西村知美 院長の独自取材記事
アール動物病院
(目黒区/学芸大学駅)
最終更新日: 2023/01/22
東急東横線学芸大学駅、東急目黒線武蔵小山駅よりそれぞれ徒歩15分にあるアール動物病院。このクリニックで働くスタッフは全員女性で、アットホームな雰囲気が特徴だ。犬と猫の皮膚・内科を得意とする同クリニックには、レントゲンや超音波、生体モニター、血液検査、眼圧検査、心電図など、診察を行うには充分な機材が整っている。院長はとても話しやすいのが魅力の西村知美院長だ。子どもを持つ女性にとって、働きやすい環境作りに取り組んでいる院長は、日本大学を卒業後も麻布大学へ研修医として学び直すなど努力家でもある。西村院長には診療の際に気をつけていることや獣医師になったきっかけ、印象に残っている飼い主や読者へのメッセージなどさまざまなことを伺っている。 (取材日2012年9月3日)
後悔がないよう、飼い主には多くの選択肢を与えたい
診察の際に気をつけていることは何でしょう?
できるだけ専門用語を使わないようにしています。病気に関しても病名のみをお伝えするのではなく、どういう原因でどういう症状が起こっているのかを分かりやすく伝えられるようにと思っていますね。また、当クリニックでは予約制を採用しているんです。1件につき30分ずつぐらいしっかりと時間を取って、動物の朝起きてから寝るまでの生活などを、じっくり聞くようにしています。例えば下痢だったとしても、単に下痢の薬を渡して終わりということではなく、食べていた何かが体合わなかったりすることもあります。今までと変わったことがないか、よくお話を聞くようにしています。獣医が気づけなくても、飼い主さんが異変に気づいている場合も多いですからね。
こちらのクリニックの特徴についてお聞かせください。
働いているのが全員女性というのが1つの特徴です。自分の子どもだったらどう接するかという気持ちで飼い主さんを迎えているので、アットホームな雰囲気だと思いますよ(笑)。また、いかに細かく面倒を看られる(ケア出来るかが)町医者の役目だと思っています。もし残念ながら動物が亡くなったとしても、「ここで最期を迎えられてよかった」と言ってくださるご家族もいるんです。大きい病院で代わる代わる診るとそうもいかないかもしれませんが、1頭1頭しっかり診ていけるのが特徴だと思います。
治療を始めて考えが変わったことはありますか?
学生時代に飼っていた2匹の犬が、珍しい病気にかかってしまったんです。1頭が悪性リンパ腫で、もう1頭が脳腫瘍でした。脳腫瘍の犬のほうは頭を開けて腫瘍をとったり、放射線を当てたり、海外から抗がん剤を取り寄せたりと、できる限りのことをやりましたが4ヵ月で亡くなってしまいました。その時、最先端の治療をやり続けることだけが本当に飼い主と動物の幸せだろうか?違う方法の選択もあったのではないか と思うようになったんです。自分の犬の介護を経験して、必ずしも獣医たちが考える最先端の治療が最善ではなく、逆に家族を苦しめることもあるのかなと。あちこち切ったり貼ったりせず、できればきれいなままで生涯を全うさせてあげたい、という考え方もあると思えるようになりました。ですから、あの子を苦しめたんじゃないかという自分の体験談もお話をして、飼い主さんが後悔のないように選択肢をちゃんとお伝えしたいと思っています。家族が選んだんだから、いい選択だったと思ってもらえればうれしいですね。
獣医としての方向性を決定づけてくれた飼い主との出会い
印象に残っている飼い主はいますか?
日本大学を卒業して初めて担当したのがシベリアンハスキーで、その犬は糖尿病だったんです。新人だったのでご家族も不安な面はあったと思うのですが、「この子が死ぬまで見届けてください。精一杯やってもらえたら、それでいいので」とおっしゃっていただきました。実際に担当していると分からないことも出て来たので、麻布大学へ通って勉強をし直したんです。結局、その犬が亡くなるまで8年ぐらい診ていましたが、スタート時点で「わからないことはとにかく学ぶ」という獣医としての方向性を決定づけてくれた、有り難い飼い主さんです。そのご家族はもう犬を飼われてはいませんが、今でも交流がありますよ。大晦日におそばを打ってくれるのでそれをもらいに行きつつ、犬のお参りもしているんです。もう10数年の付き合いになりますが、現在の自分があるきっかになったワンちゃんとご家族だと思います。
獣医師をめざしたきっかけを教えてください。
私の母が獣医になりたかったそうなんです。だから、どんな生き物を持って帰ってきても捨てろとは言われませんでした。その代わり「最後まで面倒を見なさい」と言われていたんです。カエルや鶏、うさぎ、猫など、本当にいろいろな生き物を飼っていました。そこで命を預かる責任の重さを学んだんだと思います。その頃から動物に携わる仕事がしたいと両親に言っていたようで、幼稚園の卒業文集には獣医になると書いていたようです。
このエリアの患者さんはどんな印象ですか?
若いカップルやご家族が多く、意識レベルの高い地域だと思っています。例えばこちらではこの枠内でしか治療ができないとお伝えしたとしても、患者さんから「こういう治療法があるそうですがどうなのでしょう?」と聞かれることもあります。そうした場合、メリットとデメリットを比較検討したうえで、リスクが少なく飼い主さんがその治療をしたいということであれば、そういった治療ができる病院を紹介しています。いずれにしても、みなさんよく勉強されていると思いますよ。
女性が働きやすい環境作りをめざして
知識を得るために勉強されていることはありますか。
ASCという団体で皮膚専門の先生に付いて勉強しています。あとは学会に出たり、書物を読んだりしていますね。また、新しい薬が出たりなどこの業界は日々進歩しているので、分からなかったらすぐに聞くようにしています。麻布大学には研修医時代に教わったスペシャリストの先生がいらっしゃるので、内科に関わらずレントゲンを送って診てもらったりしています。それに、一番は病気をした犬や猫たちが先生になってくれるということですね。その度にもっといい方法はないかと、あちこちいろんな先生にご指導いただいています。本当に知識や技術を持った先生というのはとても謙虚で、快くご指導くださいますね。
今後の展望についてお聞かせください。
皮膚科の専門医の認定医制度がありますので、それを取得しようと勉強しています。当クリニックにはもう一人、土屋という獣医がおり、土屋のほうは循環器科の認定医を取ろうとしているんです。そうやってみんなで専門分野を手分けして、包括的に診られるようにしたいと考えています。また、獣医でもトリマーでも看護師でも、せっかく技術や知識がある女性なのに、結婚や出産を機に働けなくなってしまう人もいます。私自身、子どもを育てながら仕事をしたいと思っていますので、そういう人たちの受け皿になれればと思っていますね。産休が取れるのはもちろんですが、「朝は出られるけど午後はごめんね」とか、少ない時間でも自分たちの専門知識を社会に役立てられればと思い仕事をしているメンバーばかりです。リタイアせずに社会とつながりを持てるような環境作りをして、そのモデルケースになれればうれしいですね。
読者へのメッセージをお願いします。
当然ながら病気があれば獣医が治してくれると思われがちなのですが、私たちが診られるのは24時間365日のほんの一区切りだけなんです。なので、獣医として治すよう努力するのはもちろんなのですが、飼い主さんから有益な情報をいただく必要があります。そして私たちは飼い主さん一人一人が獣医だと思っているんです。「こんなことを言ったら変かな」などと思われるのではなく、何でも言ってほしいですね。大したことはないと思っていることが、結構大事だったりします。獣医にかかる時はできるだけ詳しいことを教えてほしいと思います。私たちとしては診療時間を長めに設定したりして、聞く体制を整え、ゆっくり、じっくりと患者さん、飼い主さんと一緒に治療に臨んでいきたいと思っています。