水野 聡 院長の独自取材記事
一之江どうぶつ病院
(江戸川区/一之江駅)
最終更新日: 2023/01/22
一之江駅より10~15分歩いた住宅街に、2011年に開院した「一之江どうぶつ病院」がある。院長の水野聡先生は、中学2年生で犬を飼いはじめて以来、ずっと動物とともに過ごしてきた大の動物好きだ。動物は先生にとって癒やしの存在であり、助けられることも多いと語る院長は、常に飼い主の気持ちを考え、自分ならどう悩むかを想像しながら診療を行うそう。同院は、飼い主と動物にとって居心地の良い空間を意識して設計され、白と茶が基調となり落ち着く雰囲気。広々とした待合室にあるモニターには予防や疾患に関するお知らせが映し出され、待ち時間を埋めてくれる工夫も。分かりやすい説明を心がけ、納得して治療を受けてもらうことを大切にしている水野先生。日々の診療や動物に対する思いなど話してもらった。 (取材日2016年10月19日)
納得してもらうために時間をかけて丁寧な説明を
開業して5年ですが、経緯などを教えてください。
患者さんをもっと身近に感じられるといいなと思っていて、勤務医を8年経験してからここに開業しました。勤務医では、やれることの幅がどうしても限られてしまうため、自分のスタイルでやっていきたいという思いがあったんです。とはいえ、開業から5年でまだ半分しか理想を実現できていないです。仮に、満足してしまうと、その時点で終わってしまう気がするんです。やっぱり、毎日が勉強です。幸いにも、勤務してきた動物病院が近く、何かあった時に助けてもらえる環境だったので、この場所を選びました。地域の方に加え、2駅隣の地域、遠くへ引っ越された方もわざわざ来院されます。やはり信頼してくださっているのかなと、ありがたく思いますね。
開業にあたり、こだわったポイントはありますか?
落ち着いた内装で、飼い主さんと動物たちに居心地のいい空間であることを意識しました。待合室を広めにしたのは、家族みんなで来てもらいたいからです。飼い主さんが納得してくれるまで説明するので、待ち時間が長くなることもあります。時間を気にせず待ってもらえればと思い、待合室にモニターを設置して、予防や病気についてのコンテンツを流しています。私自身、病院で待つのは苦痛だと感じますから、飼い主さんも同じだと思うんです。コンテンツをきっかけに、病気に興味を持ってもらえればうれしいです。飾ってある観葉植物は、飼い主さんからいただいたものです。開業時に構想していた、ICUも現在は導入しています。
獣医師2人体制で診療されているそうですね。
2016年8月から常勤の獣医師が増えました。先ほども言ったように一人ひとりに納得できるまで説明したいという思いがあるので、どうしても時間がかかってしまうんですね。患者さんの増加につれ、一人では対応が難しくなってしまいますから、いくつかの動物病院で経験を積んできたベテランの先生が代診として当院での獣医療に携わってくれていて、とても助かっています。
犬のデザインはかつての愛犬をイメージしたもの
印象に残るエピソードを教えてください。
獣医師になって17年になりますので、生まれて初めての予防接種を受けた子が亡くなるまで、お付き合いできることもあります。お別れはとてもつらいことですが、飼い主さんから「先生に慣れていたし、ここまで先生にお願いできて、よくしていただいて良かった」と言われると、冷静でいなければと思いながらも涙があふれてしまいます。また、大学を卒業と同時にビーグル犬を飼い、ずっと一緒に生活していましたが、開業から1年経った頃に亡くなりました。わがままを言わず、大人しくついてくる子でした。当院のキャラクターは、その子をイメージしてイラストレーターが作ってくれたものなんですよ。
先生が動物を身近に感じるようになった出来事を教えてください。
私は田舎育ちで、幼少期は小鳥やニワトリを飼っていたんです。中学2年生から犬を飼い始めたことが、動物を身近に感じるようになったきっかけですね。すごく元気で、私が獣医師になると決めた高校生の時も、まだ健康でした。ところが大学に入った頃から高齢のため、だんだん体調も悪くなって。私はまだ学生だったので、獣医師免許がなかったんですね。亡くなる最期の時は、何もできないやるせなさを感じました。自分で診ることができなかったからです。獣医師という仕事は、動物が可愛いというだけではできないと、大学に入ってから痛感しました。目の前にいる動物が全て元気なわけではないし、現実として受け入れないとならないこともあります。でも、それが自分の選んだ道だと思って糧にしています。
先生にとって動物とはどんな存在ですか?
疲れた時に心を癒やしてくれる存在ですね。私も動物たちに助けられていますし、散歩で一緒に気分転換もできる相棒です。犬を飼い始めて以来ずっと動物と生活をともにしています。今飼っている犬2頭は、知人の獣医師からの紹介で巡り合いました。茨城県で保護された犬なんですよ。通勤も散歩しながら連れて来るんですよ。病院で飼っている猫も保護して、足が不自由だったこともあり、里親が見つからなかった子です。動物中心の生活で、もう動物がいない生活は考えられないですね。
飼い主の気づきが治療のきっかけ。異変はすぐ相談を
先生が診療において大切にしていることはありますか?
飼い主さんには、医療用語を使うと分かりにくいでしょうから、かみ砕いた説明が必要です。受診しようと思うのは、それだけ動物を大切に思っている証拠ですよね。私自身、犬を飼っていますから、飼い主さんの気持ちが分かるんです。自分が獣医師じゃなかったら、どんな気持ちでどう悩むだろうと想像します。病気では? と、不安な気持ちで来院されるのですから、十分説明して納得していただき、今後の治療などを考えていくようにしています。また、動物にとって病院は嫌な場所ですから、なるべく痛みや苦痛などのストレスを与えないように注意しています。注射1つでもそうですね。飼い主さんと動物たちの関係性も、コミュニケーションを図りながら感じ取るようにしています。
地域の動物病院としてどのような存在でありたいと思いますか?
私たち地域の動物病院は、一次診療としてオールマイティーでなければなりませんし、情報は幅広く持っている必要があります。その上で、専門性の求められることに対しては、より分かりやすい説明が重要です。飼い主さんにしっかり説明して納得していただき、近年は動物医療においては二次診療機関も広がりを見せていますから、適切な病院へ紹介するようにしています。当院では、大学病院・日本動物高度医療センター・前勤務先などと提携しています。症状や飼い主さんの交通の便などにも配慮し、紹介先を選ぶようにしているんです。当院では、あえて予約制にしていません。その理由は、病気は予期せぬことですから、予約を取った方が便利な場合もあるかもしれませんが、不定期に起こる病気にも対応していけることをめざしているからです。
今後の展望などをお聞かせください。
人間と同じで、動物も高齢化が進んでいますから、緩和ケアや高齢の動物たちにできることを考えていかなければならないと、日々感じています。獣医師になってから飼っていた犬も、16〜17年と長生きでした。ひと昔前より、平均寿命が5年くらい延びてきているのではないかと思います。普段とは違う行動をしていたら、早めに相談していただくことが重要です。一番身近にいるのは飼い主さんですから、獣医師が気づかないことも飼い主さんなら気づけることがある。その気づきが、治療のきっかけになることもあります。何か疑問があったら、遠慮せずに話してください。