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伊藤 俊太 院長の独自取材記事
くじら動物病院
(府中市/府中駅)
最終更新日: 2025/01/09

大きなクジラが描かれた看板が目印の東京都府中市「くじら動物病院」。伊藤俊太院長は、大きなクジラの背中に乗った思いで、安心してほしいとの思いでこの院名にしたとのこと。診療面では、犬と猫の一般診療に加え、専門的な眼科診療に対応するのが特徴だ。伊藤院長は勤務医時代、眼科を診ることができる獣医師が少ないことを痛感し、働きながら麻布大学に通い眼科診療の研鑽を積んだという。診療にあたっては、飼い主の悩みや不安に寄り添い、じっくりと親身になって向き合う。気軽に相談してほしいと予約制や紹介制とせず、当日診療のスタイルを取っている。気さくな語り口も印象的な伊藤院長に、同院の診療の特徴や、眼科診療への思いなどを聞いた。(取材日2024年12月12日)
犬と猫を対象に、身近に専門的な眼科診療を行う
まず、こちらの特徴を教えてください。

犬と猫を対象に一般診療と、眼科の専門診療を行う動物病院です。僕が学生時代からクジラをモチーフにしたサインを使っていたこと、ひらがなでシンプルなほうが覚えてもらいやすいかな、とこの院名にしました。飼い主さんにはクジラの大きな背中に乗ったつもりで、安心してペットとの未来を考えていただけたら、と思っています。診察室はL字型で、なるべく動物が離れて待てるようにしてあり、出入り口は動物が飛び出さないようにしっかり扉が閉まるようになっています。設備としては、眼科手術用に白内障手術の乳化吸引装置や手術用顕微鏡を導入しています。また、麻酔管理用のモニターや人工呼吸器、麻酔器も先進のものを備え、麻酔管理を注意して行っていますし、手術時には疼痛管理も麻薬などを使用して行っています。麻酔はその目的から呼吸を止めたり血圧を下げたり、生命を抑制するような使用方法になるので特に慎重に行うことを心がけています。
この地で開院されたきっかけは?
僕は府中市の出身で、この辺りに動物病院がないことを知っていました。やはり身近な場所に何かあった時に頼れる動物病院があると安心ですし、今までの診療経験を生かし総合病院レベルの治療や、得意分野である目の病気を気軽に診られる病院を作りたいと考えたのです。というのも、眼科はどの動物病院でも受診件数が多く、意外と緊急疾患も多いのですが、その割に自信を持って診られる獣医師が少ないのが現状です。一方、眼科専門病院の多くは紹介制や予約制で、ハードルが高いと思われている飼い主さんも少なくない。ですから当院は、診てほしいと思った時に気軽に来院していただけるように、予約や紹介は不要としています。
どうして眼科を専門とされたのですか。

昔から眼科が特別に好きだったというわけではなく、大学時代は神経科の研究をしていました。でも、卒業後、実際に動物病院に就職してみると眼科を診られる獣医師が少なく、はがゆく思っていたんです。動物が失明した時に、それが神経の病気が原因なのか、目の病気が原因なのかわからないこともありました。そこで、僕が眼科を診られる獣医師になろうと決意し、勤務医時代に麻布大学へ通い、眼科専科研修獣医師として4年間、学びました。他の科もそうですが、特に眼科は経験値が重要な診療科だと思います。大学病院でたくさんの症例を実際に診て学んだ経験が、今も大きな力となっています。
見える喜びは、動物と人の生活を豊かに、幸せにする
眼科では、どのような症状が多いのでしょうか。

患者としては犬のほうが多く、白内障、緑内障、角膜潰瘍などですね。老齢性の病気もありますが、若い子も少なくありません。角膜潰瘍は目の傷が原因のことが多いのですが、普通の傷ならば何もしなくても2、3日で治るもの。治らなくて飼い主さんが異変に気づいてすぐに受診された場合は治療が間に合うバターンが多いのですが、時間がたつと手遅れになることもあります。緑内障の場合も眼圧が急激に上がった場合、48時間以内に治療しないと失明することもあります。眼科は意外と緊急に対応する必要があるんですよ。一方、老齢性の白内障や網膜変性症は、ゆっくり進行することが多く、動物も見えないことに慣れながらゆっくり失明していくので、飼い主さんは気づかないことも多いですね。
白内障の手術も行っているそうですね。
はい。白内障は命に関わる病気ではありませんし、手術は麻酔のリスクもあり、術後のケアも必要ですし費用もかかりますから、受けるかどうかは飼い主さんの価値観だと思います。ペットは目が見えなくてもあまり困らないという人もいます。しかし、おびえて歩かなくなってしまう子もいて、見えるということは大事なんだなと改めて思いますね。あまり高齢の子にはリスクのある手術は勧められませんが、若年性で急に見えなくなってしまった子には、手術によってまた元気に走り回れるようになってほしいと思います。見えるほうが生活の質も上がり、コミュニケーションも取りやすいとおっしゃる飼い主さんも多いですね。見えているほうが、動物も飼い主さんも確実にハッピーに過ごせると思います。
診療の際、大切にされているのはどのようなことですか。

治療の過程で飼い主さんの不安や疑問を解消するということを心がけています。動物病院に連れてきて良かったなと思っていただけると一番うれしいです。また、治療というのは飼い主さんの協力なしにはできません。僕たち獣医師は動物病院の診察室でしか動物の様子を見ることはできませんし、おうちで薬をあげてもらうのも飼い主さんです。何の治療をしているのか、どんな治療が必要なのか、なるべくわかりやすい説明でお話しさせていただいて、理解して納得してもらった上で、一緒に治療を進めていくというのが理想だと思います。特に慢性の病気は、症状を悪化させないための対症療法が中心になりますから、飼い主さんが理解して納得して、安心して帰ってもらうことを意識しています。手術の必要性やタイミングなどについても、飼い主さんとよく相談しながら提案していきたいと思っています。
眼科に加え一般診療も充実させ、さらなる地域貢献を
ところで、先生はどうして獣医師を志したのですか。

昔から動物はたくさん飼っていましたが、本格的にめざし始めたのは中学生の頃です。動物病院に行くと、説明もあまりなく「預かりますね」と連れて行かれる、ブラックボックス的な感じが好きではなくて、いったい何をされているんだろうと不安に感じたんです。そこから、自分でどうにかしたいと思うようになり、獣医師を意識し始めました。そうした体験から、まず必要な処置は何かをお伝えして、注射や採血などその場でできる処置や検査はなるべく飼い主さんの前で行うようにしています。
院内の棚などを手作りされたと聞きました。
DIYが好きなので、院内で使うものも作っているんです。気管チューブをかけるものもなかったので作りましたし、棚もちょうど具合のいいものを見つけられなかったので、作ってしまいました(笑)。動物用の道具はちょうどいいものがなかったりするので、自分で作らなければいけない場合もあります。動物の治療も一緒で、病気の重さや置かれている環境、できる治療がそれぞれ違います。ですから、それぞれに合わせたオーダーメイドな治療を工夫しながら行うことを心がけています。
今後の展望について聞かせてください。

地元に貢献したいと府中で開業したので、地域に役立つ動物病院でありたいですね。今は眼科の患者さんが多く、他の分野の少し難しい手術などは大学病院にお願いすることが多いんです。地域の動物病院としてもっと一般診療にも力を入れたいので、将来的にはスペースを拡充して獣医師も増員し、入院設備も整えたいと思っています。眼科診療についてもさらに充実させていきたいですが、基本的には一般診療の傍ら、眼科診療を専門としているというスタンスですから、眼科以外のことも気軽に相談してもらえればと思います。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
僕はペットを亡くした経験もあり、その悲しい気持ちは痛いほどわかっているつもりです。ですから、自分が飼い主だったらこのくらいの説明はしてほしいな、と思う部分までお話しします。それでも足りない部分に関しては気軽に聞いてほしいと思いますし、そこに応えられるように日々勉強しています。なるべく専門用語は控えて、わかりやすい言葉で説明するよう心がけていますので、何でも遠慮なく聞いてください。眼科については、ペットが目を気にしたり、ショボショボさせたり、いつもと異なる様子があれば、できるだけ早く受診することをお勧めします。