笹木稔也 院長の独自取材記事
笹木動物病院
(世田谷区/三軒茶屋駅)
最終更新日: 2023/01/22
玉川通り三宿交差点近くにある笹木動物病院。院長の笹木稔也先生は、開院前に栄養学の研究をしていたことから、ペットの健康状態から最適な食生活を指導してくれる頼もしい先生。明るく気さくな笹木先生と話しているだけで元気をもらって帰る、そんな飼主さんも多いはず。しつけ相談から家族の悩み相談まで、心を許して何でも話す飼い主さんが多いのは、笹木先生が日頃から飼主さんとの関係作りに心を尽くし、ここが地域に根ざしたクリニックであるからこそ。先生ご自身の経験に基づいた今すぐペットを飼いたくなるような話を楽しく伺った。(取材日2010年3月5日)
生まれた時から犬や猫がそばにいた 獣医になることは自然なこと
サラリーマンも経験されているそうですが、開院までの経緯は。
大学を卒業して獣医になりましたが、開業か研究生活か就職か、迷っていた時期がありました。まずはいろいろ経験したいという気持ちから一般企業への就職を選び、その後脱サラして勤務医経験をした後開業しました。今年で16年になりますが、振り返るとようやくここにたどり着いたという感じがしますね。就職したのは外資系のペットフードを扱う企業です。医療用のドッグフードを日本で販売するための販売戦略を担当していて、ヨーロッパの国々を視察してペットに関わる人々の生活や考えを知ることができました。その時に見た人と犬との関係はすごく印象に残っています。例えばロンドンのある病院を訪ねた時、病室に黒いラブラドールレトリバーがいました。患者さんが飼っている犬で、医師によれば高齢で寿命に限りがある中、大切な犬と別々にするよりも一緒のほうが治療効果も期待できて精神状態にも良いと判断して許可しているとのこと。当然しっかりしつけができていて、吠えない噛まない跳びつかない。それでも日本では考えられないことですよね。衝撃を受けましたし、しつけの大切さを実感しました。また、生化学の研究にも携わりペットの栄養学を学びました。心臓が悪い子には塩分を控えたもの、腎臓が悪い子にはたんぱく質を控えたものと、それぞれの症状に合わせたドッグフードを研究していました。あの頃の経験の全てが今に役立っています。
なぜ獣医になろうと思いましたか?
ただなんとなく、というのが本当のところです。でも本当に、生まれた時から家庭に犬や猫が常にいて、そばに動物がいるのが当たり前の生活だったせいか、気がついたらこの職業を選んでいたというのが正直なところなんですよ。子どもの頃はパイロットや野球選手に憧れていた時期もありましたが、いつの間にか獣医になっていた。自分にとってこの職業を選んだことは、とても自然なことだったと思います。
犬は一番叱る人に一番なつくもの 理想的な関係を築くためのしつけ
犬の食事について、気をつけることは。
最近、手作りフードが流行っていますが私は薦めていません。栄養学的な事をしっかり勉強しているのか疑問です。またご存知だと思いますが、長ネギや玉ねぎ、チョコレートなど犬や猫に与えてはいけないものもあります。例えば犬用にハンバーグを作って、お皿に盛りつけてソースをかけ野菜を添えて出すとします。見た目は人間のものと変わりなく犬は喜んで食べますが、人間が食べる方はたまねぎ入りのハンバーグです。見た目が一緒だと犬にしてみれば区別がつきませんから食べてしまいます。手作りフードでたくさんの食べ物を知って、結果的に何でも食べてしまうようになり、拾い食いの癖がついて散歩していても常に食べ物を探して、誤飲も多くなります。また食事性のアレルギーの問題もあります。ひとつのドッグフードを食べていればすぐに原因がわかりますが、様々な食材を食べていると見分けられなくなってしまいます。そして、食欲がないと言う時に本当に具合が悪くて食べないのか、好き嫌いで食べないのかがわからないですし、好き嫌いが出てしまいますので、いざ病気になった時に医療用のフードは食べられません。手間暇をかけて手作りフードを作るならば、その分遊んであげてほしい。愛情のかけ方の問題ですが、人と犬との関係性をどう築くかを考えてほしいと思います。
理想的な犬との関係はどのようなものでしょうか。
動物も人間と同じなんだという考えがありますが、そこの理解を誤ると間違った方向に進みかねません。犬は一番叱ってくれる人に一番なつくものです。犬はもとをたどると狼ですから、群れをなしてリーダーに従う主従関係が基本にある生き物。飼い主さんにしつけの話しをする時によくする例え話ですが、すごく優しくて何でも思った通りにやりなさいと言っていて、何かあった時に逃げる上司と、普段は口うるさくて厳しくてもその人の指示に従っていれば間違いがなく、もしも問題が起きたら責任を取ってくれる上司とどちらが良いですかと聞くことがあります。犬はよく人を見ています。きちんとしつけられて主従関係をしっかり学ばせると、主の後ろにぴたっと寄り添って常に表情を伺い、主が立ち上がればすっと立ち上がって付いていく。素晴らしい信頼関係です。そのためには日頃のしつけが必要。甘やかすだけでは得られない、人と犬との理想的な関係だと思います。
わかっていてもついつい甘やかしてしまう。しつけは難しいですね。
よく、若いカップルや新婚さんに言っているのですが、子どもを産む前に犬を育ててみてほしいと言っています。犬は子犬から1年育てると、人間でいえば15年くらいに相当します。一番難しい時期の子育てを1年で経験できるのです。ある時はかわいそうだと思っても厳しく叱らなければならない時もあります。子どもを育てた方ならきっと共感できると思いますが、遊ばせてあげたいけど将来のことを思うと勉強しなさいと注意しなければならない辛さと一緒です。貴重な経験になるはずですから、是非お勧めしたいですね。
地域に根ざし 散歩の途中に気軽に遊びに来られる病院に
先生ご自身は今もペットを飼っていますか。
もちろん飼っています。私の生活にペットがいない時はありませんから。今猫はいなくて、ゴールデンレトリバーとダックスフンドがいます。ですからついつい犬の話ばかりになってしまいました。私自身の人間性に子どものころに飼っていた動物達はすごく影響していますが、同じように私の娘にも影響しています。犬や猫の生も死も見せていますから、いい勉強になったと思います。よく子どもの性教育が難しいと言われますが、我が家の場合は犬の交尾を見せていますから、小学校に上がったばかりの頃にテレビでベッドシーンがあって、それを見て娘は「交配してる」と言っていました。笑い話ですが、性の営みを自然に学んでその尊さを感じてくれていたと思います。子どもの凶悪犯罪のニュースなどを見ていると、この子達に動物の生死を見せてあげたいと思います。極端かもしれませんが、事情があってやむを得ず安楽死させなければならない時の悲しむ飼い主家族の様子、最後に注射のポンプを押す瞬間。こういう経験をしたら、子ども達も命の重みを学ぶことができると思います。
今後の抱負を聞かせてください。
地域の人とより密接な関係を築けたらいいなと思います。子どもたちが学校帰りに遊びに来てくれるような動物病院っていいでしょう。開院当初から当院のコンセプトは、病気の時に来るだけではなく、元気な時にも散歩の途中に気軽に遊びに来られる病院にと考えていましたので、これからもそういう存在でありたいと思います。犬や猫は話せないので、飼主さんとのコミュニケーションが何より大切です。飼い主さんからも質問しやすいように、例え話なども取り入れながらわかりやすく話すようにして、よりよい関係を築くように心がけています。最近地域の人達の間に、この三宿の商店街を復活させようという話が出ていて、私はお祭りをやりたいという気持ちがあります。みんなが集まれるような賑やかなお祭り。そんなことにも関わってみなさんと一緒に地域を盛り上げていきたいです。私たちの仕事は世の中が平和だからこそやっていける仕事。平和のバロメーターのような職業です。ペットがいる暮らしは、人生をより豊かにするもの。とってもいいものですから、もっと多くの人達にこの素晴らしさを知ってもらって、たくさんの人達にペットを飼ってもらえるように発信していきたいですね。