狩野 拓人 院長の独自取材記事
かのペットクリニック
(松戸市/北国分駅)
最終更新日: 2023/01/22
都心への通勤通学に便利な千葉県・松戸市。「かのペットクリニック」は、古くからの住宅街と新興住宅街の混在する二十世紀が丘エリアにある。開業は2013年、院長は大学進学まで松戸市内で育った狩野拓人先生だ。「獣医師になると決めた時から、必ず地元で開業する」と決意していた狩野院長。高校時代、愛猫の気持ちを理解できずに命の危機まで追い詰めてしまった経験が、この道を選ばせた。難しい症例に当たり、苦しむペットを救いたくて、最新の知見を求めてもがくように学んだ新人獣医師時代。努力の先に、誠実さこそペットや飼い主にとって最大の「癒やし」であると知ったという。貴重な経験を糧に、力を尽くして診療に当たっている狩野院長に、診療スタンスから将来についてまで、じっくりと話を聞いた。 (取材日2015年1月18日)
犬の習性と猫の気持ちを考えて待合室を分けた
開業のいきさつを聞かせてください。
実家はここから自転車で15分程度なのですが、獣医師になろうと思った時から、地元で開業したいと考えていました。松戸は成熟した街で、高齢のペットも多いので、必然的に加齢で起きる病気を多く診ていると思います。幹線道路が近いので車で来る方もいらっしゃいますが、わんちゃんの場合は散歩のついでに顔を見せるだけの子も多くいます。病院に慣れるために立ち寄って、おやつをもらいに遊びに来てくれます。猫ちゃんの場合は飼い主さんの世代が平均的に若く、お子さん連れで見えることも多いですね。ご家族みんなでペットを連れて来院されると「家族としてこの子を迎え入れてくれるんだな」と感じて、僕自身も本当にうれしいですね。
猫と犬の待合室は分かれているのですね。
良い治療のためには、猫と犬の診療スペースは分けないといけないと考えています。わんちゃんの多くは他の動物とコミュニケーションを取りたくて、自分からあいさつに行くのですが、猫にとってそれはストレスになってしまうんですね。ふだん入らないキャリーケースの中、逃げ場のない状態で知らない場所に連れて来られ、知らない犬が寄ってきて、さらに診察室で知らない人間に体を触られて……って、猫ちゃんにとっては興奮する条件がそろってしまいます。パニックになってしまうと正しい診察ができませんし、それを見た飼い主さんが通院を嫌がるようになってしまうと、悪循環の始まりです。そうならないように、飼い主さんと猫ちゃんにとって通いやすい病院にしてあげたいと考えました。
病院の特徴や専門を教えてください。
トリミングサロンとペットホテルを併設しています。特に高齢で持病がある子は、一般のトリミングサロンでは断られてしまう場合があると思いますが、当院では診察の上、お引き受けすることが可能です。皮膚病がある子も、メディカルトリミングとして行うこともできます。家庭でシャンプーをする際も、お湯を使わない方がいい場合やドライヤーの適・不適、シャンプーの種類や使用法などを指導するタイミングとして利用することもできます。ペットホテルは動物別になっていて、それぞれに最適な室温や環境を用意しますので、よりストレスがなく、お預かりする事を心掛けています。また、エキゾチックアニマルも大丈夫です。大学時代には、僕自身は循環器を専門に勉強してきましたが、当院では循環器の他に内科と一般的な軟部外科を扱っています。当院で対応できない疾患の子は大学病院や2次専門病院と連携して治療にあたるようにしています。
難病の猫の飼い主からもらった言葉
こだわっている設備などはありますか。
内視鏡と超音波診断装置(エコー)ですね。勤務医時代、24時間対応の動物病院にいたのですが、夜間で多い診療として、異物誤食があります。迅速に処置をする必要があるのですが、内視鏡を使うことで切らずに異物を摘出できます。それと、循環器を専門にしてきたので、エコーは、できるだけ良いものをと考えました。
診察の際に心がけていることを教えてください。
動物に優しい病院でありたいので、思いやりや心遣いを大切に考えています。僕自身、入院したり骨折したりと医療を受ける機会が多かったのですが、例えば採血をされる際に、看護師でも医師でも無言で処置せずに、何か一言声をかけてくれるだけで、患者の心持ちが変わるな、と思ったんです。人間の場合、大人はまだ我慢できますが、小児科で医師や看護師が厳しい顔つきで無言のまま注射したら、お子さんは泣きますよね。そう考えて、スタッフにも「もしも自分が病気の動物だったら」と考えて行動し、動物に話しかけるように心がけてもらっています。言葉の意味は伝わらなくても、温かみは伝わるはずと思っていますし、受けるストレスも違うと感じています。当院では動物看護師の実習生を受け入れていますが「こんなに動物に話しかける病院は見たことがない」と、よく言われますね。(笑)
心に残った経験をお聞かせください。
獣医師1年目の時に、悪性リンパ腫の猫を診させていただく事になり、なんとかしてあげたいとの一心で、論文を探したり、大学の先生に相談をしにも行きました。食欲が無くなってしまった猫ちゃんに対して、飼い主さんと、その子の性格や好む食事などについて徹底的に話し合い、結果としてご飯を食べてくれるようになりました。その診療を通して、治療とは型にはまったものではなく、試行錯誤しながら、その子にあった方法を見つけるものだと教わりました。その後、ご挨拶に伺ったときに、1年目の私をなぜ選んでくれたのか、と聞いてみました。一生懸命、誠実に向き合ってくれること、何よりもうちの子が先生を好きだと分かっていたと言われました。先端の医療を学び、臨床に応用することは大切だけれど、それ以上に大切なのはペットと飼い主さんに誠実に向き合うことだと学びました。その飼い主さんと猫ちゃんには沢山のことを教わり、今でも感謝しています。
飼い主が治療を望まない時、それを否定しない
獣医師を志したきっかけを教えてください。
子どもの頃から高校3年まで野球をやっていたのですが、野球部のマネージャーが猫を拾ってきたんですね。当時は猫がいたので喜ぶかと連れて帰ったら全くそりが合わなかった。それどころか、先住の子が落ち込んで食欲不振になり、命にかかわる状態になってしまいました。家族の中で僕に一番懐いていた猫なので、あの子の気持ちをわからずに子猫を連れ帰ったことを悔やみました。そして、猫の気持ちがわかるようになりたいと思ったのが、第一のきっかけですね。その猫は実はまだ実家にいて、18才になりました。北里大学に進んで循環器に興味をもって勉強したので、卒業後は循環器認定医のいる病院で働きたいと考えて、苅谷動物病院に勤務しました。24時間診療している大きな病院で、たくさんの症例を診させて頂きました。その後、2軒の個人病院で勤務した後に、開業しました。
今後の展望をお聞かせください
腫瘍・循環器・泌尿器は興味深い分野なので、勉強を重ねてスペシャリストになりたいというのがまず一つ、それと、将来的にはスタッフの雇用環境を整え、休診日をなくしたいと考えています。ホームドクターとして、病院が開いてない、という状況では役に立てませんから。ただ、病院の規模自体を大きくしたいとは考えていません。一人の獣医師が診られる患者数には限りがあると思いますし、それを超えて診療を行うことは配慮が行き届かない点もふえ、診療の質が落ちてしまうと考えるからです。近隣の方に、かのペットさんにいけば安心よね、こんな評判が増えるといいな、と思います。
読者へメッセージをお願いします。
常にペットに話しかけ、その子の癖や特性を気にかけて頂きたいですね。そうする事で、いつもと違う所が見えてきます。診察において、普段一緒に生活している飼い主さんの情報がとても重要になってくるのです。その為、飼い主さんに対して、ペットの病気を一方的に説明するのではなく、しっかり理解して頂けるように心掛けています。そうする事で、飼い主さんご自身でペットの病気に気が付くヒントになるかもしれないですからね。ですので、ホームドクターとして、飼い主さんとペットとの距離を縮め、ペットの気持ちを代弁してあげられる様な気持ちで診療に当たっております。また、治療を押し付けるのではなく、飼い主さんの意見や、お気持ちを踏まえて、ご提案させて頂いておりますので、何か気になったら気軽にお越しいただければ幸いです。