宮崎 務 院長の独自取材記事
ダクタリ動物病院 品川ウェルネスセンター
(品川区/天王洲アイル駅)
最終更新日: 2023/01/22
天王洲アイル駅から徒歩5分。8月18日にオープンしたばかりの「ダクタリ動物病院 品川ウェルネスセンター」。まだ新しい匂いの残る院内は、明るくナチュラルなイメージ。広々とした待合室には熱帯魚の水槽が置かれ、診察を待つ家族の目を癒す。独立したばかりの院長、宮崎務先生は、前職の「ダクタリ動物病院 東京医療センター」等で経験を積んだ後、同じく都内のACプラザ苅谷動物病院で勤務した獣医師である妻とともに開業に踏み切った。基本理念は「ヒューマン・アニマル・ネイチャー・ボンド(人と動物と自然の絆を大切にした医療)」。動物の家族と密に話し合い、患者と家族にとって最適な治療法を提示する(Bond Centered Practice)のが同院のモットーだ。プライベートでは3人の女の子の父親であり、自身も犬とフェレットと暮らす動物愛好家の宮崎先生。獣医療に対する熱い思いや未来への抱負など、たっぷりと語っていただいた。 (取材日2014年9月10日)
獣医師としての針路を決めた恩師との出会い
こちらで開業された理由について、お聞かせください。
それには私自身の経歴が大きく関わってきます。私がまだ、獣医学を学ぶ学生だった頃のことです。6年生の就職活動時に、さまざまな企業や病院の方から就職にあたってお話を伺う機会があったのですが、誰もが治療の先進性や有益性を語る中、一人だけまったく違う内容のお話をされた方がいらっしゃいました。その方は病院のアピールは一切せず、「誰のために獣医師になるのか?」という切り口から、人と動物の絆を守る医療についてお話されたんです。それがダクタリ動物病院の院長、加藤元先生との出会いでした。先生のお話に感銘を受けた私は、卒業後迷うことなく同院へ就職しました。そこから24時間救急救命病院である東京医療センターを筆頭に、代々木、久我山、中目黒(2014年6月20日吸収合併)といったサテライト病院で勤務した後、自身の医院を開くことになったんですが、この基本理念を継承したいという気持ちが強くあったこと、24時間体制で高度の医療設備を備えている法人の足が届く範囲に身を置き、新しい地域でも同様の社会貢献をしたかったことから、ダクタリの名称で、この品川という都内湾岸エリアを選びました。
病院の特徴について、お話いただけるでしょうか。
基本理念である「ヒューマン・アニマル・ネイチャー・ボンド」の踏襲、つまり、動物と家族との絆を守る医療を提供したいと考えております。大切な家族の一員のかけがえのない人生を総合的にケアできるよう、診療科目を一科に絞らず、幅広く対応しているのも、そのためです。自分の専門は外科ですが、どれほど優秀な外科医とたとえなっても、外科だけでは一つの命を適切に守ることはできませんよね。予防可能な病気をしっかりと予防する事の大切さは基より、日々の健康を確認・診断する事の大切さ、心身共の健康観を積極的に追求する姿勢(これをウェルネスと呼んでいますが)も、その子とそのご家族の大切な絆を最良に維持するために必要不可欠な事と僕たちは考えています。 持論を実現できるよう、一般の病院で使われている設備は勿論のこと、トリミング施設や動物ホテル施設、リハビリテーション施設や感染症隔離入院室を併設し、クリーンルームとして他の区画と独立した手術室、内視鏡装置やICU機器といった救急医療にも対応した設備を設けています。
内装にも、こだわりが感じられます。
ええ。いかにも病院といった雰囲気にはしたくなかったので、センスの良い妻が白を基調にナチュラルにまとめました。動物達や診療をお待ちになるご家族のために、待合室のスペースも広くとっております。動物は粗相をするもの。病院全体で壁まで立ち上げた床は、沮喪をしても清潔を保てるように、衛生的で高品質な素材を使っています。壁は引っかいても傷がつきにくい素材を、環境への配慮から館内の電灯はすべてLEDにし、レントゲンもモニターを使うことでフィルムレスにしました。待合室の水槽は、付き添いのご家族のために用意したものです。光を受けた水草が酸素を作り、魚がその酸素を吸って、その魚たちの排泄物が水草の肥料になって……。この限られた空間の中に一つの生態系を見ることができるんです。魚と同じように、私たち人間も地球の一員として、様々な自然の恩恵を受けながら各々が大切な役割と多様性を持って協力し合いながら生きているということを感じてほしい。そんな思いから設置しました。
「誰のために働いているのか」を常に念頭に置いて行動する
診察の際、最も気をつけていることは何でしょうか。
どんなに医療設備が素晴らしくても、どんなに専門的な知識や技術があっても、患者である動物達やそのご家族である皆様たちと心が通わなければ真の医療は生まれないと考えています。 様々ある病名や異常な検査数値を直すのではなく、病気を患うその子を治すためには、病気だけではなくその子をしっかり診ること、その子のこれまでの歴史、現在を取り巻く環境や、未来の期待される暮らし方など、ご家族の持つ可能な限り多くの情報の中から現在の問題点を正しく診断し、動物やそのご家族にとって最適な治療へと反映させる事が何より重要と考えています。 ゆえに、診察では五感をフルに使った、「フィジカル・エグザミネーション(身体検査)」と、ご家族と細かくコミュニケーションをとることを大前提に診療を心がけています。フィジカル・エグザミネーションとは、高度な機械に診断を頼るのではなく、医師の五感を使って、診断の70%程までに近づくものです。 学生時代は高度医療機器によって科学的に説明しながら、セオリー通りの治療を行うことが医療と思い込んでいましたが、そうではないんですね。それは医療の為の医療であって、動物やご家族の立場に立っていないことになります。 簡潔に言うと、「その子が幸せに生きていくために必要なものを診断し、足りないものを治療で補うことが医療の目的なんじゃないかな?」、「それを、日進月歩の医療と照らし合わせた上でご家族に幸せをもたらすベストな治療法を提示しなければならないんじゃないかな?」って思うんです。その子がどんな苦しみを持っているのか、治療を加えることで今後どんな生活を送っていくのか、そこまで考えて治療に臨むように努めています。
動物の健康維持のために、提唱していることはありますか?
人では1年に1回の健康診断というのが一般的かと思います。しかしながら、犬や猫は人の約4倍のスピードで生きているので、1年に1回の検査では病気の早期発見を逃す可能性があります。動物にとっての1年は約3ヵ月。3ヵ月に1回のフィジカルイグザミネーションと、各種健診検査を動物の負担とならない程度に分けて行うことを当院ではウェルネスプランとして提唱しています。最善は分かるけど、そこまでできないというお忙しい方には、最低でも七五三で大きくチェックしましょう、と呼びかけています。犬猫の7歳は人間でいうところの44歳。つまり、がんや内臓器系疾患の発生頻度が急速にあがる年齢に達する時期です。3歳は若齢期の病気予防という観点から、5歳は生涯のピークを迎える時期、7歳はこれからの人生に備えて、と健康であることの診断、すなわち健康維持を目的とした健康診断を提唱しています。万が一、病気になったとき、この健康な時の検査結果と比較することで、犬なら犬の、猫なら猫の正常値から異常を判断するのではなく、その子の正常(日常)から異常を知ることで適切な診断と、その子にあった最適な治療が判断できるものと考えています。また、異常を早く発見できれば、治療の選択肢もぐんと広がり、負担のより少ない治療を選択できるし、経過もより良い結果となることが多いので、健康な時こその健康診断を大切にして欲しいと思います。
理想は「動物のことを一番よく知っている獣医師」
獣医師になられたきっかけについて、教えてください。
幼少期から、人や動物、自然がすごく好きだったんです。小学校に上がるくらいから、道端で死んでいる虫をみて,生と死の何が異なるのだろう?何で自分の感情が、同じ動物でも生と死に対して異なるのだろう?と考え始めました。初めて飼った動物がリスだったんですが、そのリスが瀕死の状態にあるとき、何かできることはないだろうか、と考えたのが始まりでした。当時は獣医師の存在を知らず、何も手を施せないまま終わったのですが、その後「動物のお医者さん」がいるとわかり、その道をめざすようになりました。動物が苦しみ悲しみに暮れる家族をサポートできる職業があるなら、絶対にその仕事に就きたいと思ったんですね。これはほとんど記憶に残っていなかったのですが、小学校のタイムカプセルにも「動物のお医者さんになりたい」と書いて埋めていたようです。獣医師の卵となっていた二十歳の成人式の日に、その幼き日の夢を確認しました。それだけこの仕事に対する思い入れが強かったのでしょう。
奥さまとは大学で知り合ったのですか?
はい。大学時代に所属していた教室で知り合いました。妻は一学年下の後輩として、同じ教室で代謝に関する研究を行っていました。先輩や後輩と一緒に明け方まで飲みながら、よくお互いの夢を語り合ったものです。卒業後、妻と私は別々の病院に勤務しましたが、獣医療に対する思いは同じでした。その人生のパートナーである妻とともに、こうして働ける喜び。それに勝るものはありません。
休日はご家族と過ごされるのですか?
はい。愛妻と3人の娘、親子の犬とフェレットの家族と一緒によく公園へ出かけます。昔は自分が楽しいことをすることを幸せと思っていましたが、今は自分も含めてみんなが楽しく遊び、笑っている家族を眺めることが自身の幸せと強く感じるようになりました。今はそうして一緒に過ごせることが、最大の幸せであり、それに感謝する毎日です。
素敵なお話、どうもありがとうございます。最後に今後の展望について教えてください。
理念と価値観を共にする医療チームを創ることで、偏りの無い、より良い医療の実践、自分達の限界を定めることなく、常に「誰のために!」を考えた医療を推進していきたいと考えています。また、かけがえのない仲間、チーム一人ひとりの人生を、その家族も含めて、共に助け合い、支えあって生きていくことができるような、「誰のために!」は当然、身内にも当てはめる、そんな病院、医療チームにしたいですね。 世の中には私たちより大規模な病院、優秀な獣医師・医療スタッフが大勢います。それでも僕たちは、「あなたとあなたの大切な動物の家族のことを、誰より一番よく知り、誰より一番良く理解しています。」と、ご家族と患者である動物達に胸をはって言えるようになりたい。それが私の目標であり、理想の姿なのです。