髙橋 利廣 院長の独自取材記事
マザーラブ動物病院
(豊島区/椎名町駅)
最終更新日: 2023/01/22
著名な画家や詩人、漫画家が住まう街であったことから池袋モンパルナスと呼ばれることもある椎名町。「マザーラブ動物病院」があるのは、どこか懐かしい雰囲気を漂わせ、買い物客でにぎわう、しいなまちサンロード。2002年に開業以来、地元の人たちがこよなく愛するペットたちの病気治療と健康管理を行ってきた髙橋利廣院長は「ペットは大切な家族です。だから自分がお母さんになったような気持ちで治療を行いたいと考えこの院名を掲げました」と優しい笑顔を浮かべる。最初は”人間のお医者さん”をめざしていた院長が獣医師になるきっかけや、愛するペットたちと、どうすれば幸せに暮らしていくことができるか、これからの展望について話を聞いた(取材日2016年2月23日)
いつでもペットの母のような気持ちで診療
先生が獣医師になられたきっかけを教えてください
私は「尊い命を守るため、人間のお医者さんになりたい」と医大進学をめざしたことがありました。医学部に進む人たちは医師の家庭に育ち、親の背中を見て医者を志したり、跡を継ぐために、ということが多いと思います。しかし私の場合は家族や親戚に医療従事者がいるわけでもなく、潤沢な学費が用意できたわけではありませんでしたから、国立大学の医学部受験にチャレンジしたんですね。気がついたら10年が過ぎていました。そんなときふと、子どもの頃に飼っていた猫のことを思い出したんです。ながめているだけでも楽しくて、たくさん笑顔と癒やしをもらいました。そこで私は人も動物も同じ大切な命。そうだ、獣医師になろうと日本獣医畜産大学に進むことにしました。
椎名町に開業された理由をお聞かせください
私が生まれ育ったのが池袋で、椎名町には買い物でよく来ていたんです。長崎神社でのお祭りにも、よく行きましたね。獣医師仲間からは「どうしてこんな場所にクリニックを構えたんだ?」と冗談めかして聞かれることもたびたびでした。実は以前、椎名町で開業した獣医師がいたのですが思ったより経営が上手くいかない。他の地域に移転したら忙しくなった、という話を聞きました。しかし私は懐かしいこの街が大好きですから、迷うことなくここでの開業を決めました。2002年に開業して、地元の人たちの動物のお医者さんになって今年の夏で14年になります。感じるのはペットたちも高齢化してきた、ということでしょうか。今は犬も猫も10年以上は生きますからね。それだけしっかりケアしてあげる必要性も高くなってきたといえるでしょう。
ペットたちの診療で重要と考えていらっしゃることは何でしょうか?
人の医療と同じく動物たちに対する医療技術もどんどん進化してきました。さまざまな医療器具も開発されていますが、当院では最先端のものを集める必要はないと思っています。ここでの治療が難しいと判断した場合は大学病院や高度医療センターを紹介しています。私が重要視しているのは一次診療(通常の外来診療)と定期健診です。1年に1度、ワクチンを打つ際に全身のチェックを行いますが、そのときに「去年に比べて体重が増えた(減った)」「1年前に診たときと違う症状があるか」などの診断を行い、症状が軽いうちに早期発見できるように努めております。
ペットたちの口腔ケアについてお聞かせください
犬や猫にも歯周病がみられますが、飼い主さんがブラッシングしていても歯と歯茎の間の歯周ポケットと呼ばれる場所にたまった歯石(歯垢が固まって石灰化したもの)を完全に除去することはできません。当院では麻酔をして歯石を完全に取り除きます。飼い主さんが無理にやろうとするとけがをしたり、思いがけずペットの口を傷つけてしまう可能性がありますので動物病院へ連れて行くようにしてください。歯周病を放置しておくと歯を失う、歯周病菌が原因で腎臓や心臓、肝臓に重篤な疾患を起こすこともあります。たかが歯周病とあなどってはいけませんよ。
飼い主とペットが長く一緒に暮らせるために
“可愛いから”と安易な気持ちでペットを飼う人が多いようですが
多くの場合、犬にいえることですが、成犬になったらどうなるか、しっかり知識を得てから飼ってください。随分前ですがシベリアンハスキーが流行したとき「こんなに大きくなるとは思わなかった。マンションでは飼えないので安楽死させてください」と言ってきた飼い主さんがいました。大切な家族を安楽死なんてと、私は叱りましたが「そんなことが?」というようなことが現実に起きています。シベリアンハスキーは成犬になると約30キロくらいになる場合があります。散歩にも連れて行かなければなりません。確かに子犬の頃は小さくて可愛らしいですが、可愛いだけでは飼えません。同じ命を持っているのだということをしっかり考えてからにしてください。飼い主はその子のお母さんなのですから。
ペットを飼う際に気をつけたいことはありますか?
犬や猫の赤ちゃんも人間と同じで、しっかり免疫をつけてあげることが大切です。生まれてすぐお母さんのおっぱいを飲みますが、母乳には赤ちゃんにとって大切な免疫成分が豊富に含まれています。どんなミルクやペットフードも母乳に勝るものはありません。出産後すぐにお母さんから離されてしまった、体が小さくて他の赤ちゃんたちとの競争に負けて十分におっぱいが飲めなかったりした子はあまり免疫がついていません。ブリーダーさんや、ペットに出産をさせようと考えている人は、赤ちゃんのときにしっかり免疫をつけさせてください。その子が元気で長生きするかどうかが、母乳にかかっているといっても大げさではないのです。
犬や猫も高齢化しているといいますが、どのようなことに気をつけたらいいでしょうか?
かつて犬や猫の寿命は5〜6年くらいでした。それが現在では10年以上生きるのも珍しくない時代です。ペットの健康に対する意識も高まっています。ペットにも高齢化の傾向があり、人と同じように腫瘍ができるなどの症状があらわれることがあります。10歳を過ぎた犬や猫は特に注意してあげてください。人間でいう60代、血液検査や尿検査、糞液検査などで隠れた疾患が見つかることも珍しくありません。元気そうだから、と何年も定期健診をしない、というのは実は危険なんですよ。当然ながら動物は口がきけませんから、飼い主さんが注意してあげてくださいね。
こらからも“マザーラブ”で動物たちと接していきたい
これまでの治療で印象に残るエピソードについて教えてください。
ある日、頭を怪我した生後2ヵ月くらいの子猫を抱えてきた人がいました。カラスにやられたのか神経症状を起こして苦しそうにしています。回復して退院する頃に、また悪くなる繰り返しだったので高度医療センターを紹介したら、折れた頭蓋骨が脳に突き刺さり、それが神経を刺激してる状態でした。子猫を抱えてきたのは飼い主さんではなく、たまたま通りかかって保護した方。治療にはかなりの費用がかかるのですが、10年間貯めていた旅行資金を使ってまで「私が面倒見ますから手術して欲しい」と願い出て、子猫は命を取り留めたのです。その人は大阪から単身赴任していて、その後、子猫と一緒に大阪に帰っていきました。その子猫は茶々と名づけられ、とても元気に暮らしています。画像が送られてきたり、その方が上京する際は当院に立ち寄って画像などを見せてくださって。うれしいですね。「動物のお医者さんになってよかった」と感じる瞬間でもあります
飼い主さんへのメッセージはありますか?
可愛いペットと一緒に暮らせるというのはとても幸せなことですね。しかしながら動物はどんなに手を尽くしてもいつかは寿命がくるもの。そこで考えなければならないのが最期をどうやって迎えるのか、ということです。病院に入院させて長期管理すれば寿命は延びますが、飼い主さんと一緒にいる時間は短くなってしまいます。ペットとのお別れを考えるのはたまらなく寂しいことではありますが、どう見送ってあげるのかを考えることも愛情ではないかと思います。
これからの展望についてお聞かせください
私は原則的に入院させず通院してもらうようにしています。それが難しい場合は往診もします。痛みがあるならばそれをとって、少しでもたくさんの時間を飼い主さんと過ごさせてあげたい。私はそう考えます。ひとりぼっちで病院のケージにいるよりも、そのほうがいい、と。一方的に医療を施すのではなく「飼い主さんが何を望むか」ということにも意識を向けるよう努め、飼い主さんとペットの楽しい生活をサポートしていけたらと思います。