池田宏司 院長の独自取材記事
池田動物病院
(世田谷区/成城学園前駅)
最終更新日: 2023/01/22
上祖師谷の住宅街にたたずむ「池田動物病院」を訪ねた。こじんまりとした院内ではあるが、スタッフたちがキビキビと動き活気にあふれている。院長の池田宏司先生が厳しい表情でレントゲンを見つめる足元を、一匹の黒猫がすり寄った。すると、池田先生の表情が穏和なものへと一変した。数ヶ月前に事故で顔がぐちゃぐちゃになったところを池田先生に救われたのだそう。今では看板猫としての役割を与えられ、スタッフの一員となったそうだ。池田先生に診療への思いを伺った。(取材日2009年11月18日)
動物はもはや家族の一員
獣医師を目指されたきっかけをお聞かせください
理由のひとつには、動物が好きだったからというのがあります。飼っていた犬や猫が亡くなると、悲しい気持ちの中で、どうして亡くなるんだろう、どうして病気になるんだろうと子どもながらに必死に考えました。獣医師になれば病気を治してやれるんじゃないかと純粋に思ったことが、獣医師になろうと思ったきっかけになっていると思います。私が育った環境は、犬や猫だけでなく、数千羽の鶏や、豚、馬、牛までいたので、動物と接する機会が他の人よりも多かったですし、そのせいでしょうか、兄弟たちも同じように獣医師になっています。牛や馬がいるのが当たり前の生活だったために獣医学部に入るまでは、馬や牛といった大動物を診たいと考えていましたが、獣医学部の恩師に、犬や猫の診療の素晴らしさを教えいただいたことで、犬や猫といった小動物を診療する獣医師になることを志しました。
開院にあたってこのエリアを選ばれたのはなぜでしょうか
最初は今から26年ほど前に、祖師谷駅近くの「祖師谷通り病院」をオープンしました。ずっと祖師谷に住んでいて、馴染みがあったという理由から祖師谷を選びました。こちらの「成城通り病院」をオープンしたのはそれから10年ほど経ってからです。「祖師谷通り病院」だけでは手狭になってしまったことや、たくさん来てくださる患者さんを対応しきれなくなったためです。設備などに多少の違いはあるものの、基本的にはどちらに通っていただいてもかまいません。飼い主さんには、通いやすい方に来てくださいとお話しています。
26年にわたって動物たちを診療してきて、変化を感じることはありますか
動物たちが、単なるペットではなく家族の一員になり、人間と動物の結びつきが強くなってきていると感じますね。ほとんどの飼い主さんが、動物は自分の子どもであり、恋人であり、親友であると考えていると思います。ですから、26年前に比べたら、大切な動物の健康を守るために、飼い主さん自身もとてもよく勉強をしていますし、おのずと獣医師に対する要求も高くなっていますね。その気持ちに応えてやりたいという思いが、とてもよいプレッシャーになり、私自身の勉強への励みになっていると思います。
飼い主の切実な願いに応えていきたい
得意とされている治療についてお聞かせください
街の中の動物病院なのでどの治療についても一定以上のレベルを提供したいと考えていますが、あえて申し上げるのなら、私は外科と眼科を得意としています。特に手術の成功率については自信を持っています。大学病院やほかの動物病院で、難しいからと断られたような手術でも行なうこともあります。このようなケースではリスクの高い手術がほとんどなのですが、飼い主さんのなんとか治して欲しいという気持ちに応えてやりたいという思いから執刀させていただいています。同じく獣医師である妻は内科をメインとし、特にホルモンなどにかかわる内分泌系の疾病を得意としています。一緒に診療をしている獣医師の先生方もそれぞれに得意分野を持っているので、それらを生かしながらチーム体制で診療ができるのが、私たちの最大の強みです。
診療時間外でも対応することもあるそうですね
あくまで私やスタッフが診療できる状態であることが大前提ですが、診療時間外でもできるだけ対応したいと思っています。なぜかというと、私が飼い主さんの立場だったらそうして欲しいからです。基本的には普段からかかりつけにしてくださっている方の方が、診療歴が手元にあるので対応はしやすいですが、どうしても困ったときは、かかったことがなくてもお電話いただければ、何かしらアドバイスができることがあるかもしれません。私が診療できないとしても応急手当の方法を教えたり、夜間でも診療を受け付けている動物病院をご紹介することもできると思います。
思い出に残る患者さんとのエピソードをお聞かせください
特定の飼い主さんについての話ではないのですが、最期を迎えつつある動物を目の前にして「もうしてあげられることはないのでしょうか?」と飼い主さんから切実に訴えかけられることがあります。そのような場面に遭遇するたびに、もっともっと勉強して、飼い主さんの思いを叶えてやりたいと強く思うものです。今にして思えば、昔の私ならできなかった治療が、今はできるようになっているのですから、飼い主さんたちの切実な願いが私を成長させてくれているのだと強く感じますね。
初心を忘れずに診療に当たりたい
診療の際にはどのようなことを心がけていますか
診療中に改めて心がけを意識することはありませんが、長くやっているからこそ、おろそかにしてはいけないことが多いと思うんです。診療に慣れて来てしまうと、初心や基本的な心がけを忘れてしまいそうになりますが、むしろ長くやっているからこそ、それらを大事にしなくてはと考えています。どうして来院したのか、私に何をして欲しいのかをよく聞くようにしています。というのは、同じような症状で来院されたとしても、飼い主さんのして欲しいことは、飼い主さんの数だけあるので、こちらの判断で決めつけるのではなく、飼い主さんの希望をできるだけ汲んでやることが大切だと考えているからです。来院された飼い主さんや動物たちに対しては、緊張や不安感をとってやれるような接し方を心がけています。
これから犬や猫を迎えようとしている方にアドバイスをお願いします
子犬や子猫を購入する場合は、少しくらい値段が張ったとしても、保証がしっかりしていて環境の良いペットショップやブリーダーから購入するとよいでしょう。現在はネットで動物を購入する人も増えているようですが、できれば自分の目で確かめて、お店の人とよく話してからの方が安心ではないでしょうか。それと、子犬を迎えた方にお話しているのが、ライフスタイルの全てを犬に合わせてはいけないということです。子犬のうちから、人間の生活習慣に合わせることを覚えてもらうことがとても大切です。可愛いから、可哀そうだからとつい犬のライフスタイルを優先してしまい、犬の召使いのようになってしまう飼い主さんもいるようです。そうしているうちに、自分の要求が通らないと問題行動を起こすようになったり、飼い主がそばにいないと極度の不安になってしまう犬になってしまうこともあるんです。だから、犬に自分のライフスタイルを合わせるのではなく、自分のライフスタイルに犬を合わせていったほうが犬との良い関係が築け、長く飼っていけるのではないでしょうか。
今後の展望についてお聞かせください
街の中に病院を構えていますし、動物たちに何かあった時に最初にかかる場所だと思いますから、内科や外科、皮膚科などの診療科のどれかひとつを向上させるというよりも、全体のレベルを上げていくことをこれからも目標にしならが診療を行なっていくつもりです。幅広く診療して、正しい診断をつけられるようにして行きたいと考えています。獣医学の分野でも治療技術がめまぐるしく進歩していますし、動物たちと飼い主さんのかかわり方もより密なものへと変化しています。それらの変化にいちはやく対応できるようにしたいと考えています。個人的には、再生医療の分野に強い興味を持っているので、勉強を深めていければと考えています。