小沼 守 院長の独自取材記事
大相模動物クリニック
(越谷市/越谷レイクタウン駅)
最終更新日: 2023/01/22
「大相模動物クリニック」の周囲は今でも住宅が次々に建てられている新興住宅地。同院はその一角で、周囲がこれほど盛んに街づくりがなされる前からさまざまなペットの診療にあたってきた。獣医師の数は院長の小沼 守医師を含め5人。アトピー性皮膚炎、循環器、眼科などそれぞれ強みを持つ獣医師が多い。中でも小沼院長はエキゾチックアニマルや犬の皮膚病などの研究で先駆的なデータをいくつも世に送り出し、現在、エキゾチックペット研究会の監事(元会長)や獣医アトピー・アレルギー・免疫学会編集委員等を務めている獣医師だ。犬猫やエキゾチックアニマルに関する著作も多数ある。しかし、小沼院長は同院をあくまで「地域のかかりつけ医」として認識し、「一番の看護師は飼い主さんだ」 とも話す。高い専門性を持ちながらこのように話すのはなぜなのか。小沼院長に治療ポリシーなども聞きながらその理由について詳しく話を伺った。 (取材日2015年7月7日)
エキゾチックアニマルにも犬猫と同じ命の重さを
移転を機に「大相模動物クリニック」に名前を変えられたそうですね。
はい、そうです。当院は1995年に「おぬま動物病院」として始まりました。元々越谷市の人間なので、常々この地に社会貢献することは考えていました。その中で、地域名を医院の名につけたいという思いが強くなりました。そこで、2012年に越谷レイクタウンに移転した際、病院名を「大相模動物クリニック」に変えました。越谷レイクタウンを選んだのは、高校生の時の通学路であり、かつ、将来性もある土地だったからです。「大相模」はこの地域の地区名です。この名前にしたのは、できるかぎり地域の皆さんに愛される病院を作りたいという気持ちがあったから。業務を縮小し、専門医療に特化した病院にするという方向性もあったのですが、大きく展開して地域に貢献する道を選びました。
確かに、各分野の先生がたくさん在籍されている大きな病院ですね。
当院は中規模の動物病院だと思います。犬のアトピー性皮膚炎とアレルギー、そしてエキゾチックアニマルの治療が当院の大きな柱です。そして、副院長が心臓の治療を得意としているため循環器も当院の特徴となりました。でも、それはあくまでごく一部の診療であって、基本は地域のかかりつけ医です。何でも診る総合診療の医院である、というところは変えたくないんですよね。実は、私は得意分野にこだわる医療があまり好きではありません。たまたま興味のあるものをやっていたらそれが専門らしきものに変わっただけなんです。当院でハムスターの診療をやり始めたのも私が昔ハツカネズミを飼っていたことがあり、エキゾチックアニマルの中でこういった小さな生き物が好きだったからなのです。
先生はエキゾチックペット研究会の会長も務めていますね。
昔は犬と猫以外の診療ってほとんどできなかったんですよ。本も教えてくれる人もあまり存在していませんでした。そんな中でハムスターの患者さんが増え、需要があるならば、と勉強する必要に迫られました。そして、海外の本を読んだり、情報があるところに足を運んでみたりしているうちに、わからないことをもっとわかるようにしたいという欲求がわいてきたんです。そんな中、当時、フェレットにリンパ腫が多いというのはわかっていましたが、その中の分類がありませんでした。犬や猫ならば分類があるのになぜフェレットにはないのか。それならば、自分で作ってしまおうと研究を始めたのです。最終的にフェレットのリンパ腫の研究論文を複数発表し、博士号を取りました。エキゾチックペット研究会の会長にまで拝命されましたが、私は先駆者でも専門医でもないと思っています。犬や猫と同じようにエキゾチックアニマルも治療したいと思った結果、そうなっただけなのです。
患者とのしっかりしたコミュニケーションでペットを救う
先生の治療ポリシーを教えてください。
飼い主さんに治療をよく理解してもらう「飼い主さん教育」に尽力しています。人の医療だと教科書に載っているような医療をしないと訴訟になってしまいます。我々は少しスタンスが違っていて、飼い主さんが選んだ医療がベストの医療なのです。時に飼い主さんがそれぞれの治療の利点、欠点、今後の予測をすべて理解した上で選択したのなら何もしないことが最良であることもあります。それが一番覚悟のいることだとは思うんですけれど…。それであればどんな結果であっても飼い主さんは後悔しません。それが大事なことじゃないかと思います。「この病気だからこの治療をしなくてはいけない!」と獣医師が医療を押しつけるのは、私は好きじゃありません。
飼い主さんとのコミュニケーションする力が問われますね。
はい、たとえ私が優れた技術や機材を持っていたとしても、飼い主さんにその治療を選んでもらわなければなんにもならないですし、来院したペットさんを助けられません。動物を助けたいからこそ、飼い主さんにきちんと納得してもらい、良い治療を選択してもらう必要があるのです。そのためには飼い主さんとのコミュニケーションが大切だと考えております。以前、業界紙で飼い主さんとコミュニケーションを取るための方法を経験論で書いた連載を持っていたんです。でも、それは経験論であるがゆえに偏りがありました。もうちょっと根拠のあるものを作りたいと思っていたところ、ラッキーなことに当院に来院される飼い主さんに、文教大学の臨床心理学の教授の先生がいらっしゃったのです。その先生に相談をして、臨床心理学を学ぶ機会を得ることができました。飼い主さんのストレスなどを学生と共同研究しながら臨床心理学を勉強し、今度は臨床心理学的に即したコミュニケーション学の連載を始め、幸いにもそれをまとめたものが教科書になりました。これからの時代、患者さんとのコミュニケーションが重要であり、医学の世界でも人としての医療が求められてきております、これが獣医師でも当たり前になってきて欲しいですね。
少年に大志を抱かせず、歩ませる
たいへん勉強熱心な先生の熱意の源泉はなんですか?
我々の業界は日進月歩ですから、明日になったら違う治療が始まるかもしれないし、私の言っていることが嘘になるかもしれません。もっとよく調べれば本当はもっと良い治療があるのではないか? そうやって常に自分を追い立てないと思うのです。飼い主さんに「ここに来れば良くなる」と期待してもらっているのにそれを裏切ることになってしまうことが最も恐れています。だから、若い人には「慢心せずに常に自己研鑽しなさい」と言っています。そのためには、私自身が若い人以上に自己研鑽していなければなりません。正直大変ですけどね。
それが先生の今の目標なのですね。
常に自分なりの3年5年計画を立てています。そうしないと人生って進まないのです。若い人にはよく「夢を持つな」と言っています。個人的な見解ですが、夢ならば別に叶わなくてもいいと感じるのです。だから夢を目標に切り替えることで、今何をするべきかが見えてきます。目標を口にしているうちに「あいつは頑張っているから助けてあげようかな」という人が出てくるものなのですよね。自分が考えた人生計画とは多少のずれがあるものの、私はほとんどクリアしてきました。「そうしなければいけない」という思いでやっていかないと、人生は短いからすぐ終わってしまいます。40歳を越えて、自分の人生は半分が終わったのだと思いました。それならば、後の半分は社会貢献をしよう。その中でも教育を中心にして、世の中に恩返しをしよう。今はそう思っています。もちろんこの場所を基盤としてですけどね。
最後に、読者にメッセージをお願いします。
家族(動物)の健康のために動物病院はありますが、その健康を守るのは獣医師でしょうか?違いますよね、動物病院は少しお手伝いはさせていただきますが、本当に守ってあげられるのは飼い主さんなのです。だからもしその家族(動物)を守るべき飼い主さんが誤った飼い方をしていたら健康も維持できず、飼い主さんも家族(動物)も幸せになりません。だからこそ愛する家族(動物)を守るために飼い主さん自身が、飼い方や病気について自ら学ぶ必要があると思います。また、治療に関しては、さまざまな方法がありますが、飼い主さん自身が納得した獣医療を受けるべきです。そのためには飼い主さんは、なぜそれなのか?複数の選択肢がないのか?あったとしてそれぞれの利点・欠点は何なのか?などの説明をきちんと聞いて後悔の無い獣医療を提供してもらえるよう積極的に疑問や質問を投げかけましょう。家族(動物)の幸せのためにがんばってください。