山崎 泰輔 先生の独自取材記事
そよかぜ動物病院
(さいたま市中央区/南与野駅)
最終更新日: 2024/07/24
南与野駅西口から徒歩約2分の場所で、10年以上にわたって地域の動物医療に力を注いでいるのが、「そよかぜ動物病院」だ。与野地区内にあるほかの2院のグループ病院とも連携しながら、犬と猫に対して幅広い医療やケア、サービスを提供している同院。それらを統括する立場である山崎泰輔先生は、新しい薬による治療も積極的に取り入れることで、できるだけペットに負担の少ない治療を提供することに尽力。加えて、動物の食事に対するアドバイスにも努めることで、飼い主とペットが末長く一緒に、幸せに生活できるようサポートをすることをめざしている。「飼い主さんの幸せのために動物医療を実践することが大切だと考えています」と話す山崎先生に、同院のことや獣医療にかける思いなどを聞いた。(取材日2023年3月16日)
グループ病院とも連携して幅広い動物医療を提供
最初にこちらについて紹介していただけますか?
当院は、与野地区に3院展開している「そよかぜ動物病院」の中核的な病院になります。当院とグループの動物病院には、それぞれが得意分野を持つ獣医師がおり、犬と猫の幅広い病気や症状に対応しています。当院では、飯塚哲也先生が専門としている腫瘍の手術も含む治療にも力を入れています。ほかに、北与野院と与野駅前院があり、北与野院は当院と同じかそれ以上の専門医療を提供できる動物病院になっています。与野駅前院は、もともとは予防医療でノミやマダニ、フィラリアなどのワクチン接種を中心にしていましたが、最近では超音波診断装置や血液検査機器なども充実させて、いろいろな病気にも対応できるようになっています。私は、現在はCEOと言いますか、これらの動物病院を統括しながら、3院で連携して幅広い動物医療を提供することをめざしています。
力を入れていることはありますか?
これは、動物医療全般に言えますが、近年では新しい薬がたくさん出てきています。中でも、人でも話題になっている抗体医薬品というのがあって、これは動物医療でも人よりも早く発売されるものが多いんですね。人だとフェーズ1〜3の治験をして認可をとりますが、その段階で動物のフェーズがあって、動物で問題がなければ先に発売されていることがあるんです。抗体医薬品の最大の特徴は副作用が少ないことで、そのためすごく使いやすいのです。私たちは、そういうものを積極的に取り入れて、薬は化学薬品ではなく、副作用の少ない体の成分の一部を注射するという新しい医療をしっかりと学んで、飼い主さんに提供していくことに力を入れています。
具体的には、どのような薬なのでしょうか?
一つは、ロキベトマブという薬があります。これは犬アトピー性皮膚炎による掻痒や症状を緩和のために用いるもので、1ヵ月に1回注射をします。アトピー性皮膚炎では、IL-31という物質が出て、それがかゆみのシグナルになるのですが、ロキベトマブは血中にとどまって、IL-31をブロックしてくれることが期待できるのです。アトピー性皮膚炎には、以前はステロイド剤が使われていましたが、それには副作用があるし、飲み続けると病気のリスクも上がるというジレンマがありました。ですが、ロキベトマブなら月に1回の注射1本になり、犬の負担軽減につながる治療であることは大きなメリットだと考えています。
抗体医薬品による治療やフードのアドバイスにも注力
ほかにも抗体医薬品が使える病気はないのですか?
もう一つは、猫の変形性関節症薬でフルネベトマブというのがあります。実は統計学的に見ると、8歳以上の猫のほとんどが変形性関節炎を患っていることがわかっています。ですが、飼い主さんたちは猫の痛みに対してはなかなか気づかないので、多くの猫が変形性関節炎で苦しんでいることが認知されていないんです。そして、神経成長因子のNGFという物質が痛みシグナルだということがわかり、それをブロックする働きが期待できるのがフルネベトマブです。こちらも1ヵ月に1回注射をすることで、猫の変形性関節炎による痛みの緩和がめざせます。動物たちの負担に配慮されていて、QOLの向上も期待できる良い薬だと考えています。
医療以外のサービスで力を入れていることはありますか?
トリミングでは、てんかんを持っているなどの理由でほかのトリマーさんに断られたという場合でも、病院というメリットを生かし、できるだけ対応しています。また、当院のスタッフはみんな動物の栄養、特に犬と猫の栄養学について専門的な知識を持っています。ですから、どうやってダイエットすれば良いのかとか、腎臓病の子にはどういう食事を与えれば良いのかといったことの相談なども幅広く受けつけています。特に、餌に関しては、世の中には本当に数えきれないほどのペットフードが売られていますが、その一つ一つについて、私たち獣医師が良いとか悪いという立場ではありません。本当に良いものもあるでしょうけど、それってわからないんです。
では、フードはどのように選べば良いのでしょうか?
私たちができるのは、内容成分や製造方法まで熟知しているフードを紹介することです。私は以前、実際にあるペットフードメーカーの工場をアメリカまで視察に行ったことがあります。どんな原料を使って、どんな工程でドライフードができるのかを実際に見せてもらいました。目の前に人間でも食べられる新鮮で高級そうな肉があって、実際にステーキで出されましたけど(笑)、それがドライフードになるんですね。そこまで開示しているメーカーはそう多くありませんが、私たちはそういうフードを自信を持って勧めています。
飼い主のために動物医療を実践することを大切に
診療の際に心がけていることを教えてください。
医療技術はとても重要なことだと思いますが、これまで長年動物医療をしてきて、私たち獣医師がなんのために存在しているのかと考えると、飼い主さんの幸せのために動物医療を実践すること。そのためにペットと向き合っていくことが大切で、そうするために最新の医療技術を学ぶ必要があるのだと思うのです。例えば、犬や猫の病気には、もちろん治らないものもあります。だからと言って飼い主さんとの縁を切ってしまうと、その鬱々(うつうつ)とした気持ちのやり場がない。病気になったのは、飼い方が悪かったからではないかと自分を責めて、孤独になってしまう。そこで、治らないかもしれないけど一緒に寄り添っていきたいから、2週間に1回でも連れてきてくださいと話すと、飼い主さんは安心してくれます。そういうことを受け入れるコミュニティーが動物病院であるべきだと思いますし、それができる病院として成長していきたいと思っています。
先生は、なぜ獣医師を志したのですか?
私はもともと医療に興味があり、人を診る医師に憧れた時期もあったのですが、自分の性格では人の死を受け入れることはできないと思って断念したんです。それで、幼い頃から多くの動物と触れ合ってきた中で、動物たちにも痛みや喜び、悲しみがある。それらに寄り添うことができる獣医師になりたいと思いました。獣医師の魅力の一つは、一生にわたる付き合いです。人の医療は臓器別に細分化されていますから、人の一生の一部しか診ることができませんが、獣医師は動物が生まれて家族となり、死ぬまでずっと見守ります。動物を通して飼い主さんと長くお付き合いできるのが獣医師であり、大学や卒業後に勤めた動物病院でも、私は人間関係がいかに大切かを学びました。
最後に今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。
言えることは、私たちはこの10年間、本気で動物の地域医療に取り組んできて、これからも獣医師一人ひとりが責任を持って診療し、飼い主さんの信頼を得られるように努力していきたいということです。そうすることで、どこの動物病院に連れて行っているのかと聞かれた時に、そよかぜ動物病院に行っているということが一つのステータスになって、それが飼い主さんとペットの幸せにつながるように頑張っていきたいと思っています。病気の治療や予防から、健康診断、食事の相談などまで窓口は広げていますので、ペットのことであれば、どんなことでも気軽に相談に来ていただけたらうれしいですね。