川井 裕之助 院長の独自取材記事
アミ動物クリニック
(千葉市稲毛区/京成稲毛駅)
最終更新日: 2023/01/22
緑の木立に囲まれた、閑静な住宅街にある「アミ動物クリニック」。1993年の開業 以来、稲毛をはじめとする近隣地域の人々に頼りにされてきたペットクリニックだ。院長の川井裕之助先生は東京大学大学院農学系研究科畜産獣医学専攻修士課程修了。外科 手術にすぐれ、獣医になってから非常に多くの手術を手がけてきたというエキスパートだ。その腕と評判を買われて他院からも執刀依頼が絶えないという。ペッ トの飼い主の中には、命を救ったのが川井先生であることを知らないままでいる人も多いとか。さらに動物に関するテレビ番組の監修協力なども名前を出さずに 行ったりするそう。そんなまさに「影武者」ともいえる川井先生に、少年時代の動物との思い出や、ペットの地域医療連携など幅広く話を聞いた。 (取材日2016年6月28日)
3歳で「将来は獣医になる」と宣言して
まずは先生が獣医師を志したきっかけから教えていただけますでしょうか。
もともと祖父母が動物好きだったということもあって、幼少時代から猫や犬、セキセイインコ、文鳥、金魚、さらにはドジョウなどさまざまな動物を飼育していました。そんな動物と寄り添える環境で育ったせいでしょうか、3歳のころ私は自ら「動物のお医者さんになる」と宣言 したらしいです(笑)。私自身は覚えていないのですが、あとで親や近所の人に聞かされて知りました。ただ大学進学時は、獣医のほかにエンジニアや医師、外交官などにな りたいという夢もありました。それで、それぞれ志望する大学などを受験したのですが、合格した中から一番したいことができそうな進路を選びました。思えば、獣医の道は天命だったのかもしれません。
開業までの道のりを教えてください。
当時は大学4年と大学院2年の合計6年間で獣医師国家試験受験資格を得られる時代で、学部時代は外科研究室に所属し、急患で運ばれてきたペットのケガや病気の治療など、手術を獣医師の監督の下に数多くこなしました。ただ免許取得後、私は製薬会社に入社。獣医である前に、ヒトの先進医療について研究してみたいという思いがあったのです。そこで開発に携わった薬は、心筋梗塞の末期の致命的な不整脈患者に投与する抗不整脈薬でした。思っていたよりも早くに開発する事ができたのですが、重篤な副作用がないというもので、今も医師が処方している医薬品です。新薬開発の臨床試験への引継ぎをした私は9ヵ月で研究所を退職。獣医内科学研究室の大学院研究生として在籍し、臨床をする獣医としての道をスタートさせました。大学院のときはマウスの心臓に電極を取りつけて手術するなど研鑽を積みました。
医院名について教えてください。
「アミ」とはフランス語で「友達」という意味です。大学院研究生時代、アメリカやイギリスなどの動物病院を研修で回っていた のですが、その中で東大時代の先輩を頼ってフランスの大学でも約3ヵ月間留学していたのです。獣医師のライセンスは日本に限られますので直接診療 はしませんでしたが、現地の獣医に動物の手術の技術を教えたりもしました。そして開業にあたり院名を考えていたときに、動物は私たちと友達のような存在で あるという思いから、フランス語で「アミ」と名づけたんです。ちなみに「動物クリニック」と名づけたのも開業当時はおそらく他にあまりなく、「獣医科」と か「動物病院」というふうに病院名を採用していたところが多かったように思いますね。
他院からも手術依頼が
開業以来掲げているモットーは何でしょうか?
提示した治療計画に対し、飼い主さんに納得してもらってから検査なり治療を行うということです。つまりはインフォーム ド・コンセントですよね。そのためにはわかりやすいように事前に説明をすることが大切。しかも治療方法は一つとは限りません。先ほど申しましたように私は 外科と内科2つの研鑽を積んでいます。そこでそれぞれのアプローチによってどんな結果が得られるのかもお話することができます。もちろん希望によっては 極力費用をかけない方法もあるでしょう。簡単にいえば、なんでも相談できるホームドクターでありたいということです。
今も忘れられないエピソードがありましたら、お聞かせください。
さい箸が口から串刺し状態になった猫が運ばれてきたことがあります。箸をくわえた瞬間に、飼い主が脅かしたのか、はずみで口から横隔膜を突き抜けてしまったようなんです。呼吸はしていましたが、箸が心臓の横を通っていて命も危うい状況でした。でも横隔膜まで刺さった箸を なんとか抜いて、縫い直してあげました。その際、いつも仲良くしている近くのペットクリニックの先生に連絡をして2人で手術したんです。手術しあうためにお互い行き来することもありますよ。もちろん応援要請があれれば、獣医師会などのクリニックにも駆けつけて手術します。
先生のもとへ執刀依頼がくる、ということですか?
はい、さまざまなクリニックから頼まれます。オペをするタイミングは、休診時間の水曜午後や、休診日である日曜、また 診療を終えた夜のいずれかです。その日の診療が夜7時に終わったとしたら、そのクリニックで7時30分から手術できるようあらかじめ準備しておいてもらっています。自分で治したいというものもありますが、それ以前に難しい手術ほど面白いんです。例えばジャンガリアンハムスターというわずか20グラムのハムスターの手術なども難しいけどやりがいがある。ちなみに千葉市の動物保護指導センターでは、飼い主のいない猫の不妊手術を、登録医師がボランティアで行うという制度があります。私も登録していまして、つい先日もセンターに行って不妊手術を行ってきました。
ペットをめぐる「地域医療」一つの命をみんなで救う
他院から手術を頼まれるということは、命を救ったのが川井先生であることを知らない飼い主もいるのでは?
そういう方も多いかもしれませんね。ほかのクリニックに直接お邪魔して手術することもありますが、電話先で手順を細かく指示することもあります。その結果、無事オペを終えて、「次からは自分一人でもやれます」と自信を持ってもらえるのが一番うれしいですよね。こうすることで千葉県、ひいては日本の動物医療のレベルも上がっていくことを期待しています。誰でも自分一人が知っている知識というのは実はほんのごくわずか。です からいざそれを駆使したいときに、すでにその経験のある先生に聞けるようなネットワークがもっと構築できれば、さらに命も救えます。ですから近隣の動物病 院とはライバルではなく、お互いに得意なことを共有し、補い合える関係なんです。理想の地域医療とはまさにこのことだと思います。
そんな多忙な先生のプライベートの楽しみは何でしょうか?
アマチュア無線です。中学生のころから始めましたからかれこれ37年になります。この魅力は、アンテナと無線機さえあれば南極や南米など、世界中のどこの国の人とでも会話ができるということです。といってもモールス信号で、お互いの居場所を伝え合うというものですが。また無線機とアンテナといいましたが、アンテナはワイヤー1本の3,000円のものですし、遠距離向けの無線機も5万円の中古のもの。おのずと電波も微弱ですが、そんな弱い電波を拾ってくれる異国の人がいるんです。向こうは100万円も200万円もといった高価で強い電波を発する無線機を持っていたりする。それでもお互いにきちんとやり取りしあえる。いってみれば高級車と自転車で同等の立場に立っている感じでしょうか(笑)。いずれにしても地球の見知らぬ誰かと交信できるのが楽しいですね。
最後に「ドクターズ・ファイル」読者にメッセージをお願いします。
まずは気軽に連れてきていただければと思います。その子が今どんな状態なのかわかりやすくお伝えしますし、さらには 「こんな兆候が出たら検査の必要があります」とご説明できます。といっても決して強制はしません。また私は、外科手術を施したり、高価で新しい薬を使うことが治療とは限らないとも思っています。個人的には、先進医療が発達する前の、江戸時代やそれこそギリシャ時代から存在していた治療方針というのは決して間違ってなかったと思うんですね。その当時はそれなりにペットが長生きできたでしょうから。いずれにしても、そんなさまざまな選択肢の中から納得できる現状での次善の治療法を一緒に見つけていければと思います。