平野由夫 院長の独自取材記事
ひらの動物病院
(大和市/中央林間駅)
最終更新日: 2021/10/12
中央林間駅から徒歩5分。落ち着いた町並みのなかに「ひらの動物病院」がある。1992年の開業から、もう20年。地元になくてはならないクリニックであると同時に、腫瘍医療やがんの免疫療法など最先端医療を求めて遠方から訪れる患者にとっては、最後の砦とも言える場所である。「本当に2次診療の必要性があるのかどうかをきちんと判断し、適切な医療機関をご紹介できることこそ1・5次診療であり、僕の診療スタンスです」と、穏やかに微笑むのは平野由夫院長。高度医療センターで勤務された経験からにじみ出る言葉はどれも力強く、動物たちを見つめる瞳は常に優しさにあふれている。飼い主である家族に寄り添う気持ちを決して忘れることはない。「最後まで動物たち、そして飼い主も癒し続ける医療を目指したい」という平野院長に、日々の診療で感じる思いや高度医療を学ばれるきっかけ、今後の展望や獣医師を目指した理由などプライベートなお話まで、たっぷりと語っていただいた。 (取材日2011年01月05日)
正しく診断をし、高度医療の必要性もきちんと判断できる「1・5次診療」を目指して
こちらを開業されたのはいつですか?
1992年ですから、ちょうど丸20年目になります。僕は藤沢にある日本大学の卒業。当時、三軒茶屋にあった付属病院に通っていたこともあり、どちらにも交通の便のいいこの地で開業を決めました。患者さんは、ここ10年くらいは、もうワンちゃん、ネコちゃんがほとんどですね。基本的にはお近くにお住まいの方が中心。一時期、大型犬ブームもありましたが、今はまた圧倒的に小型犬ばかりです。みなさん、本当にご家族の一員として温かく迎えていらっしゃるという感じがします。可愛がり方も10数年前とは比べものにならないような気がします。病院にも熱心に通われて、予防接種や定期健診をきちんと受診される方ばかりですから、以前のようにかなり病状が進んでしまってから来院するということは少なくなりました。それに20年も経つと、小さいお子さんだった飼い主さんがご自身のお子さんを連れて来院されるようになったりもして。やはり時の流れを感じますね。
先生は高度医療にも力を入れていらっしゃるそうですね。
はい。腫瘍医療やがんの免疫療法も行っていますので、そういった治療を希望される方はいろいろと調べて、山梨や御殿場、静岡といった遠方からも来院されます。どうしても生死が関わってきますから距離や時間は関係なく、「この子にとって一番いい医療はどこにあるのか」という思いがあるのでしょうね。ただ、僕は必ずしも、このクリニックで治療を受けなければいけないというスタンスではないのですよ。例えば高度医療も実際どういうもので自分の子に適合するのかどうか、費用の問題も含め、通常のクリニックではなかなかじっくり聞けないし、そういう話だけを聞くために大学病院に行くのも現実的には難しいはず。よく「1・5次診療」というと、2次診療施設並みの検査機器や病院設備を揃えたクリニックのことを指しますが、僕の考えは少し違います。本当に2次診療に行く必要があるかどうか、逆を言えば、1次診療で正しく理論立てて検査をし、確定診断で治療できないかを判断する、そして、2次診療が必要と判断してもご家族が希望されないなら1次診療でできることをきちんと説明する、それこそが1・5次診療だと僕は位置づけているのです。近くのクリニックでできることもあるかもしれないし、高度医療が必要かと思っていたけれど実際には許容できないといった場合も多々ありますから、まずは話を詰めることこそが診療のスタート。最近、高度医療希望の方が増えてきたのは、必要とする病気が増えているというより、ご家族の意識が正しい医療を求める方向に変化しているということなのだと思います。であるからこそ、なんでも2次診療施設に丸投げしてしまうのではなく、本来は1次診療施設側が「どこなら何ができる、ここならここまでしてもらえる」ということを知っていて、適切な診療の受けられる施設を選択してご紹介する、それも大事な僕のスタンスですね。
ペット、ご家族、先生、それぞれの関係についてはどうお考えでしょう?
僕がするのは基本的に、必要な検査を正しく実践し、得た情報を客観的に評価して提示する、それだけなんですよ。ご家族にはそのなかから自分がその子に施したい治療やケアの仕方を選択していただきますが、実際には、その希望されたことすらできない場合もあります。患者であるワンちゃん、ネコちゃん、飼い主であるご家族、そして僕の3点がそれぞれ譲歩し、上手に着地点を見つけたのなら、たとえそれが学問的に少々ずれていたとしても、ホームドクターとして責任のもとに自信を持って施してあげられるのが1次診療のメリット。最終的な落としどころは、飼い主さんがワンちゃん・ネコちゃんに何をしてあげたいかというエッセンスが入って決まることなのだと思いますね。
獣医師人生の新たな一歩として高度医療を勉強
先生はずっと獣医師を目指されていたのですか?
そうですね。小さい時から動物が大好きで、犬や猫に関わる仕事といったら獣医師しか思いつかなかったですね。もう小学生の頃からずっと、毎年作る文集にも「大きくなったら獣医さんになりたい」と書き続けていました。いつの間にか自然に目指すようになり、そのまま獣医師になったというかんじです。夢というより、とにかくひらすら言い続けていましたから、自分としては当たり前のように獣医師になったというほうが正しいかもしれませんね。
高度医療を学ばれるきかっけはどういったことだったのでしょう?
実は、高度医療を学ぼうと思ったのは40歳になってからなんです。ずっと「誠実でありたい」という思いを持ち続けながら診療してきたのですが、さまざまな高度医療機器も出てくるなど、獣医療はここ10年で劇的に変わったと実感。とくに学生たちを見ていると、僕らは触れたこともないような機器を当たり前のものとして学んできている現実に戸惑いました。25歳で獣医師になって20年。もしかすると獣医師人生の半分くらいまできたのかなと思ったら、このまま終わってはまずいなと。でも、自分1人で学ぶのには限界もある。それで、どこか研修先はないかと探していたら、ちょうど高度医療センターの開業を知ったのです。「勉強させてほしい」とメールを出したら、幸運なことに受け入れていただけて。きっと開業のドタバタの時期だったからこそ可能だったのでしょうね(笑)。そこで出会った先生方は、まさに最先端医療を行く優秀な方々ばかり。初めて見る診療の仕方、これまでとまったく違う考え方、そのすべてがカルチャーショックそのものでした。本当に多くのことを学ばせていただき、間違いなく、僕にとって大きな分岐点になったと思っています。
ご自身の自由な時間はどのように過ごされているのですか?
こういう仕事ですから、例えば、お正月だろうと場合によってはワンちゃんたちをお預かりしていますし、日々、入院管理もしなければなりません。よく、ほかの職業の方から「いつ息抜きしているの?」と聞かれるんですが、僕自身は苦になることは何もないんですよ。動物好きが幸いして、自分の時間が圧迫されているとも思いませんし。きっと切替え上手なんだろうと思います。病院を離れれば気持ちはリフレッシュしますから、健康のために通い始めたスポーツクラブで運動している時でも、中2の息子と一緒に過ごしている時でも、ただ自宅のリビングでくつろいでいる時でも、何でも構わない。それぞれの時間が僕にとって大切なひとときですね。また、リフレッシュとは違いますが、3月の震災以来ずっと、福島第1原発から20キロ圏内の警戒区域に取り残されたペットたちを保護する活動にも参加、何度も足を運んでいます。いろいろな考え方があってなかなか活動が受け入れていただけなかったり、ペットたち自身も時間が経てば立つほど保護が難しくなっている現状があり、ジレンマを感じることも多いんですよ。ぜひ、多くの方々に、他人事と思わず、もっと関心を持っていただけるとうれしいなあと思いますね。
最後まで、ペット、そして家族の心をも癒し続ける医療を目指して
新しい待合スペースはとても温かい雰囲気ですね。
クリニックと道路を挟んだ向かい側に、2011年8月にご来院のご家族専用スペースを設けました。患者さん同士のサロンのようになっていて、「まだゆっくりしていたいから、診察の順番をとばしてください」とおっしゃる方もいるくらいなんですよ(笑)。実は、こういうスペースを作ろうと思ったのも、2次診療施設で腫瘍医療に関わっていたことが発端。そういう高度医療機関にかかるペットたちというのは、ほぼ100パーセント死期の近い病状にあることが多く、初診のごあいさつを交わした数時間後には、検査を終えて告知が始まるのが現実です。ずっと葛藤を抱え頑張っていらしたご家族は泣き崩れ、もう後半は聞いていただけないような状態も多くあります。結局、「資料を持ち帰ってかかりつけの先生と充分にご相談くださいね」という話になり、ご家族のフォローをまったくできないことも多々あったのです。1年半の勤務で、2次診療施設の医療の素晴らしさと当時に、足りない部分もあると気付きました。僕にとってのホームグラウンドは間違いなくこのクリニック。欠落していると感じた部分を補っていこうというのが行き着いた終着点だったのだと思います。でも、抗がん剤の話をした直後に同じ場所で同じ人から癒しの話をされても成立しないですよね?ですから、専用スペースが必要であり、カウンセリング専門の先生のお力もなくてはならないものなんです。待合スペースはご家族にとっての癒しの場所。「クリスタルヒーリング」などの講座を開いているのも、科学的根拠はないけれど、ご家族をケアする方法としてはきわめて有効な技術だと思うからです。さまざまなご事情からご自宅でのケアを選択する方もいらっしゃいます。「痛いことはしない、病院に連れていかずに家で……」という言葉は、言葉は優しくても、本当はご家族がすべてを背負わなければならない一番つらい選択肢だということを、ほとんどの方はご存知ありません。そんな時も、ここで癒しの医療が受けられるということが一つの選択肢となり、わずかでもお役に立てたらと思っています。
動物たちの健康を守りつつ、明るく快適な生活を送っていくために、読者にメッセージをお願いします。
これまでの動物医療は、ずっと病院主体で行われてきたと思うのですが、本来、病院は学問的に正しい情報を提供する場であり、そこから家族であるワンちゃんネコちゃんたちに何を施すかは、ご家族が決めるべきこと。もし、提示されたものが自分たちにとって不都合だったり、施してあげたいと思うものでなかったのなら、それが実現できる病院を探されたらいいと思うんです。そういう意味では、僕はご家族のニーズに合った医療を心掛け、新しい専用スペースも有効に生かしつつ、選択肢の広い獣医療を目指していきたいと思っていますから、万が一、かかりつけのクリニックで何か手詰まり感を感じたなら、お話だけでも聞きにきていただけるとうれしいですね。ご家族が癒される方法は、きっといろいろとあるはずです。当院は、トータルで患者さんを診る僕のほかに、ご家族のケアや癒しの部分を診てくださるカウンセリングの先生、そして高度医療センターでも臨床検査を専門にされていた臨床検査の先生と、専門性の高い先生がいらっしゃいます。これからも、それぞれの専門性を一層生かし、できる限りの高いレベルの医療を、あくまでも患者さんに密着した診療の場で提供していきたい。そういった正しい医療を根底に、最後までワンちゃん・ネコちゃん、ご家族のケアを続けることこそ、僕の考える1・5次診療。それを貫ける施設でありたいと思っています。