濱本 麻衣 院長の独自取材記事
Ebisu Bird Clinic MAI
(渋谷区/恵比寿駅)
最終更新日: 2023/01/22
JR恵比寿駅から徒歩5分ほど、代官山との間の閑静な住宅街にあるモダンな一軒家が「Ebisu Bird Clinic MAI」。戦後に建てられた祖父母の家は、建築を学ぶ学生が見学に来ることも。待合室からはクリスマスツリーのようなヒマラヤ杉やハナミズキ、藤の花も咲く庭の景色を楽しめる。屈託のない朗らかさでゆったりとした院長の濱本麻衣先生はこの家で育ち、大好きな鳥を診るこの病院を2005年に始めた。昨年、自身の出産でしばらく休み、2人の看護師と共に2月から診療を再開したところ。温もりあるクリニックの空間で、鳥の魅力や飼う時に気を付けたい事など話を聞いた。 (取材日2016年4月19日)
「鳥も診る」ではなく「鳥を診る」クリニックに
こちらは鳥の専門病院なのですね。
小鳥と小動物を専門にしていて、八ヶ岳や大島など遠くから通われる方もいらっしゃいますよ。私はもともと鳥が大好きで、小1の頃にペットショップで目が合ってしまったオカメインコを飼うようになって以来、鳥と暮らしていない時期がほとんどないんです。その頃から鳥のお医者さんになると決めていて、北海道にある酪農学園大学に進みました。そこでもずっと飼っていました。その時のオカメインコは飛行機が好きな子だったので、帰省する時もいつも一緒でした。荷物として預けるのですが、空港に着いて呼び出しのアナウンスが流れると、背後でうちの子が歌ってるのが聞こえて(笑)、ああ元気でいるなぁと思ってましたね。
鳥は、乗り物は得意なんでしょうか?
その子に寄ります。車酔いする子もいますし、委縮してしまって病院に着いた途端に吐く子もいますよ。その子がどういう性質で、何に喜んで何が苦手なのかを知るのは飼い主さんの役目でもあり、その子を知る楽しみでもありますね。鳥は人間と家族のように親密になれる生き物です。基本的には群れで生活するものなので、一人ぼっちで自分が孤立していると思うと、それだけでご飯を食べなくなったり元気が無くなったりもします。当院では入院室には、うちで飼っている11羽から、入院している子と近い種類の子を一緒に入れているんです。ケージ越しに似たような仲間が見えると安心するんですね。それに手術して万が一の場合には、うちの子が輸血に協力する事もできますから。
診療はどのようにされるのですか?
デスクの上で対面して行います。レントゲンやエコー、血液検査もありますし、そういうデータや顕微鏡の映像をパソコン上で一緒に見ていただきながらご説明しています。鳥は寒がりなので28~30℃に保温できるよう、小さなホットカーペットみたいなシート上で診るんです。部屋全体も温かめなので、スタッフは年中半袖ですね。手術も、麻酔と電気メスを使って同じデスク上で行います。鳥の病気も人間と同じで、がんも糖尿病も脂肪肝もあります。自然界にいる時よりは長生きになるので、どうしても病気は出てきてしまいますね。また鳥は尿酸排泄する生き物なので、尿酸が原因の痛風になる事もよくあるんですよ。
心配しないでアピールにだまされず、不調に気付いて
どういう症状で来院される方が多いのですか?
病気や体調不良が6割で、あとは定期的な健康診断でしょうか。ご飯を食べない、吐いてしまった、お腹を壊したといった内容が多いですね。辛そうな場合はまず、原因をつきつめて体力の回復に努めます。ほかには、卵を産みそうなのに産まなくて苦しそうという、卵詰まりもよくあります。繁殖の季節である春先に、こうしたトラブルは多いですね。また、ずっと卵を産み続けてしまって体力を消耗して衰弱に至る事もあります。人間のように年間通じて変動の少ない安定した生活だと、季節の変化で発情する生態の鳥にとっては、リズムとペースが崩れてしまうんですね。飼う時には、その種がどういう生態なのかは調べてあげて欲しいです。そうすれば避けられる病気もあるかと思いますから。
日頃から気を付けてあげられる事はありますか?
体重は量っておくとよいですね。我が子の体重のアベレージを知っておくという事です。これも鳥の生態ですが、群れや家族から見放されないようにと、弱ったりご飯が食べられなくなっているのを隠そうとするものなんです。食べていないのに食べている振りをしたり、元気ないのに大丈夫ですからケージから出してくださいというアピールをしたりするので、体調変化が分かりにくいんです。しかも飼い主さんから見て肥ってきたなと思う時は要注意です。実は具合が悪い時は体温が下がる事が多いので、寒気で羽が逆立ってふんわり見えているだけだったりするんですね。キッチンスケールで1g単位でよいので量っておけば、実際の体重の増減に気づけますし、診察時にも役立ちます。
開業までのご経験を教えてください。
大学では小動物の、鶏のゼミに所属していました。何10羽もの鶏のほかにもエミューや七面鳥、ガチョウ、アヒルなどを飼っていましたよ。最近は大学でもエキゾチックアニマルと言って、変わった動物たちを診る分野もありますが、当時は大学病院で扱う小動物は犬や猫が多かったですね。それでも北海道は野鳥が多いので、例えばタンカーが座礁すると、重油まみれになってしまった海鳥たちが何10羽と運び込まれたりしたのを覚えています。卒業後は、東京大学附属動物医療センターで2年研修医を務めました。ここでも犬や猫が主でしたので、鳥の診察の修業を求めて、横浜にある小鳥専門病院に移りました。ドクターが5人ほどもいて症例数も多く、重症を診る経験を積ませていただき、3年ほどいました。ここで学んで各地で開業されている先生は多いのではないでしょうか。
鳥は長生き、自分より年上のインコを診る事も
こちらは、待合室の壁がユニークですね。
ここは祖父母の代から暮らしていた家で、以前はリビングだった場所を待合室にしているんです。庭も望めてリラックスできますし、飼い主さん同士も会話が弾んで仲良くなられていますね。オフ会みたいな雰囲気にもなりますよ。鳥のグッズや置物で賑やかですが、中でも大切にしているのは、あの耳にボタンがトレードマークの、ドイツの小鳥のぬいぐるみです。祖父が仕事で海外に行くたびに一つずつ買い求めてきてくれたもので、20体近くあるでしょうか。おじいちゃん子でしたから、愛着も一際です。受付にいる手のひらサイズのぬいぐるみは、うちの2羽のアケボノインコをモデルに作ったもので、昨年末にお産をしたのですが、その入院の際に鳥のいない寂しさを紛らすのに連れていった子たちなんです。生まれてくる子のためでなく、母親のためのぬいぐるみだったわけですね(笑)。
鳥の魅力とは何でしょう?
緑、黄色、赤、ピンクというカラフルさは魅力の一つかもしれません。アケボノインコは南米の鳥ですがけっこう和風の色味で、見飽きないです。一緒に遊ぶのも楽しいです。輪投げやボールを転がしたりもしますし、うちの文鳥は書類を綴じる黒ひもが大好きで、引っ張りっこするんですよ。アケボノインコのみかんの好きな子は、老舗果物店のを食べると「ウマイッ!」と言いますが、スーパーのだと無言です(笑)。それでも、しつこく「美味しい?」と聞くと、「ウマイ……」としぶしぶ言ってつき合ってくれてますよ。オカメインコは夜間にセットしている留守電を覚えてしまって、プルプルという着信音から留守電のメッセージ、その後しばらくの沈黙の後に電話が切れるプー、プー音までの一連の流れを完璧に再現できる子もいます(笑)。キャリーで外出中に、「わんちゃんですか?」と聞かれると、「ハマモトボノタンデス!」と元気に名乗って驚かれたりもします。
本当に賢いし、かわいいのですね。
人間とのコミュニケーションを楽しんでくれますよね。犬や猫に比べても、大事に育てれば長生きです。セキセイインコは10年くらい、飛行機大好きだったオカメインコは24歳まで生きました。先日は57歳のインコが診察にきましたよ、私より年上なんですね。私はしばらく産休を取っていて今年の2月に再開したのですが、以前より開院時間を前倒しにさせていただいています。産休中も鳥の飼育本の監修をしたりと、鳥から離れられない生活でしたが、子育てしながら無理なく長く診ていきたいと思っています。趣味はバイクのツーリングで、日光や箱根、時には中央アルプスを越えて金沢へ行ったりもします。普段が小さい子を相手に細かい作業になるので、森の中や海の開けた所を行ったりして発散するんです。自分が小さく見える場所に行きたいのかな(笑)。