平田聡子 院長の独自取材記事
ひばり動物病院
(世田谷区/千歳烏山駅)
最終更新日: 2023/01/22
千歳烏山駅から徒歩3分ほど。木をあしらった外観が目印の「ひばり動物病院」にお邪魔した。掃除の行き届いた待合室には、ここに通う動物たちのスナップ写真が。なんだかとてもアットホームな動物病院だ。院長は平田聡子先生。夫である平田哲也先生と交替で治療にあたっている。というのも、二人はもう1軒葛飾区に動物病院を開いており(こちらは哲也先生が院長を務めている)、この2院を行き来しているからだ。穏やかで優しい笑顔の聡子先生と、時折辛口だが、飼い主からの信頼も厚い哲也先生。いつもは別々の場所で診療するお二人に揃っていただき、獣医師を志したきっかけや治療スタンスなどを伺った。 (取材日2012年4月6日)
テレビで見ていた「野生の王国」に憧れて
やはり小さい頃から動物が好きだったのですか?
【聡子院長】幼い頃から鳥とかカメとか、いろいろ飼っていましたね。中学になってから猫を飼い始めて、すっかり猫好きになりました(笑)。なので、ずいぶん小さな頃から、なんとなく動物に関係する仕事をしたいなあとは考えていたと思います。 【哲也先生】僕も動物は小さい頃から好きだったんだけど、家の事情もあって犬とか猫とか動物が飼えなかったんですね。それでおのずと興味が自然と野生動物に向かい、バードウォッチングなどしていました。鳥は今でも大好き。自宅のベランダからは仙川が見えるんだけど、カワセミがいるんですよ。基本的に魚がいれば、都会を流れる川にも来るんです。そういう自然の動物たちが周りにいるという環境が、小さい頃からすごく好きで、飽きずにずっと眺めていられますね。
お二人とも野生動物への興味から獣医療の道へ入られたとか。
【哲也先生】そう。そういう意味では聡子先生とはすごく価値観が合っているんです。学校は二人とも東京農工大学獣医学科。実は最初は獣医師になろうとは思っていなかったんです。ただ、大好きな野生動物に携わる仕事につけたらいいなという思いが漠然とあって、だったら獣医師の免許を持っておくと有利だろうと獣医師免許を取りました。 【聡子院長】私は小さい頃から「野生の王国」等のテレビシリーズをよく見ていたんですよ。その影響で野生動物の調査・研究、保護活動をできたらなと、大学卒業後は自然環境研究センターというアセスメント会社に就職しました。日本全国のいろいろな山に調査に入り、カモシカやクマなど野生動物痕跡調査や死んだ動物の解剖調査が主な仕事で、いずれも有意義で必要な調査・研究ではあるんですが、実際に動物と触れ合うことが一切なく、果たしてそれが自分に合っているのか疑問に感じ始めて……。なので、そこは4年で辞め、改めて獣医師としてやっていこうと決意。その頃、哲也先生は大学を出て小動物の臨床を続けていたんですが、ちょうど開業しようというタイミングだったので、私も改めて獣医師としての修行をしようと、一緒に始めることにしました。実際に動物に触れて、一匹一匹の動物を治したいという原点に立ち返った時期で、ある意味、私の転機となりました。生き物を診療するプレッシャーもありますが、実際に手を尽くしてあげられる喜びとか、飼い主さんとの信頼関係を築いていく過程とか、そういう環境が私には合っていたんだなと実感しています。
最初に開院したのが、葛飾区の「立石動物病院」ですね。
【哲也先生】いえ、実は葛飾区の立石に「立石動物病院」を開院したのが最初です。1998年のことで、そちらはいまでもう14年になります。 【聡子院長】その7年後の2005年にこの「ひばり動物病院」を開院。哲也先生が立石動物病院は院長を、私がここの院長を務め、曜日ごとに週3日ずつ交替で診療しています。ここは2軒目ということもあって、前にうまく機能しなかったところや、こういうふうにすればよかったというような反省が生かせたので、機能面はかなり充実したと思っています。
蔓延すると一大事。狂犬病ワクチンの摂取率70パーセントをめざす
こちらでは狂犬病ワクチンの摂取率向上にも力を注いでいるそうですね。
【哲也先生】今、日本国内の狂犬病ワクチンの摂取率はわずか40パーセント。日本国内での感染はもう50年以上ゼロだからというのもあるんでしょうが、一歩国外に出ると、インドでは年間3万人、全世界で5万人が狂犬病に感染して死んでいるんです。狂犬病はすべての哺乳動物がかかる病気で、例えば狂犬病にかかった犬に噛まれた場合は人間にも、感染します。もちろん犬だけじゃなくて、アメリカでは犬よりもスカンク、アライグマ、コウモリから感染することも多いといわれています。流行を抑制するための免疫率・集団免疫率が70%を切った状態で病気が発症するとに一気に蔓延するといわれていて、今はすでに4割だから危ないんですよ。その上、国内にワクチンの備蓄がないと来ているもんだから、蔓延したらもうアウト。それを避けるためにはワクチンを毎年きちんと接種するしかないわけです。クリニックでは摂取率7割を目指して飼い主さんたちに働きかけています。
最近、気になる病気、増えている病気などありますか?
【哲也先生】膵炎ですね。犬に限らず、猫も多いです。昔に比べ膵炎を見つける効率的な診断方法がかなり確立されたため、ずいぶん見つかるようになりました。症状は嘔吐、下痢、食欲不振。この病気は治療が長期化することも多く、再発もよく起こりますし、最悪の場合は死に至ります。原因は主に食事。消化に負担のかかる食生活が引きがねになっているようです。なので、治療では飼い主さんに食事指導も行います。大事なのは適切な量と質。ただそれを守れない飼い主さんが多いのが問題なんですね。健康に良くないとわかっていながら犬の欲求のまま餌をあげちゃう。「犬が喜ぶから」と皆さん言いますが、違うんです。犬が喜ぶのを見ると自分が嬉しいから。自分の満足のためなんです。 【聡子院長】 例えば、自分の子どもだったら、好き嫌いしても体のために「残さず食べなさい」って突き放せるでしょう? でもなぜか、ワンちゃんに対してはそれができないという方、多いんですよ。 【哲也先生】ペットへの愛情の注ぎ方や関わり方は人それぞれ。例えば、犬に洋服着せて喜んだりというのは、僕はいいと思うんです。だって健康には影響ないから。でも、飼う人間の自己満足のために、動物の健康を巻き込んでしまうのはいただけません。
それぞれ得意とする動物があるのでしょうか?
【聡子先生】私は猫を治療するのが得意と言えば得意かもしれません。猫は低い威圧感のある声を敬遠する子が多いんですよ。猫自体、鳴き声が高いから、低い声は大きな動物の声だと認識してしまうんです。なので、猫と仲良くなりたいお父さんは高い声で話しかけてみるといいですよ(笑)。でも、どんなにかわいがっても、お父さんは残念ながら嫌われやすいみたい。うちで飼っている猫3匹も、どちらかというと私になついていますし(笑)。主人は犬や猫はもちろんですが、鳥の扱いも得意です。男性の獣医師と女性の獣医師、両方いるという点ではバランスがとれているのかなあと思っています。
飼い主にとっての幸せ、安心は、どこにあるのかを考える
同じ獣医師として、それぞれお互いのことをどのように見ていらっしゃいますか?
【聡子院長】哲也先生は、とても幅広い治療の知識を持っています。西洋医学の枠にとらわれず、漢方薬や鍼などの東洋医学に対しても、エビデンスがあれば積極的に取り入れているんですよね。それに私が焦っちゃったときにも、いつも冷静で、頼りになる存在です。一見、アクの強いキャラクターに見えるかもしれませんが(笑)、「哲也先生じゃないと」という飼い主さんはとても多いんです。 【哲也先生】聡子先生は本当に何でもできるよ。とても腕がいいし、動物が本当に好きなんだね。なんとかしてこの命を助けたいという気持ちが強いから、たとえ飼い主がもうだめだと諦めても、どうにかしてほかの道があるんじゃないかって粘るんです。諦めない。飼い主さんにとってみても、とても良い獣医師だと思います。
今プライベートで熱中していることや、趣味などありますか?
【哲也先生】聡子先生は数年前からマラソンに夢中です。今年の正月、僕も無理やり付き合わされて10キロほど走ったんだけどつらかったです、もう膝がガクガク(笑)。僕自身はというと、映画を観ることが趣味。新旧、ジャンルを問わず観ますけど、どちらかというと邦画が好きですね。なかでも原田眞人監督の作品はとくに気に入っています。彼は風にそよぐ木を撮るのがすごくうまいの。日本の中で一番キレイに撮るんじゃないかっていうくらい。どの映画にも風のシーンが出てきます。なかでも好きなのは『KAMIKAZE TAXI』。あれはすごいです。原田眞人の最高傑作じゃないかな。洋画ではクリスチャン・スレーターが主演の『トゥルー・ロマンス』が大好き。『カッコーの巣の上で』もぼろぼろ泣いたなあ。一度息子に見せたら途中で寝たから、がっかりだったけど(笑)。スピルバーグの『宇宙戦争』もおすすめ。好きな映画を挙げたらキリないですね。
獣医師として大切にされていることは?
【聡子院長】獣医師として、常に最善を尽くすというのは基本的なことですが、私が考える最善と、飼い主さんの思い描く最善とで、考え方が違うこともありますから、やはり飼い主さんに安心感を持っていただき、治療にあたるということでしょうか。こちらができることをすべてお話しして、飼い主さんにとってのベストは何なのか、また、それがワンちゃん猫ちゃんにとってもベストな対応になるような治療を選択することです。こちらの「最善」を押しつけるようなやり方はしません。手術する・しない、治療する・しないは、動物の年齢や状態によっても選択が変わってくるし、飼い主さんの希望もありますから。そこはよくよく話し合って、一番安心されるやり方を選択するようにしています。街の小さな動物病院として、飼い主さん、もちろんワンちゃん猫ちゃんも含めて、その方たちの幸せや安心とはどこなのかを、いつも考えながら治療しています。