羽尾健一 院長の独自取材記事
プレマ動物ナチュラルクリニック
(横浜市都筑区/センター北駅)
最終更新日: 2023/01/22
横浜市営地下鉄・センター北駅下車、駅前のロータリーを横に見て5分ほど歩いたところに「プレマ動物ナチュラルクリニック」はある。ここでペットたちに診察を行っているのは、通称プレマ先生といわれている院長の羽尾健一先生だ。羽尾先生は、もともと関西の出身で、開業する以前にペットフード会社に勤めていたという、ちょっと変わった経歴を持っている。自分の考えていたことや経験を今の治療に役立たせることができて良かったと、羽尾先生はうれしそうに話す。時には治療だけでなく、ペットや飼い主を取り巻く生活全般をアドバイスしてくれる頼もしい先生だ。この医院に治療に来るペットたちは、なぜか帰りたがらないことが多いそうだ。それだけ、ペットたちも先生を信頼しているのだろう。今でこそ多くなってきた動物病院の自然療法だが、開業当時は、いろいろと苦労もあったそうだ。エピソードも含めていろいろとお話を伺った。 (取材日2014年1月7日)
自然療法にたどり着くまでの紆余曲折
こちらの医院の歴史と治療方針を教えてください。
1999年に大阪で開業しました。動物病院というと、皆さん同じように考えられる方が多いのですが、当院では東洋医学や漢方薬、鍼灸などを取り入れた、代替医療を専門的に行っています。大阪で開業した当初は、代替医療に興味を持ってくれる人がまだ少なく、当時はペットの自然療法を扱う会社が、関西よりも関東に集中していました。また、ホームページでの問い合わせも、圧倒的に関東の方々が多かったため、2004年にこちらに移転してきました。院名のプレマはインドのサンスクリット語で「無償の愛」という意味です。開業した当初は「プレマ動物治療院」としていたのですが、自然療法を行っているのでナチュラルという言葉を入れたくて、「プレマ動物ナチュラルクリニック」としました。当院で行っている代替医療とは、漢方薬やその他の自然療法を併用して、ペット自身が持っている自己治癒力や免疫力を高めて病気に打ち勝とうというものです。そのためには、ペットの生活環境全般が診察対象です。食事はどうなのか、ストレスはないだろうか、飼い主さんとのコミュニケーションはどうだろうかなど、ペットを取り巻くすべてを診ることで治療や処方が決まります。
西洋医学は取り入れていないのですか?
現在は統合医療といわれる、西洋医学と東洋医学の良い部分をとった医療体制を取っています。ペットも年をとってくると、自然療法だけでは、どうしても症状を抑えきれなくなってくることがあります。例えばペットが心臓病の持病を持っているとします。最初は、自然療法だけで西洋医学の薬を使わずに治療を続けることができますが、だんだんと高齢になると自然療法だけでは症状を抑えていくことが厳しくなってくることがあるのです。そういった場合は、西洋医学の薬を自然療法と併用することで症状を安定させることができます。多くの飼い主さんは、どちらの治療方法にしろ、自分の大切なペットが元気で長生きしてくれることを望んでいるわけですから。
代替医療や自然療法にたどり着くまでの経緯を教えてください。
開業したばかりの頃は、今と違って普通の動物病院だったので、ペットの具合が悪くなれば薬を出し手術もして、スタッフもたくさん雇っていました。次第にどうもこれは自分のやりたい医療とは違うなと感じ始めました。例えば、抗がん剤は、がんという病気を抑えながら、体には多くの負担をかけてしまいます。また、アレルギー疾患にはステロイドを使うと症状が治まりますが、薬を飲み続けると肝臓に負担がかかります。だからといって薬を止めると、また症状が出てきてしまう。そこでもっとペットの体に優しい治療ができて、なおかつ根本的な部分から治す方法はないかと考えたのです。西洋医学の至らない部分を代替医療でカバーしていけたらと考えています。
納得のいかないことは、一つずつ掘り下げて勉強をした
漢方薬はどのようにして治療に使うのですか?
西洋医学では、痛い場合は痛み止めというように、症状に対処していく形で薬を出しますが、東洋医学には「養生」というカテゴリーがあって、例えばペットが年を取って最近何となく元気がないなとか、疲れてきているなといった、いわゆる「未病」といわれる段階で、漢方薬を使ってペットの体を養生していきます。こうするとペットは大病せずに元気で長生きすることができます。自然療法を扱う医院は多いのですが、こういった治療方法を取っている医院は他にはないと思います。開業当初は、ペット用の漢方薬などありませんでしたから、人間用の漢方薬の文献などを読んで、試行錯誤しながら少しずつ治療に使っていましたが、今はペット用の漢方薬がたくさん出ています。健康診断にプラスして、ペットの体を養生する生薬や漢方薬を広めていけたらと感じています。
ほかに取り入れている治療法はありますか?
ホメオパシーとホモトキソコロジーです。ホメオパシーとはドイツで体系化され、現在では世界中で行われている治療法で、継続することで体の自然治癒力を引き出します。ホモトキソコロジーも同じように体の自然治癒力を引き出す治療法ですが、ホメオパシーは個々に合うレメディ(ホメオパシー薬)が見つかると病気に深く効くのに対し、ホモトキソコロジーは比較的広範囲で効果を表します。そのため当院では両方を組み合わせて治療を行っています。
ペットと飼い主のメンタルケアも行っているそうですね。
ペットも家の中で人間と一緒に暮らすことが多くなると、分離不安といって一日中吠えるなど、問題行動を起こすことも増えてきています。分離不安の治療は、しつけを行う指導をすることが多いのですが、最近では獣医療の世界もペットに対するメンタルケアが発達してきていて、アメリカではしつけと併用して抗不安剤や抗うつ剤を飲ませたりする治療も行っています。また、ペットは飼い主さんの気持ちを敏感に察知しますので、飼い主さんのメンタルケアも大切。当院は川崎に医院を持っていて犬のトレーニング施設を併設しているので、そこでペットの噛み癖などの問題行動を解消するトレーニングをするほか、飼い主さんのカウンセリングも行っています。月1回でも飼い主さんにカウンセリングを受けていただいて元気でいてもらえると、ペットも元気でいられるんですよ。さらに終末期を迎えたペットと飼い主さんをサポートするために、ターミナルケアにも力を入れています。
ペットも飼い主も元気になってくれるのが、心から嬉しい
獣医師になろうと思ったきっかけを教えてください。
父はサラリーマンで、僕には妹と弟がいますが獣医師は僕だけです。大学は日本獣医畜産大学(現・日本獣医生命科学大学)を1993年に卒業しました。小学生の頃から動物が大好きで、家では犬を飼っていて、自分では小鳥をたくさん飼っていました。小学生のときに読んだ雑誌に獣医師の特集があり、当時は珍しかったコーギー犬と一緒に写っていた獣医師が、とても格好良かったのを覚えています。それがきっかけで獣医師になろうと決め、その気持ちはその後もずっとぶれませんでした。大学を卒業して、研修医として勤務先を探したのですが、どうもしっくりとくるところが見つからず、どうしようかと思っていたときに、あるペットフード会社が人材を募集していることを知りました。僕自身がペットの食事に興味を持っていて勉強したかったので、そこへ就職し、3年間勤めて、その後に研修医として勤務しました。
犬の食事について本を出版されたそうですね。
僕自身は、加工されたペットフードよりも飼い主さん自身がペットの栄養を考えて作る手づくり食のほうが、ペットにとってはうれしいし健康になれるのではないかと考えています。手づくり食は手間も時間もコストもかかりますが、ペットがおいしそうに食べてくれると、作り甲斐があると喜んでいる飼い主さんもいます。忙しくてペットフードしかあげることができないという飼い主さんには、他の新鮮な食材をペットフードにプラスしてはどうか、といったアドバイスをします。ペットフード会社に就職していたからこそ、ペットの食事がいかに大切かがわかるようになったので、開業の前にペットフード会社に勤めたことは、決して無駄ではなかったと思っています。
お休みの時はどのように過ごされるのですか?
僕はテニスが好きで、休みの日はもっぱらテニスに出かけています。妻は読書や映画鑑賞が好きなので趣味が一致しません(笑)。ただ、中学生になる息子がテニスも映画鑑賞も好きなので、お互いの趣味に付き合ってくれています(笑)。あとは、家族でたまに旅行に行ったりしますね。
読者へのメッセージとこれからの展望をお聞かせください。
ペットを家族の一員として、コミュニケーションを積極的に取るようにしてあげてください。ペットの病気の多くは、具合が悪くなってから飼い主さんが連れてくることがほとんどなので、病気の早期発見や、事前の予防などが難しい状態です。定期的な健康診断とともに、ペットが年を取ったときの食事や、病気を防ぐためのケアを、飼い主さんたちに啓発していければと考えています。これからも僕には僕にしかできないことを続けていくつもりです。診察時間もだいたい1件で1時間くらいと、かなり時間をかけることもあるのですが、こういった病院が1つくらいあっても良いのではないでしょうか。