千葉隆史 院長の独自取材記事
セン動物病院
(横浜市緑区/長津田駅)
最終更新日: 2023/01/22
長津田駅北口から徒歩2分の場所に2014年4月に開業した「セン動物病院」。通りに面しており、「動物を飼っている方も、これから飼おうとしている方にも気軽に立ち寄っていただけるような、社交の場にもなれば」という獣医師の千葉隆史先生が院長を務める。外観も明るく可愛い雰囲気で、院内は清潔感と温かみのある空間。また、最新機器や手術室、入院施設を備え、犬猫を対象に総合診療から手術まで行っている。祖父、父も獣医という家系に育った千葉先生は、幼い頃から獣医師を目指し、勤務医時代から往診や看取りまで行う「動物の一生を診るかかりつけ医」として経験を積んできた。優しい笑顔と話しやすい人柄が安心感を与えるドクターだ。プライマリ・ケアによる病気の早期発見と、充分なインフォームドコンセント(説明と同意)のもと、複数のプランを提案、相談し納得のいく治療を提供することをモットーにしている。動物は「大切な家族」と考える千葉先生に、医療にかける熱い思いや、飼い主と動物に寄りそう温かい医療について伺った。 (取材日2014年6月2日)
祖父の代からの獣医師として、動物とともに歩む
2014年3月に開業、きれいで明るい雰囲気のクリニックですね。
ここ長津田は私が生まれ育った街です。地元で開業するのが小さい頃からの目標でしたので、毎日地域の動物とふれあい、飼い主さんたちの相談に乗ることができて嬉しいですね。この辺りはいい意味で古い街で、自然も多く、ペットの散歩コースにはもってこいの場所です。坂を下りると今でも田んぼや川があるんですよ。周囲は住宅街が広がっていて、駅前のマンションもペットが飼えるところが多くなりました。当院は開業してまだ2ヵ月ですが、おかげさまで近隣の方がペットのいろいろな御相談に来られています。病院名の「セン」とはわが家の愛犬の名前です。雄のチワワで9才。センは当院の看板犬として、朝9時から私と一緒に出勤して20時まで病院にいます。「元気でいてほしい」「幸せな毎日を送ってもらいたい」「長生きしてほしい」という飼い主さんのペットに対する気持ちを、獣医師であり飼い主である私も日々忘れないようにしようと思い、クリニックに愛犬の名前を冠しました。
先生は獣医師として3代目だそうですね。
はい。実家は当院から徒歩5分ほどの住宅街にあり、創設者で獣医師の祖父の後を継いで父が動物病院を開いています。祖父、父が獣医師として様々な動物や飼い主さんとふれあう姿を見ながら育ち、私もごく自然に獣医師への道を歩むようになりました。祖父は戦時中から牛、豚、軍馬等の獣医をしており、戦後に診療所を開業しました。祖父が開業した当時は「横浜も獣医さんは本当に少なかった」と言います。2代目の父の代になると、犬と猫などの小動物が対象となりました。
先生は小さな頃から動物に囲まれて育ったのですね。
実家の一階が動物病院ですので、家にいれば自然と動物の気配や診療する父の声が聞こえてきます。そんな環境で育ったので日常的に動物とも触れあっていました。元々、家でも犬や猫を飼っており、家族と境目がないぐらい溶け込んでいましたが、ノラ犬などひき取り手のない子は家でできるだけ面倒みようということで、常に猫も3、4匹、犬も3、4頭いました。加えて、実家の目の前が中学校で、生徒が拾った犬や猫も、学校の先生を通して持ちこまれてきました。張り紙をしても飼い主が現れないと、うちの子として飼っていました。動物好きの父は穏やかな性格で、小動物の診療には優しく細かい気配りの出来る獣医師です。私も獣医師としてそんな父の影響を受けていると思います。
誕生から最後の看取りまで行う、地域の動物の一生のかかりつけ医
開業するまでのご経歴を教えて下さい。
麻布大学獣医学部獣医学科に進学し、勤務医時代に初めて一人暮らしを経験しました。ペット禁止の部屋で、生まれて初めてのペットがいない生活にはすごく違和感がありました。部屋に帰って動物の息づかいが聞こえていないと、「ああ、誰もいないんだ」と寂しくて。部屋に生き物の気配がない生活は私は落ち着かないですね(笑)。2006年に大学を卒業後は勤務医として経験と研鑽を積みました。最初に勤務した横浜市の小山動物病院では、「平常心で、胸を張ってワンテンポ大きな声で診療しなさい。自分に自信がないと動物にも伝わる。どんな動物でもその動物にあった治療法がある」と。飼い主さんと動物に安心を与えられるように、まず自分が医師として自信をつけようと日々の診療に励みました。次の相模原市の矢敷動物病院は比較的大きな病院で、院長先生がとても温厚で穏やかで寡黙な方でした。歳を重ねたらこういう医師になりたいと思わされる、スタッフに慕われる先生なんです。その院長の指導を受けながらあらゆる診療や手術の経験を積みました。8年間の勤務医時代を経て開業に至りました。
クリニックの特徴やモットーは?
当院の診療科目は犬、猫の一般診療、内科、外科、皮膚科、眼科、歯科、腫瘍科など全般です。初診では飼い主さんから十分に時間をかけて問診をおこない、その後視診・触診・聴診・嗅診を行います。これらを丁寧に行うことが正確な診療の第一歩となります。当院ではあまり高度の医療を前面に押し出すのではなく、プライマリ・ケア、つまり一次診療医として総合的に何でも診て、必要に応じて大きな病院を御紹介しています。地域のホームドクターとして、飼い主さんが散歩の途中で「ペットの体重を計りに来ました」など気軽に立ち寄っていただけるような医院を理想としています。勤務医時代、病気で来られた動物の誕生からお看取りまでを診療させていただきました。その経験を活かして、地域の動物の一生を診る、かかりつけ医となることが目標ですね。
診療で心がけているのはどのような事でしょうか?
まず、地域の動物病院の役割として病気の早期発見を大切にしています。たとえば爪切りで来院された場合でも、一通り、体全体の健康をチェックします。もし異常が見つかったら、「心臓に不整音があります」などその場でお伝えし、ご家族ごとに診療方針を決めてから治療に入ります。今は診断の技術も進歩しており、当院もデジタルレントゲンを導入していますので、診断もスムーズに行うことができます。手術も、避妊手術からちょっとした腫瘍まで当院で対応可能です。また、飼い主さんと接する時に気をつけているのは、皆さんそれぞれご家族ごとに「方針」があるということです。症状がひどくなってから病院に連れて来られる方もいますし、ちょっと皮膚に赤い湿疹が出ただけでもすぐ病院に連れてくる方もいます。それぞれの背景やご事情がありますので、お話をしながら家族構成や、普段は誰がお世話をしているのかなど、動物プラス飼い主さんを見て、それぞれのご家族の方針を理解しながら、その動物とご家族にとって最良の治療方法を行うことを心がけています。
飼い主の立場に寄り添い、動物が幸せな老後を送るお手伝いを
これまで診療されてきて印象に残っている出来事はありますか。
勤務医のころですが、年配の方が飼われていたワンちゃんを思い出します。17才で寝たきりになり、20キロぐらいある大きなワンちゃんを、飼い主さんがご自宅で一生懸命お世話をしていました。「先生にずっと診て欲しい」と言われて、私は幾度となく往診に伺い、点滴を打ったり、床ずれを治したりして、飼い主さんと相談しながら診療を進め、最後のお看取りまでさせていただきました。最後は穏やかな大往生で、本当に「お疲れ様」という感じでしたね。動物の気持ちを訊くことはできませんが、一番そばにいる飼い主さんの気持ちが、その動物の考えていることに一番近いのでは、と思います。飼い主さんが「この子は十分がんばった、苦しそうな顔もせずに安らかな最後を迎えた」と満足そうにおっしゃったということは、動物自身も十分に生きたのではないかと。この経験から、私は今後も動物の一生を、自分にできるだけのことをして、診ていきたいと思うようになりました。犬猫は家族のなかで一番小さい家族として生まれ、あっという間に家族より年上になって亡くなってしまうという存在です。生き物の一生を教えてくれる大切な存在であり、人間がその生き方から学ばせてもらうことも多いのではと思います。
動物の老後、最後を看取る診療とはどのようなものですか?
犬や猫も長生きをすると、人間のように心臓をはじめとして慢性疾患が増えてきます。何もしないでいるとどんどん病気が進んでいってしまいますが、適切なケアにより、いい老後を迎えることが可能になります。誰しも愛するペットが亡くなることはつらいことですが、なるべく長生きして幸せな老後を送ってもらい、できるだけ苦しまない穏やかな最後を迎えさせてあげたいですよね。そのために、獣医師として必要なケアをして、お手伝いができるといいと思います。
ところで、休日はどのようにリフレッシュされていますか?
パートナーと一緒に動物園、水族館、フルーツ狩りなど、やはり動物や自然とふれあえる場所に行くことが多いです。時には競馬にも行きますよ。馬券を買うよりも、競走馬の走る美しい姿を見るのが好きなんです。あとは読書が趣味で、伊坂幸太郎や恩田陸など最近の人気作家を中心に、時間があれば読んでいます。
最後に、獣医師としてこれからの目標をお教え下さい。
犬猫は人間のように自分で症状を訴えることができません。その分、飼い主さんが動物の体の異変や異常に気づく必要があります。そのお手伝いができるプライマリ・ケア医として、ちょっとした病気から老後まで、気軽に何でも相談できる獣医師が目標です。病気の治療だけでなく、飼い主さんから「先生だったらどうします?」と意見を求められることもあります。私自身、飼い主としてもずっと動物とかかわってきたので、「自分だったらこうするかな」と個人的な意見として話すと、参考にされる飼い主さんは多いですね。「医学的にはこういうやり方があるけれど、自分だったらそこまで無理な延命治療とか無理な治療は受けさせないかな」という話をすることもあります。飼い主さんの立場に寄り添い、同じ目線に立った温かい診療をこれからも心がけていきたいです。