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田原琢也 院長の独自取材記事

たはら動物病院

(川崎市中原区/元住吉駅)

最終更新日: 2023/01/22

東急東横線元住吉駅から綱島街道沿いに日吉方面へ徒歩7分。尻手黒川道路と交差する木月4丁目交差点のすぐ手前にウッディな外観の「たはら動物病院」が見えてくる。2011年3月に開院した新しい病院だ。隠しごとなくすべてを提示し、動物本位の治療にこだわる田原琢也院長。幼い頃に飼っていた犬の死因が最後まで明らかにされなかった経験から、「わからない」ということを極力なくしたいと考えている。散歩の途中でも気軽に寄ってもらえる、地域に根ざした動物病院を目指す田原院長。得意分野の皮膚科についてのお話から、犬や猫の間で増えてきているという腫瘍に関するお話まで、わかりやすい語り口でたっぷりと語っていただいた。(取材日2011年8月22日)

高齢化にともない増えてきた犬・猫の腫瘍

開院はとても印象に残る日だったとのことですが。

実は当院がオープンしたのは、3月11日、東日本大震災の当日だったんです。揺れと同時に停電になったりしましたが、ケガをした動物たちが運び込まれてくるかもしれないと、緊張した時間を過ごしていました。実際にはそういったケースはありませんでしたが、およそ2週間くらいは必要な薬が届かなかったりと、たいへんな時期を経験しました。その後は、たいていの薬は届くようになりましたし、皆さん落ち着かれたのか徐々に来院される方が増えてきました。

街の印象はいかがですか?

元住吉は親しみやすくてとても気に入っています。様々な地域で物件を探していたのですが、武蔵小杉周辺で物件を探しているとき、不動産屋さんは「空きテナントありません」の一点張りだったんですが、自分自身で綱島街道を歩いていてここを見つけました。運命的なものを感じましたね。幹線道路が交わっていてわかりやすいところですし、駅のすぐ近くではないので、人の往来もほどほどという点も気に入っています。駅前など多くの人がごった返していると、犬や猫が怖がってしまうこともありますから。

どんな種類の動物を診ていらっしゃるのですか?

犬と猫が主体です。医療ですし開業したてでゆとりのない状況のため守備範囲を広げて無理をすることはしません。犬と猫だけでも多くの病気がありますし、現状ではそれだけに絞っています。犬や猫以外の動物に関しては、ご相談いただければ、きちんと診られる先生を紹介しています。

では、犬や猫に関して、最近の病気の傾向などはありますか?

私が獣医師になった頃にはすでに始まりつつあった傾向だと思うんですが、高齢化に伴って腫瘍が増えてきているという印象です。腫瘍の種類は、非常に多岐にわたっていて、乳がん・胃がん・肝臓がんなどのほか、全身性の腫瘍であるリンパ腫もあります。かつての犬の主な死因のひとつであったフィラリアなどが優れた予防薬の開発で減少し、平均寿命が延びたことによって高齢の動物に発症することの多い糖尿病や腫瘍などが増加してきました。人間と変わりありませんね。犬や猫は人間の4倍から5倍の早さで生きている計算になりますが、ある意味でヒトの縮図みたいなものだと思います。当院を開いてからでも、17、18歳くらいの犬で、脳の腫瘍を疑うケースがありました。ただ、脳の中となると、当院では正確な検査ができません。大学病院のような二次診療施設でCTやMRIを使って調べないと本当のところはわからないんです。しかし、動物の場合は人と違って、そういった検査は全身麻酔下で行われます。当然、動物が高齢になると、検査や手術を望まれないご家族の方も多いので、その場合は対症療法をするしかありません。これも、脳の腫瘍という正式な診断がついていないので、脱水の補正や鎮痛薬の投与など動物の苦痛を減らすための処置となります。腫瘍の摘出手術は当院でも行うことがありますが、脳や肝臓・胸の中などの非常に難易度の高いものは、二次診療施設にお願いをしています。当院で麻酔をかけて診断、その後に二次診療施設で再度麻酔をかけて治療といったように、麻酔を2回かけるのではなく、最初から二次診療施設で診断〜治療をしていただくことで、動物の体力面でも、ご家族の経済面でも、少しでも負担の少ない方法を提示するようにしているんです。

幼い頃に亡くした飼い犬への思いが獣医師となるきっかけに

先生のご専門とされる治療はなんですか?

専門ではありませんが、得意なのは皮膚科の診療です。とくに、犬アトピー性皮膚炎や食物アレルギーに関する学会にはいくつか参加しています。皮膚というのは、最もご家族の目につくところなんですね。内臓の病気というのは気づきにくいものですが、皮膚については、赤くなったり毛が抜けてきたりしますし、掻いているだけでも異常がわかりやすいです。来院する動物の半分くらいは皮膚科の病気なのではないでしょうか。実際、かゆいのはつらいことなので、それを助けてあげられるというのは私にとっても嬉しいことです。

皮膚の病気の難しさというのはありますか?

アレルギーの場合、その原因を判別・特定するには検査が必要なんですが、これがすごくコストがかかるんです。だいたい1回につき 4〜5万円はかかります。しかも、原因物質(アレルゲン)としてハウスダストが同定されることが多く、そうすると、いわば原因は 生活環境そのものということになりますから、完全に排除することはできなくなってしまいます。また、ある食物が原因ということがわかっても、代わりに別のものを食べさせたら、今度はそれがアレルゲンになってしまうということもあります。アレルギーの検査と治療との関係はイタチごっこみたいな一面があるんです。ただ、ひとつの要素がわかれば、その分だけでも症状を和らげることができることも多いです。ハウスダストや花粉、食物などアレルゲンは数多く存在しますが、現在は一昔前に比べて精度の高い検査ができるようになっていますので、以前は見逃していた原因も特定できるようになりました。さまざまな事情で検査ができない場合でも、ご家族との会話のなかから、食事の時間や排便の回数など普段の生活のようすや生活環境、季節性の有無など、いくつもの情報から類推し、アレルゲン疑いのものへの暴露を減らす工夫を一緒に考え、さらに必要であればかゆみ止めなどを使っていくようにしています。

先生はなぜ獣医師になったのですか?

私が小さい頃にシェットランド・シープドッグを飼っていたんですが、3年くらいで亡くなってしまったんです。もちろん、動物病院にかかっていたんですが、結局、最後まで死因がわからないと言われてしまったんですね。そのことが子どもながらに釈然としませんでした。ずっと心に引っかかっていて、高校時代に進路を考える際に、最初に浮かんだのがこの職業でした。ですから、獣医師として、「原因がわかりません」ということができるだけないようにしたいというのが僕の目標です。ただ、現実的には、当院の設備だけではわからないと言わざるを得ないケースも多々あります。ただ、何とか道しるべだけはつけてあげたい。こうした治療法があります、もしくは治療をしないという選択肢もありますということも伝えますし、費用についてや、治療のメリット・デメリットについてもすべて話して、ご家族で方針を決めていただくようにしています。難しいのはご家族で意見が分かれてしまったときですね。「先生ならどうします?」と聞かれることもありますが、どれだけ頭のなかでシミュレーションをしても、完全にご家族の立場になれるわけではありません。本当のところ、どうするのが正解かはわからないことがほとんどです。ただ、とにかく意見がほしいと言われた時は、こうしてあげればこの子は一番楽なんじゃないかなと思えるような選択、つまり動物を主体とした意見を伝えるようにしています。

病気の早期発見と治療のため、誰もが気軽に訪れる病院を目指す

院内のつくりとしてこだわりはありますか?

とにかく温かみのある病院にしたかったんです。ログハウス風の外観にしようと昔から考えていました。中に入っても、レンガや木目を多く使ったりと、山小屋のような雰囲気ですね。ほかの病院では恐がっていた動物がここではリラックスしているという話も聞いています。それは僕の求めていたことそのものなので、とってもうれしいコメントですね。また、部屋の仕切りやカウンターの配置なども、全部、以前に勤務していた病院の院長やスタッフさん達に手伝ってもらいながら、自分で考えました。半分、手づくりのような病院です。

休日はどのように過ごされているのですか?

休みは勉強会や獣医師会での臨時休診を除くと基本的に木曜日しかないので、今は、足りないものを買いに行ったり、病院内の整理をすることが多いですね。月に2、3度、臨時休診を取らせていただいている勉強会は、以前働いていた病院の関係の先生方とやらせていただいているのですが、大学病院や二次診療施設から先生を招いて最新の獣医療のお話を伺っていますし、症例検討会を開いたりもしています。休みの間もほぼ仕事ですね(笑)。

今後はどのような病院にしたいと考えていらっしゃいますか?

病院としてのカラーはこのままでいきたいと思っています。一番の目標はご家族の方が笑顔で病院を出ていくことです。そのために自分の知っていること・考えていることをすべてさらけ出して、その中からご家族の方に治療法などを選んでいただき、お互いに納得しながら進めていきたいと考えています。地域に根づき、多くの方と仲良くなって、ちょっとしたことでもすぐ話していただけるような獣医師になりたいですね。散歩のついでに遊びに来て、話だけして帰っていただいてもかまいません。体重を測るぐらいでしたら当然サービスでやらせていただきますし、その際にちょっと触るだけでも異常があればものによっては発見できますので……。いつも見ていればいるほど、変化に早く気づきますし、早期治療にもつながります。日常的にいらっしゃることが難しい場合は、できれば定期的に健康診断としての全身検査をしていただきたいと思っています。そういった健康診断にはお金がかかりますし、何もなかったら損をしたような気がするかもしれませんが、早くに治療ができれば、動物にとってもご家族にとっても負担は少ないはずです。それに、繰り返しになりますが、犬や猫は、人間の4〜5倍の速さで生きているんです。動物にとっての半年は人に換算すると2〜3年です。その間に体に変化があることは、当然ありえます。ですので、7歳くらいからは1年に1度、10〜12歳くらいになったら半年に1度くらいは健康診断を受けさせてあげていただきたいと思います。言葉をしゃべれない大切な家族の一員のために。

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