で健康状態をチェックしたほうが良いでしょう。犬や猫の1年は、人間にとっての5〜6年にあたると考えれば、妥当だと感じるのではないでしょうか。エックス線検査や心電図検査、血圧検査、血液検査に加えて、検便や尿検査によってわかることは多いです。動物によってはエックス線などは難しいかもしれませんが、ぜひ全身の健康状態や病気に罹患していないかチェックしてほしいです。
さまざまな動物の飼い主にアドバイスしたいことはありますか?
正しい飼い方の先に必要なのが、しつけです。きちんとしつけられていれば、緊急時や治療の時などに、動物も飼い主も負担が少なくなります。大抵の動物は同じ方法でしつけることができるんですよ。その最初の一歩がハンドフィードです。手に載せた餌を食べさせて、できたら褒める。さらに名前を呼んでアイコンタクトできたら、また褒める。最後には遠くから呼んで、こちらに来れたら褒める。そうやって繰り返していくことで、多くの場合飼い主が呼びかければきちんとやってくることができるようになります。非常にシンプルな方法ですが、毎日繰り返すことが重要で、言うほど簡単ではないんですよ(笑)。でも、大切なペットのためにも最低限のしつけとして取り組んでほしいですね。
先生の動物を思う気持ちが伝わりました。
どんな動物も飼い主さんにとってかけがえのない存在だと思います。できれば病気やケガをせず、健康に長生きしてほしいですよね。そのためには、病気になってから動物病院に行くのではなく、予防医療を受けるため、飼い方を知るため、しつけを教えてもらうためといった理由でも来院してほしいです。飼い主さんが少しでも多く知識を身につけ、ペットを適切にケアすることで、お互いに楽しく暮らせると良いなと思っています。そのためのお手伝いを続けていきたいと思います。