植村 剛 院長の独自取材記事

実を言うと、子どものころは犬が大嫌いでした。ある時、バス停に立っていたら、隣のスーパーにつながれていたはずの犬が僕のところに走ってきました。背中にのしかかられ大声で泣き叫ぶと、目の前の交番から警察官が走ってきて助けてくれたんです。その人に「泣くなよ坊主。犬は遊んでほしいだけなんだから」と言われて、「犬の気持ちがわかれば怖がる必要ないんだ」と思ったのが獣医師をめざすきっかけになりました。もともと猫など他の動物は好きだったので、「子犬なら猫のようなもの」と自分に言い聞かせて犬を飼い、恐怖を克服したんです。ただ、高校生の時は担任に生物をやりたいと言ったら反対され、物理・化学を専攻。どうしても生物がやりたかった反骨精神で獣医師になると決意し、獣医学部に入りました。合格後、その担任へ勢い勇んで報告に行ったら、はじめから先生は僕のやる気に火をつけようとしてただけのようで、したり顔されてしまいました。

僕はどちらかというと人と接するのが苦手なんです。でも、動物を飼っている飼い主さんとはなぜか会話が弾み、いつも楽しい時間を過ごさせていただいています。獣医師ですから、動物の気持ちをくみたいという思いは常にあります。ですが、「動物」が共通点となり、「人」とも心を許し合えていると感じられる瞬間はとても幸せです。また、弱っている動物や助けを必要としている動物に、力を貸してあげられた時もうれしいですね。これをやりがいと言ってしまうと少し語弊があるのですが、苦しんでいる動物を助けてあげられる力がある獣医師は、やはり僕にとって魅力なのだと思います。

大学中は、遺伝子操作の分野を専攻していました。遺伝子操作によって、あるばい菌に特殊なタンパク質を作らせて、それをワクチンとして使う研究です。大学を卒業してからは、歯科の専門医資格を取りました。大学在学中にご縁のあった先生に、これからの獣医療にはどんな知識が必要かと相談したところ、獣医歯科の専門医の先生を紹介していただいたのです。とても厳しい方でしたが、その先生のもとで勉強させていただいた経験が、自分を大きく成長させてくれました。獣医歯科ではすべての動物の歯科を診るのですが、僕が主に経験したのは犬、猫、うさぎ。特にうさぎは歯が伸びやすく、歯科疾患も多い動物なんです。うさぎの歯科専門書があるほど治療が難しい動物でもあるのですが、当院は治療可能ですので、ぜひご相談いただきたいですね。

先ほどもお話ししたように、一般的な診療の他に歯科疾患も診られることは当院の強み。最近は動物の高齢化に伴い、心臓の疾患も増えてきていますので、循環器の診療にも力を入れています。また、飼い主さんとよくお話をするのも特徴といえるかもしれません。つい長くなりすぎてしまう時もあるのですが、飼い主さんが病気についてしっかり理解し、どのように治療を進めていきたいか意思確認することが、治療において一番大切です。できるだけ多くの選択肢をご提案し、その上で選択していただきたいと思っています。

通常の薬の処方などに加え、内視鏡や漢方、超音波診断装置などを導入し、少しでも飼い主さんのご希望に沿った治療が行えるよう、準備を整えています。動物の世界でも高齢化が進み、予防や慢性病の治療が主となっています。犬や猫など同じ動物でも種類によってかかりやすい病気は違いますから、例えばどのような食生活にすれば予防につながっていくのか、個々の動物に合わせて指導することもあります。また、慢性病においては、一つの病気に対し、決められた治療をすれば動物が元気になるとは言い切れません。当院では、「飼い主さんの苦痛を取り除くこと」を最初の目標とし、動物にどのような治療をしたいと思っているのかお聞きした上で、できるだけ効果的な治療をご提案するようにしています。

より詳しく、より楽しく、一緒に病気を治しましょう。それがモットーです。誰もが心がけていることだと思いますが、インフォームドコンセントは絶対だと考えています。また、その際に僕が飼い主さんによくお伝えするのが「思い込まないでほしい」ということです。病気の説明はあくまで学術的なもの。きちんと理解はしていただきたいのですが、その内容を重く捉えてほしくないと思っています。大切なのは動物の幸せであり、それを一番よく知っているのは獣医師ではなく飼い主さんです。動物もまた、飼い主さんの心を読み取りますから、飼い主さんが元気でいることも治療の一環。つらい気持ちは僕たち病院も一緒に担わせていただければと思いますので、前向きな気持ちで治療を考えてくれたらうれしいです。

ロードサイクルが趣味です。乗っても100kmくらいなので、ロードサイクルとしては大した距離ではないのですが、無心になれるのが好きで乗り回しています。仕事の前によく乗りに行くのですが、一度無心になってから仕事モードに入ると、ひらめきが生まれて仕事がはかどるんです。ここ湖北は、海なら九十九里浜、山なら成田山と絶景ポイントがちょうといい距離にあるロードサイクルのメッカ。ショップも多く、競技としてロードサイクルをしているチームの方たちもよく見かけます。知らずに来た土地ですが、自分にとっては理想的な環境でした（笑）。

動物を飼う前に動物病院に来てほしいです。日本は飼う前の飼い主指導がされておらず、それが原因で動物のしつけがしっかりできなかったり、世話しきれずに動物を捨ててしまうケースが多く見られるのではないかと僕は考えています。犬も猫も種類によって性格もなりやい病気も違い、飼い主さんとの相性もまったく違うんです。いろんな動物の中でも、特に飼い方をきちんと知ってから飼ってほしいのは「うさぎ」。うさぎは吐くことができない動物なので、病気の見つけ方が他の動物とは異なります。また、正しい飼育方法、あげていいごはんを知っているかどうかだけで寿命は2倍変わってくるでしょう。そういった情報を飼う前に知る、そんな意識を皆さんに持っていただきたいと思います。

どんな獣医師がいい獣医師かとよく聞かれるのですが、僕の答えは「飼い主さんが安心できる獣医師」です。正直、診療そのものはどの獣医師さんも真剣に行っていますから、大きな違いはないと思っています。違いがあるとすれば、飼い主さんの苦しみを和らげられるかどうか、もっと言えば飼い主さんと気が合うかどうかではないでしょうか。万人に好かれる人はいないように、獣医師もすべての飼い主さんを安心させられる人はいません。ご自分が安心できると思えるかかりつけ医を探していただきたいです。また、動物の様子に異変を感じた時は、「ご自分の判断で様子を見る」のではなく、「様子が見ていい状態かどうかを獣医師に聞く」ことを大切にしてください。動物は人間の何倍もの速さで命を燃やし、痛くても痛いとは言えません。飼い主さんの大切な家族の命を一緒に守っていきましょう。