下田正純 院長の独自取材記事
マイスター動物病院
(横浜市中区/山手駅)
最終更新日: 2023/01/22
「決して裕福ではなかったけれど、常に動物と一緒の家庭に育ったおかげでどれだけ救われたことか」と目を細めて話すのは「マイスター動物病院」の下田正純院長。開業以来、365日年中無休の診療体制とリーズナブルで安心の明朗会計で多くの小動物と飼い主たちを笑顔にしてきた。先端の器具のそろう院内には20人を超える大勢のスタッフが生き生きと動き回り、飼い主に笑顔で話しかけている。獣医師の定着率が高いというのも同院の大きな魅力で、長年勤める経験豊富な獣医師が多いことも信頼を集める理由の一つだろう。次世代の育成に努めながらも獣医師として、人間として進化成長をしつづける下田院長に、診療方針から将来の展望までたっぷりと伺った。 (取材日2015年9月11日)
目次
「早い」「安い」「上手い」「やさしい」4つの要素で、多くの方に愛される動物病院に
33年間、365日無休の動物病院として多くの飼い主から支持されている動物病院だと伺いました。
最初はここから少し離れた諏訪町に妻と看護師と私とで8坪ほどのこじんまりとした診療所を開きました。まだ若かったので夜間も普通に診ていたら、あっという間に病院の外にまで行列ができるほどの人気となり、休みどころか食事も満足にとれないような忙しい毎日でした。今の場所に移転してからは、スタッフも増やしてきめ細かく対応できるようにしてきたのですが、開院から15年間はずっと休みなしでやってきました。小動物は週末もお正月も関係なく、具合が悪くなる時は悪くなります。病気の進行の早い彼らにとっての半日は、人間にとっての半日とはまるで意味合いが違います。「明日診ます」なんて悠長なことはいっていられないので、朝から夜まで365日、休憩時間も設けずにずっと診療しています。獣医師は9人から11人体制で、交替で診療や往診にあたっています。今は夜間・救急専用の病院ができたのでずい分楽になりましたね。
リーズナブルな料金設定にも定評がありますね。
「安い」ということにこだわっているのは、動物には人間のような医療保険があるわけではないのでどうしても人間よりお金がかかってしまいます。だからといって、「こんなにお金がかかってしまうなら、うちは結構です」と飼い主さんに言わせたくはない。せっかく治る術があるのに、経済的理由で治療をあきらめてほしくないからです。だからうちでは、初診料をカルテと診察券の製作費のみにして、再診料はいただかないなど飼い主さんに余計な負担はかけない安心価格と明朗会計を徹底しています。特に初めての方は、動物病院にかかる時に「一体いくらくらいかかるんだろう」と不安に思いますよね。そのような飼い主さんの不安を少しでも減らし、安心して病院に来ていただけるよう目安となる基本料金をホームページに掲載しています。気になる方、不安な方はぜひ確認してみてくださいね。
地元だけでなく、東京や熱海にも「マイスター病院」のファンがいるそうですね。
当院は総勢20名以上のスタッフによるチーム体制で診療にあたっています。そしてスタッフの定着率がいいことも自慢の一つで、10年以上勤務の経験豊富な獣医師も大勢います。当然、一人ひとりのレベルも高く、みんなで情報を共有して意見交換をしながら最善策を導き出していくことができるので、一人で診る場合の何倍も心強いですね。獣医療は腫瘍科、眼科、歯科というように今後ますます専門化してくると思いますが、各先生方の得意分野を活かしたチーム医療で、病院としてもさらに高度な医療に対応していければと考えています。「早い」は時間との勝負、「安い」は明朗会計の安心価格、「上手い」は技術力、そして「やさしい」は動物と飼い主さんの両方に寄り添う心。優秀なスタッフが一丸となってこの4つを大切にしてきたからこそ、広く愛される動物病院として成長してこれたのかなと思っています。
「獣医師は小児科医であり、精神科医である」という意識のもと、小動物にも飼い主にもやさしい医療を
技術力といえば、先生は数多くの手術を手がけられたそうですね。設備もかなり充実していて驚きました。
ほぼ毎日手術している感じですね。避妊去勢以外で多いのは、腫瘍の摘出手術です。人間と違って動物は高齢になるほど腫瘍の進行が速いので、当院では高齢の犬や猫の手術がとても多いですね。そのため、できるだけ体に負担がかからないよう、超音波メス、血管シーリング装置、レーザーメスなど手術に関する器具はかなり充実していると思います。超音波メスは人間の腹腔鏡下手術で使われる先端の医療設備で、動物病院で扱っているところは珍しいと思います。これらを適宜使い分けることによって周囲の組織へのダメージを最小限に抑えたり、糸を使わずに血管を止めたりできるので、手術に伴う出血は殆どありません。先日行った避妊手術の出血量は1cc以下でした。
そもそも先生はなぜ獣医師になろうと思われたのでしょうか。
親が動物好きだったので、生まれた時から動物に囲まれて生活していたということが大きいでしょうね。戦後間もないまだ日本が貧しい時代で家は決して裕福ではありませんでしたが、四畳半に住みながらもなぜかいつも犬がいるような生活でした。中学高校と写真部だったので、実は広告を創るような仕事がしたいと思ったこともあったのですが、やはり小動物を助ける獣医師になりたいという思いの方が強かったですね。でも、現役で獣医学部には入れず、最初は岐阜大学に進学することになりました。転部も考えたのですが、思い切って受験し直してようやく日本大学の獣医学部に進学することができたんですよ。小動物を助ける獣医師になりたいという強い思いとは裏腹に紆余曲折ありましたが、この道に進むことができて本当によかったと思っています。
長い歴史の中で、下田先生が大切にしてきたことは?
「獣医師は小児科であり、精神科である」という考えのもと、私たちは診療を続けてきました。小児科というのは動物に対する思いです。例えば動物を我が子と思った時に、我が子を雑巾で拭いた診察台の上に乗せたくはないですよね。だから診察台は使い捨てのペーパーで消毒薬を使ってきれいにし、我が子に接する時と同じように動物の気持ちや症状を汲み取ろうと誠意を尽くします。一方、精神科というのは飼い主さんへのケアをさします。うちでは飼い主さんのことは必ず「〇〇様」と呼ぶよう徹底し、日頃から相手を敬い、気遣う姿勢を若いドクターにも指導しています。それから、日頃のケアが十分でなかったり、もっと早く連れて来てくれればと思うような場合でも飼い主さんを決して非難しません。獣医師にとって大切なことは、単に技術に長けているだけでなく、どのような場合でも飼い主さんの気持ちに寄り添い、クッション材となって不安を和らげてあげることだと常に言い聞かせています。また、一度もミスをしたことがないという獣医師はいないと思います。大切なのはミスを隠したり言い訳したりせずにきちんと謝り、反省できること。常に正直、かつ誠実であることも獣医師として大切な事だと常に自分にも言い聞かせています。
看取りについて考えるのと同じくらい、今、目の前の尊い命とどう向き合うかを考えることも大切
開院してから15年間は休みなしで診療を続けて来られたとのことですが、プライベートはどのように過ごされているのでしょうか?
たしかに最初の15年間はずっと休みなしでしたが、子どもも小さかったので家庭をないがしろにするわけにもいきません。当時は土曜の夕方まで診療して、それから移動。翌日の朝から昼まで観光したり遊んだりして、夕方までに帰宅して、診療開始。そんな風に時間をやりくりしながら家族で小旅行を楽しんだりしていました。今はもっぱら絵を描くことでしょうか。以前は油絵などの大作にも挑戦していたのですが、最近はなかなか時間が取れないので水彩画や鉛筆画をメインに楽しんでいます。もう少し時間がとれるようになったら、経済的な理由で学生時代は続けられなかった写真にも取り組んでみたいと思っています。
今後の展望についてお聞かせください。
私がここまでやってこられたのは丈夫な身体と家族の理解、そしてスタッフの支えがあったからだと思っています。私は小さい頃から手先が器用だったので外科の技術を研き、写真が好きでさんざんネガフィルムを見てきた経験を活かしてレントゲンの白黒画像から腫瘍の有無などを診断するのが得意です。うちのスタッフたちにも自分の得意分野や好きなことを活かして、どんどん活躍の場を広げていってほしいですね。これからは私が培ってきた技術や経験を次世代のドクターに伝えるとともに、スペースの問題をなんとかクリアしてCTを導入してより正確な診断に役立てたいと思っています。この年になっても気力が衰えることなく、まだまだ頑張れるという気持ちでいられるのは周りのみんなのおかげです。スタッフに恵まれてきたことに心から感謝しつつ、これからも「決して責めない、人のせいにしない、人の悪口を言わない」姿勢で頑張っていきたいと思っています。
最後に、読者にメッセージをお願いします。
高度医療の発展とともに、どこまで治療を受けるべきか悩んでいる飼い主さんも多いと思います。開業した頃は治すことこそ自分の役目だと思っていたので、安楽死なんて考えられないことでした。けれども長年やってきて、看取りにもさまざまなケースがあることを経験する中で、私と飼い主さんと動物の三者の思いや状況が合った時……例えば動物が不治の病でこれ以上は苦しむだけだと私が判断し、飼い主さんも希望されたとしたら、安楽死を一概に否定はできないと思うようになりました。不思議なのは、普段あまり動物に手をかけず、ワクチンや定期検診も受けてこなかった飼い主さんが「先生、大変! うちの子がおかしい」と突然連れてきて、手遅れで亡くなってしまった時の方がペットロスになってしまう方が多いことです。逆に日頃からきちんとケアをしてきた人は、悲しむ気持ちに変わりはなくても「今までがんばったね、ありがとね」と、落ち着きを取り戻すのが早い人が多い気がします。どのように看取るかを考えることも大切ですが、今、目の前の尊い命ときちんと向き合うことも大切にしてほしいなと思います。困った時、悩んだ時はいつでも気軽に相談してくださいね。