斉藤 将之 院長の独自取材記事
斉藤動物病院
(さいたま市緑区/北浦和駅)
最終更新日: 2023/01/22
JR京浜東北線北浦和駅東口より車で約5分。清潔感があり広々とした院内の「斉藤動物病院」は、日本のうさぎ医療のパイオニアともいわれる斉藤久美子先生が開院したクリニックだ。現在、2代目の院長を務める斉藤将之先生は、斉藤久美子先生の息子。診療動物は犬、猫、うさぎ、ハムスター、フェレット。やはりうさぎの診療が多く、全体の7~8割を占める。うさぎに強い動物病院として遠方から来院する方もいるが、うさぎのことを思えば近くの動物病院の方がいいからと、他院を紹介することもある。2代目として母の築いてきたものを大切にしながら、自分らしさも取り入れていきたいと謙虚に話す斉藤将之院長に病院について、そして趣味についても話を聞いた。(取材日2016年3月23日)
うさぎ診療が7~8割を占める、うさぎに強い動物病院
こちらの動物病院の特徴について教えてください。
当院で診療している動物は、犬、猫、うさぎ、ハムスター、フェレットです。割合としてはやはりうさぎが一番多く、7~8割はうさぎです。最近は猫がブームということもあってか、猫の割合も増えてきていますね。犬、猫、フェレットの一般的な予防接種から病気の診療、避妊・去勢手術などを行っています。うさぎの飼い方をちゃんと勉強してから飼ってもらえればいいのですが、出会いで飼い始めることもありますから、きちんとした飼い方を知らない飼い主さんも少なくありません。ひと昔前は「うさぎには水を与えてはいけない」と言われていましたが、これは間違いです。しかし、今でもそう思い込んでいる飼い主さんもいます。そういった飼い主さんに正しいうさぎの飼い方を教える。これも当院の大切な仕事だと思っています。また、入院設備に余裕がある場合は、ペットホテルとして健康なペットを預かることもしています。
分院の「さいとうラビットクリニック」についても教えてください。
「斉藤動物病院」は私の母で、現会長の斉藤久美子先生が1980年に開院しました。当時は犬や猫などの小動物は診ていましたが、うさぎの診療を中心とはしていませんでした。その後1980年代の後半から「うさぎを診てくれませんか」という問い合わせが増えたそうです。犬や猫が肉食動物なのに対してうさぎは草食動物なので、まったく違うのです。問い合わせが多くありましたので、それなら、とうさぎの医学書を翻訳することから始め、現在では斉藤久美子先生は日本のうさぎ医療の先駆的存在と言われています。1999年にうさぎ専門の「さいとうラビットクリニック」を分院として開設し、斉藤久美子先生のうさぎ診療はそちらでも行っています。こういった経緯があるので、当「斉藤動物病院」でもうさぎ診療が主体となっているのです。
うさぎを飼う上で気を付けるべきことはありますか
うさぎは、飼い主さんの中で「沈黙の動物」と言われているほど自分の体調を見せない動物です。犬や猫と違い草食動物ということもあり、野生の中で生き延びるために、ぎりぎりまで元気な姿を見せるそうです。なので、エサの量が減ったり、運動量が減ったりと普段の様子と違うことがあれば、数日間様子を見るのではなく、すぐに来院してください。体調を見せない分、気が付いた時には病気が進行している場合もあります。是非、うさぎを飼う際は、定期的に診察にいらしてほしいですね。また、避妊手術についてもまだまだ世間に浸透していないことかと思います。避妊手術を行っていないと約半分以上の確率で子宮の病気にかかるとも言われています。犬や猫の避妊は世間に浸透しているがうさぎはまだまだ。放っておくと子宮癌になる可能性もありますので、成長期が終わる6ヵ月から1歳半の間に避妊手術をお勧めします。
うさぎ医療のパイオニア的獣医師の息子として
獣医師をめざしたきっかけはなんですか?
母の斉藤久美子先生は「跡を継いでほしい」ということは一切言わない人で、しかも私が子どもの頃、母はとても忙しくしていて、兄弟みんなで「あんな忙しい仕事したくない」って言っていたほどでした。私は高校生の頃からプラモデルを作ったり、フィギュアをパテから作ったり、絵を描くことが好きだったので、将来は絵を描いたりする方向でやっていきたいと考えていました。「とりあえず獣医大学を受けてみない?」と母に勧められて受けた獣医大学に合格したのをきっかけに獣医師をめざすことになったというのが本当のところです。でも、母が苦労してつくりあげた病院を継いであげたいという気持ちもあったからこそ受験したというところもあります。もともと動物は好きだったのですが、大学で勉強し獣医師になり「あぁ、僕はこんなに動物が好きなんだな」と改めて実感しました。
診療にあたって大切にしていることはなんですか?
私は獣医大学を卒業後、千葉と神奈川の動物病院での勤務を経て10年ほど前に当院に着任しました。私が院長になるにあたり母は「好きなようにやっていい」と言いましたが、やはり斉藤久美子先生に学ぶところが多いですね。飼い主さんとのコミュニケーションの取り方や動物の診療方法、インフォームドコンセント、あまり自分の功績を院内に貼ったりするようなことをしない謙虚な姿勢など、斉藤久美子先生の良いところを吸収し、方針を変えることなく今後も続けていきたいと考えています。今でも方針に迷ったら斉藤久美子先生に相談し、自分が納得できるものを取り入れながらやっています。遠くから来院される方には、ご自宅の近くでうさぎを診ることができる動物病院を紹介もしています。その方がうさぎの体への負担が減らせますから。
斉藤将之院長ならではのところはありますか?
病気で入院している間も、飼い主さんはとても心配だと思うんです。ペットは体も小さく病状が急変することもあります。入院でお預かりする際には「もし夜遅くになにかあった場合には電話してもいいですか」と飼い主さんの許可をいただいています。例えば深夜の1時、2時に見回ってみたら病状が急変していてあわてて処置したり、場合によっては亡くなっていることもあります。そんなときには朝まで待たず、飼い主さんに連絡していますね。自宅がすぐ近くで、今はまだ若いからできることかも知れませんが、24時間体制で入院動物たちを診てあげたいと思っています。
これからもうさぎにこだわり、研鑽を重ねていきたい
印象に残るエピソードについてお聞かせください。
以前、見た目は健康だけど、念のため、とうさぎを健康診断に連れてきた方がいました。食べる量や運動量ともにいつも通りだからと少し軽い気持ちだったようです。しかし、実際に検査をしてみると子宮癌が見つかり、すぐにでも手術が必要な状態だったのです。すぐに手術を行い、現在は3年が経過しています。先ほどもお話しさせていただきましたが、うさぎは「沈黙の動物」と言われています。弱さを見せていなくても、大きな病気が隠れていることもしばしばあります。是非、定期的な健康診断にいらしてください。
休日はどう過ごしていますか?
高校生の頃からやっているプラモデル制作やフィギュア制作をしたり、ゲームをしたり、イベントに参加したりと、趣味のことをして過ごしています。クリニックのホームページも自分で作っているのですが、手を動かしてなにかを作ることが好きなんですね。学生の頃はよく秋葉原にも行っていたのですが、今は忙しくてなかなか行けません。獣医師仲間では私は「初のアキバ系獣医師」なんだそうです。でもこの細かい作業を集中して行うということは、本業の獣医の仕事にとても生かされていると思います。集中力の求められる手術などでも、3~4時間くらいなら難なく集中できますから。
今後の展望についておきかせください。
斉藤久美子先生は、うさぎ医療の本を出版したり、講演会を行ったりと、後進の育成にとても力を入れてきたのですが、「どうして自分で開拓した分野を他の人に奪われるようなことをするんですか」と、よくインタビューで訊かれたのだそうです。それに対して「お金儲けのためじゃなく、うさぎと困っている飼い主さんたちの力になりたいから」と答えていました。私もその考えに賛同しています。獣医師会でのうさぎの症例発表や日々の診療で自分自身の研鑽を積むのはもちろんですが、うさぎを診療できる獣医師をもっと増やしていきたいと考えています。うさぎはとてもデリケートで疲れやすい動物ですから、遠くからわざわざここまで通っていただかなくても、自宅の近くで診てもらえる動物病院が増えたほうが、うさぎのためにもいいのです。