福島惠子 院長の独自取材記事
K.I.Kベタリナリー・クリニック
(大和市/中央林間駅)
最終更新日: 2023/01/22
小田急線中央林間駅から徒歩10分。住宅街の中に猫が体温計を銜えたロゴマークと「K.I.Kベタリナリー・クリニック」の文字が見えてくる。中央林間で最も古い動物病院で犬や猫の診療を中心にトリミングも行っている。院長の福島惠子先生をはじめスタッフ全員が女性で、女性だからこそできる心遣いを大切にするアットホームな動物病院だ。こぢんまりとして清潔に保たれた院内と福島先生の笑顔に癒される飼い主も多いだろう。耳慣れない横文字の院名について訪ねると、「未だに正しく覚えてもらえないんですよね」と朗らかに話す福島先生に、その院名の由来や、獣医師としての思い、また、地域のほかの医院との連携やプライベートなお話まで、たっぷりと語っていただいた。 (取材日2012年2月1日)
中央林間で一番古い動物病院。ほかの病院との連携も大切に
こちらで開業されてどれくらい経ちますか?
1977年の春に開業したので、もう30年以上経ちますね。中央林間では一番古い動物病院です。ここは元々、税理士だった父が所有していた物件でした。病院名の「K.I.Kベタリナリー・クリニック」の由来はK.I.Kは私の名前「惠子」を英語で表記した「KEIKO」の頭文字の部分を並べたもの、ベタリナリーは英語で獣医師のことです。この名前は開業するときに父が付けてくれました。英語が好きだった父が「これからは○○動物病院なんて名前は流行らない」と言い出し辞書を片手に選んでくれたのですが、この名前には未だに困っています(笑)。覚えてもらえないし、正確に言ってもらえないので、もっと簡素な名前がいいなとも思いますが、途中で改名するわけにもいきませんし、娘のことを思う父の気持ちに感謝して今日まで来たという感じですね。
女性の獣医師が少なかった時代になぜ獣医師の道を選んだのですか?
女性の獣医師はほとんどいない時代でしたし、私も子どもの頃から獣医師になろうと決めていた訳ではありませんでした。でも、大学に進学する際、理系の科目が得意でその力を生かせないかと考えた時に獣医師という職業が頭に浮かんだんです。両親に反対されるかなと思ったのですが、意外に反対されませんでした。ただ、父の友人など両親以外の周囲の大人は反対し「女性の獣医師なんて大変だよ」と言われましたね。正直、あまり深く考えていなかったというのが本音なのですが、動物が好きという気持ちがあったからこそ出てきた選択肢だったと思いますね。
患者さんはご近所の方が多いのでしょうか?
そうですね。基本的にはご近所の方が多いですが、中央林間は動物病院の数が多いので、当院に近い人がほかの動物病院を選ばれる場合もあれば、少し離れていても当院を選んでくださる場合もあります。いくつかの近隣の動物病院の先生とは研究会などを通じて懇意にしていただいており、力を合わせて中央林間の動物医療の発展に尽力しています。お互いに気持ちよくなんでも話せる仲間としてお付き合いしていて、休診時の急患などは相互に患者さんを受け入れその内容を報告し合うなどして連携を図っています。この間も、この地域の動物病院があまりにも過密になってきているので、みんなで一つの連合病院を作ろうかなんて、話していたんですよ(笑)。
「治ってよかった」の積み重ねが原動力
診療の際に大切にされていることはなんですか?
飼い主さんとの信頼関係ですね。今、どんな状態で必要な治療は何かということをわかりやすく説明することを心掛けています。上から目線で話すのではなく、対等よりも下の気持ちで接するようにしていますね。そんなふうに接すると、飼い主さんの気持ちも軽くなり、普段は話せないようなことも話してくださいます。治療には正確な情報が必要ですから、飼い主さんからいかにして動物の様子を聞き出すかがポイントになります。ワンちゃんやネコちゃんは自分で話すことはできないし、飼い主さんもすべてをメモして覚えているわけではありません。「どうされましたか?」と訪ねるとどうしても直近のことしか出てこないと思いますから、「昨日は?」「一昨日は?」と掘り下げ、できるだけたくさんの情報をお話していただいた上で、治療に役立てるようにしています。
獣医師を辞めたいと思ったことはありますか?
責任がすごく重い仕事ですから、逃げたいと思うことも正直あります。元気になった子たちを見れば獣医師として治療に関われてよかったと思う反面、治してあげることができなかった時は、もっと何かできたんじゃないか、私じゃなければ助けられたんじゃないかという思いで一杯になります。でも、どんなに気持ちが落ち込んでもそれを飼い主さんに見せることはしません。感情を表に出してしまったら信用を失うことになりますからね。今でも、犬や猫が医院に入って来た瞬間に病状によっては「ちゃんと治せるかな?」と慎重になります。だからこそ、治してあげられた時は本当によかったと思うし、その積み重ねがあるからこそ獣医師という仕事を続けることができるんだと思いますね。
犬や猫の里親を探す大和市内の里親会「パクス大和」に参加されていますね。
主催者が当院の患者さんなので私もお手伝いをしています。里親会で預かった動物の中には病気の子や、避妊や去勢をしていない子もいますから、そういう子たちのケアをしています。世相を反映してか、倒産や離婚などが理由で飼えなくなってしまったワンちゃんやネコちゃんが多く、預かる場所がなければ保健所に送られてしまうというのが現状です。ありがたいことに、里親になりたいという方は多く、昔はペットを飼うなら子どもの時からという考えが一般的だったのですが、今はこだわりがないようで7、8歳のワンちゃんでも引き取り手があり嬉しいですね。新しい飼い主さんに渡った子はみんなとても大切にされています。赤ちゃんのときに私がミルクをやって育てたネコちゃんでも、新しい飼い主さんのところに行った後は、私のことを見てシャーッなんて威嚇してくるんですよ(笑)。幸せになってくれているのでいいのですが、ちょっと寂しいですね。
女性ならではの気遣いで気軽に立ち寄れる動物病院に
休日の過ごし方や息子さんの話を聞かせてください。
休みの日は何もせずゆっくり過ごしています。昔は友達の家に遊びに行ったりもしたのですが、すっかり出不精になってしまって。息子も一緒には出掛けてくれませんしね。家事もしますが、息抜きにはらないですね。どちらかというとストレスが溜まるかも(笑)。息子も獣医師ですが、臨床ではなく研究をするために大学院に通っています。私はこの医院を継いでもらうことは考えていませんし、彼の将来は自分で好きなように決めればいいと思っています。私が口を出して責任を持てるものでもないですからね。
今後の展望をお聞かせください。
まずは、得意分野を持つことですね。専門性を出していくことで、多様化する飼い主さんの要望にも応えていきたいです。私の場合は皮膚病に興味がありますので、その分野の知識をさらに増やし技術を向上させたいです。どこまでできるかわかりませんが、自分なりに誇れるものを作り、一次診療の医院として二次診療の医院を支えていきたいです。また、当院は私も含めスタッフ全員が女性ですので、これからも女性ならではの気遣いを大切にし、気軽に立ち寄れる医院にしたいですね。女性の獣医師だから気楽に話せると言ってくださる方や、ホームページやクチコミで女性の獣医師だということを知り、足を運んでくださる方もいらっしゃるので、そういった方の期待を裏切らないように、引き続き丁寧に対応していきたいと思います。
ペットを飼っている方やこれから飼おうと思っている方にメッセージをお願いします。
ペットを飼うときは流行に流されることなく、飼いやすい種類などを選んでほしいですね。テレビCMなどで起用されるとすぐに同じ動物がブームになりますが、飽きられるのも早く、結局は飼育を放棄されて保健所に持ち込まれるといったことが過去に何度もありました。飼うと決めたら10年以上は付き合う覚悟をしていただきたいですね。動物は途中で飼い主が変わることに大きなストレスを感じ、そのことを一生忘れません。心のどこか隅っこで捨てられたことを覚えていて、ちょっとしたことでも「また捨てられちゃうの?」と思ってしまうんです。犬には人懐っこい子もいれば、人間不信で臆病な子もいます。懐かなければ何も教えず、声をかけてごはんをやるだけでいいんです。誰かが愛情を持って飼ってあげることで、安心して心を開く日が来ると思いますね。飼育相談にも応じますので、不安や心配事があればいつでも来ていただけたらと思います。