下村香弥子 院長の独自取材記事
いずみペットクリニック
(横浜市泉区/立場駅)
最終更新日: 2023/01/22
横浜市営地下鉄の立場駅から徒歩5分。長後街道から一本路地を入った住宅街に、入り口脇の大きなリクガメがひと際目をひく「いずみペットクリニック」はある。院長の下村香弥子先生によると、リクガメはクリニックの門番で立派なスタッフの一員。院内では、看板娘や受付担当のかわいい猫や犬たちが患者を出迎えてくれる。同院の大きな特徴は、ホメオパシーやホモトキシコロジー、ハーブなどによる自然療法。動物自身の自然治癒力に働きかける自然療法には西洋医学に比べて、効き目が穏やかで副作用が少ないメリットがあるが、西洋医療との併用で抗がん剤やワクチンによる副作用の軽減や、治療に伴う苦痛の緩和などの相乗効果も期待できるそう。獣医師として動物の治療にあたるだけでなく、動物と飼い主が良好な関係を築くためのサポートをしていきたいという下村先生に、自然療法のことからプライベートまで、たっぷり語っていただいた。 (取材日2012年4月24日)
自然治癒力に働きかける自然療法、西洋医学と併用することも
とてもアットホームな雰囲気のクリニックですね。入り口のカメは先生のペットなのですか?
もともとは夫のカメです。最初は小さかったのに今は35キロはあるんですよ。キャベツが大好物だから、名前は「キャベ蔵」。キャベちゃんと呼んでいます。1日にキャベツをまるまる2個、ペロッと平らげます。待合室にいる猫ちゃんは、実は目が全く見えません。昨年の3月31日に、交通事故に遭って大けがをしていたのを警察官の方が連れて来たんです。運び込まれた時は全身血まみれの状態で、助からないかもしれないとも思いましたが、今ではすっかり元気になりました。ほかにもポメラニアンとジャイアント・シュナウザーという種類の犬2頭と、自宅に猫2匹がいます。
西洋医学だけでなく、自然療法を取り入れた治療を行っているそうですね。
自然療法といっても、いろいろな種類がありますが、当院が実施しているのは、ホメオパシーとホモトキシコロジー、自然食、ハーブです。人間もそうですけれども、生体には、病気を自ら治そうとする自然治癒力というものが備わっていますよね。自然療法は、この自然治癒力に働きかける治療法です。ホメオパシーやホモトキシコロジー、恐らく漢方も同じメカニズムだと思いますが、生体に、「体のこの部分でこんな不調が起きていますよ」と気づかせてあげることによって自然治癒力を呼び覚まし、改善に導いていきます。
自然療法のメリットはなんですか?
まずは効き目が穏やかで副作用が少ないこと。例えばワクチンは副作用がゼロではありませんから、なかには顔が腫れあがってしまう子もいますが、ホモトキシコロジーの注射を一緒にすることで、そうした副作用の発生を防止することができます。また抗がん剤治療は、体力の消耗が激しく、治療後にぐったりしてしまうことがよくあるのですが、自然療法を併用すると、そこまで体力が衰えることはなく、わりといい状態を保てることがあるんですね。表面に現れている症状は西洋医学で抑えつつ、その根底にある体の不調やゆがみは自然療法によって正常な状態に戻していく。西洋医学との併用でそうした相乗効果が期待できるのではないかなと考えています。もう一つのメリットは、治療の選択肢が広がること。西洋医学ではもう助ける術がないとなっても、まだできることがあるならしてあげたいと思うのが飼い主さんです。そういう時に、病気を治すことはできないけれど、苦痛を和らげて楽にしてあげることはできますよ、と自然療法をご紹介することがあります。
愛犬をしっかりしつけることで、飼い主の楽しみも広がる
自然療法に興味を持たれたきっかけは?
犬や猫は毎日、毎日、同じドッグフードやキャットフードを食べさせられていますよね。でも、それで本当にいいのかなと思ったのが最初のきっかけです。決して動物を擬人化するわけではありませんが、共に暮らす子たちに、もっと食の楽しみを知ってもらいたいし、動物としてもっと正しい食べ物があるのではないかと考えました。旬の野菜や肉・魚などを使って飼い主さんが食事を作ってあげることは、動物の健康管理に役立つだけでなく、きずなをいっそう深めることにもつながります。やはり飼い主さんが“楽しい”と感じることが、動物と暮らしていくうえで、もっとも大切なことだと私は思うんですね。そうした喜びを、もっと多くの飼い主さんに知ってほしいと考えたことと、あとはいくら動物医療が進歩したといっても、治せない病気はまだまだたくさんありますから、そういう時に動物をもっと楽にしてあげる方法がないのかなと思ったことも、自然療法に興味を持つきっかけになりました。痛みの緩和でしたらモルヒネがありますが、それだけでなく、もう少し違う選択肢があってもいいのではないかと考えたんです。
犬のしつけにも力を入れているそうですね。
人間社会で生きていくためには犬にも人間社会のルールを教えなければなりません。最低限のマナーを身につけていれば、ドックカフェやドックラン、旅行など、どこにでも連れて行けるようになって、飼い主さんの楽しみも広がります。ペットショップでは、子犬をものすごく早い時期に母親から離してしまいますから、犬社会での社会化さえ、できていないことが多い。人に歯を当てたり、お散歩中にほかの犬や人に吠えたりするところがあると、ほかの人がいない時間に散歩に行かなきゃいけなくなりますよね。すると犬との生活がつまらなくなってしまいます。散歩している時に、かわいいですねと声をかけられることが、飼い主さんはうれしいはずなんですよ。また、昨年の東日本大震災のような事態が起きた時、きちんとしつけができていて、ケージの中で大人しくしていられる子だったら、飼い主さんと一緒に避難所で過ごすことができますが、しつけができていない子は外や車の中で過ごすしかない。そうならないためにも最低限のしつけは必要不可欠です。少し厳しいことを言いましたが、飼い主さんが思っている以上に犬はいろいろなことを覚えますから、愛犬と一緒に勉強して、どんどんおりこうになっていくプロセスを見ることは、飼い主さんにとっても楽しいことだと思いますよ。
趣味は愛犬と喜びを分かちあうことができる、ドックスポーツ
獣医師を志したきっかけは?
私が獣医大学に入ったのは31歳の時です。それまでは全く違う仕事をしていた、というよりはフラフラしていたという表現が正しいかもしれません(笑)。獣医大学の受験を思い立ったのは、そろそろちゃんとした仕事をしなくてはと思ったことと、やはり動物が好きだったので、動物とかかわる仕事に就きたいと思ったからです。定年がなく一生続けられることや、ほかの仕事では得られない、やりがいを感じられるであろう点も魅力でした。
獣医師になってよかったと思うのはどんな時ですか?
動物たちが元気になって帰って行く時に、とても生き生きしている姿を見ることや、すっかり安堵された飼い主さんに有難うと言っていただけることが何よりもうれしいですね。そもそも私たち獣医師は病気を治しているのではなく、治るお手伝いをさせていただいているだけですから。病気を治すのは動物自身の体ですし、それを一番サポートするのはやはり飼い主さん。私たちがしているのは、その手助けに過ぎません。
休日はペットたちと過ごすことが多いのですか?
ジャイアント・シュナウザーのあやめとドッグスポーツの競技会に出場することが、唯一の趣味になっているので、休日はもちろん、毎朝5時に起きてトレーニングをしています。今やっているのは、IPOといって、服従、追求、防衛の3つの種目の総合点で順位を競うドッグスポーツで、服従では飼い主の命令に従って行動し、追求では警察犬のように臭いをかぎながら対象の痕跡を辿り、防衛ではプロテクターをつけた腕にガブリと噛みつきます。どれも吠える、走る、臭いをかぐ、噛むといった犬の本能を最大限引き出すことができる種目なので、競技とはいえ、犬は本当にたのしそうにしています。また犬の本能を駆り立てておきながらも、私が「止め」と言えば犬は止めなければならない。私と犬の関係がとても重要ですし、犬との一体感を感じることもできるので、私自身もとても楽しむことができるんです。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
動物病院は病気になってから来るところではなく、その前に、お散歩の途中でも構いませんから、気軽に立ち寄って利用していただきたいと思います。普段から獣医師やスタッフと話をしたり、いろいろご相談いただくことが、病気の予防につながりますし、動物にとっても、病院の環境に普段から慣れておけば、病気にかかっていざ治療となった時に、必要以上のストレスを感じるのを防ぐことができるメリットもあります。