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幅田 功 院長の独自取材記事

センターヴィル動物病院

(目黒区/自由が丘駅)

最終更新日: 2023/01/22

1977年の開業以来、この地域の動物たちの健康を守り続けてきた「センターヴィル動物病院」。一見街中でよく見かけるタイプのペットクリニックだが、さにあらず。別棟に本格的な外科手術を行うオペ室、麻酔装置や超音波診断装置、レントゲン装置、内視鏡検査装置など、最先端医療機器の数々を備えた知る人ぞ知るペットクリニックである。ペットの歯科治療を得意とし、一般外来のほかにも、全国の動物病院から依頼を受ける二次診療施設としての役割も担っているようだ。院長の幅田功先生は、アメリカに留学し最先端の外科手術を学んだ経験を持つ獣医外科のエキスパート。「根底にあるのは死なせたくないという思いです」と熱く語る幅田先生に、これまでの道のりや動物たちへの思い、国内で先駆けて導入した動物の唾液検査の成果、そして動物を飼う時の「覚悟」についてもたっぷり語っていただいた。
 (取材日2013年7月7日)

アメリカからやってきた1冊のテキストが、進むべき道を教えてくれた

獣医師を志されたきっかけを教えてください。

獣医師になろうと決めたのは子どもの頃です。動物が大好きで、たくさんの犬や猫を飼っていました。昔は今と違いそこらに捨て犬や捨て猫がいて、拾っては家に連れて帰っていたんです。多いときは5匹も飼っていました。でも次々に死んでしまうんです。戦後まもないころで栄養状態もよくないし、いい薬も十分になかった時代だったからでしょう。犬が病気になると、両親は獣医の先生を呼んでくれ、大卒の初任給が7000円だった時代に1本3000円もするワクチンを打たせてくれたこともありました。今思えばとても寛大ですよね。しかし、そうやっていくら手を尽くしても結局は死んでしまう。つらかったです。「死なせたくない、長生きさせたい」といつも祈るような気持ちでした。その思いが獣医療の道に進む動機となりました。

そして日本大学農獣医学部へ。熱中して学んだ分野はなんですか。

大学に入り、獣医学、医学というのはこんなにおもしろいんだと改めて思いました。生化学、解剖学、獣医学……、寝る間も惜しむように夢中で勉強しました。そんなある日、一冊の本に出会ったのです。それは留学経験のある先輩がアメリカから持ち帰った獣医学の教科書「ケーナインサージェリー(犬の外科)」。1200ページの1冊すべて犬の外科について書かれていて、がんの取り方や縫合の仕方や膝の手術の方法など、あらゆる外科治療が写真つきで詳しく解説されていました。当時、日本の獣医学の教科書で犬の外科について記されていたのは股関節脱臼処置の1ページのみ。すごい差ですよね。その本が書かれた1954年当時のアメリカでは、手術の傷口をステープラーと呼ばれる医療用ホッチキスでとめる技術がすでに当たり前だったのですから驚きましたねえ。将来臨床の道へ進むなら、日本で学ぶには限界があると思いました。そこで、大学を卒業し獣医師免許を取得後、実践の技術を学ぶためアメリカに1年4ヵ月ほど研修留学したんです。

アメリカの獣医療を実際に目の当たりにして感じたことは?

まず驚いたことは、その救命率の高さです。日本だったら死んでいるような病気でも、アメリカでは何てことない外科処置で治していました。外科手術の技術が進んでいるのはもちろんのこと、とにかく、検査にしても治療にしてもすべてが、スタッフの分業化・効率化されスピーディーに進んでいきます。日本だと3時間かかる検査結果もアメリカではわずか15分で出してしまう。何より目を見張ったのが、外科手術における麻酔の技術でした。術中に1〜2時間ほど麻酔をかけても、麻酔が切れた後はぱっと普通に立ち上がって動くことができるんですね。当時の日本では、まだ安全な麻酔法が確立されておらず、麻酔をかけた2、3時間は付きっきりで見ていないと何が起こるわからないものでした。同じ時代にアメリカの麻酔技術は格段に進んでいたんですね。あらゆる面でレベルの違いを見せ付けられたアメリカでの経験は、その後の獣医師人生にとって得がたいものとなりました。

昭和52年の開業当時から、最先端の医療機器を取り入れてこられたそうですね。

アメリカで見た最新の麻酔装置がイギリスから輸入されるようになったのは、帰国2年が過ぎてからでした。当時僕はまだ開業前で、友人の医院の設備を借りて手術を行っていたのですが、その最新の麻酔装置を購入し、自分の医院を開業した後も積極的に外科手術に活用しました。業者が言うには日本国内でその麻酔器を導入したのは当院が5番目だったそう。ヒトに使う麻酔装置ですから、それを獣医療に用いたのはおそらく僕が初めてでしょう。とても高価な機械でしたが、理想的な環境で手術をするには最新の麻酔装置がどうしても必要でしたし、これで動物たちが死なずに済むのなら、という思いがありました。実際、そのおかげでこれまで難治性の疾患とされていた数々の難しい病気を外科的に救命できるようになったのです。

病気の原因究明と根治に有効な唾液検査を導入

動物たちを診察する上で心がけていらっしゃることは?

当院には、他の動物病院で診断がつかないペットたちも訪れます。明らかに具合が悪いのに診断がつかないというのは、おそらく検査結果しか見ていないからではないでしょうか。検査の数値では異常がない。じゃあ、何を見るべきか。例えば、目の動き、顔のたるみや張り、肩の動きだとか、朝と夕方の体温の差、水を飲む様子……、とにかくその子をよくよく観察します。その動物と何時間か一緒に過ごして初めてわかることもありますよ。要するに経験がものを言うんですね。これは、子どもの時から飼い犬が「死んじゃうのかな、助かるのかな」と心配しながら面倒を見てきた僕の強みだと思っています。犬にしても猫にしても、一匹一匹各固体の状況は違います。同じ病気を診るのでも、検査方法が何種類かあっていいし、診断技術だっていくつあってもいい。幅広い視点が必要なんです。

平成11年より、アメリカの医療機関との連携による唾液検査を導入されたと伺いました。

はい。国内で動物の唾液検査を行っているところはまだ少ないと思います。唾液検査によってわかることは、食べてるものが体に適正なのかどうか。たとえば、しょっちゅう下痢をする、血便が出るなどおなかの調子が良くない場合、免疫介在性腸炎の可能性が高いのですが、今までは何がその病気を引き起こしているのかが正確にわからなかったため、免疫抑制剤という薬で症状を抑制するしか手がありませんでした。ところが、唾液検査によって不調の原因が何なのかがわかるようになり、その原因となっている食べ物をやめることで、根本的な解決が可能となったのです。当院では血液検査も行っていますが、それと比べても精度が高く、これまで当院で扱った症例の8割以上、9割近くに症状の改善が見られます。驚くべき結果です。また手足の指の間、口の周りなどに出るかゆみ、アトピー性皮膚炎にも唾液検査は有効です。今までステロイドやヒスタミンでかゆみを抑えていましたが、唾液検査で原因の食べ物を突き止め、それを摂取しないようにすると、薬をそんなに使わなくても症状が抑えられるようになったんです。当院で採取した唾液を、動物検疫を受けた後アメリカの依頼機関に送って検査するので結果が出るのに3〜4週間かかりますし費用も決して安くはありませんが、長い目で見れば、食べ物が原因か否かがわかることで投薬の必要もなくなり、動物の体への負担を軽減できるというメリットは大きいと思います。これまで病院にかかっても体調がすぐれなかったり、かゆみが続くようなケースの場合は一度唾液検査を受けられることおすすめします。

犬や猫の口腔内疾患にも力を入れておられますね。

医療の発達で動物たちの寿命が伸び、それに連れて口腔疾患も増えています。しかし現実は動物の歯科治療に取り組んでいる医院がまだまだ少ないようですね。僕は歯科治療が何も特別なことだとは思いません。歯科もすべての臨床のなかの一つだという認識で治療に取り組んでいます。というのも、歯の病気が原因で、体にいろんな不具合を起こすケースが少なくないのです。また、人間と同じように歯周病にかかっている動物も増えています。歯周病を起こす原因の一つが食べものです。微粒子のフード。この食べかすが歯周ポケットに入りこみ、歯周病の原因となる菌が繁殖してしまうんですね。あと口内炎や歯の一部が溶けてなくなる歯頚部吸収病巣も細菌が原因です。そこで当院では、飼い主さんにペットフード、ドライフードから、手作りのフレッシュフードに切り替えるよう提案しています。ホームメイドの餌のほうが口腔内の細菌が増えにくいんです。もちろんペットフード、ドライフードを食べるなということではありません。食べてもブラッシング等でお口の中のお手入れをすることによって、歯周病の予防をすることができます。

たくさんの温もりや安らぎを与えてくれる、大切な家族

お忙しい毎日ですが、プライベートで熱中していることや、趣味などはありますか?

この仕事は体力が要ですからね、休日には体力づくりのために8〜10キロほど山歩きをしています。家内の実家のある鎌倉には、ちょうどいいコースがあるんですよ。2時間半ほど歩きます。途中で走りもするので結構ハードですが、そのくらいじゃないと物足りないんです。気分もいいし、体にもいいし、夜もすーっと寝られて健康維持にも一役買っています。あと、もう19年ほど続けていることがあるんですが、ネパールの子どもたちの支援活動をしています。ネパールでは、大勢の子どもたちが病気で亡くなっているという悲しい現実があります。しかしそんな過酷な環境で暮らしながらも、「子どもたちを助けられるような大人になりたい」と夢見る子どもたちがいることを知り、教育支援をするように。ネパールにはいまでも学校に通えない子が大勢います。彼らの夢をかなえるには、まず識字率を上げるしかありません。英語で読み書きができるようになって、言葉をツールに広い世界を知ってほしい。そのために、これからも地道な支援活動を続けていくつもりです。

最近の飼い主さんを見て、思うところがあるそうですね。

最近のペットを取り巻く状況を見るにつけ思うことなのですが、動物を飼う時には、その動物がどういう生き方をするのかをよく勉強してほしいと思いますね。生き物ですから、当然おしっこやうんちもしますし、においもします。いろんなものをかじるし、よだれも垂らす。具合が悪いときはお腹も壊して吐きもする、熱だって出すでしょう。高い金額を払って買ったからといって、その子が病気にならないなんてことはないのです。動物を飼うときは、病気の治療や予防も覚悟で飼わなくてはいけないと思います。

ペットの死をきっかけに、ペットロス症候群になる人は少なくないとか……。

そう、ペットロス症候群からうつ状態になる人もいますよ。先ほど動物は長生きするようになったといいましたが、たとえ長生きしても、必ず人間よりは先に逝くわけです。それを実感できない飼い主さんが多いんですね。誰のせいでもない、死はその子の寿命です。いざその時が来たら受け入れるしかない。それを受け入れられない人がペットロス症候群になってしまうんです。なかには打ちひしがれて「もう二度と飼わない」という方もいらっしゃいます。確かに死はつらく悲しいこと。でも、それまでに楽しい思い出がたくさんあったはずでしょう? 犬だったら家に帰ればしっぽ振って喜ぶし、猫もニャーニャー言ってくっついてきて、そうやってたくさんの温もりや安らぎを与えてくれませんでしたか? そこには理屈じゃない愛情があったはず。だから、僕は皆さんに、「病気も死も受け入れる覚悟をもって飼ってください」とお願いしたいです。そして日々のふれあいを幸せだったと感じられるよう、動物たちと毎日を過ごしてほしい。悲しいから二度と飼わないということにならないように、今を大切に過ごしてほしいと思います。

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