鳥海 弘 院長の独自取材記事
とりうみ動物病院
(伊勢原市/伊勢原駅)
最終更新日: 2023/01/22
伊勢原駅から徒歩5分。「とりうみ動物病院」の鳥海弘院長は、生まれ育ったこの伊勢原という場所において、地域密着型の診療を今年で40年間提供し続けている。当院では犬・猫のみならず、エキゾチックアニマルなども診てもらえる。獣医療に関わる認識は開院した40年前から比べればずいぶん高まった、というのが鳥海院長の実感だという。かつてはペットの健康維持というのは「トラブルが起きてからの治療」によるものだったが、現在では「病気にならないように前もって手を打っておく予防」にシフトしてきているのだ。ともに獣医師である娘夫婦も同院に在籍。歴史あるクリニックを次世代に引き継ぐことも視野に入れている中、診療にかける思いを聞かせてもらった。 (取材日2017年2月3日)
年中無休(年中夢求)の病院にするためシステムを整備
獣医師になったきっかけをお聞かせください。
私はこの伊勢原で生まれ育ちましたが、父と母は農業に従事していたんです。野菜を育て、家畜を養っていた実家の周りには、ウシ、ブタ、ニワトリなどの生き物は小さい頃から常に周囲にいました。農家ですから、子どもも折に触れて両親の仕事を手伝う機会があるわけです。その延長線上で、当然、動物たちの面倒も見ました。そんな環境にいたために生き物が大好きになり、大学に進学する際にも自然と獣医療の道を選んだというのが正直なところですね。1975年に日本大学の農獣医学部獣医学科を卒業し、1977年には当院を開院しています。獣医師の資格を取った後にも、自分の置かれている環境を考え、いろいろな選択肢の中から臨床獣医師の道を志しました。
1977年の開院からこれまで、どのように地域の動物医療に関わってこられましたか?
40年前は、まだ、今のようには獣医学に対する考え方が成熟してはいなかったので、「やっていけるのかなぁ」と不安ではありました。都心部と異なり、昔の伊勢原ではペットに対して手厚いケアを求める層もいるかどうかわからない、そんな状況の中でのスタートでした。それでも自分の苗字を掲げて「鳥海獣医科病院」として診療を始めたんです。逃げも隠れもしません、私自身の責任で動物をお預かりしますとの気持ちからそんなクリニック名にしました。現在では親しみやすく平仮名にした「とりうみ動物病院」にも同じ気持ちを込めています。当初は地域の皆さんのペットのトラブルへの対応が主だったと覚えています。フィラリアの予防を行うことなどは今ではほとんど常識に近いものになっていますが、当時はペットに対する予防医学という発想が行きわたっておらず、なかなか大変でしたね。
現在、当院には5人もの獣医師が在籍されています。
初めは獣医師は私1人でしたから、確かに増えてきてはいますが、それでもまだ足りないほど、飼い主さんのニーズは多いんですよ。個人でできることには限りがあります。例えば、当院は現在年中無休ですが、これも複数人の間で休みをローテーションで取るというシステムを構築したからこそ実現できること。1人でやっていたときには、週に1日だけお休みをいただいていたのですが、動物に一大事があれば心配で放っておけない飼い主さんからの電話はかかってくるわけで、実際にはなかなかきちんと休めない状況でした。そのまま続けて、私が疲れ果てて診療の質を落としてはいけないと、今日のような獣医師が複数いる環境を整えていったのです。現在では、夜間にも対応できるよう、当院が出資している夜間緊急動物医療センターへの「いざ」という時の連絡先を飼い主さんに伝えてあります。
治療から予防への潮流の中では、動物看護師も重要に
動物看護師も7人。地域の動物病院において「人数も充実している」と感じました。
動物看護師たちの姿勢も、当院は誇りにしているところです。皆、根っから動物が好きなスタッフばかりが集まってきてくれていますからね。初めてのペット、飼い主さんへの聞き取りや診療内容の説明などについては「そこまで時間をかけて伝えてくれているのか」と思うほど、しっかりコミュニケーションを取ってくれているんです。先ほど言及したように、基本的には地域のクリニックにおける動物診療の趨勢(すうせい)は、治療から予防へとシフトしております。だからこそ、動物看護師たちが活躍する場も広がり続けているといえるでしょう。足を運んでくださる多くのペットと飼い主さんたちに満足のいく診療を提供するためにも、きちんと対応できる体制は整えておきたいですね。
神奈川県獣医師会に所属し、多くの獣医師の活動のサポートもされていますね。
獣医師は、私のように町の動物病院で診療をするだけでなく、産業動物の健康管理に携わったり、国内の保健や衛生を改善するために公務員として感染症対策を行ったりと、多くのジャンルで社会に貢献しています。そんなさまざまな職域に広がる獣医師の間をつなぎ、イベント等で動物愛護のための知識を発信したり、災害時に動物を保護する仕組みを考えてマニュアルを作成するなど取り組んでいます。昨今、いじめや暴力などによる痛ましい事件も目立ちますが、子どもの頃から動物に親しみ、自分とは異なる存在と共生し、命を愛する機会をもらっていれば起こらなかったのではないか。そういった観点からも子どもに対する動物愛護の気持ちは広めていきたいところですね。これも、獣医師のできる社会貢献のひとつだと捉えております。まだ獣医師会に所属していない方も、縦横の繋がりを作っておく意味でもぜひ入会していただいて、一緒に活動していけたらと思いますね。
鳥海というお名前の獣医師さんが貴院には3人もおられます。ご家族ですか?
私と娘夫婦です。通常、私ぐらいの年齢になりますと、どうクリニックを閉じていこうか、と引退後のことも考えて仕事の範囲を縮小させていくものですが、当院の場合は幸い若い後継者がいますからね。未来に向けて良い診療をと考えて、医療機器を充実させるなど、積極的に設備投資をし続けています。次世代に期待することは、経営面での数値目標などではなく、ただただ、地域のペットや飼い主さんのために熱心に診療をし続けてほしいというだけなんです。私自身、誠実に診療を続けていれば、どうしたってペットは集まってくれるだろうと考えてここまで獣医師の仕事をしてきましたから。
大学での繁殖学の研究も続けながら診療を続ける
来院するペットの傾向を教えてください。
伊勢原市においては、都市部での流行がやや遅れて来るという感覚があります。現在でいえば、都心部では小型犬や猫の診療で大忙しだと想像しますが、この地域はまだまだ中型犬・大型犬も来院するので「大型犬用の診察道具はまだ捨てるわけにはいかないね」なんて話しているところです。飼い主さんの気質も穏やかです。ペットの代替わりだけでなく、中にはおじいちゃんからお孫さんまで2代、3代と来院してくださる方もいます。獣医療を通じて、飼い主さんとの体温のあるやりとりができているな、とうれしく感じています。私が現在、日本大学生物資源学部獣医学科にて非常勤講師として臨床繁殖学にまつわる研究を続けている関係もあり、不妊を繰り返すといった難しいケースの相談が持ち込まれることも多いですね。
お忙しいとは思いますが、息抜きでされていることを教えていただけますか?
ローテーションで休日を取ることのできるシステムを構築したとはいっても、実際には自身の休日は獣医師会の活動等がありなかなか休みが取れていませんね。時間がある時には、実家の農地で畑仕事をしたり、庭の樹木をいじったりと体を動かして植物に触れ合うことがリフレッシュになっています。
最後に、今後の展望をお聞かせください。
近いうちに、院長職は次世代に譲り、現役の獣医師としてサポートするという役割で当院を支えていきたいと考えています。どちらの世代も元気なうちにクリニックを譲れば、新しい動きも出てきやすいでしょうからね。着実で誠実な診療を軸に、これからも地域の動物医療に貢献し続けていきたいと思います。